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    オルタナ

    @oru2411

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    オルタナ

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    いずれ投稿する「いざ、トラウマ克服!」の冒頭なのですが、物凄く手直ししたので手直し前の文章を折角なので載せようと思います。書いてる途中にあまりにも受けフィルターをかけすぎたなと我に返りました。怯える受けちゃんは可愛いんじゃ……。でもそれを表に出しすぎるのも良くないですね。難しい!

    #司類
    TsukasaRui
    #派生
    derivation

    いざ、トラウマ克服! 始まり1 始まり

     小さな街で産まれた魔術師の類は、幼い頃から天才であった。恵まれた魔力と知識を活かし、人々を笑顔にしようと類は沢山勉強をした。沢山考え、思いついた事を行動に移した。類に農作物を手助けをして貰った人や、楽しい気持ちになるショーをお披露目して、人々は笑顔になり街の人みんなに愛されていた。
     『素晴らしい子供がいる』という類の噂は、たちまちと街の外へと広がった。そして、それが悪い人の耳にも届いてしまったのだ。魔力を沢山持っている上に、頭も賢い子供がいるのだと。我が物にして上手いように使ってやろう、と。類は悪い人たちにあっという間に攫われてしまったのであった。
     薄暗い部屋に閉じ込められ、身動きも取れない状態で類はいいように使われていた。溢れ出る魔力も、賢く回転も早い頭脳も、綺麗な身体も。生み出した知識達は笑顔とは程遠い使われ方をし、知らない人達に身体を無理矢理触られ、類はひたすら絶望に襲われていた。光の一筋もないこの環境に、どんどん心も身体も疲れていった。

     それから数年。そんな類に光が差し込む。

     今日も身動きが取れない格好でいる類は、いつもと周りの雰囲気が違うと感じた。普段は誰か一人は部屋にいるが、今日は類以外誰も部屋にいない。そして、扉の向こう側がやけに騒がしいのだ。何かが起きている。それは理解出来るが、動けない類からしたら外が騒がしいのも見張りがいないのも、どうでも良い事だった。

    「ーー、ーーーーー!」
    「ーーー、ーー!」

     大きな声で何かを喋りながら、誰かが近付いてくる。聞いた事のない声だ。新入りなのだろうか。そんな事を考えていた類は、荒い音を立てながら開いた扉に驚いた。
     
    「ここか!!!」
    「っ、!?」
    「む!?人がいる!…………お前だ!!」
    「え……なに……?」
    「もう大丈夫だ!助けに来たぞ!!」

     そう言いながら類を束縛していた道具を取り外し明るい笑顔でこちらを見つめる騎士に、類は目を白黒させた。見た事のない白い服に、青いマント。何がどうなっているのか、理解が追いつかない。

    「追っ手は来ないだろうが、念の為に早くここから出た方がいい」
    「……僕、助かるの?」
    「ああ!もう大丈夫だ!安心しろ」
    「そ、っ……か。そっか」

     この地獄のような生活から、逃げられるのか。助かるのか。急に現れたこの男の人のことを完全に信用する事は出来ないが、この生活から逃れるのであれば、乗らない策は無い。

    「……逃げよう。ここから」
    「ああ!立てるか?」

     立ち上がるのに手を差し伸べ、手助けをしてくれる男の手を借り有難くサポートを受けて立ち上がろうと、足に力を入れる。――が。

    「あ、れ……?」

     ずっと座りっぱなしだった為、類の筋肉は落ちていた。上手く立ち上がる事が出来ず、足から力が抜けていく。これは転けるなぁ。と、他人事のように思っていた類だが、前方から身体を引っ張られそのまま力強く抱きしめられた。温かな体温が類を包む。

    「っと、危なかったな!大丈夫か?」
    「……支えてくれて、ありがとう」
    「ああ。どういたしましてだ!」
    「もう立てるから、離れて」
    「ん?ああ!すまないな」

     ぶっきらぼうに答える類にも気を悪くしないまま、明るい顔で応える男に類は不思議な目で見つめる。この男は自分を助けに来たと言ったものの、自分は便利な道具。下心があるに違いないと警戒心を緩めない。

    「君、一体誰?」
    「自己紹介がまだだっか。しかし、先にこの部屋から出るぞ!あまり長居はしない方がいい。逃げながら説明しよう!」
    「……うん。分かった」

     時間が無いのもその通りだ。と、類は男の提案を受け入れた。知らない人物に頼って逃げるのはリスクが高いが、今はそうとも言ってられない。とにかくこの人に着いていって、ここから逃げなければ。もしこの人が危ない人で自分を狙っているのであれば、そしたらまたその時に逃げ出したらいい。と、類はそう思い、走り出そうと足を前に出す、が。

    「あ、あれ……?」
    「っ、と!大丈夫か?まだ、フラフラするか?」
    「大丈夫な、はずっ、なんだけども。……ッ立つのが、精一杯、かも」
    「お前凄く細いもんな。その状態だと、走れそうにないな」
    「ごめん、ね。どうしよう。魔力も、まだ完全に戻ってなくて、飛べないんだ」
    「ん?それならオレが背負ってやるから安心しろ!」
    「……いいの、かい?」
    「ああ!オレに任せておけ!!」

     上手く立ち上がる事が出来ず産まれたての子鹿のような類に、男は助け舟を出す。誇らしげに胸を張る男に類も不思議と安心してしまい、警戒心も何処かへ吹っ飛びその自信溢れる男に身を任せてみようと思った。

    「じゃあ、よろしく頼むよ」
    「ああ、任された!」

     男はその場にしゃがみこみ、類に背中に乗るようにジェスチャーをする。それに従って類は男の背中に身体を預けた。

    「分かってはいたが、やはりお前軽いな」
    「運動もせずに筋肉も衰えてずっと座りっぱなしだったしね。食事も食べていたとはいえ、栄養とか適当だったと思うから。僕自身も痩せて身体が軽くなったな、って思うよ」
    「じゃあこれから筋肉つけて、しっかり食事をしないとだな!」
    「……うん。そんな日が、来るといいね」
    「来るさ!その為にオレが来た。お前はこれから『日常』を取り戻すんだぞ!やりたい事やしたい事、今のうちにいっぱい考えておけよ」

     温かな声と笑顔で男は類に希望を与える。やりたい事、したい事。類は何だろうと考え込む。また、ショーを見せて、色んな人を笑顔にしたいな、と類の夢は以前と変わらなかった。

    「……うん。いっぱい、考えておくよ」
    「ああ!叶えるのが今から楽しみだな!」

     類を背負い、苦もなく立ち上がった男はそのまま扉の方へ歩いていく。そして廊下に出ると、扉の隣で壁に背を預けながら待っていた人がいた。

    「暁山!待たせたな」
    「司せんぱ〜い。遅いよ!早く出口まで行こう!」
    「ああ。急ぐぞ!しっかり掴まっていろよ!」
    「うん。よろしく」

     もう一度類を抱え直した男は、しっかりと類を支えながら走り出す。類を背負ってるにもかかわらず、男の走るスピードは速かった。

    「自己紹介を途切れさせてしまったな。改めて名乗ろう!オレは、天翔るペガサスと書き天馬!世界を司ると書き司!その名も、天馬司!!ホワイト王国で騎士見習いをしているぞ!」
    「声、大きい……」
    「す、すまん!よく言われる!!」
    「司先輩!まだここの施設の人達が潜伏してる可能性もあるから、声のボリューム落として〜っ!」
    「すまん……」
    「ふ、ふふ……。それじゃあ、次は僕の番だね」

     大きな声でぐわんぐわんと揺れる頭を抑えながらも、この場にいる全員に声の大きさを指摘されて落ち込む司に思わず笑ってしまう。そして、類も続けて自己紹介をした。

    「僕は、神代類。ブラック王国の端にある、小さな街に住んでたよ」
    「ああ。知っているぞ!お前を探し出して欲しいと、捜索依頼が来ていたんだ。苗字からしてきっとお前のご両親だろうな。探して欲しい人は魔術師で、歳はオレと変わらないくらいの年齢。特徴として、髪は紫色に水色のメッシュが入っており、目は黄色い目をしていると聞いていたからな!部屋に入ってお前を見た瞬間に、コイツだ!と思ったのだ」
    「そう、だったんだ。両親が、ずっと、僕を……。でも、なんでホワイト王国に僕の捜索依頼が?」
    「ブラック王国で捜しまわっても見つからないから、隣国であるホワイト王国に依頼を出したのかもな。類の住んでいた街は、ホワイト王国にも近かったしな」
    「成程。その読みが当たった訳だ」
    「捜し出すのは隣国の一般市民だし重要性も低いなって、上の人たちは騎士見習いであるボク達に依頼を回してきた、って感じだよ。誘拐したのはホワイト王国の民だったし、ついでにお縄に掛けたから安心して!ホワイト王国の民が、キミにした事をボク達からも謝罪させて。……ごめんね」
    「オレからも。奴らがお前にした事は謝って許せる事では無いというのは承知の上、謝罪はさせて欲しい。ホワイト王国の者が、すまなかった」
    「住んでる国が同じなだけで君達に罪は無いから、別に謝る必要も無いけども、謝罪は受け入れておくよ」

     類は両親がずっと自分を探してくれていたことに嬉しく思った。心がじわりと温かくなって何だか泣きそうになった。でも、今は泣いている場合では無いと、気持ちを切り替えた。
     類を誘拐したのはホワイト王国の人。でも、今類を助けてくれてるのもホワイト王国の人。ホワイト王国の事をどこまで信用出来るかな、と考えながら類は落ちないように司の身体に回している腕に力を入れる。

    「とにかく今は、脱出するのに専念しよう」
    「そうだな。まだ油断は出来ない!無事に任務完了するぞ!」
    「お〜っ!」

     改めて気を引き締め、喋りながらも出口へ向かって走る三人は困難もなく無事に出口へと辿り着いた。


     ーーー


     無事に類を救出できた騎士である二人は、類と共にお城へと向かう。歩けない類は司におぶられたままだ。

    「天馬くん。重たくないかい?疲れてないかい?」
    「ああ。大丈夫だ!まだまだ歩けるし走れるぞ!ただでさえお前は軽いからな」
    「まあ、いざとなったらボクが背負って行くから大丈夫だよ!」
    「ありがとうね、二人とも。助けてくれた上に安全な場所まで送ってもらって」
    「なんのこれしき!これがオレ達の仕事だからな!」
    「そーそー。まあ、ボク達がカッコよかった〜!って口コミ回してくれてもいいけどね〜?」

     誇らしげに胸を張る司と、軽口を言う暁山と呼ばれた騎士に類はくすくすと笑う。

    「勿論。まずは僕の両親に熱く語ろうかな?」
    「それはいいな!カッコよく紹介してくれよ!類!」
    「ふふ、任せてくれたまえ」
    「それはそうと、お前のご両親にその元気な顔を真っ先に見せて、安心させてやれよ」
    「それもそうだね」
    「絶対喜ぶよ!ずっと探してたみたいだし!」
    「……うん。沢山お礼を言って、そして、と飛びっきりのショーを見せてあげなきゃね」
    「なにっ!?お前、ショーをするのか!?」

     司は『ショー』という単語に目を輝かせて、類の方へと顔を向ける。類は耳元で司の大きな声を拾い、頭が痛くなりながらも会話を続ける。
     
    「うっ、声が頭に響く……。うん。そうだよ。ショーとは言っても、魔術を使ったちょっとした見世物だけどね」
    「そ、そうなのか……!オレもショーが好きだ!見るのも役者として出るのも好きだ!!もし良ければ、そのショーをオレも見てもいいだろうか!?」
    「え、君もショーが好きなのかい?奇遇だね。僕もショーが大好きさ!君も僕を助けてくれたうちの一人だ。是非、見てもらいたいな。よければ、ピンク髪の君も」
    「えっ、ボクもいいの?じゃあ見させてもらおうかな〜っ!」
    「オレの事は司でいい!楽しみにしているぞ類!」
    「あ!ボクも!ボクの事も瑞希でいいよ!類って呼んでもいい?」
    「もちろん。改めてよろしくね。司くんに、瑞希くん」
    「あ、ボクは呼び捨てでいいよ!書類見た感じ類の方が年上だったし、ボクも『類』って呼び捨てで呼びたいしさ」
    「そうかい。分かったよ、瑞希」
    「ではオレも――「あ!見てあれ!見えてきたよ!お城!」……暁山」
    「?どうしたの司先輩」
    「いや……なんでもないぞ」
    「?」

     話を遮ってしまった事に気付いていない無邪気な瑞希を叱る気にもなれず、司は一度口を閉じた。類はそんな空気を読み取って口を開く。

    「本当だ。見えてきたね、お城が。フフ。二人とも、僕のお礼のショーを楽しみにしていてね。僕自身もショーをするのは久々だし、フフ、楽しみだなぁ。フフフ……」
    「……類?」

     怪しげな笑いを零しニヤニヤと笑っている類に、司は不気味さを覚え呼びかけるものの、自分の世界へと入っていった類にそっとしておく。――しかし。

    「ぁえ……?う、?ぅ…………」
    「類?類!!大丈夫か!?」
    「司先輩あんまり揺すらないで!類、大丈夫?ボクの声、聞こえてる?喋れないなら、ボクの手を握ってね」

     司に回していた腕は急に力が抜け、背中にかかる体重も重くなる。瑞希はぶら下がった類の腕を取って手を繋ぐものの、類からの反応は無い。虚ろな目をする類に、ただ事では無いと判断し、グッタリとして意識を飛ばした類を背負いながら二人は城へと急ぐ。

    「っ、司先輩!急ぐよ!」
    「もちろんだ!すまない皆!道を開けてくれ!」


     ーーー


    「ーー、ーーー?」
    「ーーー!ーー。」
     
     何やら目の前で会話している音を拾い、意識を取り戻した類は顔を上げると、白い服を着た人達に囲まれていた。知らない場所に、知らない人に、密室。視界に映る点滴セット。

    (今、僕は座らされている?手は、動く。頭も、軽い。身体を縛るものも何も無い。今、逃げなきゃ、逃げなければ!!また、あの地獄の様な毎日が始まってしまう!)

    「っ、!!」
    「る、類!?起きたのか?」
    「類、落ち着いて!大丈夫だよ、落ち着いて!」
    「ハッ、ハッ、っ……!」

    (身体が、動かない!縛るものは、何も無いのに!!)

     類は焦りながら辛うじて動く腕を椅子の肘掛けに手を置き、力を込めて立ち上がろうとする。が、足に上手く力が入らず立ち上がる事が出来ない。これでは逃げることが出来ないと、類は絶望に襲われていた。

    「類。落ち着け!オレだ。分かるか?」
    「っ……!」

     急に目の前に現れた男に類は驚き、後ずさる。しかし、すぐに椅子の背もたれに身体が当たり逃げ場もなくなった。
     
    「ヒッ……!!」
    「……大丈夫だ。類。大丈夫だぞ」

     類の目の前でしゃがみ込んだ男は、ゆっくりと優しい声で話しかけた。そして、真っ直ぐと類の目を見つめる。類はその男と目が合いすぐに顔を背けるが、もう一度そろりと男の目を見る。なんだか、あたたかな光。思わず目を見つめてしまう。まるで太陽みたいな目だった。

    「類?オレが分かるか?司だぞ」
    「っ……は、ぁっ……。つか、さ……くん?」
    「ああ!天翔るペガサスと書き天馬!世界を司ると書き司!その名も、天馬司!!覚えているか?」
    「ふ、フフッ……。そんな印象強すぎる自己紹介、忘れる方が難しいよ。つかさくん、司くんだ」
    「ああオレだ!落ち着いたか?類」
    「少し、ね」

     目の前に現れた男は『司』だと認識した類は、安心して肩の力を抜いた。未だに荒い呼吸のままだが、意識は安定してきた類に司も瑞希もホッとする。

    「ビックリしたよ〜!類、大丈夫?気分が悪いとか、痛い所とかない?」
    「……知らない人達に囲まれてるこの状況に、落ち着かないかな。その、点滴のやつも、隠して欲しい。あと、椅子。椅子から降ろしてくれないかい?司くん、お願いだよ。椅子から降ろして」
    「ああ、分かった。とりあえず移動するか!椅子じゃなければいいのか?ベッドの上でもいいか?」
    「うん。大丈夫、だと思う」
    「ベッドの上でも落ち着かなければ、また場所を変えよう。ほら、オレにもたれかかってくれ」

     類の話に耳を傾けていた白衣を着た他の人たちが、点滴セットに布を被せて隠す。そして、司はくるりと背中を向けて、先程と同じ様に背中に乗れとジェスチャーをする。それに従い類は肘置きを上手く使いながらゆっくりと前に体重を移動させて司にもたれかかった。類が背中に乗ったことを確認した司は、立ち上がってベッドの傍に移動して類をそっと降ろす。

    「大丈夫そうか?」
    「……寝転がなければ、大丈夫かな?多分。でも、司くんには傍にいて欲しいし、瑞希も出来れば一緒の部屋にいて欲しい。その、まだ……。怖くて、ね」
    「ああ。任された!でもな、類。オレ達もさっき知り合ったばかりだ。そして、ここの人達も類を心配して身体に不調は無いかとか調べてくれる、優しい人達なんだ。身体に染み付いた恐怖はそう簡単に取れる事では無いと思うが、そんなに怯える必要も無いぞ」
    「……うん、分かった。怯えないように、努力はするよ」
    「ボク達も協力するから、怖くなったらいつでも言ってね!」

     司は、ここにいる人達は被害をもたらす人達じゃない、敵では無いと。類を助けようと動いてくれている人達なのだと、類に知って欲しくて話しかける。そして、その司の気持ちをできる限り受け入れようと類も気持ちを入れ替えた。前向きに頑張る姿勢を見せた類に、瑞希も応援をしたくなり、明るい空気を出して類に寄り添う。そんな瑞希達に類は頭が上がらないなと思った。
     
    「類が気絶してる間に色々調べたんだが、やはりお前は栄養失調と運動不足が目立っていたな。あとは心のメンタルケア、といった所か。それとだな、捜索依頼を出した類のご両親にも連絡をして、類に会いにホワイト王国に来るようだ。元気そうな顔を見せてあげろよ!」
    「そうなんだ。会えるの楽しみだなぁ。ふふっ。……あと僕、気絶してたんだね?」
    「ん?ああ。お前、急に身体から力が抜けたと思ったら呻き声を出して、意識も飛んでるから驚いたぞ……。無理をしてたのか?」
    「うーん。えっと……。あ、っ…………。」
    「る、類!!思い出さなくても大丈夫だそ!?類、無理をするな!類、聞こえてるか?オレの声が分かるか??」

     類は気絶する前まで、何を考えていたんだっけな?と意識を向けたが、その瞬間に、また類は虚ろな目になり始めた。その反応に司は驚き、類の肩を叩いて意識を戻すように声をかける。

    「う、ん……。つか、さ、くん……?」
    「ああ。司だ!大丈夫か?類」
    「ん……。どうやら、ね。魔術について考えると、意識が、もって……いかれ…………」
    「る、類!!」

     カクッ、と類の身体は喋ってる途中で後ろに傾いた。咄嗟に司は類の背中に腕を回して支える。そして類の耳元で名前を呼びかけた。
     
    「っ、!は、ぁっ……。また、持ってかれた。何だか、頭に霧がかかるんだ。まるで、考える事を身体が拒否してるみたいだ」
    「そうなのか……。頭痛がするとか、体調が悪くなったとか、そういうのは無いか?」
    「うん。それは大丈夫そう。本当に、その瞬間だけ意識が飛びそうになるだけかな。だから、そんなに心配しなくても大丈夫だよ」

     物凄く心配してくれる司に類は安心して、と微笑んだ。

    「むしろ、気絶してる間に僕は変な事をしだして無かったかい?暴れだしたり、無意識的に攻撃する様な事をしたりとか、別人みたいに動き出したりとか」
    「ん?そんな反応は一切して無かったぞ。ただただ意識を失っていただけだ。強いて言うならば、少し表情が苦しそうに見えたくらい、か」
    「そう。それなら、よかった……」

     心の底から安心したように、類はひとつ息を吐く。そして、顔を落として語り出す。

    「ぼんやり、とだけどね。……僕の魔術で人を攻撃しているのを、覚えているんだ。…………僕も、罪に問われるのかな」
    「……類は誘拐された被害者だ。それなのに罪に問われてしまうのは、おかしい話だとオレは思う。だから、オレも出来る限りの範囲で類を全力で支えるぞ!」
    「……うん。ありがとう」
    「司先輩、こっちは準備出来たよ。類、まだお話出来るくらいの体力はある?」
    「ある、けども。…………っ」

     類は不安な顔をして、目を揺らした。どうせ逃げ場もないし、自分のした事についても受け入れようとは思う。それでも、やはり恐怖でいっぱいだった。

    「……今は、辞めておくか?」
    「ううん。……やるよ。先延ばしした所で未来は変わらないと思うし、僕をずっと探してくれてた両親に、ちゃんとした説明はしたいしね」
    「そうか。……強いな、類は。オレも傍で支えよう。安心出来るように手も繋ごう!そして、ずっと隣にいるぞ!」
    「フフ。心強いね。……それじゃあ、よろしく頼むよ」
     
     温かな手で手を握られ、それを類も握り返す。他人の体温なんて、怖いはずなのに。何故だろうか。司の体温は全く怖くなく、心が落ち着くのだ。
     決意を固めて類は顔を上げた。目の前には白衣を着た知らない人がいた。怖いけども、司が先程言っていた『この人達は優しい人達だ。』言葉を思い出して、頑張って受け答えをしようと決めた。

     聞かれた事はこうだった。日頃のルーティンや、薬物の使用、食事はどうだったのか。あの場所にいた時のことをできるだけ詳しく聞かれた。

     まず起きて、起こされて。日によって違い、水をかけられたり、叩かれたり。普通に起こされる時もあった。ご飯は硬いパンに水がセットの時や、よく分からないスープだったりほぼ水の様なお米だったり。薬を盛られて等はなく、腐ってもなかったのが幸いだった。その後はベッドの上から椅子へ移動させられ身体を固定され、大きなヘルメットの様なものを被された。時々ここで注射を打たれる時もあった。その後の記憶はほぼ無い。でも、何か魔術関係の事をしていたと記憶していた。頭が霧のかかった様にぼんやりしていて、何処からか脳を操作をされている様だった。頭の中が勝手に動き、手からは魔術を使う感覚がした。そして、モニターの向こうにはどんどん倒れていく人達がいたのを覚えている。悲鳴は聞こえない。音声は無かったと思う。どれだけの時間が経ったかは把握出来ていないが、暫くすると頭に被さっていた大きなヘルメットが外されて、そこからの記憶もない。多分こちらはただ疲れて気絶していただけだと思われる。操作されてる感じもしなかった。その後は色んなパターンがあった。そのまま同じ事を繰り返しする時もあれば、ベッドに運ばれ寝かされる時もある。ベッドに運ばれた後も、ただ休める時もあれば身体を好き勝手使われる時もあった。時間も分からず、ただひたすらに動けない類を誘拐犯達はいいように使っていた。
     ……そんな、地獄のような毎日だった。

     息を途切れさせながらも類は必死に頭を回して思い出し、喋り終えた。身体の震えがずっと止まらなかった。それでも、司がずっと隣で手を握ってくれていたおかげで、なんとか全て話しきった。
     
    「……話を聞いた結果、あなたは罪に問われないです。あなたは正真正銘、被害者です。……よく、生き延びてくれました。頑張りましたね」
    「……あんな、生活が、終わるんですね?」
    「はい。これからはリハビリを頑張りましょう。栄養をつけて、歩けるように。心のメンタルケアもしましょうね」
    「……がんばり、ます」

     白衣を着た人達と話を終えて一息ついた類は、身体にどっと疲れがきた。喋ることも無かった環境にいたので、数年分の会話はしたと感じた。まだ恐怖心があるので人前で寝転がりたくないけど、どこか身体を預けたい。そう思ってずっと隣に居てくれた司の方を見ると。

    「グスッ……。グスッ……」
    「……」

     ボロボロと大きな涙を零しながら盛大に泣いていた。眉間に皺を寄せ、目を真っ赤にして涙がどんどん司の目からこぼれ落ちていく。その光景を、類は困惑しながら眺めていた。

    「つ、司くん。どこか痛いのかい?あっ、手。強く握りしめていたかな?ごめんね」
    「全゙ぐ、痛゙ぐ痒゙ぐぞ゙!」

     離そうとしていた類の手を、司がもう一度ギュッと握り直した。
     
    「じゃあ、どうしてそんなに大号泣してるんだい……?」
    「、!!頑゙張゙だ、ぐ頑゙張゙だ!!」

     司はガバッ!と勢いをつけて、結局繋いだ手を離して類を強く抱きしめた。類はその勢いと、前から伸びてきた腕。そして迫ってきた身体に驚きビクッと身体を跳ね上がらせて固まっていたが、司の温かな体温に慣れて肩の力を抜き、類はそのまま抱きしめられることにした。
     
    「……瑞希、ティッシュを箱ごと取ってくれないかい?」
    「あはは……。はい。どうぞ」
    「グスッ……」
    「ほら司くん。使って」
    「ゔ、心゙遣゙、感゙謝゙ず!」

     司は類から離れてティッシュ箱を受け取り、ズビーッと鼻をかんで一旦落ち着いた。目も鼻も真っ赤で、思わず類は笑ってしまった。

    「。笑゙ゔ……」
    「ふふ、ゴメンね。喉大丈夫かい?」
    「、っ……。はぁーーっ。よし、大丈夫だ!」
    「切り替え早いねえ」

     部屋の空気も和んできた頃に、類は再度眠気に襲われた。

    「ふ、ぁ……あ。どうしよう。眠たいけども、寝たくないや……」
    「でも疲れただろう?今日だけで脱出に事情聴取にアレやこれと盛り沢山だった。人目が気になるなら、オレ達みんなもう用も済んだし出ていくぞ!」
    「ん、でも司くんと瑞希は部屋に居てほしいなぁ」
    「ボクはさっき聞いた話のまとめとか書類集めとかしなくちゃいけなくて居られないんだ〜。ゴメンね!」
    「でもオレは手が空いてるから、オレが居よう!ずっと傍にいてやろうではないか!そしたら起きた時もオレの顔を見て落ち着けるだろう?ハッハッハッ!」
    「わ、頭に声が響く。……うん。ではお願いしてもいいかな?司くん」
    「ああ勿論だ!他に何か希望はあるか?」
    「んー、部屋に司くんと二人っきりだったら、きっと落ち着いて寝れるよ」
    「そうか。寝れるならそれでいいんだ!」
    「じゃあ、またね。瑞希」
    「うん!類も司先輩も、またね〜!」

     瑞希は手を振って白衣の人達と一緒に部屋を出ていった。
     
    「それでは、ひとまず休もう。また晩飯の時に起こすから、ゆっくり休め、類。……おやすみ」
    「ん、ふふ。……『おやすみ』。司くん」

     久々に人に挨拶をされて、そして挨拶を返す事が出来て。そんな日常が戻りつつあるんだ、と類は幸せに思った。モゾモゾとベッドの上で寝転がり、目を閉じた。どうか、ゆっくり休めますように。


     ーーー

     
    「……ぃ。るい、ご飯だぞ。起きれそうか?」
    「ん、ぅ……?」
    「類、ご飯だ。ご、は、ん。起きれるか?」
    「……?」

     人の声がする。と、類は目が覚めた。類の名前を呼んで、誰かが話しかけてくる。目を開けると、こちらを覗き込んでくる男の姿に類は驚き後ずさる。

    「っ、!? ぁ……っ」
    「っと、すまない!驚かせてしまったか?」

     怯えた類に男は勢いよく離れて、両手を上げて無力アピールをした。しかし目はジッと類を見つめていた。

    「オレだ。天馬司だ!類、分かるか?司だ。つーかーさ!」
    「……あ、司くん。うん、分かるよ。……何だか、毎回驚いてしまって申し訳ないね」
    「いや、大丈夫だ。その癖は直ぐには治らないだろう。それより、ご飯の時間だ!気分的にどうだ?食べれそうか?」
    「うん、食べれるよ。頂こうかな」

     ご飯を食べるために類はもぞもぞとベッドの上から身体を起こす。すると、どこから取り出したのか司の手元にはお盆があり、ご飯と汁物、それとおかずが乗っていた。ホカホカと湯気が出ており、いい匂いに類も食欲をそそられる。

    「美味しそうだね、それ。司くんはもう食べたのかい?」
    「いや、オレはこれからだ」
    「司くんも一緒に食べるかい?」
    「遠慮しておこう。オレは類にご飯を運ぶと共に、食べるサポートをお願いと頼まれたのだ!」
    「僕一人で食べれるよ?」
    「そうか。では傍で見守るとしよう!」

     司は鼻歌を歌いながら食事をするセッティングをする。机の上にお盆を置き、次は類をベッドから椅子へ移動させるために類を持ち上げようとする。

    「と、その前に。類、椅子に今から座るが大丈夫か?先程の様子から要するに、椅子に座る事に対して恐怖心を覚えていたが」
    「ん……。背もたれの無いこの丸い椅子なら、多分大丈夫かな。それに、今この部屋には司くんしかいないし、縛られてる訳でも無いからきっと大丈夫だよ。お気遣いありがとう」
    「そうか。では移動させるぞ!」

     司はいわゆる横抱き、お姫様抱っこで軽々と類を持ち上げた。まだ歩けない類は落ちないようにと司にしがみつく。類を落とさないように、足が物にぶつからないようにと司は慎重に歩きながらお盆乗った机の前まで行き、そっと椅子に座らせた。

    「よっ、と。大丈夫そうか?ゾワゾワしたり、怖くなったりしないか?」
    「大丈夫そうだよ、ありがとう。司くんが傍に居てくれるおかげかな?」
    「フッ。類の恐怖をも跳ね除けるオレ!流石だな!」
    「フフ。これからも頼りにしてるよ。……では、温かいうちに頂こうかな。いただきます」
    「ああ!火傷には気をつけろよ!」

     久々に(司は見守るだけだが)人と一緒に食事をするなと思いながら類は箸を手にした。ぷるぷると震える腕で何とかお茶碗を持つ。お米の入ったお茶碗は思いの外重く、その上ずっとスプーンだったため久しぶりに箸を使っているというのもあり、口元まで上手く運べないので行儀が悪いが顔を近づけて食べる。口に含んだお米はふっくらと温かく、類はその感覚に感動した。

    「とても美味しいよ、司くん!温かな食事は久しぶりだよ」
    「良かったな、類!急がず自分のペースで食べるんだぞ!」

     ニコニコと笑いながら幸せそうに食事をする類に、釣られて司も笑顔になる。……ぷるぷると震えている腕だけ気になるが。必死に食器を持って食べる類に、司はひとつ提案をした。

    「類、まだ持つには大変だろう?今日はオレが口元まで運んで食べさせてやろう!」
    「……ん?僕一人で食べれるよ?閉じ込められてた時も、スプーンで自分で食べていたし。まあ、多少行儀が悪いのは今だけ見逃して欲しいな」
    「いや、そうではなくてだな。オレがしたいと言ったら駄目か?震えてる腕を見てると、何か手伝ってあげたい気持ちが込み上げてきてな」
    「うーん。お断りするよ」
    「何故だっ!?」
    「……純粋に、恥ずかしいから、かな。だって、あーん、でしょ?」
    「…………そ、そう、か」

     断られてズーンと沈んだ司を見て、何故か自分が悪いことをしたかのように思った類は慌てて声をかけた。

    「い、いや!やっぱり!司くんに、あーんして欲しいかな!?」
    「そ、そうだろう、そうだろう!?オレがあーんしてやる!」
    「……お手柔らかに頼むよ」

     類からの申し出に司は勢いよく顔を上げ、嬉しそうに目を輝かせた。その反応からして類は(これは食べ終わるまで全てあーんだな……。)と腹を括った。類にあーんをする!と意気込んでいる司に類は苦笑いをしながら箸を手渡した。まずは、と司は張り切ってお米を掬って類の口元に運ぶ。恥ずかしい類は耳を赤くしながら口を開く。

    「類!あーん!だ!!」
    「あ、あーん」

     パクっと食べて、口からするすると箸が抜ける。味は変わりないはずだが、どこか更に美味しいような、そうでも無いような……。と顔に熱を集めさせながらもぐもぐとお米を味わった。

    「どうだ、美味しいか!?」
    「うん。先程と変わらず美味しいよ」
    「そうか!それなら良かった!次は汁物にも手をつけるか!」

     美味しいと告げる類に、司は更に顔を明るくさせた。流石に汁物をあーんは難しいので、食器を持つ類の腕を支えてサポートした。ちまちまと食べ進めていたが、減らないご飯の量に比べ類の食べるペースはどんどん落ちていき、終いには司が差し出したご飯に類はフイッと顔を背けた。

    「類?あーん、だ。あーん」
    「……もう、お腹いっぱい……。食べれない……」
    「え、もうか?まだ沢山残ってるが……」
    「残すことは悪いと思ってるけど、十分食べたと言うか、もう、無理……」

     まだ食べ始めたばかりでお皿の上にはご飯が沢山残ってるのにギブアップをした類に司は驚いたが、類はかなりしんどそうな顔をしていた。

    「……もしかして途中から無理して食べていたか?」
    「…………」

     顔を背けたまま類からの返事は無い。これはきっと肯定だろうなと司は思った。そして、途中から無理をしていた類に気付けなかった自分を恥じた。

    「すまない、類。お腹がいっぱいなのを気付かずに、食事を押し付けてしまって」
    「……!ううん。司くんは、僕の食事をちゃんとサポートしてくれたよ。僕一人で食べるよりも美味しく感じたし、お腹いっぱいでもあと一口、あと一口って頑張って食べれたよ。……ふふ。いっぱい食べたおかげで力もきっとつくよ。司くんのおかげだよ。ありがとう」

     酷く落ち込んだ司に類は声をかけた。司は落ち込んでいる顔より明るい笑顔の方が素敵だ。笑ってる顔が見たいと、類は思った。
     類の言葉を聞いた司はホッと落ち着いたように息を吐いた。

    「そ、それならよかった!ただ、次からはもう無理だと思ったら言ってくれ」
    「うん。……うん?次??」
    「ああ!類が帰るまではオレのサポート付きだぞ!」
    「……」

     流石に次は自分で食べれるよ、と説得しようと類は強く心に思った。

    「では食べ終えたし、ベッドにまた移動するか」
    「うん。お願いするよ。……あ、ひとついいかい?」
    「ん?なんだ?」
    「ベッドまで、僕も頑張って歩いてみたい。司くん、サポートしてくれるかい?」
    「おお!任せておけ!しっかりサポートしてやる!ただし、無理はするなよ」
    「うん。任せたよ、司くん!」

     司は類の左腕を肩に回し、右手で腰を支えてほぼ背負うような形で持ち上げる。万が一類の足の力が抜けきってしゃがみ込んだとしても、倒れ込んで怪我をしないようにとしっかりと支えた。

    「よし、それじゃあ歩くぞ、類」
    「うん。……わっ」
    「っと、ゆっくりでいいからな。がんばれ、類!」
    「全く足に力が入らないや。足の感覚はするんだけどね」
    「痛くはないか?」
    「うん。痛くはないよ。……ベッド遠いなぁ。目で見るとすぐそこで近いのに」
    「まだ頑張れそうか?」
    「勿論。ベッドまで歩いてやる」

     メラメラと燃えながら類は必死にベッドまで歩いた。とは言ってもほぼ司に引き摺られながらの移動だったが、類は頑張ったのだ。無事にベッドへと辿り着いた類は司によってベッドの上へと座らされた。

    「はーーーっ……。つかれた……」
    「頑張ったな、類!偉いぞ!!」
    「ここまで歩けなくなってるとはね……。もう少しまともに歩けるかと思ってたけども」
    「ずっと座りっぱなしだったらしいな」
    「うん。ずっと座るか寝転がされてた。足の筋肉つけなきゃだね」

     全く力は入っていなかったが、頑張った筋肉を揉みほぐしてやろうと類は自分の足をマッサージする。司も手伝おうかと声をかけたが、丁寧にお断りした。

    「何故だ!?」
    「……肌に触れるだけならまだいいけど、マッサージみたいに揉んだり、ゆっくり肌を撫でたり、という接触はまだ無理だと思う」
    「あ、ああ。なるほど。そこまで気が配れていなかった。すまない」
    「ううん。気持ちは凄く嬉しいよ、ありがとう」

     しょぼんと落ち込んだ司に類は優しく声をかける。話題を変えようと類は話を振った。
     
    「それにしても、帰る、かあ。僕いつ帰るんだろうね」
    「ああ、それに関しては明日の早朝にお前のご両親がこちらに来る事になっている。やっと会えるな!」
    「え、そうなんだ。……帰れるのは嬉しいけど、もう司くんと離れちゃうのは寂しいな」
    「オレも寂しいが、仕方のないことだ。それに、帰れる気分になっている類には悪いがリハビリ等の関係で、もしかしたら明日にはまだ帰れないかもしれないんだ」
    「え?そうなの?」
    「まあその辺の話は明日、お前の両親とこちらの医者達との話し合いで決まると思う」
    「そう、なんだ。……でも、明日両親に会える上にまだ司くんといれるかもって事だよね。あの環境の生活でないのなら何でもいいよ。暫くはのんびり過ごせたらなって思ってるから、どちらにせよ僕は受け入れるかな」
    「そうか。オレとしても類が帰ってしまってもご両親と共に過ごせる未来が待ってると思うと嬉しいが、帰らずここでリハビリを頑張るというのなら、これは勝手なオレのエゴだがまだ類と一緒にいられて嬉しいぞ!」
    「ふふ、どちらにせよ僕たちは嬉しいんだ?」
    「ああ!そうみたいだな!」

     司と類は目を合わせて笑いあった。そして楽しく雑談をし、明日の予定も確認した所で司は席を立った。

    「ではオレも食事をとってこよう。類、しっかり休めよ!」
    「え、あ。行っちゃうのかい?」
    「ああ。まだやる事も残っていてな」
    「……そっ、か。……えっと」
    「ん?……ああ、一人で部屋に居るのは怖いか?」
    「うん。これ以上司くんを僕の我儘で縛り付ける訳にもいかないというのは理解出来てはいるけども。……一人で部屋にいるのは凄く怖いから、どうしようって、考えてた」

     司がいるから安心しているのだが、類はまだ色々と不安定だ。一人になった時に、誰か知らない人が入ってきたりしたら類はきっとパニックになるし動けなくなると分かっている。だからこそ、類はこの部屋で一人になる事に恐怖心が消えないのだ。
     
    「ふむ。それなら瑞希を呼んでこよう。もう手が空いてると思うぞ!」
    「お願いしようかな。司くん、頼めるかい?」
    「ああ!任せろ!だが、呼んでくるまで一人だ。……少しだけ、頑張れるか?」
    「っ、うん。大丈夫、大丈夫だと思う。大丈夫だと思い込めば少しだけなら耐えれそうだよ。でもなるべく早く頼むね」
    「……オレも仕事が終えたらまたこちらに来よう。なんなら夜、一緒に寝るか?」
    「いいのかい?でも、司くんの寝る場所ないよ?」
    「一日くらい、椅子でも構わん」

     今日だけでも類を助け出した上に色々と世話をしてもらっている。それなのに傍にいて欲しいからという類の我儘で司を椅子で寝させてしまうのは申し訳ないと、類はひとつ提案をした。
     
    「……僕と一緒のベッドで寝る?」
    「それだと類が寝れないんではないか?まだ人が怖いだろう?」
    「うーん。多分司くんなら大丈夫だよ。さっきも抱きしめられた時に最初は怖かったけど段々と慣れてきたし、司くんあったかいなぁって思ったよ」

     恥ずかしそうに笑う類に、司は目を奪われた。ボーッと固まった司に類は名前を呼んで声をかけると、ハッ!として動き出した。

    「デ、では!そうしよう!類が安心して寝れるよう、オレもしっかり見張りをするぞ!」
    「うーん。一緒に寝ようよ」
    「大丈夫だぞ類!安心しろ!ハッハッハッ!!」
    「聞いてないね」
    「では、瑞希を呼んでくるぞ!暫し待っていろ!」

     類の言うことも聞かず司はそそくさと部屋から出ていった。喋る人も居なくなり、静まり返った部屋に類は恐怖で埋め尽くされた。大丈夫、大丈夫だと自分に言い聞かせて身体を丸めた。明日は両親に会えるんだ。司達だって暖かく寄り添ってくれている。怖いものなんてない、ないんだ。だから、大丈夫――

     コンコン

    「ヒィッ……!」
    「る、類?大丈夫!?ボクだよ瑞希!!ゴメンね怖がらせちゃったかな?入ってもいいかな?」
    「っは……!だ、大丈夫。入ってきても大丈夫だよ」
    「はーい!入るね〜。お邪魔しまーす!」

     声をかけながら部屋に入ってきた瑞希に安心した類は、無意識に乱れていた呼吸を戻す為に大きくひとつ息を吐いた。

    「は、ぁーーっ……。瑞希、来てくれてありがとうね」
    「ううん!さっき驚かせちゃったよね?」
    「うん。でも瑞希だって分かったら平気だよ」
    「そっか。大丈夫ならよかった!」

     それから司がまた部屋に戻ってくるまで瑞希と類は楽しげにお話をしていた。お互いの好きなものについて話したり、普段の司の様子だったり。ワイワイと盛り上がっていたら、あっという間に時間は過ぎていき、司が再度部屋へ訪れた。

    「凄く盛り上がっていたな。何について話してたんだ?」
    「衣服について話していたよ。僕はそこまでこだわりは無いけれど、話を聞いてたら色んなことを学べて興味深かったよ」
    「類、聞き上手だからいっぱい喋っちゃった!聞いてくれてありがとうね!」
    「ううん。こちらこそ聞かせてくれてありがとう」
    「じゃあ、ボクはもう行くね!おやすみ、類!しっかり休めるようボクも願ってるよ!」
    「ありがとう瑞希。おやすみ」

     部屋へ来た司と入れ替わりで、瑞希は笑顔で手を振りながら「ばいば〜い!」と部屋を出ていった。それに類も手を振り返す。
     ふう。と一息ついた類は半分瞼を閉じて眠たそうにしていた。

     「なんだか、濃い一日だったね。施設から抜け出して、お城に避難して、沢山喋って、流石に疲れちゃった」
    「そうだな。類からしたら、大変な一日だっただろう」
    「うん。それでね、司くん。寝る時は傍で一緒に寝てくれるかい?」
    「……ああ。しっかり見守ってやるぞ!」
    「一緒に寝ないの?」
    「類が無意識に怖がってしまうかも知れないだろう?大丈夫だ。傍にいるさ」

     頑固に一緒に寝ないと言い張る司に、類は拗ねた顔をしてそっぽを向いた。そして、バツが悪そうにしながら本音を話した。
     
    「……あのね。同世代の、それも同性の友達って僕には居なくてね。だから、一緒に遊んだりお泊まりしたり、といったものに憧れがあって……。どうしても駄目かな?」

     恐る恐る下から覗き込むように司を眺めて、困った顔をした類の顔には、おねがい。書いてあり司は意地を張るのは辞めて頑固だった心は折れた。

    「うぐっ。わ、分かった。分かったから!その悲しそうな顔はやめろ!」
    「えっ、いいのかい?」
    「ああ。だがお前が怯える素振りをしたり身体が震えだしたりしたら直ぐに離れるからな。……勘違いしないで欲しいんだが、断っていた理由はお前と一緒に寝るのが嫌だという訳ではないからな。ただ、お前の事を思ってだな……」
    「うん、分かってるよ。ありがとう司くん!」

     司から許可が降りて、眠たそうにしながらも嬉しそうに笑う類に、釣られて司も笑う。

    「さて、寝る準備をしてもう寝ようか」
    「うん。備え付けのお風呂場、借りてもいいかい?」
    「ああ、いいぞ!湯船をためておくか?」
    「ううん。シャワーだけで済ますつもりだよ。早く寝たいからね」
    「そうか。着替えはクローゼットに入ってる筈だ。その他道具も好きに使ってくれ」
    「ありがとう。司くんはもう入ったのかい?」
    「先程入ってきたし歯磨きもしてきたから、オレはもう寝るだけだ!」
    「そうなんだね。じゃあ、司くんを待たせてしまうから急いで入ってくるね」
    「慌てずゆっくりしてこい。ちゃんと待ってるからな」

     そう言ってお風呂場へ行こうとしたものの、立ち上がれない事を思い出した類はチラリと司を見る。

    「……悪いけど、お風呂場へ運んでくれないかい?」
    「そ、そうだったな。一人で入れるのか?オレが身体を洗――「大丈夫だから!大丈夫だよ、一人で洗えるから!」……そうか。だが、心配だから扉の前で待ってるからな」

     心配そうに類を見上げる司に、類は少し考える素振りをして、真顔で言い出した。
     
    「歩けないだけで壁に手を置いてたら立つことは出来るし湯船に浸かるわけでもないしシャワーだけで済むから待たなくてもいいんじゃないかな?椅子に座れば動かすのは腕だけだ。幸い腕は自由に動くから身体を洗う事だって容易いはずさ。それに脱衣所で待つにしても狭いだろう?やはり司くんはこの部屋で待ってる方がいいと思うんだけども、どうだろうか」
    「急に早口で喋り出したな。だが、一人で着替えれるのか?」
    「……出来るよ。やってみせる」
    「そうか。だが……」
    「…………その、脱衣所で待たれると、は、恥ずかしいんだけど」
    「なるほど。お前の気持ちを無視した気遣いだったな。すまない。ではお前の言う通りにこの部屋で待つことにしよう」

     類の粘り勝ちで司をお風呂場から追い出す事に成功した。司は先に着替えやタオルなど必要な物を揃えてお風呂場へ持っていき、準備し終えた所で類をお風呂場へと運ぶ。

    「何かあったらすぐオレを呼ぶんだぞ。それだけは約束してくれ」
    「うん、分かった。それじゃあ、待っててね。司くん」
    「ああ!」

     司が脱衣所から出ていったのを確認した類は衣服を脱ぎ始める。元より施設にいた頃の服のままだったので脱ぎ着しやすい服だった。全てを脱ぎ終えた所で、どっと疲れた類は、重たい腰を上げて、と言っても自分では立てないので壁を伝いながらお風呂場へ移動する。そして、椅子に座ったところでひとつ大きなため息をついた。

    「……とてつもなく疲れた」

     ここから身体を清めるのはとても大変だなと気を重くした。それでも行動に移さなければ何も進まない。と、まずはシャワーで頭を濡らす。シャンプーを手のひらに出してわしゃわしゃと髪を洗い、その泡をシャワーで流す。……そして、類は動くのを辞めた。今の一連で腕が疲れたし、この先のやるべき事に対して面倒臭いが勝ったのだ。類はか弱い情けない声で助けを呼んだ。

    「つかさくーん……」

     まあ、どうせ聞こえないだろうな。脱衣所から追い出したのは紛れもなく僕だからな、と心の中で類は思った。はあ。と溜息をまたひとつ零して、動くか……。と類が再度動き出した所。

    「類?呼んだか?」

     類の声を拾った司が、脱衣所まで来てくれたのだ。これはチャンス、と思った類は、司にこことぞばかりに甘える。

    「司くん。先程はああ言ったけども、やっぱり手伝ってくれるかい?」
    「分かった。任せろ!扉を開けるぞ。いいか?」
    「あっ、まって」

     類は急いでタオルを太ももに掛けて、許可を出す。

    「いいよ。どうぞ」
    「お邪魔するぞ。どこまで洗ったんだ?」
    「髪だけ洗ったよ。眠いし身体重いし動けないし、困ってたんだ」
    「疲れが溜まってるんだろう。あとはオレに任せておけ!」
    「うん。よろしく頼むよ」

     司が来てくれた事により、類一人の場合もっと時間がかかった所を短縮できた。司がずっと喋っててくれたおかげで、身体を触られても何も怖くはなかった。

    「類、痒いところは無いか?」
    「うん……。ないよー……」
    「凄く眠そうだな。もうすぐ終わるから、頑張ってくれ」
    「うんー。がんばる」

     半分瞼が閉じて寝そうになっている類に、司はずっと声を掛ける。ササッと洗い終え、手を貸して類を立たせ脱衣所へと移動した。ずっと立ってるのは辛いだろうと、先に下半身から拭いて下着、ズボンと履かせて座らせる。そして上半身も同じ様にテキパキと身体を拭いて着替えさせた。

    「ほら、類。もう一度立てるか?」
    「んー」
    「あと少しだ。髪を乾かして歯磨きしたら、もう寝れるぞ!」
    「ー」
    「ハハッ。頑張れ!るいー!」

     子供のように嫌がる類に、司は応援しながら子供をあやす様に接する。なんだかんだで、類の世話を焼くのが楽しいと司は思った。類をおんぶして運び、髪をドライヤーで乾かし歯を磨き、どうにかベッドまで辿り着いた。

    「類、ベッドに着いたぞ!寝よう!」
    「うん、司くん。おやすみ……」
    「ああ、おやすみ。類。よく頑張ったな」

     ベッドに入るなり直ぐに寝始めた類に、余っ程眠たかったんだなと司は苦笑いした。過酷な環境にいた少年を救えた事の喜びを改めて噛み締め、類の頭をそっと撫でる。司も明日に備え寝る姿勢を取ると、直ぐに眠りについたのだった。


     ーーー


     窓から溢れる眩しい朝日がカーテン越しに類の瞼を刺す。類はその眩しさに負け、目を開けた。
     
    「ん……」
    「お!起きたか?類。おはよう!」

     普段より寝心地の良いベッドで頭も身体もふわふわしていた類は、部屋の中心に立っていた司の姿を目にしてふにゃりと笑った。

    「うん。『おはよう』司くん」

     人と挨拶を交し合える喜びを再度味わい、久々に浴びた朝日に類は心もあたたかくなった。類が起きた事を確認した司は、類のいるベッドの方へと歩く。

    「はは。まだ眠そうだな?」
    「ふふ、もう起きるよ。お陰様で、よく眠れたよ」
    「そうか。それなら何よりだ!顔色も昨日よりいいな」
    「久々に朝日を浴びれて嬉しいんだ。暖かいなぁ」
    「そうかそうか!さて、起きるなら顔を洗いに洗面所へ行こうか」
    「うん。司くん、よろしく」

     まだ一人で歩けない類は司に向けて両手を広げてお願いする。そんな類に司は苦笑いしながら横抱きをする。

    「ふふ。司くんがいると心強いよ。いつか必ず、沢山助けてくれたお礼をさせてね」
    「なに、気にするな。それも含めオレの仕事だ」

     洗面所へ類を運び、司のサポートを受けつつ無事に顔を洗い終えた類を再度運ぶ。

    「朝食を食べ、身を整え着替えて、暫くしたら念願のご両親との再会の時間になるはずだ」
    「……ふふ。楽しみだね。ご両親に司くんの事を紹介したいから一緒に居てくれるかい?」
    「類の希望とならば。カッコよく紹介してくれよ!」
    「フフ。任せてくれたまえ」

     司は類を昨日と同じ椅子へ座らせ、テキパキと朝食の準備をする。それを眺める事しか出来ない類は申し訳なく思った。

    「僕も、何か手伝えたらいいんだけどね」
    「類は動けないんだ。気にせずオレに任せておけ!」
    「何か手伝えそうな事があればすぐに言ってね」
    「ああ!その時は任せるとしよう!」

     朝食の準備をし終え、湯気と共にいい匂いが鼻をくすぐり、それにつられて類のお腹が鳴った。恥ずかしそうに顔を背ける類に司は目を細めて笑う。類の隣へ用意した椅子へ座る。さて!と、嬉しそうに類を見た。

    「類!今日も食事のサポートをするぞ!」
    「……もしかしてなくても、あーんの事かい?」
    「ああ!まだ食器を持つのも一苦労だろ?なに、気にするな!オレはしたいと思って行動しているからな。申し訳ないとかそういうのは要らないぞ!」
    「うーん。そうではないんだけどねぇ」

     そう言ってるうちに行動に移していた司は、もう箸を持ちご飯を掬っていた。期待の眼差しをしながら、類の口元へと箸を運ぶ。

    「少しお水多めの、ふっくらとした柔らかい米だ!食べやすいと思うぞ」
    「……いただきます。あ、あーん……」
    「あーん!」

     何を言っても止まらない司にもうこれは止まらないな、と類は白旗を掲げた。頬が赤くなるのは仕方のないことだと自分に言い聞かせながら、諦めて大人しく司にあーんをされた。

    「どうだ?美味いか?」
    「ん。昨日と変わらず、美味しいよ」
    「そうかそうか!次は汁物へ手をつけようか!」

     美味しいものを食べて顔が綻んでいる類に司も笑顔になり、次々と世話を焼いた。慣れとは怖いもので、途中から類の方から口を開けて待っていた。それを見た司は、一度箸が止まったとかなんとか。不思議そうに名前を呼ばれ、司は再度動き出した。
     司のサポートもあり、スムーズに朝食を終えた類は食器等を片付け始めた司を眺める。

    「司くんは朝ご飯食べないのかい?」
    「そうだな。類はあと着替えるだけだし、それを終えたらオレも朝食を取るとしよう」
    「うん。是非そうしてよ。朝のルーティンとかないの?僕の想像でしかないけども、走り込みとかしてそうだよね」
    「いや、今日はしない。だからずっと類と居れるぞ!」
    「……僕、司くんのお荷物になってないかい?したい事を我慢させてしまう程、僕は司くんを縛り付けたいとは思わないよ」
    「いや、類の傍に居たいのはオレの希望でもあるぞ?気にする事ないぞ」
    「……分かった。でも、僕第一に動くのではなく、司くんのしたい事を第一に、優先してね」
    「ああ!お気遣い感謝するぞ、類!」

     片付けが終わり、次は類の着替えを手伝う。とは言ったものの類は自分ですると言い張るので、司はサポートの必要な部分だけ手伝った。無事に着替えが終わり、類のする事は、あとは部屋で待つだけだった。

    「ありがとう、司くん。もう僕はすることもないし、朝食を食べに行っておいでよ」
    「ああ!……あ、類が部屋に一人になるが、ふむ。瑞希は昨日の犯人達の件で手が空いてないんだ。どうしたものか……」
    「……がんばるよ、僕」
    「ん?」
    「僕、今なら一人でもきっと大丈夫。だって、司くんが沢山助けてくれたから。朝起きた時も司くんがいて、朝の挨拶してくれて。夢じゃなかったって、安心したんだ。それに、また来てくれるのだろう?だから、大丈夫だよ」

     だから、行っておいで。と類は作り物ではない心からの笑顔を司に見せた。強がりではなく、本当に大丈夫なんだろうと司は思った。あんなに全てに怯えていた類が、心に余裕が持て始めた事に目頭が熱くなった。

    「……ああ!勿論、またすぐに来るさ!待っていろ類!ハッハッハッ!!」
    「ふふ。行ってらっしゃい」

     声高らかに部屋を去っていった司に、類は微笑む。不安も恐怖も、全て司が取っ払ってくれた。司が、類の心を守ってくれる。司の事を思うと何だか安心し、心が温かくなる。この部屋で一人なのも、怖くなくなった。
     ポカポカと窓から日光を浴びていた類は、そのあたたかさに負けてベッドに丸まり、うたた寝をし始めた。ただただ平和で、穏やかな時間だった。
     

    「……ぃ、る……」
    「ん、ぅ……?」
    「ハハッ。るい。そろそろ起きなきゃだぞ?」
    「……あれ、僕、寝てた?」
    「ああ。気持ちよさそ〜うに寝ていたぞ。あまりにも幸せそうに眠るものだから、ずっと寝かせておきたかったが。もうそろそろご両親が来る時間だからな。起きれるか?」

     こちらを覗き込む司の顔は優しげな顔をしていた。何だか照れくさくなって顔を逸らしつつ、起き上がった。ご両親との再会のために、再度身支度を整える。

    「よし。バッチリだ類!」
    「……何だか、とても緊張してきたよ」
    「それは最初だけさ。あっという間に肩の力も抜ける筈だ」
    「うん。だと、いいね」
    「本当に困ったらオレの方を見たらいい。助け舟を出してやろう」
    「うん。その時があれば、よろしくね」

     緊張して体を固くする類に、司は声をかける。大丈夫だと安心させるように背中を優しく叩いた。
     そして暫く。廊下の方から数人の足音が聞こえてくる。空気に緊張が走り、二人とも自然と背筋を伸ばした。扉の方をじっと眺める。コンコン、と扉を叩いた音がした。

    「おはようございます。入ってもよろしいでしょうか?」

     この声は昨日聞いた事のある声だった。類の事を調べてくれた、白衣を着た先生の声だ。司と類は目を合わせて強く頷く。

    「は、はい。どうぞ」
    「お邪魔しますね。さ、お二人もどうぞ中へ」

     扉が開き先生が部屋へと入り、後ろに立っていた人達へ部屋へ入るように促す。後ろに立っていた人達は――
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    Replies from the creator

    オルタナ

    DONE騎士マド 🌟🎈

    完成はしてるんですが、時系列的にかなり後になってしまい投稿できるのが2.3ヶ月後くらいになりそうなので先にこっちで出しちゃいます。一応今書いてる本編の後の設定になってるので多少「いや知らないよ」みたいな情報があっても目をつぶってもらえると嬉しいです!
    体力6 体力

    「やあツカサくん」
    「おお、ルイではないか!」

     街中でツカサを見かけたので、声をかけたルイ。その声を聞き振り返ったツカサの表情は嬉しさで染まっていた。

    「今日は歩いて来たのだな?偉いぞ、ルイ!」
    「ツカサくんが『少しでも運動をしろ!』と怒っているからね。か弱い僕に酷い仕打ちだよ。よよよ……」
    「分かりやすい泣き真似をするな!ただでさえお前は体力が無いんだから、多少は運動をして体力をつけた方が良いぞ」
    「はーい」
    「なんだその腑抜けた返事は」
    「はいはい」
    「『はい』は一度だ!」

     (今日もステルスの魔術を使って屋根の上を移動して、いい所で路地裏に降りて魔術を解除して人混みに混じって来たとは言わないでおこう。屋根の上だと空いてて楽だし、わざわざ人混みに埋もれてツカサくんの元へ辿り着いた時にはヘトヘトになって喋れない、というのは嫌だからね)
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    オルタナ

    MAIKINGいずれ投稿する「いざ、トラウマ克服!」の冒頭なのですが、物凄く手直ししたので手直し前の文章を折角なので載せようと思います。書いてる途中にあまりにも受けフィルターをかけすぎたなと我に返りました。怯える受けちゃんは可愛いんじゃ……。でもそれを表に出しすぎるのも良くないですね。難しい!
    いざ、トラウマ克服! 始まり1 始まり

     小さな街で産まれた魔術師の類は、幼い頃から天才であった。恵まれた魔力と知識を活かし、人々を笑顔にしようと類は沢山勉強をした。沢山考え、思いついた事を行動に移した。類に農作物を手助けをして貰った人や、楽しい気持ちになるショーをお披露目して、人々は笑顔になり街の人みんなに愛されていた。
     『素晴らしい子供がいる』という類の噂は、たちまちと街の外へと広がった。そして、それが悪い人の耳にも届いてしまったのだ。魔力を沢山持っている上に、頭も賢い子供がいるのだと。我が物にして上手いように使ってやろう、と。類は悪い人たちにあっという間に攫われてしまったのであった。
     薄暗い部屋に閉じ込められ、身動きも取れない状態で類はいいように使われていた。溢れ出る魔力も、賢く回転も早い頭脳も、綺麗な身体も。生み出した知識達は笑顔とは程遠い使われ方をし、知らない人達に身体を無理矢理触られ、類はひたすら絶望に襲われていた。光の一筋もないこの環境に、どんどん心も身体も疲れていった。
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