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    しおん

    @GOMI_shion

    クソほどつまらない小説をメインに載せてます

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    しおん

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    『逢魔時に花と散る。』#00

    ##逢魔時に花と散る。

    夜に落ちた二輪の花雪が荒々しく降る午後陸時。二輪の花が小さな蕾を護るため、憐れに落ちた。どんな寒さにも耐え、どんな暗闇も耐えた強く美しい紅い椿の華。どんなに強く咲いていたとしても、落ちる時は呆気ない。咲き誇っていた時の強さとはまた違う、抗うことを諦めた弱さもまた輝いている。伸びた枝を手折られる度に、真っ赤な花弁が辺りに散る。護られた蕾達は、ただそれを眺めることしか出来なかった。
    ーただ、目の前で父と母が見たことも無い化け物の手でブチブチと千切られ、肉塊へと化する所を唖然と眺めることしか、僕には出来なかった。助けを呼ぼうにも声がでない、逃げたくても足が震えて動かない。隣で泣き叫ぶ妹の声を聞きながら、血に染った雪の中でぐちゃぐちゃと音を立てる物体を見ていた。きっとこのまま僕達も化け物に殺される。肉塊を千切り終え、満足した様子の化け物は、血だらけの口をまた血だらけの手で拭きながらゆっくりとこっちを向いた。

    殺される。

    そう思った瞬間遠くから銃声が聞こえ、化け物の額を銃弾が貫いた。そして化け物は唸り声を上げながらゆっくりと倒れる。助かった。だが、もう父と母の姿はどこにも無い。あるのは化け物の遺体と、ぐちゃぐちゃになった真っ赤な肉塊、そして血に染った雪だけだ。
    「怪我はないか!?」
    化け物を撃った本人なのであろう、大きな銃を両腕に抱えながら長い黒髪の女性が走ってきた。目の前で起きた非現実的な出来事を受け止めることが出来ず、まだ声が出ない。それを察した女性は、妹と僕を突然抱きしめてきた。
    「私が悪い…守りきれなくてすまなかった…。」
    「おかぁ…さんは…?」
    妹の咲三華(サザンカ)が、泣き止んだようで口を開いた。
    「お姉さん……おかあさん、どこに行っちゃったのかな……?」
    黒髪の女性は、黙ったまま僕と咲三華を強く抱きしめ、頭を優しく撫でてくれた。僕は落ち着きを取り戻し、涙が溢れてしまった。母さんと父さんは、もう居ない。これからは僕一人で、咲三華を守らないと…。

    僕一人で…?どうやって…。

    そうだ、この女性みたいになればいいんだ。
    「…ねぇ、お姉さん…。」
    やっと声が出せるようになり、女性に声をかける。
    「…どうした?」
    「僕も…お姉さんみたいに人を守れるようになれるかな…?」
    「…あぁ、なれるさ。」
    「……僕も、化け物を殺せるように…なるかな…。」
    そう言うと、女性は驚いた顔をしてこちらを向いたが、何も言わずに真っ直ぐ見つめてくるだけだ。
    「ねぇ、僕にもやれる?」
    何も言わない女性にもう一度問いかける。
    「…うん……なれるよ…。」
    今しか、僕が“咲く”きっかけは無い。そう思ったんだ。

    今思うと、あの時の僕はめちゃくちゃなことを言っていたんだろうな。あの日は、僕と咲三華が「妖怪狩り」の存在を知った日だった。

    あの夜から5年経ち、僕は15歳になった。今ではあの女性、卯柳 綺月(ウヤナギ ハヅキ)さんの家に妹と共に住ませて貰いながら、戦い方を学んでいる。
    「椿姫(ツバキ)、今日の夕暮れ、見回りに着いてきてみるか?」
    「え、良いんですか?」
    「あぁ、咲三華の事は私の姉に任せろ。それに今日の見回りは人数が多いから安全なはずだ。」
    動きやすい服を着るんだぞ、と綺月さんは部屋を後にした。あの夜以来、1度も化け物…妖怪に会っていない。緊張はするし、正直恐い。だが、自分の知らない人たちも来るようなので、戦い方を学ぶことが出来るだろう。

    午後伍時、そろそろ出発するぞと玄関から綺月さんの呼ぶ声が聞こえた。階段を降り、玄関へ向かうと咲三華が見送りに来ていた。
    「お兄ちゃん、行ってらっしゃい!怪我しないでね。」
    「うん、咲三華も良い子にしてるんだよ。」
    靴を履き、いつも練習で使っていた物よりも重たい銃を持ち、綺月さんと共に外へ出る。するとそこには、今日行動を共にする綺月さんの仲間が3人立っていた。
    「おや、彼が綺月が保護したっていう椿姫君かい?ふふふ、随分と愛らしいじゃないか、何歳だい?」
    「棕櫚(シュロ)様、初対面の方をあまり困らせてはいけません。」
    “棕櫚様”と呼ばれた緑色の髪の男性を、眼鏡をかけた青色の髪の男性がとめる。その様子を少し後ろからピンク色の髪の女の人が呆れたような顔で見ていた。
    「棕櫚、まずは自己紹介をしたらどうだ。」
    綺月さんはいつになく冷静だ。この人たちの対応には慣れているんだろう。
    「コホン、すまなかった。僕は蘭賀 棕櫚(ランガシュロ)蘭賀家っていうよく分からない家系の人って覚えてくれたら構わないよ。」
    次に青髪の男性が話し始める。
    「私は鈴枝 雨月(スズエダ ウゲツ)、棕櫚様専属の使用人です。何か困ったことがあればお申し付けください。」
    最後にピンク色の髪の女性が1歩前に出てきた。
    「私は千桜 涼(チザクラ スズ)。雨月と同じ棕櫚様専属の使用人です。棕櫚様に何かされたら私に言ってください。対処致します。」
    「え〜?まるで僕が何かやらかすみたいな言い方するじゃないか。」
    「ええ、実際やらかしますので。」
    3人の自己紹介が終わったので自分もした方が良いと思い口を開く。
    「えぇっと、僕は那花 椿姫(ナバナ ツバキ)…。えっと、年齢は15です…。よろしくお願いします。」
    そう言うと、棕櫚さんは素早く僕の両手を掴んで握手をしてきた。
    「嗚呼ッ、15歳…成長してる年頃なんだねぇ!なんて愛らしい…!」
    「「棕櫚様…。」」
    使用人2人が呆れ顔で棕櫚さんの肩を掴んで引き剥がしてくれた。…勢いがすごすぎて正直気持ち悪かったので助かった。嫌がっていることを察してくれた綺月さんが、僕と棕櫚さんの間に入って見回りのことについて話を始める。
    「君たち、今は遊ぶ時間じゃない。見回りだ。いいか?今日は全員がしっかり戦える訳では無い。椿姫がいるんだ。守りながら戦うんだからいつもより気を張ってくれないと困る。」
    そう、彼ら“妖怪狩り”のみんなが毎日行っている見回りは命を落とす危険がある。彼女の言う通り遊びではない。危険なことなんだと改めて理解をし、また少し怖くなった。守ってもらえるとはいえ、彼らも人間だ。自分のせいで誰かを失うのはもう御免。僕も周りのみんなの為に気をつけなくちゃ…。
    心に大きな不安を抱えながら、僕らは“逢魔時”へと足を踏み入れる。
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