白も赤も「藍湛!誕生日おめでとう!贈り物を用意してきたぞ!」
開口一番に告げながら、魏無羨は満面の笑顔で愛しの道侶にぼすんと勢いよく飛びついた。
「どこに隠してるか分かる?」
思わせぶりに右の袖を揺らしてみせて、左の袖はさり気なく体の陰に隠す。しかし藍忘機はそのどちらにも目を向けず、魏無羨の懐へと手を伸ばしてきた。どうやら作戦は失敗らしい。
「さすが藍兄ちゃんは手練れだな。そこに目をつけるとは……って、どこまで触っ……っん」
懐に潜ませた贈り物を素通りして藍忘機の指はさらに奥まで忍び込んでくる。中衣の上から胸の小さな突起に触れられて、魏無羨の体がびくりと震えた。反応を楽しむようにそこをこりこりとひとしきり撫で回してから、ようやく藍忘機の手は隠されていた包みを連れて出ていった。
「本当にお前は手練れすぎるよ……」
くた、ともたれかかる魏無羨を抱きしめたまま、藍忘機は取り出した包みを開く。
片手ほどの大きさの包みの中身は束ねられた白く美しい平紐だ。繊細な透かし模様の入ったそれはとろりと手触りもなめらかで、透きとおるように美しい。非常に薄く柔らかいため小さく折り畳まれているが、伸ばせば二十尺ほどはあるだろうか。髪紐や装飾の類にしては長すぎるそれの用途が藍忘機にはわからなかったらしい。贈り物と贈り主を交互に見た彼が小首を傾げる。
「魏嬰、これは?」
「……ん、お前が好きなものだよ」
乱れた呼吸を整えて、魏無羨は徐ろに白い紐を手に取った。柔らかなそれを自ら手首にゆるりと巻きつけてみせると、意図を察した藍忘機の耳朶に朱が滲む。
「長さもたっぷりあるから、好きにしていいんだぞ?なにより俺特製のこの紐は……」
魏無羨はにやにやと人の悪い笑みを浮かべながら、片方の手首に巻いた紐をもう片方の手で覆った。
「ほら、体温に反応して色が変わるんだ」
そう言って藍忘機の目の前に差し出された白い平紐は、魏無羨の熱を吸って仄かに赤みを帯びていた。
「お前のかわいい耳たぶみたいだろ?」
魏無羨は先程のお返しとばかりに、すりすりと仄赤い藍忘機の耳殻に指を這わせる。
「さあ、藍兄ちゃんはいったいどこまでこの紐を赤く染められるかな?」
「……っ」
唇を寄せて吐息とともに囁いてやれば、息を詰めた藍忘機が魏無羨の両手を掴んだ。そのまま手早く服を脱がされ、代わりに平紐が動きを封じるように裸体に巻かれていく。最後にきつく手首を戒められると、紐の色はすでに薄桃色に変じていた。
期待しているのが一目瞭然だが、そんなことは今更だ。藍忘機に触れられるだけで、高鳴る心臓に呼応して体が勝手に熱くなってしまうのだから仕方がない。
白い肌を戒める繊細な淡紅色を藍忘機は食い入るように見つめている。その瞳に揺らめく灯火にまたぞくりと体温が上がった。
「そうそう、途中でやっぱり赤く火照った俺の肌には白い紐のが映えるなーって思ったら、お前の霊力を流し込めば一瞬で白に戻るから」
紐とともにわずかに上気した己の肌に気づいて、魏無羨は伝え忘れていた説明を得意気に披露する。藍忘機が魏無羨に纏わせた平紐を撫でると、確かに赤くなり始めていたそれはもとの清冽な白さを取り戻した。
「どっちも楽しめて、まさに至れり尽くせりだろう!どう?気に入った?」
「うん」
その晩、魏無羨の熱で鮮やかな紅にまで染め上げられた平紐は、その度に真白に戻されては幾度となく深紅に染め直された。
飽きることなくそれを繰り返す藍忘機に、朦朧とした意識の中で魏無羨は自分の天才的なひらめきを後悔したのだった。