楽しいお仕置き(意味深)から日が経ち、クジンシーは相変わらずな生活を送っていた……とはいえ、ちゃんとほどほどの飲酒&賭け事という約束を守っていた。(やめはしない)
お仕置き自体は楽しめたのだが、なかなかハードな内容だった為あまり頻繁にされたら身体が持たないと思ったからだ。
(一応反省もした……一応程度に)
何やかんや言ってくる者もいたが、「じゃあ代わりにノエルに怒られてくれ」と言えば、全員黙った。
付き合いが悪くなったクジンシーに何人か離れていったが残る者もいて、彼らとほどほど遊んでいた。
が、そんな輩(やから)の中に、彼の態度に不満を持つものが何人かいた。
時折クジンシーを性的な目で見ていた奴らである。
いつか食ってやろうなんて事を考えていたのだが、今のクジンシーを上手く言いくるめるのは至難の技である。
彼らは酒場に集まりどうにかして手篭めに出来ないかと相談し、次回彼と飲む時に酒に一服もらないか?と強行手段に出る事に決めた。
数人に相手されてどれだけ体力が持つか賭けようぜ?等と下卑た内容を周囲に憚(はばか)る事なく大声で笑いながら話し、酒を堪能していた。
少し離れた場所で、聞き耳を立てている者がいる事にも気づかず。
時は流れ、狙われているなんて露しらずなクジンシーは下卑達と酒場で飲んでいた。
クジンシーがお手洗いに席を離れたタイミングで彼が注文していたお酒が届き、本当に薬を盛る男達。
しばらくして、酔いが回ってきたのかちょっとふらふらしながら戻って来たクジンシーに、お酒を渡す下卑。
クジンシーはそれを受け取るが、ジッと見つめるだけで口にしようとしない。
まさか勘づかれたか?と内心舌打ちしながらも「どうしたんだよ、早く飲めよ?」とけしかける男達。
「んー……悪い、そろそろやめとくわ」
これ以上は悪酔いになると判断したらしい、代わりに飲んでくれとクジンシーは彼らに酒を押しつけた。
慌てたのは男達。「お前の酒だろ、飲めるかよ」「まだ口をつけてないんだからいけるだろ、ちゃんと割り勘で出すから」みたいに押し問答が続く。
しびれを切らした下卑達がクジンシーを押さえつけ、無理やり飲ませようとしたその時……
「そこまでだ」
クジンシーを拘束していた男の手を強く掴み、怒気のはらんだ低い声が周囲に響いた。
もめていた男達とクジンシーが視線を向けると、そこにはノエルがいた。
「ノエル!?」
「な、なんでテメェが……」
「私が知らせたんですよ」
「ボクオーン!?」
横から聞こえた第三者の声、聞き覚えのあったクジンシーはそちらへ視線を移した。
「先日ここで貴方にちょっかいをかけよう等という、何とも品のない会話を耳にしましてね。
ただでさえ面倒な時、このまま放置しておいては後々厄介な事になると判断しノエルに伝えておきました」
下卑達から解放されノエルに庇われたクジンシーは、彼の背後からボクオーンを訝(いぶか)しげな目で見つめる。
「俺に直接教えてくれたら良いじゃん」
「名乗り出る気はなかったんですよ、今後の情報収集に影響が出そうでしたので」
「情報収集……あ、もしかして!!
この間ここで賭けてたのをノエルにチクったのって!!」
「さぁて、なんの事やら……さっぱり見当もつきませんねぇ」
ノエルと恋仲になったキッカケである情報リークの犯人を見つけ騒ぐクジンシーに、明後日の方向を見ながらすっとぼけるボクオーン。
「さて、酔っぱらいのいちゃもんは放置するとして」
「いちゃもんじゃねーし!!」
「賭けに影響が出てしまいましたが、様子見で終わらせるわけにはいきませんでしたからね。
不可抗力と致しましょう」
「話聞け……って、賭け?」
「ええ、実はつい先ほど彼と一つ賭けをしましてね。
貴方がその酒を飲むか……ノエルとの約束を守るのか否かを。
その勝敗次第で、この後の処理をどちらがするか決めようと」
「賭け……俺で?」
ノエルはどちらに賭けたのだろうかと不安になり、思わず彼の背中を見つめるクジンシーだったが。
「さあ、結果は出ました。
勝者はとっとと景品を持って帰りなさい」
しっしっと追い払う仕草をするボクオーンに、ノエルは戸惑いながらも「後は任せた」とクジンシーの手を掴み酒場を後にした。
下卑達はボクオーンを取り囲み、「余計な真似をしやがって、わかってんだろうなぁ?」「代わりに相手してくれんの?」と威嚇する。
彼が七英雄の一人である事は知っていたのだが、見た目から荒事には慣れていないと勘違いしているのだ。
酒の勢いもあって、少し脅せばどうにでも出きると思い込みニヤついている男達に、ボクオーンはほとほと呆れ内心ため息をついた。
「ここでは他の人に迷惑がかかりますね。
場所を移して、お話しましょうか?」
下卑た目なんぞに怯むわけもなくボクオーンはにっこりと笑い、彼らに地獄への片道切符を贈る事にしたのだった。
場所は代わり、ノエルとクジンシー。(手はもう離している)
酒の為か別の理由か、何故かご機嫌な様子のクジンシーはノエルの横に移動し、ピッタリと彼に寄り添っている。
「……あんな事の後なのに、ずいぶんと楽しそうだな」
「えー?んーそうだなー
ノエルにお持ち帰りされたからかなー?」
「人聞きの悪い言い方はよしてくれ」
「事実じゃん。俺、景品なんだろ?」
酔いが回っているのかほんのりと赤く色づく自身の頬に指を差し、にへらっと笑うクジンシー。
「ノエルのものなんだし、好きにして良いんだぜ?」
「……意味がわからないな」
「えーわかってるくせにー
俺ちゃんと約束守ったんだしさ……ご褒美くれても良いんじゃね?」
約束を守るのは当然の事で、それに対して褒美というのはどうなのか?と思うも、少し上目遣いで見つめてくる恋人の視線にノエルの自制心は揺らぎ。
彼から漂う酒気に当てられた、そう思い込む事にしてノエルはクジンシーの腰に手を回す。
そうこなくっちゃ、とクジンシーはノエルに抱きつき、二人はそのままいつもの場所へと向かい消えていった。
数日後、以前騒いだ行きつけの酒場(昼は食事処となる)で偶然出くわしたクジンシーとボクオーン。
ちょうどお昼時で混雑していた為、相席となる。
「おや、それだけですか?
貴方そんなに少食ではないでしょう」
「最近ちょっと使い過ぎたから、節約してるんだよ」
「そうですか、それは大変ですね」
「同情するなら奢ってくれ、なんてな」
「奢りましょうか?」
「え?」
金に固執するボクオーンの口からまさかの言葉。
絶対に何かあると警戒するクジンシーの様子にくすりと笑いながら、ボクオーンは懐から何かを取り出し彼に見せつけた。
「貴方のおかげで、臨時収入が入りましたので」
その手には、普段ボクオーンが絶対に選ばなそうなデザインの財布があった。
見覚えがあるその悪趣味な財布に、色々と察したクジンシーの口許が少し引きつり。
「……から揚げ追加して良い?」
「ええどうぞ、そのくらいなら」
クジンシーは深く考える事をやめ、別の意味での勝者に奢られるのであった。