ふわふわぽす、
頭に少しの重さを感じると同時に、グリグリと撫でられる。
それはペットを撫でるような、慣れない手で幼い子をあやす様な手つきで少しだけぎこちない感じもする。
リビングの床に座ってソファの足元に背中を預けている俺の頭を無言で撫で始めたふーふーちゃんは俺の真後ろのソファに座っていて、さっきまで難しそうな顔で読んでいたハードカバーの小説は、俺の前にあるテーブルの上に置かれている。いつの間に?
「セット崩れちゃうじゃん」
「形がいいからつい、な」
少しだけ申し訳なさそうな顔をして、でも手は退けないで撫で続けている。俺も本当に嫌じゃない分、なんだか収拾がつかない。
「子供じゃないんだから……」
「浮奇が子供じゃないのは俺も知ってるよ」
「んーーー、余計に、じゃん」
ぐしゃぐしゃと撫でたあとは、整えるように髪の間に指を差し込んでスルスルと櫛解いていく。時折、毛先の丸みに普通の人よりも丸い指先を搦めつかせたりするのをぼんやりと髪の動きで感じ取っていた。
ふーふーちゃんの好きな物、小説、わんこ、コンフィダンツ、お酒、スマブラ、BL、俺……あとその他もろもろ。
ふーふーちゃんが没頭するものは沢山あるけれど、今は俺がその中でも1番になったみたいだ。それに、なんだかケアされてるみたいで悪くない。このまま、ふーふーちゃんが飽きるまでこうしていよう。
スマホの画面を真っ暗にして、瞼を閉じる。
するすると髪を分けて地肌をなぞる金属製の指先がヒヤリと触れてなんだかとても、安心した。
「浮奇、」
「んん、ぅ?ふーふーちゃん…まんぞくした?」
「とっても。痛くなかったか?」
「ぜーんぜん!マッサージみたいで気持ちよかった…」
「それなら良かった…」
「俺の髪好き?」
「……こうして触りたくなるほどにはな」
ゆるゆると未だ触り続ける指先が、そのままするりと頬を滑って擽ったくてちょっと笑ってしまう。俺が動いたことで引っ込んでしまいそうになるその赤い指先が逃げてしまわないように、もっと、と頭をグリグリ押し付けて続きを強請る。
「んー、お手入れしてるからね。ちょっとくせっ毛なのが厄介だけど」
「くるくるしてる毛先がかわいいんだけどな……」
「そう?俺はふーふーちゃんの何にもしてないのにサラサラな髪の毛、すっごくうらやましいんだけど?」
「ふは、無いものねだりみたいだ」
「ちょうどいいね」
「そうだな、ちょうど」
ふーふーちゃんが俺のフワフワでちょっとお世話が必要な髪が好き、って言ってくれるから、手触りよくなるようにとか、つやつやになるように、とか色々頑張ってやってるんだよ?いつ撫でられてもいいように、セットが崩れる、なんてちょっと出し惜しみしてるだけで、いつだって触ってほしいんだから。
「ねぇ、ふーふーちゃんも触っていい?」
「もちろん!どこだって触っていい。浮奇なら」
「どこでも?」
「あぁ、どこでも」
「ふふ、そんなで大丈夫?いっぱい触っちゃうかも……?」
散々撫でまわしてぐしゃぐしゃにした俺の髪を、頭の形に撫でつけるように整えて、頭頂部に少しだけ湿った感触がした。顔を上に向けて、俺の後ろに座ってるふーふーちゃんの顔をじっ、と見る。
「それは唇にして」
「浮奇から触ってくれるんだろ?」
「ふーふーちゃんからのキスなら俺の唇も欲しいって言ってるんだけど?」
むぅ、とむくれたように表情を変えると、ふーふーちゃんはニコニコと嬉しそうな表情を隠そうともせずに、次は俺のおでこに唇を触れさせてくる。
「……どこ触られたって文句言わせないよ?」
「望むところだ」
ふーふーちゃんこそ、俺の髪だけで満足なんて失礼しちゃう。触りたそうにしてたって、触らせてあげないんだから!