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    はねた

    @hanezzo9

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    はねた

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    追憶オブリガートを読んで、巽さんのアイドルになった理由、巽マヨに結びつけられるな…ておもったので。

    #あんスタ
    ansta
    #ALKALOID
    #風早巽
    Tatsumi kajehaya

    きみ知るやひかりの国「タッツン先輩はさァ、なんでアイドルになろうと思ったの?」
     レッスンの休憩中、藍良がふとそう口にした。
     おそらくは時間潰しのようなものだったのだろう、何気なしのその問いに、とくにとりつくろうこともないかと正直なところを口にすれば、藍良は目をみひらいてかたまってしまった。
     どうやら驚かせてしまったようだとはなんとはなし察せられるものの、ではいったいどのあたりがといえばどうにも判じかねて巽は小首をかしげる。
     そういえばいつだったか、おなじ話をしたときジュンには嘘くさいと評されたのだったなということもぼんやりとおもいだした。
     自分はどうにも世のならいに疎く、うまく体裁をとりつくろうことができない。
     硬直する藍良を見やりつつ、さてどうしたものかと巽は腕組みをし思案する。
     と、かたわらで聞いていた一彩がふうんと感心したような声をあげた。
    「焼け焦げや血の跡のある天井か、見たらきっと驚くだろうね」
     その言に、藍良がさらにと目をみはる。ちょっとヒロくん、と制止にかかるのを、けれど構うことなく一彩は続ける。
    「天井といえば、マヨイ先輩はよく天井裏にいるよね。僕たちが最初に集まったときもそうだった。巽先輩も、マヨイ先輩があのとき天井にいるのに気づいていたね」
     急に話をふられ、マヨイがはいっ? と素っ頓狂な声をあげた。それから器用にも頭と膝とを同時にかかえ、どうもその節は、などと小声でなにやらつぶやきはじめる。
     そんなマヨイをどう見てか、一彩はにこにことして先を続けた。
    「巽先輩にとってマヨイ先輩が天井にいるというのは、天井のもつ可能性が広がったということになるのかな。むかしのひとの血の黒い染みがあっても、その裏に仲間がいるのならきっともう怖くはないね」
     ほがらかに言いはなち、それから一彩は、こういうの巽先輩風にはなんて言うんだっけ? と首をひねる。
     ようやく衝撃からさめたらしい、藍良がそれをひきとってふうとおおきく息をついた。
    「……ええと、なんだかなァもう。オレもよく知らないけど福音ってやつじゃない? リンゴーンって感じでさ、なんだっけ、コペルニクス的転回? にしてもさァ、ヒロくんってほんとどっかずれてるよね」
     なんでいまの話でそういうことになるわけ? と肩をすくめる、そのとなりではマヨイがガッツポーズのつもりか両の拳をしっかりと握りしめている。
    「ふ、不肖の身ではありますが巽さんのお心がすこしでも安んじられるならこれからも精進します…! お命じとあらば巽さんのご実家の天井にもぜひ潜ませていただきたくッ…!」
    「天井裏に潜むのがんばるってアイドル活動の方向性的にありなのかなァ? あとマヨさん、自分の足元が血染めの天井ってどうなの? いつもみたいにヒィってならない?」
    「…そうですねェ…そのあたりはとくに珍しくもないというか…」
    「えっ、マヨさんいまなんかさらりと怖いこと言わなかった?」
    「せっかくだからこの機会に僕たちも天井裏に潜むルールをマヨイ先輩に伝授してもらおうか! いざというとき巽先輩の役に立つかもしれない!」
    「ヒロくんは黙ってて!」
     なにやら白熱しはじめる会話をまえに、巽はぱちぱちと瞬きをする。
     福音とはそういうものではないのですが、と指摘しようとした、そのときふいと視界の端をよぎるものがある。
     あれやこれやと言いあう藍良と一彩、そのそばで止めに入ることもできずさりとて無視することもできずにおろおろとするマヨイ、その背後にはレッスン用の全面鏡があった。
     そこに映しだされた自分を巽は見る。
     鏡のなかにある、そのおもてはこれまでにアイドルとして撮った写真や、また普段の生活のなかで目にするものよりもずいぶんと穏やかな笑みをしていた。
     頬に手をやりつるりとひとつなでてみれば、鏡の向こうの自分もそっくりおなじ動きをする。
     きっともう怖くはないね、一彩の声が耳の底にこだまする。
     記憶の底にいまも住む、ちいさなこどものころの自分にその言葉はとどいただろうか。
     答えはたしかめずとも、鏡のなかの自分が知っている。
    「……たしかに、福音なのかもしれませんな」
     つぶやいた声はあたりの騒ぎにまぎれてしまって、けれどそれこそが自分にとっての幸いなのだと巽はおもう。
     休憩終了を告げるタイマーが鳴り響くまで、巽はその幸福な光景をながめていた。
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