手を伸ばして 麗らかな昼下がりに、主と縁側でごろごろしている。暖かな陽射しに心地良い風。そして、隣で微笑んでいる主。のんびりと、幸せな空間に心満たされた気分だ。そんな中、ふと立ち上がった主を目で追う。ゆっくりと庭の方へ歩いていき、くるりと振り返った主は何故か透けていて。焦った俺は、裸足で駆け出す。
「主」
必死で伸ばした手は主に届かず、何もない虚空を掴んだ。そこで慌てて起き上がった俺は、今見ていたものが夢だと知る。最近、何度も見るこの夢は、気分が良いものではない。嫌な汗をかくくらいには。
横を見れば、主は寝転んでいて。先程見た夢と同じように、縁側で主とごろごろしている間に俺は寝ていたらしい。ただ、夢で透けて消えた主を見ただけに、主に何かあったらと思うと怖くなる。
「……ちゃんと、息してる……にゃ」
背中に手を当てれば、微かに上下する温度のある身体に安心する。今こうしてすぐ触れられる距離にいて、そしてその瞳に俺が映るならそれで。
「んん……なん……せ……?」
「主、まだ眠いんだろ?寝てろよ……にゃ」
「うん……」
僅かに開いた目は、俺を見ては再び閉じる。その後、微かに聞こえた規則正しい寝息にまた安堵する。普段なら、こうしてごろごろしている時は主が俺を見ているのに、それと反対な現状はどこか新鮮にも感じて――。
最近、夢見が悪かったことで感じていた不安が、目の前の光景と触れた温もりで、心が穏やかになっていく気がした。あんな何度も見る幻は捨ててしまおう。夢で見る微笑みよりも、確かなものがここにある。もう、あんな夢に行くことも戻ることもない。
「……ここに、主の傍にいるからな」
何かを求めるように動いた手に、きゅっと握られた。それがどこかくすぐったく、それでまた縋る幼子のように思えて愛おしい。
出会ってからの始まりも終わりも、ずっと傍にいたい。そんな強い思いに胸を焦がした。