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    しおん

    @GOMI_shion

    クソほどつまらない小説をメインに載せてます

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    しおん

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    手の鳴る方へ

    ##誰かの昔話
    ##手の鳴る方へ

    Lo que quería寝ても寝なくても、僕の世界はずっと真っ暗だ。
    何も見えない空間に光がさす時は、必ずあの人間もここにやって来る。
    「食え」
    そう言って週に1度あるかないかの食事を渡される。その時ついでにオレンジ色の光がゆらゆらする白い棒を針に刺してから、人間はここを出ていく。人間が残してくれるその光はすぐになくなる、ずっとは光ってくれない。オレンジ色の光が消えると、また僕の世界が黒くなる。何も聞こえないし何も見えない、砂と鉄の匂いだけがこの空間には広がっている。食事が終わったらもう何もやることが無い。とりあえず寝ようと冷たい砂の床に転がると、いつも人間が来る方から音が鳴った。
    「…ねぇ、誰かいるんでしょ?」
    いつもの人間じゃない、知らない人間の声だった。
    「……怖がらないで、私は怖くないよ…!」
    あの人間とは違って優しくて高い小さい声が、僕の返事を待ってる。
    「だれ…?」
    「…やっぱりいた!どうしてこんな所にいるの?」
    どうして?確かに、どうして僕はこんな所に居るんだろう。寝れない時間はよく外から色んな人間の声が聞こえるのに、僕は外に出たことがない。
    「…わからない、ここからの出方も、知らない」
    「そっか…いつか出れるといいね!」
    「?……うん」
    僕が返事をすると、足音が遠くに行く音が聞こえた。喋ってた人間がどこか行ったみたいだ。“いつか出れるといいね”?どうして、外に出れるといいんだろう。でも、外がどうなってるのか見たことない。次人間が入ってきた時、外の事を聞いてみよう。

    目が覚めるとちょうど、人間が入ってくる音がした。普段は連日来ることは無いから珍しい。寝る前に考えていたことを聞こうと口を開くと、人間は突然僕の頬を殴った。
    「お前、昨晩俺の娘と喋っただろ」
    寝る前喋った人間は、娘と言うのか。
    「俺の娘に関わるな!お前と関わった事がある人間が今までどうなったか知ってるか!」
    「し…らない…」
    そう答えると人間は、顔を歪ませながらまた僕を殴った。
    「何が知らねぇだ!お前がやったんだ!お前が悪いんだ!」
    またこれか…。この人間はよく気に食わないことがあると、僕に暴力を振るいに来る。毎回わざわざよくわからない理由を作ってくるけど、どの理由を聞いても、別に僕は悪くないといつも思う。この人間にとって僕は何なんだ?実際僕と関わった人間に何があったの?僕は色んな人間と関わったことがあるの?考えれば考えるほどわからない、僕が何をしたの?考え事をしているこの間にも、僕は無抵抗のままひたすら殴られ続ける。痛い。だけど、もうこの痛みには慣れた。傷を抉られようと骨を折られようと、もう僕は何も感じなくなっていた。身体を傷つけられる度に、空気に鉄の匂いが舞う。砂と埃の匂いと混ざって酷い匂いだ。
    「…ぱぱ?」
    突然、寝る前に聞いたあの高くて優しい、人間の声がした。感覚がなくて無理やりじゃないと動かない首を声の方に向けると、小さい人間がいた。
    「ロイゼ…っ!勝手にここに来たらダメだろ!」
    「来たらダメとかじゃないもん!その人に酷いことしないで!」
    「い、良いか?こいつは人じゃない、見たらわかるだろ?怖い化け物なんだ」
    「違うもん!昨日の夜お話したもん!普通の人だもん!」
    ロイゼと呼ばれた小さい人間は、慌てた様子の大きい人間に持ち上げられて外に消えた。それから何日も人間が来なくなった。そのおかげで空腹で死にそうだ。最後にした食事が何日前なのか、僕には数えることも出来ないから分からないけど、多分3週間くらいは経ってる。空腹のせいか眠くもならない。このまま死ぬのかな…別に死んでも生きてても変わらないけど。入らない力を無理矢理入れて立ち上がって、何となくいつも人間が入ってくる扉を押してみる。開かない…と思ってたのに、簡単に開いた。外に出て上を見ると、真っ黒の中に光る点がいっぱい散らばってた。その中に一つだけ大きい丸が浮かんでる。いつも寝れない時間に聞こえる声の主の人間たちが居なくとても静かだ。しばらく立ち止まったまま周りを見渡していると、いつの間にか隣にあの小さい人間、ロイゼがいた。
    「えへへっ、気づかれちゃった!」
    「なんでいるの」
    そう聞くとロイゼは不思議そうな顔をした。
    「来ちゃ嫌だった?」
    「別に」
    会話が続かず、ただ2人で突っ立ってるだけで時間が過ぎていく。
    「そういえば外出れたんだねっ」
    「うん」
    また会話が途切れる。そして再び立っているだけの時間が出来てしまった。人間とまともに会話をするのは多分これが初めてなせいで、何を言えばいいのか分からない。
    「上の点々は何」
    何とか頭を働かせて、気になることを聞いてみた。
    「上の点々?お空のお星様の事?」
    「おそらのおほしさま?」
    「そう!真っ黒のところがお空で、キラキラしてる点々はお星様なの!お空はね、朝とお昼は明るい青色になってね、夕方には赤色になるんだよ!」
    僕からの質問が嬉しかったのか、ロイゼは目を輝かせた。
    「ねえねえっもっと聞きたい事ある?」
    「じゃあ、あの一つだけ大きい、丸いのは何?」
    「あれはお月様だよ!お星様と違って世界に一つしかないの!それからね〜!」
    話すのが止まらなくなったロイゼは、僕の知らない事を沢山教えてくれた。お月様は毎日形とある場所が変わっていくこと、いつも食事を届けに来る人間は畑というもので食べ物を作ってる事や、ロイゼはその食べ物が好きという事、たまに畑をカラスという鳥に荒らされて大変という事等色々話してくれた。気づかないうちにお空の色が段々赤色になってきた。
    「お空赤色、今は夕方?」
    「夕方じゃなくて朝だよっ!こんな時間にお家に居ないことぱぱに気づかれたら怒られちゃうから帰るね!」
    「あ、またね…?」
    自分もとりあえず、いつもの場所に戻ることにした。外のお空と違って真っ暗で何も見えない。この真っ黒の中にも、お空みたいにお星様があればいいのに。床に座り込んだ瞬間、突然さっきまで空腹だったことを思い出した。
    「……お腹…空いた…」
    なんで外に出た時は一時的に空腹を忘れられたのか…。お腹すいてたことなんて思い出したくなかったな。それから眠る事も動くことも出来ず、ただ地面に転がって呼吸することしか出来なかった。何時間経ったか分からないけど、いっぱい時間が経った時、いつもの人間が食事を持ってきた。今日は何も言わずに、オレンジの光と食べ物を置いて直ぐに出て行った。今日の食事は、いつもより量が多く感じた。美味しくは無いけど、無いよりはマシ。というか味なんてどうでもいい、ただ空腹が満たされればそれでいい。空腹が満たされてすぐ、僕は安心したのかいつの間にか眠りについていた。
    目が覚めると、いつの間に居たのか知らない人間が入ってきていた。いつもくるあの人間じゃない。なにしに来たんだ…?その人間の手には、鋭くて長い棘みたいなものが4つ付いた木と鉄を繋げた棒のようなものを握っていた。あの木と鉄を繋げた棒はたまに、食事を届けてくれるいつもの人間も持っていたことがあった。でもいつもの人間はそれを持って来るだけで何にも使わないから何をする道具かは知らないけど、今目の前にいる人間がその道具を間違った使い方をしようとしていることだけは何となく察せた。鋭く尖っている方を僕に向けてきている。警戒しながら身体を起こそうとすると、首に違和感を感じた。重い。触ってみると今まで付いていなかった重たい何かが首に付けられていた。寝てる間に付けられてたみたいだ。重いなにかを付けられているだけじゃない、その首に付けられたものには重い鉄の紐のようなものまで付けられていて動ける範囲が少ない。何とかこれを外せないかと辺りを見回してる隙に、突然人間が襲いかかってきた。冷たくて鋭い鉄が肩を掠った。鋭い痛みが走ると同時に、赤い液体が辺りに散る。その1発で終わる訳もなく、人間は僕に殺意を向け続ける。いつもと違う慣れない痛みに耐えながら、限られた範囲で出来るだけ避けるが、やっぱり避け切ることが出来ず何ヶ所も切り傷ができる。今までで1番痛い…、動く度に傷口がズキズキする。
    「おい、やりすぎだ!」
    聞き覚えのある人間の声が、知らない人間の動きをとめた。
    「み、ミゲルさん…!急に此奴が起きやがったからビビっちまって!」
    血だらけになった鉄の棒を地面に突き刺して、知らない人間は頭を下げた。
    「こんな奴にビビってんのか?まあいい、これで勝手に外に出ることは無くなっただろう。後は俺がやるからおめぇは帰れ」
    「は、はい…!」
    知らない人間が去ると、いつもの人間がこっちに寄ってきて僕の目の前にしゃがんだ。
    「……。」
    お互い何も言わないまま、ただ僕は怪我をした部分を見つめられた。
    「…え……っと…」
    何か言おうと声を振り絞るが、何も言葉が見つからない。何も言えない僕の顔を一瞬見てから、何も言わずに出て行った。それからまた数日あの人間が来なくなった。

    ただぼーっとしているだけで時間が過ぎていく。動ける範囲も限られてしまって、1度出ることが出来た外にも行くことが出来ない。暇すぎて眠たくなってきてゆっくり目を閉じると、扉が開く音がした。反射的に閉じかけていた目を開くと、扉の向こうにロイゼが立っていた。
    「こんばんはっ!」
    「?…こんばんは?」
    どういう意味か分からなくて言い返したのに意味は教えてくれなかった。
    「昨日聞きたかったのに聞くの忘れてたこと聞いてもいい?」
    ロイゼは相変わらず笑顔を崩さず話している。
    「いいよ」
    「やったっ!あのね、貴方のお名前を聞きたいの!あ、私はロイゼ!」
    「……名前」
    なまえ…そういえば僕、なんて名前だっけ。そもそも名前なんてあったっけ。
    「名前、たぶん無い」
    「え?ないの?じゃあ私が付けてあげる!」
    突然走って部屋の中まで入ってきて、両手を握ってきた。
    「“ロゼル”ってどうかな?これはね、私のお兄ちゃんにつけるはずの名前だったってぱぱが前に言ってたの!すこし私の名前とも似てるでしょっ?」
    「…それは多分、僕じゃなくて、ロイゼのお兄ちゃんの名前だよ」
    「じゃあ貴方が私のお兄ちゃんになって!」
    「…??」
    なろうと思ってなれるものなのか分からないけど、僕よりも外の世界のことを知ってるこの子が言うならなれるんだろう。
    「わかんないけど…わかった」
    「やった!今日から貴方はロゼル!私のお兄ちゃんだからね!」
    「…うん」
    そもそも“お兄ちゃん”が何なのか分からないけど、ロイゼが嬉しそうだからそれでいいや。僕の名前が決まり、しばらくロイゼは嬉しそうにしていたが、突然僕の首元を見て悲しそうな顔をした。
    「それ着いてたら…お外出れないね、ちょっとまってて」
    「え、まって急にどうしたの……!」
    呼び止めようとしても聞かずに走ってどこかへ消えてしまった。少しの間待っていると、ロイゼが何かをもって帰ってきた。
    「ただいま!もうそれ切っちゃおっか!」
    「切る…?そんなので切れるの」
    「わかんない!やってみよ!」
    そう言いながら大きな鋏のようなもので、首元の鎖と呼ばれた紐みたいなやつを切ろうとしてくれる。だけど力が足りないのか全然変化が無い。
    「貸して、自分でやってみる」
    見よう見まねで適当な長さのところに鋏を当てて力を入れてみる。ロイゼはあんなに踏ん張ってやっても切れなかったのに、意外と簡単に切れた。
    「え!?ロゼルすごい!簡単に切れちゃったね!ねえねえ早速お外行こ!今日のお空は雲もあってすごく綺麗なの!」
    「え、待って待って…っ!あんまり騒ぐと外に出てるって気づかれるよ…」
    「!……そうだったね」
    指摘されて気付いたようで、はっとした表情で両手で口を抑えながら外に出ていった。僕もそれに続いてゆっくり外に出た。

    「ねぇロゼル、もうずっとお外に出とかない?」
    外に出て第一声、ロイゼは急な提案をしてきた。
    「それは多分、駄目な気がする。」
    「なんで?」
    なんでって言われても…分からない。
    「駄目、だから…?」
    「ほーら!自分でもダメな理由わかってないじゃんっ」
    「ゔぅ…外に出たら…人間に怒られるかもしれない、から…?」
    「もー、それ今考えたでしょ?別に外にいてもいいじゃんっ私についてきてっ!」
    言われるまま、ロイゼについて行くことにした。いつもの砂と鉄の匂いしかしない空間と違って、外は色んな匂いがした。知らない匂い、なんの匂いかはわからないけど、少なくとも砂と鉄よりはいい匂い。外の世界は僕の思ってた以上に広いみたいだ。建物がいっぱいある場所から段々離れていく。
    「ロイゼ、どこまで行くの」
    「この森の奥!もう少しで着くよ!」
    暗い森には道が無いのに、ロイゼはここに来るのが慣れてるんだろう、迷いなく進んでいく。しばらく森を歩き続けると、歪な形ではあるがしっかりと丈夫に建っている建物があった。
    「ここだよ!」
    「ここはなに」
    僕の質問をききながら建物の扉を開けて手招いてきた。手招きにこたえ、僕はロイゼについて行く。
    「ふふんっ、このお家は私だけしか知らないお家なの!だからここに居たら危なくないしもうぱぱに虐められることはないよ」
    「僕が…ここに居てもいいの?」
    「もちろん!私がここでロゼルを守ってあげる!」
    「…ありがとう」
    それにしても、この建物はどうしてこんな所にあるんだろう。本当にロイゼだけしかここのことを知らないのか分からないけど、前まで住まされてた所よりは断然良い。見たことないものだらけだけど、使い方を教えて貰えばたぶん僕でも使えるようになる…たぶん。
    「これから毎日ご飯とか持ってくるけど、ここにあるお菓子とか私が持ってきてた物だから好きに食べてもいいからね!」
    「…うん」
    「それじゃっまた朝までお外に居たら怒られちゃうから帰るね!」
    あ…色々よく分からないものの使い方教えてもらいたかったけど帰っちゃった…。とりあえず有難く使わせては貰うけど、なにか壊しちゃうかもしれないから下手に触らないようにはしておこう。外では強い風が吹いている。壁にあるガラスから外を見ると、森の中にツノの生えた、四足歩行で目が光ってる生き物が居た。もしあの生き物たちが人間を襲う生き物だったら…と考えてしまい、ロイゼが心配だ。1人でちゃんと家まで帰りつけるかな…。そんな事を考えてると、突然お空から水が降ってきた。それだけじゃない、一瞬外の全体が光り、その瞬間大きな音が鳴った。この音だけは時々聞いたことがあったが、この音が鳴ってる時、外はこうなってたのか。
    また空気が青白く光る。光と一緒にガラスに反射して自分が見えた。この時初めて僕は、自分の姿を見た。一瞬しか見えなかったが、あの人間が言ってたように、僕は人間らしい見た目をしていなかった。改めて自分の姿を確認したい。自分で見える部分でおかしいのは左足だけだ。僕の左足は、蜥蜴とかの爬虫類みたいな見た目をしている。今まで暗い空間に居たおかげで自分でもよく見た事がなかったからいま初めて見たようなものだ。家の中を、物を壊さないように気をつけながら何か反射するものは無いか探していると、鮮明に姿をうしてくれる薄い板みたいなものがあった。そこには、僕の知ってる人間と違う、耳と歯が尖っていて、白目がなく真っ黒な右目と本来白目であるはずの部分が黒い左目をした僕が居た。確かにあの人間が言う通り、僕は本当に人間では無いのかもしれないと、この時初めて思った。ロイゼはこんな見た目の僕が怖くないのかな。

    ーバタバタ…ッ

    突然さっきのガラスの方から変な音が聞こえた。見に行ってみると黒い変な生き物がいた。その生き物は怪我をしているようだった。外に出て黒い物体を拾い、直ぐに室内に入った。すると寒かったのか黒い生き物は僕から離れなくなった。
    怪我…どうやったら治してあげれるかな…。
    この生き物はなんて言う生き物なんだろう。鳥…?なのかな。そういえばこの前ロイゼが教えてくれたカラスって奴と特徴が似てる。こんな小さい生き物が広い場所を荒らすのか、すごいな。
    「お腹、空いてない…?」
    「?」
    僕の質問の意味が分からないのか、言葉を話せないのか分からないが、カラスらしき生き物は僕の顔をじっと見つめてきた。
    「お前、カラス?鳥?鳥とカラスって違うの?」
    「?」
    やっぱり何も答えない。言葉が分からないのかな。
    「……とりあえずお前の怪我、治るまで一緒にいよう。多分外、危ない。」
    「?」
    僕もこいつの言いたい事は分からないけど、何となく“何言ってるかわからん”みたいな顔されてる気がする。食べてくれそうなものを細く砕いて差し出してみると、それをつついて食べ始めた。良かった、こいつでも人間の食べ物は食べれるみたいだ。
    「おいしい?」
    「!」
    なんとなくさっきと違う反応をした気がする。このお菓子…?を気に入ってくれたようだ。僕も同じのを食べてみる。少し甘い、一気に口の中に入れると水分が全部取られてかわいてしまった。
    「お前も、かわいた?」
    「?」
    わからない、と言った反応に戻った。多分こいつも水分取られただろ。一応自分とカラス(仮)の分の水を用意した。やっぱり喉が渇いてたみたいで、水を一気にカラスは飲んでいる。
    「おいしい?」
    「!」
    心なしか嬉しそうに見える。さっきより元気になったのは分かった。
    外を見ると相変わらず水が降ってる。そういう日なのかな、誰がどうやってお空から水を流してるんだろう?
    「カァッ!」
    「うわ!な…なに?」
    「カァ!カァッ!」
    突然手みたいな所をバタバタさせながら大きい声を出し始めた。もしかして喋ってる?
    「カァッ!カァッ!」
    「えっと…ごめんわかんない…」
    「?」
    なるほど、カラス(仮)は人間の言葉を話せないのか…。
    「わかんなくてごめんね…?」
    「カァ!」
    まあ……元気そうでよかったね、としか言えない。言わないけど。そう言えば初めてあんなに歩いたせいかすごく足が痛い。明るいせいで鮮明に自分でもわかるくらい異様な左足は、本当に自分の物なのかと疑うくらい違和感がある。右足は人間と変わらない形をしてるのに、左足は見れば見るほど気持ち悪い。
    「…はぁ。」
    環境が変わったとはいえ、やることは相変わらず無いな。
    「寝るといってもどこで寝ればいいのかな…」
    多分寝るための場所もあるんだろうけど、どこが何なのか全く見当がつかない。もう移動することすら面倒だから今座ってる横に長い柔らかい椅子で寝ることにした。
    「寝るよ、おやすみ」
    「!」
    横たわると、カラス(仮)も隣に座り込んで一緒に寝た。

    「ロゼルー!起きて!」
    「っ?あれ、ロイゼ、もう居たの」
    「えっへへ〜!でももうお昼だよ?」
    外を見ると、お空の色が明るい青色をしてた。
    「ほんとだ、お空青色」
    白色の曇ってやつも浮かんでる。
    「ロイゼ、あれはなに?すごい明るい、光のかたまり」
    「あれは太陽だよ!朝から夜になるまでずーっとお空にいるの」
    「太陽と月は違うの?」
    「う〜ん…多分違うんじゃないかな…?そうだロゼル!このカラスどうしたの?」
    カラスってなんだ?と思いながらロイゼの指さす方を見ると、夜拾ったカラスみたいなやつが居た。
    「その子は、夜ガラスにぶつかってた。怪我痛そうだから家の中入れた。」
    「そうだったんだ!ロゼルは優しいね」
    「優しい…?優しいはロイゼだよ」
    僕がそう言うとロイゼは明るく笑った。
    「ロイゼ、どうして僕をここに連れてきたの」
    「だって、一人は寂しいもん」
    今度は悲しそうに笑った。
    「ロゼルはあんな真っ暗なところで一人なの、寂しくなかったの?」
    「ゔ…わからない…」
    「あははっ!そっか!そうだ、これ食べてね」
    そう言いながら見たことの無い、長くて茶色の柔らかい物を渡された。
    「なにこれ」
    「パン!美味しいよ!」
    匂いを嗅いでみる、甘そうな匂いがする。夜食べたやつと同じ匂い。
    「食べないの?」
    「ん…今は、いい」
    折角用意してくれたけど…あまり僕はこの匂いが好きじゃない。それにこんな頻度で食べるのに慣れてないせいか全くお腹も空いてない。
    「カァッ!カァッ!」
    「うわっ」
    突然カラスが僕の顔目掛けて飛んできた。
    「な、なんだよ…っ!」
    「カァッ!カァッ!」
    「うふふっ!きっと今食べろって言ってるのよ」
    「カァッ!カァッ!」
    「わかった、食べる!食べるから…っ」
    ほんとに今食べろって言ってたのか、というくらい、パンを1口かじるとカラスは落ち着いて肩にとまった。
    「そのカラスさん、すごくロゼルに懐いてるみたいね」
    「んん…そうなのかな。」
    「カァッ!」
    まるで返事するかのように耳元で鳴かれた。うるさい。
    (やっぱりパン、苦手な味だな。)
    なんとか無理矢理飲み込み、食事を終わらせた。
    「そういえばロイゼはいつも何してるの」
    「いつも〜?ぱぱのお手伝いとか〜ままのお世話だよ!今日からはロゼルのお世話もするんだっ」
    「忙しいなら…別に僕のことはほっといてもいい」
    「やだ!」
    「ゔぅ……」
    ロイゼがやりたいなら何でもいいか。
    この日は一日中、夜になるまでロイゼはそばに居てくれた。そして村中で僕が居なくなったことが騒がれてるという話を聞いた。そんなに僕って人間達に知られてたんだな。

    この日から毎日、僕はロイゼが会いに来てくれるのが楽しみになった。
    年々、会いにこない日が増えていく。ロイゼの笑顔と元気な声は、僕にとって1番大切な物になっていた。来ない日が続いても、ロイゼを待つ時間をカラスと一緒に待つ毎日がもう習慣になっている。でも、もう2ヶ月ロイゼに会っていない。

    そして今日も、カラスと共にロイゼが来るのを待っていた。
    「ロゼル…!」
    「あ、ロイゼ!久しぶり…!」
    なんだかロイゼは元気がないように感じた。いつも会いに来る時は元気に手を振ってくれるのに、今日はそれすらない。
    「?…ロイゼ、元気ない」
    「えへへ…少しね…。ねぇロゼル…」
    静かに、そしてゆっくりと近付いてくる。いつもと雰囲気の違うロイゼに困惑しながら、立ち止まるのを待つ。もう少しで手が届くくらいの距離で、ロイゼは立ち止まって俯いた。
    「お父さんに、もうロゼルに会うなって言われたの。また会いに行くようだったら、ロゼルを殺すって…それでね!」
    ぱっと顔を上げたロイゼの目には涙が、そして手には刃物が握られていた。
    「ロゼルに会えなくなるくらいなら、私もう生きてたくない、いつもロゼルになにかしてあげたいって考えながら生きてきたのに生き甲斐を取られたの、だからもう、私は生きる意味が無い…!」
    「ロイゼ!待て!」
    数年ぶりに聞くあの人間の声が遠くから聞こえた。ロイゼを追ってきたみたいだ。
    「うるさい!お父さんはずっと、私の好きなものを奪ってきた、もう奪われたくないの…!」
    「ロイゼ!」
    ロイゼは、あの人間と僕の止める声を聞かず、自らの喉を刃物で刺し、掻っ切った。駆けつけた人間はその場に膝を着いて絶望したような表情を少しの間していた。

    「一人は寂しいもん」

    そうだ、早く僕もいってあげないと。一人でいる僕を救ってくれたロイゼを、一人になんて出来ない。きっとまた、真似をすれば、同じところに行けるよね?倒れたロイゼの横に転がる刃物を拾い上げ、首元に当てる。
    「おい、お前までやめろ!ロゼル!」
    なんでこの人間が、僕の名前を知ってるんだろう。いや、そんな事どうでもいい。はやくあの子に会いに行かなきゃ。一人にさせないようにしなきゃ。勢いに任せて首を刺す、今まで感じたことの無いくらい強い痛みが全身に走る。でもあの子も、この痛みに耐えたんだ。

    待っててね、ロイゼ。

    もう身体に力が入らない。大声で鳴くカラスの声と、必死に起こそうとする人間の声だけが頭の中に響く。僕はなにか間違えたのかな、同じことをしたのに、あの子が居ない。違う場所に行っちゃったのかな。僕が来るの遅かったから。
    早く見つけてあげなくちゃ。

    ……………………………………

    「そこの君、探し物かい?」
    知らない誰かが話しかけてきた。周りを見ても誰もいない。確かに僕が今してるのは探し物ではある。そうだと答えようと思っても、何故か声が出ない。なんだか喉から空気が抜けてるみたいな感覚がする。
    (僕は…ロイゼって人を探してる)
    何とか伝えようと強く頭の中でそう言ってみる。
    「そうか、それならうちに来ると良いよ」
    (僕の声が聞こえたの?)
    言葉に出てないのに伝わった事に驚きを隠せず、思わずまた頭の中で聞き返してしまった。
    「聞こえたよ、なんでかは知らないけどね。それで君はどんな子を探してるのかな」
    (人間…優しくて暖かい、小さい人間)
    「小さい人間…?子供探しかい。よくうちにも子供は集まる。うちに探しに来てご覧」
    この声の主は完全に信用出来る訳では無いけど、もしかしたらそこでロイゼが待ってるかもしれない。
    (わかった、行ってみる)
    「ふふふ、人探しの手伝いをする代わりにこちら側のちょっとした仕事も手伝ってくれるかな?」
    (仕事ってなんだ)
    「おやそれも分からないか…まあ簡単な事だよ、ただ遊んでもらうだけだからね」
    (よくわからない…でも探させてくれるなら、それでいい。僕にできるなら、それもやる)

    そして僕は、知らない人間と知らない生き物の居る知らない場所で毎日ロイゼを探している。大丈夫、いつか絶対見つけるんだ。見つけるまで一人にさせちゃうけど、また会えた時は絶対一人にさせない。僕の大切な家族だから。
    今日もこの場所は、何年も前に嗅いだことのある砂と鉄の匂い、そして知らない人間たちの悲鳴が鳴り響く。こんな危ない場所にあの子はほんとに居るのか…?いや、僕は信じてる。

    あの子もきっと、ここに居る。
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