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    KAYASHIMA

    @KAYASHIMA0002

    🌈🕒ENのL所属💜右小説置き場。
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    KAYASHIMA

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    ❤️💜はじめての邂逅。
    ちょっと情けない❤️と、💜のおはなし。
    なんでも許してください。
    ※既存作

    #Voxshu

    【Voxshu】LOOK AT ME
    「些細」な言い合いで終わるはずだった。
    シュウが私のホームに滞在する予定を組んで、お互いにその日々を今か今かと楽しみにしていた。スケジュールの合間を縫って繋げて、ようやく手に入れた機会だった。私とシュウの邂逅を妨げるように何度も失ってきたタイミングを、ようやく掴んだ。万全のコンディションを保って、シュウを迎える。そのつもりだった。シュウが滞在できる日数はわずか三日。とはいえ七十二時間にも満たない。出来うる限りもてなして、可能な限り濃密な時間を過ごしたかった。そして、配信者としての性も満たしたかった。私とシュウがオフコラボを突然行えば、きっと盛り上がるだろう。だからあえて、私の提出したスケジュールに「匂わせ」た。シュウはそれがお気に召さなかったらしい。
    「僕は二日と半日しかいないんだよ?」
    「ああ、ああもちろん分かっているとも。だからこそわずかな時間でも私とシュウがふたりでオフを過ごしている雰囲気をリスナーに……」
    通話の電波に乗るシュウの声は不満げだった。珍しく、少し早口で、はっきりとした物言いだった。何がそんなにイヤなのか私には理解できずに説得も含めて宥めようとゆっくりとしたペースで語ると、スピーカー越し、かすかにため息が漏れた。その事実に驚いて、言葉を詰まらせるとシュウはトーンのまま「どうしたの、続けてよ」と落とした。初めてだった。いつもきちんと話を聞くシュウが、私をおざなりに扱うなんて。動揺に喉が詰まって、意味を成さない音ばかりで場を繋ぐ間、シュウは無言だった。
    「ほら、私やルカたちとオフコラボをしたとき……リスナーは喜んでいただろう?シュウだって浮奇たちとの突発的なコラボレーションにファンは湧いていたじゃないか。私とはまだ会っていないのに、他の男と同じベッドで過ごしたなんて情報までサービスして……」
    そう口にして、あのときの浮奇から語られたシュウのガードの甘さに小言が混じる。それを、シュウがぴしゃりと跳ね除けた。
    「キミこそ、僕とまだ会っていないのにルカと同じベッドで過ごしたなんてね。未だに信じられないよ」
    「シュウがあの場にいればそんなことには」
    「風邪をひいた僕の間が悪いって?そうだね、その通りだよ」
    言い募る隙さえ与えないシュウが、どんな顔をしているのか気になった。こんなにもツンと頑なに心を閉ざした様子は初めてだった。なにが、シュウをこんなにも尖らせているのか検討もつかなかった。浮かれた私の出鼻をことごとく挫くように、シュウが遠くにいく。
    「シュウ、どうしたというんだ、普段の、温厚なキミはどこにいってしまった?」
    務めて落ち着いたトーンを貫いて、窺うように囁きかけるとシュウは沈黙を選んだ。まるで「温厚な自分はいません」と主張するように。これには私が息を吐く番だった。デスクチェアをギジリと軋ませて背にもたれて深く息を吐く。
    「はあ……シュウ、何が不満なんだ。私たちは配信者だ。リスナーを少しでも驚かせて盛り上げて、喜ばせることを仕事にしている。そうだろう?」
    言い聞かせるように言葉を区切って選んで、シュウに送ると、「そうだね、その通りだよ」とささやかで、どこか拗ねたような声が返ってきた。
    「だけど僕の『休暇』をキミの仕事に付き合わせないで欲しい。突発的に、その場の雰囲気でやろう!ってなるなら構わないよ。友だちのようにね。だけどヴォックスは、リスナーのためだけに、やろうとしてる。それには快諾できない」
    硬い声だった。見えないシュウを目の前にしているように、冷えた声が鼓膜を揺さぶって、瞬いて、黙ってしまった。シュウが私の行動を「独りよがり」だと非難したのだ。ふたりで作ろうと提案したのに!
    「シュウ、私は今提案をしているだろう。ふたりで、やろうと。配信ができる環境にいながら、リスナーをたった二日でも放っておくのは胸が苦しいんだ……いい子だから聞き分けてくれないか」
    些か頭に血が上って、シュウを相手に汚い言葉を並べて言いくるめてしまいたくなった。落ち着けと早くなる脈を抑え込んで低く名前を呼ぶと、シュウは構わないといったふうに息を吐いて、続いた言葉に肝が冷えた。
    「ねえヴォックス。僕は配信者のヴォックス・アクマに会いに行くの? 」
    「あ、」
    声の悪魔が聞いて呆れるほど、情けない音だけを出すことで精一杯になった。
    「たった二日と半日だけでも僕、を優先してくれないの?」
    「ヴォックスは素晴らしい配信者だよ。僕はそれを自分のことみたいに誇りに思っているし同期として頼もしいよ」
    「だけどさ、初めて会うんだよ、やっと。最初だけでもいいから、恋人としての時間にしたかったんだ……僕だけだったみたい。浮かれてたのも、独り占めしたかったのも」
    「次だっていいじゃん。友だちじゃ、ないんだよ。他の仲間たちと、同じ括りはいやだなあ、って思う僕はさ……なんだか意地が悪いね」
    そう、笑いながら沈んでゆく言葉を汲む隙も、距離も、私には与えられなかった。今この場にシュウがいれば、すぐにでも抱き寄せて謝罪して縋ることが出来たのに。私は、シュウの気持ちを浮かれて踏みにじってしまった。私も心待ちにしていたんだ。私も楽しみにしていたんだ。私も。いくら言葉を探そうと、シュウの気持ちよりも勝るハートを、持ち合わせていなかった。
    「ああ、シュウ……なんと伝えればいいか……」
    頭を抱えて、ツンと込み上げるものを大人ぶって飲み込んで。取り繕おうとしている自分に嫌気がさした。それでも今、なにか言葉を繋げなければ。その一心だった。そうだ。初めて、恋人と顔を合わせるのに。どうして私は他人を間に入れようとしているのか。あまつさえ、「シュウ」ではなく「シュウ以外」を優先しようとしているのだろうか。
    「済まない、私の考えがお前を傷つけてしまった……どうか許してくれないか、」
    震える声を、どう電波がのせるだろうか。スピーカーから聞こえるノイズにさえ耳をそばだてて、シュウの全てに神経を研ぎ澄ませる。祈るようにデスクに肘をついて手のひらを擦り合わせた。すう、とシュウの呼吸が聞こえて、息をとめた。
    「僕の方こそごめんね。ちょっとだけ意地悪になってた」
    平坦な、まるでいつも通りの声だった。凪いだ海のように、なだらかな声だった。希望の筋が見えた気がしてつい逸る気持ちのまま食いつく。
    「謝らないでくれシュウ、スケジュールは流すよ。二人で過ごそう」
    そう、せっかちに上擦った声で捲し立てると、シュウの乾いた笑い声がした。
    「んはは。でもごめんね、僕って聞き分けがないなら、今ヴォックスに会いたくないんだ」
    だからナシにしよう。そう温度なく、笑っていったシュウの言葉にガツン、と頭を強打されたきり私は抜け殻になってしまった。シュウが出発する前日の夜の出来事だった。



    「何してんのマジで、マジで」
    昨夜から、シュウと連絡が取れない。とミスタに泣きついたのは翌日の夕刻だった。何度コールしてもシュウに繋がらない。私たちを繋ぐ唯一の糸が切れてしまった気分だった。満足に寝つけず、シュウのためにと用意していたコーヒーを啜って、空きっ腹をキリキリと痛めた。何も手が付かない。そぞろに時間を流すのも限界で、ちょうどオンラインになったミスタを引っ張って今に至る。経緯を詳らかに打ち明けるとミスタは喉を引き攣らせて言葉を濁らせた。うえに深くふかく息を吐いた。盛大に。
    「そりゃ、お前らが友だちなら配信して仲良しアピールしろよってなるけどさ、普通さ、分かるじゃん。わざわざ、俺たち全員のオフコラボもないのに、こっちくる理由なんて、それがなんで、よりにもよってヴォックス、お前がわかんないかなあ」
    呆れたようなミスタの声にぐうの音も返せずにただ肩を落とした。
    「その通りだ。私が全面的に悪い」
    「まあ、シュウにまさかそんな欲求、っつーか願望?があったのにも驚いてんだけど、なんか普通にOKしそうだもんな」
    「私も、そう考えていたんだ……」
    何度目かの頭を抱えて唸るように答えた。シュウならば、理解してくれると勝手に思い描いていた。笑って、「イイネ!楽しそうだ」と頷いてくれると。鼓膜にこびり付いた、昨夜のシュウから放たれた温度のない硬い声が反芻して、耳鳴りがする。
    「どうしたらいい……」
    お手上げだ。SNSにも顔を出していない。スケジュールなんて全部オフと記載された気の抜けたファンアートが添えられた画像のみ。discordもずっとオフラインだ。どこにも、シュウの気配が見当たらない。心臓が苦しく軋んで息さえたまに上手くできない。本来なら、あと数時間後に長いフライトを終えたシュウを迎えるために空港に出向いて、逸る気持ちを抱えて、刻む秒針と同じくらいの心拍を感じて。そうして待ち遠しささえスパイスにして。そんなふうに、初めて恋人と顔を合わせる予定だったのに。静かだったミスタが、ため息ばかりつく私をきらって「あーもう!」と声を上げた。そして苛立ったような、呆れた声音で放った。
    「あのさあ、ヴォックスの中でのシュウって、そんくらいでマジで来ない、って終わらせられてんの?だとしたら、本気で救えないよお前」
    は、とした。呼吸が、時さえ止まったように再び私は頭を殴られた。というより自分で殴りたくなった。
    「済まないミスタ、目が覚めたよ」
    「はいはい、せいぜいご機嫌取り頑張れよ」
    ブツリと回線を切って、深く息を吐いて、そして。



    身なりもそれなりに、シュウを迎える準備も中途半端にやめてしまって雑然とした部屋を出てタクシーを捕まえた。すっかり日の落ちた街並みを流して。煌々と光る空港に足を踏み入れた。ごう、と響くエンジン音、通る声のアナウンス。夜も半ばの時間だというのに空港内は雑然と人に溢れていた。シュウがこちらに着く時間はあと一時間ほど先だった。少ない空席を見つけて腰を下ろして、当初の想像していた浮かれた待ち時間とは真逆の、まるで教会で懺悔するように重たい身体を折りたたんで手のひらを擦り合わせた。腕時計を何度もみる。一秒が、こんなにも長く感じるのはシュウに告白をして返事を待つとき以来だ。ああ、いつも待ち遠しくなるのはシュウのことばかりだと小さく笑う。来るだろうか、という不安が、拭えない。ミスタにハッパをかけられた手前、この弱音は口にできなかった。あのときのシュウは確かに怒っていたし、私に呆れていた。どこかスイッチが入ると頑固になるあの子のことだ、もしかしたら、と最悪を選択肢から切り離せない。じわりと手汗が滲んで、自分が思っているより大人ぶる余裕さえないことに気づく。眉間を指で揉んで、手元ばかりをみる。時刻は、とうにシュウの到着時間を過ぎていた。
    ああ、本当に愛想を尽かされたのだと込み上げた粒が、俯いた私から零れそうになって折りたたんだ身体を起こす。誰かのつま先が、揺れる視界に入る。のろのろと、顔を上げた。
    喧騒が遠のく。私はあの子を見間違えない。濃いグレーのパーカーに、デニム。大きなキャリーケースを引いて、鮮烈なイエローとパープルのメッシュは本当にそのままだった。長い襟足が少し跳ねている。きっと長いフライトで寝ていたのだろう。いとおしい。こんなにも、心臓が震えるほど、あいらしい。シュウは、私を見つけていた。いつから、いたのだろうか。ロイヤルパープルが、困ったように揺れて、ゆっくりと細く空の月よりもうつくしく弧を描いた。
    「ハイ、ヴォックス」
    アイラインの赤ではない朱が目元を彩っていた。居心地悪そうに、シュウが呟いて、私はそれに答えるよりも先に細い身体を抱き寄せて胸に顔を埋めた。
    「ッ、シュウ」
    「来ないかと思ってたでしょ」
    ミスタに聞いたよ。ちょっと、引き返してやろうかとおもった。からかうような、私を気遣う、優しい声音。私の欲しかった、暖かなシュウの心音。ああ、ここに君がいる。
    「済まない、好きだ」
    「……んはは!そう、知ってるよ」
    細くうつくしい指先がわたしの、櫛もそれなりにしか通していない髪を撫でている。触れている。ああどうして、他人に見せられると思っただろう。こんなもの、
    「独り占めしないと、気が済まないことに、やっと気づいたよ」
    胸元に額を押し付けたままぐももった声で告げると、シュウは少し沈黙して、くふくふと肩を揺らして柔らかく笑った。
    「遅いよ、ばあか」
    甘く、あまいシュウの、音に、私はようやく許された。



    END
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    KAYASHIMA

    DONEIsアンソロに寄稿しましたお話です〜。
    第2弾もまたあるぞ!楽しみだ〜。
    【💛💜】衛星はホシに落ちた『衛星はホシに落ちた』







     僕は恋を知っている。
     僕は自覚も知っている。
    「恋を、自覚したから」、知っている。
     ルカという男に恋をしてから、僕は彼の周りをつかず離れられず周回する軌道衛星になった。決して自分から、形を保ったまま離れられないけれど、ルカの持って生まれた引力には逆らえずに接近してしまう、どうしようもない人工物。それが今の僕。近づきすぎたところで大きなルカには傷一つ付けられないで、きっと刹那的に瞬く塵になるソレ。そんなことは望んでいないし、そもそも自覚したところで、ルカという数多に愛される男を自分のモノにしたいなんて、勇気もない。それに、そうしたいとも思わなかった。百人のうち、きっと九十人がルカを愛するだろう。僕には自信があった。そのくらい、魅力に溢れている。だから、誰かのものになるのはもったいないと、本気で考えてしまったから。まあ、どう動けばいいのか分からなかった、ってのも、あるんだけれど。何を隠そう、右も左も分からない、僕の初恋だった。心地のいい存在。気負いしなくていいし、持ち上げなくてもいい。危なっかしいのに頼りになる。幾千の星に埋もれない。ルカは僕にとって一等星だった。
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