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    はねた

    @hanezzo9

    あれこれ投げます

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    はねた

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    大友くんと朝利くんのどっちつかずの関係が気になります。
    月島さんと堀田さんも。

    #aoas
    #友朝

    戦いは終わらない 大友は疲れていた。
     この半日でぼろぼろになったノートを握りしめ、重い足を引きずりながら歩く。校門を出てだいぶ経つというのに、歩みは遅々として進まない。寮への道のりは遠く、どこまでもはるかに感じられた。
     冬の道にみずからの影ばかりが黒ぐろとしてのびている。
     頭のなかとノートには、この半日校内を駆けずりまわって収集したユース在籍者の恋愛事情がぱんぱんに詰めこまれている。竹島、増子、黒田と、その名をノートに記すたび文字は涙で滲んだ。けれどもせっかく得た情報を無駄にするのも癪で、何もかもつまびらかに書きつくしてやった。
     結果として大友は、同期および先輩たちのプライベートを掌中におさめることに成功した。
     万が一このノートが流出したあかつきにはちょっとやばいことになるかもしれん特にプロ入り有望なあのひととかこのひととかという懸念はあるものの、流出するならそれはそれ、たとえそうなったとしてもそれがその人物の運命だったのだと、悟りとやっかみといささかの呪怨をこめつつ大友はノートを抱きしめる。
     麗しきは表紙の墨痕、特に滅の字の羅列など、意気軒昂として胸を高鳴らせる。
     努力の結晶たるこのノートをもとに研鑽を積み、来年のシーズン開幕までに我が「大友システム」を完成させる。はにかみながら微笑みながら誇らしげに彼女について語った人びとの姿を思いだし、大友は本能の赴くままきええいと奇声をあげた。
     両腕を振りかぶった瞬間、ノートが手からすっぽ抜ける。
     あっとあわててあとを追おうとした、と、それより先にノートを拾いあげるものがあった。
    「『エスペリオン女関係呪殺ノート』?」
     硬直するこちらに構うことなく、月島は興味深そうにノートの表紙を眺めている。そのかたわらには堀田がいて、すごいタイトルだな、とあっさりとした感想を述べた。買い出し帰りか、ふたりとも手にエコバッグを下げている。確かに年末は物入りとはいえなんでコーチとトレーナーが使いっ走りみたいなことしてるんだと、現実逃避がてらに大友は胸中でつっこみを入れる。というよりも、そうでもしなければ精神が保てそうになかった。
    「これ、大友くんの?」
     穴があったら埋まりたいという望みはけれどもかなうことなく、にこやかな笑みとともにそう問いかけられ、大友は無言で頷いた。
     個人的には切実な問題であるとしても、さすがに指導者たちの目に触れさせていいものではないというくらいの分別はある。特にタイトル、特にタイトル、大事なことなので二回言うけど特にタイトル、へたしたらエスペリオン転覆を企む悪の組織の一員みたいになってる、違うんですそうじゃないんです結果的に転覆するかもしれないとしてもそれは結果であって、と言い訳がましいことを大友がぶつぶつ呟くあいだにも、月島は熱心に表紙をながめている。
    「女関係ってどういうことかな、呪殺? エスペリオンと女性と呪いがどう結びつくんだい?」
     その顔は純粋な好奇心に満ちあふれている。眼鏡の奥の瞳はきらきらとして、なにひとつ見逃さないという気概を感じさせた。あっこれうっかりスイッチ押したら月島さんテンションあがって無限に喋り続けるやつだ、よく福田監督とか望さんが途中でセーブかけてるやつだと察しをつけ、大友はしぶしぶありのままを白状する。
    「エスペリオンの……ユースの一年二年に彼女がいるかどうかっていうリサーチです……」
     みずから播いた種とはいえ、指導者相手にあらためて口にするのはつらいところがある。ひとを呪わば穴ふたつってこういうことか、むしろ俺がいま召されようとしているのかと、大友はほとんど忘我の境地にいたった。
    「彼女?」
     月島が目をぱちくりとさせる。彼女ねえとくりかえし、それから嬉しげにぽんとてのひらを打ち合わせた。
    「さすが大友くん、目のつけどころがいいなあ。選手個人のプレースタイルだけじゃなくふだんのひととなりや交際関係まで把握するなんて、しかも一年生のうちから、さすが僕の見込んだ人材だ。望もきみが主将気質だって褒めてたしね、やっぱりきみは抜け目がない」
     いつだ、いったいいつ俺はこのひとに見込まれてたんだ、そもそも抜け目がないって褒め言葉じゃないだろでもたぶん褒め言葉と思ってるだろピュアか、ピュアなのかこのひと、あとこのひと小学生からユース育ちでこの顔で元Jリーガーとかだからちやほやされ慣れてる絶対そうに決まってる、だから俺が何を呪怨してるかとかにもそもそも思いいたってない、話が噛み合わない。
     大友が胸中に言葉を縷々と溢れさせているとも知らず、月島はにっこりとしてノートを掲げてみせた。
    「興味深いなあ、僕も見ていい?」
    「だめです」
     笑顔に呑まれかけた大友がつい頷きそうになるところ、堀田がひょいと月島の手元からノートをとる。
    「個人情報の管理には注意しろ」
     叱言とともにノートを返されて、大友はあざっすと頭を下げた。残念だなあと月島が、それほど残念そうでもなく小首をかしげる。
    「確かに大友くんが集めたデータを勝手に見るのは反則だよね」
     それきり話は済んだとでもいうように、月島はエコバッグの柄を持ちなおした。
    「じゃ、気をつけて帰るんだよ」
     クラブハウスへと足を向けようとするふたりに、あの、と大友は声をかけた。
     どうせとっくに満身創痍の身の上、毒を食らわば皿まで、こうなればイケメン元Jリーガーの去就でもなんでも聞いてやろうと肚を括る。
    「ところでおふたりのクリスマスのご予定などは」
    「僕ら?」
     クリスマスって明日だよね、ときょとんとする月島のかたわら、堀田がさらりと答える。
    「明日は朝からエスペリオンが提携する病院のクリスマス慰問会に行く」
    「うん、ユースの頃から一緒の選手が何人か行くからその手伝いにね。僕は小児病棟で、堀田さんはリハビリ関係だっけ」
    「クリスマスに慰問っスか……」
     チュッチュなんて言ってる俺とは次元が違うと、大人たちの崇高さに大友はたじろぐ。特に月島など、その容姿と相まってまるで天使のようだった。まぶしすぎる、と手庇をつくるこちらにも構うことなく、月島はにこにこと話を続ける。
    「毎年のことだからね。そのあとは壬生さんの実家のお弁当屋さんでチキンをくれるっていうから、夜は家でのんびりするかな」
    「帰りにデパ地下で惣菜足しましょうか。プレモルとエビスは買ってありますよ」
    「サッポロ」
    「サッポロ……」
     堀田は口元に拳をあててなにやら考えこむようにする。エコバッグをよいせと持ちあげて、月島はにっこりとした。
    「まあそんな感じかな。何はともあれ情報収集おつかれさま。来年のきみにも期待してるよ」
     がんばってねーという励ましとともにふたりは去っていく。その背に大友はぺこりと頭を下げた。
     さすがイケメン元Jリーガーは違う、クリスマスにチキンとデパ地下惣菜でのんびりだなんてきっとふたりとも夜は彼女と楽しくホームパーティーでもするに違いない、なんだか引っかかるようなところがあった気もしなくもないがそれはきっと瑣末なことだ、月島といい堀田といい大人の男はやはり違う。
     なにやら釈然としないものをごくりと飲みこみつつ、大友はノートを抱きしめた。
     ともあれ幾多の危難を乗り越えて「エスペリオン女関係呪殺ノート」は我が手元に戻ってきた。このノートに蓄えた情報を縦横無尽に操り、この世のすべてのイケメンを追い落とし、俺は世界を掌握する。
     意気もあらたに拳を握ったところで、そのとき背後から声がした。
    「なにしてるんだ」
     ふりかえる。そのさきには朝利がいて、不機嫌そうにこちらを睨んでいた。学校帰りらしい、制服姿で指定鞄を斜めがけにしている。自分とほとんど変わらない格好だというのにやたらと様になっているのが癪で、大友は握った拳をそのままぶつけてやりたくなる衝動をどうにかこらえた。
    「まだそんなことやってるのか」
     不快げにノートをさししめされて、なんだこの野郎と大友も口をひんまげてやる。
    「おまえに関係ないわ」
     この世のすべてのイケメン、目下の代表であるところの朝利をぐいと睨みつける。なにが金髪サラサラ美少年だ、なにが『いません』だ女子にキャーキャー言われやがって、朝利のあは五十音順で一番だからおまえなんかまっさきに我が呪殺の対象だ、いや嘘だ青井とか阿久津とか、いるな、いるよ、一番じゃないな朝利、なんでユースにはこんなにあ行のやつが多いんだ、しかも大物ばっかりだ、呪殺の手間がのっけからやたらかかるわと胸中でだらだら愚痴り続けるこちらをどう見てか、朝利はぐいと口をひきむすぶ。そうしてそのままふいと目をそらした。いつもなら睨みあいが続くのにと、めったにないことに大友もまた戸惑ってしまう。
     朝利の指は鞄の肩紐にかかっている。見つめているうち、その手がぎゅっと握りしめられた。
     しばらくして、かすかな声が耳にとどいた。
     「女子と、その、……付き合うとか」
     そんなにいいものか、と掠れたような、その声にいつものふてぶてしさはなかった。ちいさいこどもめいた問いに、大友も憎まれ口でごまかすことができなくなる。
     ノートを小脇に抱え、がりがりと頭を掻く。俯いたままの金髪の頭に、ええいままよと本音をぶつけてやった。
    「竹島のとことかさ、試合ずっと観にきてくれたりとか、ずっと応援してくれたりとか、そういうの憧れるっていうか、ずっと俺のこと好きでいてくれて思い続けてくれて、俺もその子のことずっと好きだって、いいなって思うんだよ」
     ひと息に言いきって、大友はふんと腕組みをする。ばかげているでも夢見がちでも好きに言え、青少年の妄想をなめるなと鼻息荒く相手のリアクションを待ちかまえる。
     朝利がゆっくりと顔をあげる。
     なにやら思いつめたような、その目に大友はたじろぐ。予想外のことにとまどって、なんだなんだと茶化してやろうとした、けれどもこちらの言葉を遮って朝利は口を開いた。
    「君は僕のことずっと嫌いだよな」
    「は? うん、そりゃそうだけど」
     いまさら何言ってんだ、といっそ呆れて見返せば、朝利はぐしゃりと顔をしかめた。どんだけ変顔してもイケメンかよとさらなる呪詛を胸にたぎらせかけた、その瞬間強烈なパンチが大友の背中を襲った。
     あまりの衝撃に、に大友はもんどりうって地面に倒れこむ。なにが起きたのかわからなかった。堀田の忠告が頭をよぎって、あわててノートをぐいとつかむ。
     うずくまる大友にけれども手をさしのべることもなく、冷えきった一瞥をくれて朝利は去っていく。
    「はあ!?」
     はね起きて身構えるも、ときすでに遅し、あたりにはひとっこひとりいなかった。
     十二月の寒空のなか、背中の痛みに顔をしかめつつ大友は絶叫する。
    「なんだってんだちくしょう!」
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