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    maeda1322saki

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    maeda1322saki

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    星屑荘3進行度3- 2

    エアレンデルの南西部に位置し、ひっそりと存在する小さな街、フェアリーテイル。ここが南西部であるという事は、突然召喚された三人組には知る由もない事だろう。
    渦を巻くように大きく畝った枯れ木。その中には幹回りが三メートルを超えるものも多く存在している。木の根元付近には枯れ草がぽつぽつと生えており、本来の街も緑豊かとは言えないものである事が想像つく。遠くには大きな墓地も存在し、この小さな街の歴史が物語られているだろう。
    だが、決して栄えているとは言えないがここの住人が穏やかに暮らしているという事は、街の住民を見ても明らかである。

    そこかしこにお菓子も積まれ、装飾でさえ大きなお菓子が飾り付けられ吊るされている。
    その飾り付けに皆が笑顔で取り組み、談笑している。
    自分がいた世界でハロウィンといえば、"秋の収穫を祝うとともに悪霊を追い払うお祭り"という認識であったが、この世界でも祭りという感覚であるのは変わりないらしいと回子は一人思った。

    木に吊るされたロリポップキャンディを仮装をした子供が手を伸ばしているのを見て、颯馬は木からキャンディを取ると、その子へと手渡した。
    「お姉ちゃん、ありがとう」
    満面の笑みを颯馬に向けると子供は、母親らしき人のもとへと駆けていった。
    「あのお姉ちゃんが取ってくれたんだよ」と颯馬を指さす子供と、申し訳なさそうな笑顔を浮かべお辞儀をする女性。それに颯馬は笑顔で小さくで振り返した。

    「なんだか信じられないね」
    彼らを見つめそう呟くように言った颯馬。
    ローレンスは疲れたというように首元にやっていた手を退けると「何がだ?」と颯馬へと顔を向ける。
    「こんなに穏やかな街に敵が攻めてくるなんてさ」
    ローレンスは「そうだな」と一つ頷き、街を見渡した。
    先ほども記したが、このフェアリーテイルという街は栄えているわけではない。それは、防衛力とも直結いているとローレンスは思った。
    自身の世界では魔法によってシールドを張る事で、ある程度の防衛力を得ていた。だが、この世界に魔法があるのかはわからないが、あったとしても生命力が少ないこの街ではごく僅かなもののように見える。
    「防衛戦と言っていたが、防衛力は俺達だけなのか?たくさんのトラップがあると言っていたようだが……」
    周りを見渡しても、それらしき物は存在しない。
    「そもそも敵は何が出てくるのかも分からない状況だろう?これからどう動く?」
    「そうなんだよね」
    颯馬は顎に手を当てて目を瞑り「アヤメ様が言うには、"街に現れる敵性存在から街を守る"ってことしか言ってないもんね」と思い出すように答える。
    ざっくりとした内容だな、とローレンスはため息を吐いた。
    やはり、この街自体に防衛力を求めるわけにはいかないらしい。
    「どこに出現するかも分からなければ、倒しようがないな」
    「そう、かな……」
    微かに聞こえた声にローレンスは振り返った。
    二人の後ろで回子は考えるように視線を逸らしたまま答える。
    「――重要なのは"今いる場所を守ること"ただそれだけ――って、リリーさんは言ってたはず。つまり、敵の出現地点は僕たちがいる場所……、もしくは召喚されたこの場所が戦場になるんじゃないか?」
    そういうと回子は二人を見つめ、そして再度二人から視線を逸らすと後ろの教会を見た。
    細かな装飾と何色もの色鮮やかなステンドグラスで作られた窓ガラス。薄橙色の満月によって照らされた他よりも一際大きな教会は、この街のシンボルといっても良いだろう。
    「壊し甲斐のある丁度良い見た目をしてると思わない?まぁ……街の破壊が目的ならこれだけを狙うわけないだろうけど」
    「破壊するだけの理由があれば別だけどな」
    ローレンスの言葉に颯馬の頭上にビックリマークがピコンと鳴る。
    「あれ、今フラグ立った……?!」
    「なんの話だ?俺には何も聞こえなかったぞ」
    「えー?!私だけ?!」
    その時、教会の鐘が大きく揺れ、重たい鐘の音が小さな街を包み込んだ。
    途端に騒めき始める人々。「逃げろ!」「教会へ走るんだ」とばらつきをもって住民は足を教会へと向ける。
    「これで、教会を防衛する理由が一つ増えたな」
    「わ……本当にフラグだった…!」
    「フラグ……?」
    「あー!いや、なんでもないよ!うん!」
    「?」
    颯馬の言葉に首を傾げる回子。
    そんな二人をよそにローレンスは、街を見据え、不安に染まっていく街の人々をただ見つめていた。
    始まったのだ、戦闘が。
    "守ってもいいし、守らなくても良い"とあの癇に触る声が思い出される。村人を死なせたらクエスト失敗ぐらい言えばいいものを、あの男女はどうでも良い存在のように言い放った。
    全てを守り切れるかは分からないが、それでも一人の人間として死なせたくはないと闘志を静かに燃やしたのだった。

    鐘の音が空気に溶け込み、聞こえなくなった頃、三人は違和感を覚えた。
    「…っ」
    街中へと視線を向けるがそこには何もいない。だが、確かに"何か"がいる気配を肌で感じ取っていた。
    「この感覚は……」
    回子がそう呟くと、ローレンスは真っ黒な大鎌を構える。
    「二人ももしかすると感じてるとは思うが、俺たちが知っているそれぞれの敵が出てきたようだ」
    その言葉に颯馬は頷いた。
    それぞれに馴染みのある敵の存在感があたりを漂った。
    回子は鬼を。ローレンスは魔獣を。颯馬は闇を。
    「でも、どこに……」
    颯馬は辺りを見渡しながらそう呟く。
    そうなのだ。気配はするが敵の存在はどこにも見受けられない。
    ふと回子が視線を向けると腰を抜かした女性と子供の姿があった。震える女性の両腕に抱きしめられていたのは先程の子供だ。怯える母親を余所にその子は空を見つめていた。可愛らしい小さな人差し指をそっと空へと伸ばして、何かを呟いた。
    「なるほどな…」
    回子は静かに呟き、同じように空を見上げた。
    「どうした?何か分かっ、……た……」
    回子と同じように空を見上げたローレンスは、わかったのか?と言い切る前にその口は言葉を失った。
    回子が先ほどの子供と同じように口を動かせば、その言葉は自ずと姿を表す。

    "おめめが見てるよ"  「おめめが見てるよ」

    「なんだ……あれは……」
    ローレンスの額から冷や汗が流れ落ちる。
    滑り気のあるぶよぶよとした膨らんだ瞼に、ぎょろりとした黒い瞳孔。この街を覗き見るかのように向けられるその視線に、ローレンスは動揺を隠せずにいた。
    だが、ハッと意識を戻したローレンスは足早に女性を抱えると、子供と共に教会へと向かっていった。
    他の住人へ女性を任せて、避難の指示を出しているようだ。

    颯馬をそれを横目に見ながら、回子へと問いかけた。
    「あんまり驚いてないんだね?」
    それはあの巨大な鬼の事である。全貌が見えないその姿が、暴れ出したらこの街などひとたまりもないだろう。
    颯馬の問いかけに回子は視線を向け、こくりと頷いた。
    「"あれ"に会うのは二度目だから」
    「前の世界で会った事があるとか?」
    「いいや。確かに、あれは僕の世界にいる鬼だけど、あれに会ったのは前のクエスト……僕達がロケットで飛ばされたクエストでだ」
    ため息が聞こえて回子が振り返れば、指示を出し終わったローレンスが戻ってきていた。
    二人の話を聞いていたのか、彼は眉を顰めて「お前も災難だったな。あんなのを用意されるなんて」と自身のクエストを思い返して、回子に憐みの目を向けた。
    だが、回子はそれから目を逸らし「えっと……」と言いづらそうにもごもごと言葉を漏らす。
    え?と颯馬が聞き返すと、回子は先程よりも少し大きな声量で「……僕がわざと呼び寄せたんだ」と答えた。
    その言葉で二人はなんとなく理解した。
    「わー……大変だったんだね」と同情の眼差しで言う颯馬。
    「だが、変だな」
    ローレンスは大鎌を持ち直しながら「なんで奴は攻撃をしてこないんだ」と言葉を続ける。
    あの鬼はキョロキョロと目玉を動かすだけで攻撃しようとしない。
    「それもだけど。あの鬼が回子ちゃんの敵なら、私たちが感じる敵は何処にいるんだろうね?」
    颯馬がそう発したその時だった。
    三人の足元からぶくぶくと泥状の影が溢れ出す。咄嗟に三人が回避すると、泥状のものは徐々に姿を象っていく。
    それは颯馬がよく知る闇そのものであった。その泥状のものから魔獣も這い出るよう現れる。
    地鳴りが響き、頭上を見上げれば大きな鬼は身動いでいる。ローレンスが目を凝らしてみれば、鬼の体に蔦のようなものが巻き付いているのが見える。
    「は、トラップか」
    嘲笑うように吐き捨てたローレンスは、二人を振り返り「あのデカいのは身動きが取れないようだ。俺たちはコイツ達に集中しよう」と言うと、魔獣に足を向ける。
    「行くぞ」
    回子と颯馬もそれに頷き、それぞれの武器を取り出した。彼らに反応するように敵性存在は、声高く咆哮を放ったのだった。
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