「今日は七夕だよ、阿絮。夜は一緒に星を見よう?」
「そうか、七夕だったか」
「これだけ快晴なら星もきっと綺麗に見えるね」
「だったら織姫と彦星も無事に会えるな」
「んー…そうだね」
「どうした?老温」
「いや…1年に1回だけの逢瀬とか、私なら耐えられないなと思って」
「織姫と彦星は無理やり引き裂かれたようなものだからな。耐えるしかないのだろうが…」
「仕事をせずに怠けていたからって理由だったよね?自業自得だとは思うけど」
「まぁ…かなり厳しい罰であるな」
「例えば…例えばだよ?私が彦星で阿絮が織姫だったとしたら…」
「まて老温」
「うん?」
「配役に異議ありだ」
「どういうこと?」
「それなら俺が彦星でお前が織姫だろ」
「んん?」
「俺に機が織れると思うか」
「え、そんな理由…?」
「牛使いになら俺はなれるぞ」
「…(そこで胸を張るとか阿絮なにそれ可愛すぎ…)」
「例えるにしても配役は逆にしろ」
「分かった。まぁ、私は別にどちらでも構わないし…だったら阿絮が彦星で私が織姫だとしたら、だよ」
「あぁ」
「私は絶対に1年なんて待たない。天の川を泳ぎ切ってみせるよっ」
「いや、それはちょっと無理なんじゃないか?」
「どうして?」
「天の川を泳げてしまったら物語が根底から覆るだろ。それに俺ならお前にそんな危険は冒してほしくない」
「私は阿絮に会えないほうが嫌だ」
「それでもお前だけが頑張るのは違うだろ?もしもそうなったら俺だってお前に会う為に努力するさ」
「あしゅっ…!」
「だから天帝と交渉する」
「………ん?なに?」
「天帝と交渉すると言った」
「交渉…?」
「離れ離れにされたのは仕事を放棄していたからだ。それなら1日分の仕事をきっちりこなせば天帝も文句はあるまい」
「…(なんか悪い顔してるけど、そんな阿絮もかっこいい!)」
「それには俺が彦星でお前が織姫でないと駄目だ。俺が機を織ろうと思ったらいつまで経っても完成しないだろうが、お前なら器用だから大丈夫だろ」
「えっと…でも、仕事をちゃんとするにしても…それでどうするの?」
「それを交渉材料にするんだ。仕事は完璧に終わらせる、だから仕事が終わってからの時間は俺たちのやることに介入するな、とな。1年に1回しか会えないなんて重すぎるぐらいの罰を受けているんだ。それぐらいは譲歩してもらわねばな」
「天帝に口出しも手出しもされない自由な時間を得るというわけか」
「そうだ。その時間で策を練る」
「私と阿絮の連絡はどうする?」
「…天の川の規模が分からんが、鳥を伝達に使えば然程の時間はかからないんじゃないか。問題は鳥がいるかだが…牛がいるなら他の動物も普通にいると考えていいだろう」
「なるほど。じゃあ連絡は鳥を使うとして…あぁ、鳥といえば再会する時はカササギの翼に乗って川を渡るんだよな?カササギを懐柔するというのはどうだ」
「カササギは天帝の命で織姫と彦星を運ぶんだろ。懐柔は難しんじゃないか」
「う~ん…だが、カササギは1羽ではないのでは?」
「ん?」
「翼に乗るということはデカい特別なカササギがいるのかもしれないが、1羽だけじゃないはずだ」
「それはどうだろうな…特別な日だけ天帝の力で巨大化するのかもしれん」
「あーしゅー…真顔で巨大化とか言わないでくれ、吹き出しそうになったじゃないか」
「色々な可能性を考慮しなければだろ?だがカササギは場合によっては使えるかもしれないな…」
「でもなぁ…」
「どうした?」
「そもそもの話になるけど…私と阿絮なら、まず天帝の命に簡単には従わないよね」
「老温…それを言い出したら話が進まないだろ?大体、俺とお前なら仕事を放棄することからしてありえない」
「いや、それは分からないよ。私は阿絮と結婚できたら浮かれてしばらくの間は仕事が手につかないかもしれないし…」
「老温?」
「それに…考えてみたら結婚して蜜月を過ごすのは当然の権利じゃないか?新婚の時期ぐらい仕事を休む権利があってもいい気がしてきたぞ」
「…(話が変な方向にずれてきたな…しかも真顔で何を言ってるんだ、こいつ)」
「これはあれだな、天帝の頭が固すぎる。確かに仕事を怠けるのはよくないが、だからといって罰が重すぎるだろ…天帝という奴は老妖怪のような偏屈じじいなんじゃないか?」
「葉殿が天帝…?(似合うな)」
「そうだ、あいつが天帝になればいい。ならば思う存分戦える」
「葉殿と戦うのか」
「黙って従うのは癪だからな。今の私と阿絮ならばいい勝負になるはずだ」
「葉殿との再戦か」
「あの頃の私たちとは違うからな。どうだ?」
「…なるほど。面白い」
「でしょ」
「どうやったら勝てるか策を練るのもいいな…今度会った時は手合わせを願い出てみるか」
「やる気だね、阿絮」
「七夕の話からだいぶ逸れた気がするがな」
「ううん、ちゃんと七夕の話だよ。だから阿絮、今日は存分にくっついて過ごそう!」
「…んん?」
「だってほら、老妖怪が激怒するぐらい仲睦まじくしなきゃでしょ?」
くすりと笑いながら己の頭に頬を摺り寄せ、指を絡めてきた温客行へ一瞬呆気にとられながらも。周子舒は小さく吹き出すと目尻をゆるりと下げて、同意を伝えるべく愛おしい男に寄り添ったのだった。