どっちでもいい話 言われたことを笑って受け流して、飲んで、笑って、飲んで、笑って、飲んで、また笑う。本音も飲み込んでその場をやり過ごした先に待っているのは、飲み過ぎたことによる気持ち悪さ。
非常口から外に出ると花壇の前に座り込んで、夜風で頭を冷やす。何を話したかうろ覚えだけれど、VISTYのことは売り込めたし、俺のことも使うと言ってくれた気がする。とりあえずやれることはやったはずだ。
眠気と不快感。自分が酔っていることが顔を見ずともわかる。会場に戻りたくねーなぁ…。なんてどうにもならないことを思う。実際俺が勝手に帰ったところで誰も気付かないし、困らないだろうけど、社会人としてそれはできない。それこそVISTYとしての活動に影響が出るかもしれないから。
「斗真くん、大丈夫ですか?」
その声に顔を上げると夏準さんが立っていて、目が合うと何故だかホッとした。笑ってから「だいじょーぶい!です!」とピースをすると小さくため息をつかれる。
「大丈夫そうに見えませんよ。水がありますからよかったら飲んでください」
「え!?い…いいですよ!夏準さんが飲んでください!」
「いえ、ボクは酔っていないので」
これは俺が折れたほうがいいやつだと、ペットボトルを受け取ることにした。上手くキャップを開けられずにいると、夏準さんは何も言わず俺の手からペットボトルを取って、開けてから渡してくれた。
久しぶりに飲んだアルコールの入っていない飲み物は優しく、癒やされるような感覚がした。たぶん回復魔法とかかけられるとこんな感じがすると思う。
「えっと、ありがとうございました!俺はもうちょい休んでから戻るんで、夏準さんは先に戻っててください!」
「ボクがここにいては休めませんか?」
「え!そ…そんなことないです!全然!」
「なら暫くここに居させてください」
「あ、それだったら俺が別のとこに…」
立ち上がろうとすれば腕を掴まれて「居てください」と言われた。夏準さんに見上げられるのは新鮮で、どこか困ったようにも寂しそうにも見えたので大人しく座り直した。
本当に飲み過ぎたようで、突然胸がドキドキと騒ぎ始める。心なしか暑く感じ始めて、起こった異変に慌てて水を飲んだ。
「無理を言ってすみません」
「いやいやいや!全然ムリとかじゃないです!今日夏準さんとあんま話せてなかったんで、むしろラッキー的な!」
「フフッ、ありがとうございます。ボクも斗真くんと話すタイミングを探していたのでよかったです。知らない人が多いと疲れますから」
「え!夏準さんもあーゆー場苦手だったりするんですか!?慣れてるとばっかり…」
「苦手というほどではありませんが、ボクだって知らない人間と話すよりも、気心の知れた人と居るほうが楽しいですよ」
その言葉に、その表情に、大きな音を立てて心臓が跳ねた。そのままドクドクと激しい鼓動が続き、何が起こったのかわからなくなって、手からペットボトルが落ちた。