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    ぐだくんから輝石を貰う伊織のはなし。

    #伊ぐだ♂

    赤に染めて
    「これあげるよ」

    この頃常となった長屋での茶会。茶会と言っても本当に茶を囲んで何でもない話に花を咲かせているだけなのだがこれがなかなかどうして心待ちにしている自分がいる。そんな和やかな時を過ごしていた折マスターから菓子を手渡すようにポンと渡されたそれは赤い輝石だった。

    「これは?」
    「いつものお礼。君宝石魔法使ってるしこの形状の方がいいかなって」
    「褒美を貰うほど武勲を立てた覚えもないぞ」
    「だからいつもありがとうの気持ちだってば」

    困ったように笑みを浮かべる立香をさておき確かに自分の使用する魔術は宝石魔法と呼称されるものであるらしい。他の国の女神を初めそれに準ずる魔術を使う者は見かけただけでも一定数はいる。格段珍しくもないがある者の言葉を借りれば一番金の掛かる魔術との事。現代に於いては資産を食いつぶしてしまう程割に合わないものであるという。自分は単に師から教わったのがそれであっただけの話だったが何だかゾクリとしたのを覚えている。

    「なら有難く頂戴しよう」

    そういうと彼はホッとしたような顔をしていた。

    ◇◇◇

    その日はやけに忙しい日だった。
    厨房組から食材の運び出しを頼まれ、師匠や剣に腕ありの先達との稽古。各方面からの力仕事をこなしてそれが終われば謎に巨大な犬に追いかけ回されて終いには愉快犯に爆破されて心身共に精根尽き果てた。そんなこんなでどうにか長屋まで辿り着き板の間に上がり込んだところでふと視界にいつかの輝石が目に飛び込んできた。
    せっかく貰ったものだ暫く飾って置こうと棚に閉まっていたがこんな状態では魔力に満ちた輝石はとても魅力的に写る。疲労困憊で頭の働かない今のままでは使うものではないと理解はできても動けないというのはとてもみっともなく思えた。この様な形で使用することに後ろめたさはあるがそんな事で一々叱り飛ばすような送り主では無い……筈だ。御免と心の中で陳謝しながら赤く光るそれに手を伸ばす。

    が、

    「ッ」

    使用した途端弾け飛ぶ飛沫。方々に飛び散ったが顔を掠めたそれはぴちゃっ、と伊織の頬をつたい鉄の匂いが鼻をつく。大部分は持った右手の手のひらにどろどろとした液体として滞留したがやがて赤から無色へ変わって行きそのまま魔力として吸収されたのを目の当たりにし愕然とした。それまですっきりしなかった思考も今は微睡みから叩き起されたかのようにはっきりとしている。

    「なん、だ……之は……っ、」

    魔力が充填されたおかげか身体中が活気が溢れ宝具すら放てそうな心持ちだが今は目の前で起こった事象にふつふつと疑念が湧き出てくる。
    どう見ても赤いそれは戦闘中でなくとも目にする人が人たる所以。命を支える潤滑油であり源。魔術に於いても身近であるそれ。

    「立香ァ……!」

    底知れぬ怒りが濁流のように押し寄せる。そのままの勢いでもって長屋を飛び出し件の主を問い詰めるべく駆け出した。どんな意図があるにせよこの様な真似をする彼を見過ごせるほど腹芸は得手では無い。例えそれが聖人君子の行いであったとしても己が情人の身を切る行いを良しとできるはずも無かった。

    探し人は大して手間も取らずに見つかったがどうやら話し込んでいる模様。しかし臓腑が煮えくり返るような憤怒に囚われている現状で気遣いなど出来るはずもなく

    「マスタァ!」
    「ん?」
    「伊織さん?」

    驚いたように目を丸くする桃色の少女を気にすることも無くズカズカ踏み込むと主の方を掴み射抜くように見つめる。

    「話がある」
    「あー、うん分かった」

    マシュごめん、手合せて彼女に謝罪し半ば引き摺られるように立ち去る。あとに残されたマシュは伊織のいつもと違う雰囲気に圧倒されてその場に立ち尽くしていた。

    長屋まで辿り着き尋問よろしく伊織の鋭い眼光が身体中刺したがどこか落ち着いた様子の立香。これが旅路の成した成果だとすれば複雑な気持ちにもならなくはない。

    「何のつもりだ」

    僅かに残っていた欠片をパラパラと目の前の机に落とす。それを見た所で彼の挙動に変わりは無い。ただ欠片を手に取り残念そうにため息を着く。

    「もう使ったの?あんまり無茶はしないでよ」
    「そこでは無い。アレは何だ何をもって血から精製した石なぞ俺に寄越した」
    「うーん…」

    頭を横に倒して考え込む立香にムカムカと腹の虫がおさまらない。追求したい事は山ほどあるがまずは無茶をするななどとそっくりそのまま返してやりたい気分だ。

    「伊織。ちょっと落ち着いてよ」
    「……っ!これが落ち着いていられるかおまえ自分が何をしたと───」

    普段ならこれ程までに取り乱すことも無かっただろうが相手が悪すぎた。己がマスター。そして……

    「おまえが自傷したと知った俺の気持ちはどうなる?」

    唯一無二の想い人。

    「……勘違いしてる所悪いけどそれ自分で手首切って作ったものじゃないよ?」
    「……ん?」

    今までの勢いは何処へやら。立香の自白に伊織の怒りはあっという間に霧散した。何だどういうことだ説明しろ、そんな言葉を紡ぎたいのに口はぽっかり開け放ったままろくに音を出せていない。そんな伊織の姿を察してか彼は話の続きを喋り出す。

    「俺いざという時の為に自分の血液ストックしてるの」
    「すとっく」
    「如何せんナマモノで幾ら魔術とかで保存しても限度があるんだって。だから定期的に血を抜いて古くなったモノは廃棄処分してもらってるんだ」
    「……貯蔵してる、と」
    「そゆこと。んでどうせ棄てるならなんか再利用出来ないかなって言ったらさすがに婦長達には怒られたけど諦めきれなかったから……」

    そのままうーんうーんと考え込んで比較的理解がありそうな者を訪ねた。それがキルケーとメディアだったとは本人達の名誉もあるので名を伏せたが伊織は未だ疑問の渦の中にあるらしくとりあえず大人しく話を聞いている。因みに手伝ってくれた彼女達にもドン引きはされた。

    「何とか形になったから君に怒られるのを前提であげたんだ。あげたい人は初めから決まってたから」
    「何故だ」
    「何故って、」
    「俺に何故この様な贈り物を?」
    「……」

    暫しの沈黙の後立香はそっと口を開く。

    「伊織の覚悟に報いたい……と思ったからかな」

    自分について来てくれるサーヴァントの皆は勿論だが伊織の立香に対する信は群を抜いている。幾度となく窮地を助けくれて我が身も顧みずに刀を振るう姿は同性ながらも惚れてしまう位には凛々しく勇ましい。だがその結果として生傷が耐えないのも事実。魔力さえ融通出来れば死とは無縁の存在であるが故に傷を厭わずにいる姿は痛々しくもあるのだ。人でならばそれを叱責するのも人情であろうが悲しいかな彼はサーヴァント。だからこそ立香がその覚悟に対して返せるものは決して多いとは言えない。

    「血判状とか血が大事な意味を持つのを君が知ってるかどうかなんて分からなかったけど少なくとも覚悟は受け取ってくれるだろうなって」

    褒められた行動じゃないのはわかってる。
    そう目を伏せながら言う立香。全ては自分の自己満足。嫌悪感が拭えないというなら二度としないと言い連ねる彼に漸く事の次第を掴む。

    「…ごめんなさい」
    「……何故俺を呼ばなかった」
    「え」
    「助けになれるかどうかは置いといといたとしても其の様な企みがあったのなら事前に相談のひとつも欲しかったところだ」
    「い、伊織にあげるのに話ちゃったらダメじゃん」
    「むう……それもそうか」
    「伊織?」

    態度の軟化した彼に立香は戸惑いつついたたまれない気持ちになる。最悪殴られるのも覚悟していただけにさも何事も無かったかのように話す彼には驚きを隠せない。

    「怒ってないの……」
    「無論はらわた煮えくり返っている」
    「スーパー怒ってるじゃん。じゃあなんで、」
    「裏でこそこそされるより手の届く範囲で監視していた方が気が楽だろう」
    「いや。監視って」
    「何か不服か」
    「イエナンデモアリマセン…」

    妙な凄み方で冷や汗はかくし問答無用とばかりに押し切られて益々後悔が勝りそうになる。しかし伊織の方を見やると彼は彼で何だかとても難しい顔をしながら腕を組んでいた。

    「自傷が無いのは幸いだがだからと言って血液とは……。立香、おまえが時折見せる大胆さは一体何処から来たものか…」
    「伊織の強者見つけ次第死合いにいく豪胆さよりマシだと思う」
    「減らず口め」

    むんずとほっぺを摘まれたが仕置きのつもりにしては随分優しい。そのまま腕を掴まれあれよあれよと後ろから抱き抱えられて肩に伊織の頭か埋まる。

    「立香」
    「なに」
    「次の精製はいつだ?」
    「…………廃棄の時に声掛けてもらう約束だから早くても数ヶ月後じゃないかな」
    「随分先だな」
    「そんなに頻繁には作れないよ」
    「当たり前だおいそれと作られてたまるか」
    「えぇ……矛盾」

    段々と詰められる距離にこれはもう今日は逃げられないなと密かに悟る立香だった。

    ◇◇◇
    ─── 後日


    「これが輸血パック」
    「……」

    ビニル袋の中でたぽんたぽんと揺れる深紅の血。当然伊織は毛虫でも見るような目つきでそれをまじまじと見ていたが本来の目的を思い出してか咳払いの後平然とした顔付きに戻る。

    「で、どうしてたんだ?」
    「俺そんなに難しいのは出来ないから単に魔力だけ抽出してもらって固めてた」
    「ふむならば─── 」

    伊織は考え込みながら試行錯誤を繰り返していく。

    「前回のは血の概念が残っていた。だからこそ使用した途端に飛沫としてそこらじゅうに飛び散り固形化していたものが液体に戻ったのだろう、と」
    「うわ、ごめん結構な失敗作だったんだ。ってか伊織凄いね、そんな事まで分かるんだ」
    「いや、紅玉の談だ」
    「……一瞬君を褒めたのを後悔した」
    「すまん。俺も明るくは無い」

    剣の腕は立てど魔術はそれ程修めてない。紅玉の老爺もそこまでとやかくは言ってなかったものの実の所は分からない。もしかしたから魔術をそっちのけで剣を奮っていたのだとしたら今この時ほどやっておけばよかったと思い直すこともなかっただろう。
    つまり後悔している、あれ程剣に焦がれた自分が、魔術の修練を怠った事実に。

    「出来たぞ」

    そうこう言っている間にどうにか形になった輝石がコトリと音を立てて机の上に鎮座する。見た目は立香が作ったものと相違ないが形状がやや角張っており作り主の性格を反映してのものだろうかと邪推をして笑みがこぼれる。

    「こら」
    「だって……ふふっ」
    「全く」

    肩を震わせ笑っているのがバレてしまい伊織に咎められる。バツが悪いのかそれとも同じものを作るはずか些か刺々しいものを生み出してしまって気恥しいのか。どちらにせよものづくりで挫けている彼を見れて大変満足だ。

    輝石作りが終わってまたいつもの茶会へとしゃれこむ。本日は立香のマイルームで残念ながら煎茶は無いが代わりに彼の人直伝の珈琲を振る舞う。
    カルデアに来てからというもの食の幅が広がった伊織。初めは食堂に行っても和食ばかり頼んでいたがタケルを初めとした皆の感想やら食いっぷりを見てものは試し食してみることにしたらしい。結果は言わずもがな。

    「……苦い」
    「砂糖も牛乳もあるから無理しなくても」
    「しかし茶に砂糖は」
    「お茶に砂糖入れる習慣は外国に沢山あるよ」

    日本が少数派なだけだよ、と付け加えると彼は鳩が豆鉄砲食らったような顔をしていた。「世界は広いのだな」遠くを見るように呟いた言葉は江戸を生きた人間にしては物事に対して柔軟に対処し、頭ごなしに否定するほど彼は見識が浅くはないのだと再認識する。

    ふと机の上の輝石に手を伸ばした。
    未だ伊織は珈琲と戦っているが味よりも猫舌が苦戦の要因のようだ。
    立香にはアンプルが支給されている為この様な形の魔力供給は必要ないが単純に自分から生成されたモノに興味はある。伊織はいとも簡単に使って惨事に見舞われたが立香にはこれがどうやって使うものなのかイマイチ理解が及ばない。苦戦中の彼も輝石を弄る立香に気付いたようでカップを置き徐に手を伸ばしてくる。
    本当に他意はなかったのだと思う。でなければ再びの惨事に立香を巻き込もう等と不埒な考えを伊織がする筈もなかったのだから。

    「……」
    「……概念取りきれてなかったね」

    ボタボタと滴り落ちるそれは魔力のみとはいえ決して愉快な感触でないことは確か。伊織も伊織で呆然と立香を見つめているしこの件に関してはもう手を出さない方が互いの為に懸命かもしれないなぁと濡れた頭でぼんやりと思った。
    吸収されていく魔力は元を正せば立香本人のものであるから当たり前のようにすぅっと馴染んだが何をやっているんだろうと考えてしまえば自己嫌悪のように気分がそれなりに落ち込んだ。せめて呆けている伊織の顔に着いた液体を拭こうと近付くも気付けばベッドまで連れていかれて押し倒されていた。わけも分からずに疑問符を浮かべる立香に彼は

    「謗りは後で聞こう」

    ─── 今は身を委ねてくれ

    「~~~~~~ッ///」

    声にならない悲鳴を聞くものは彼ら以外には居らず、赤に染まったのは果たしてどちらだったのか。
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    lunaarc

    MOURNINGバレンタインで失恋して部屋を出たら晴信さんに会って、察せられて泣いちゃったところを追いかけてきた(タケルに言われて)伊織が目撃する伊ぐだ♀
    …のつもりで書いてたんだけどたぶん最後まで書ききれないと思うのでここまで。

    伊織いないけど伊ぐだ。晴信とぐだ子は×じゃなくて+(兄妹みたいな感じ)
    サムレムはコラボしか知らない+第一部と1.5部ちょっとしかやってない知識量のマスターです
    どうやって部屋に戻ったんだろう。腕いっぱいに抱えた仏像を棚に並べて、立香はしばし立ち尽くす。
    わかってはいた。一緒に駆け抜けた偽の盈月の儀の最中、ことあるごとに、傍で見てきた。
    片方が記憶を失っていても、あの二人の絆は強固なものであると。その間にぽっと出のマスターが割り込むなんてもっての外だと。わかっていても。
    「……はぁ…」
    それでもやっぱり、寂しい。
    そのやりとりを微笑ましいと思っていたのは確かだ。戦闘時には抜身の刃の化身のような鋭さを持つ青年の雰囲気が、彼の相棒が一緒だと柔らかく変化していく。それを見ているだけで十分だと、最初はそう思っていた。
    ただのマスターとサーヴァント。その垣根を超えるような接触をしてきた者は他にもいた。けれど立香はそれでもマスターでいられた。一人の人間としてではなく、サーヴァント全員のマスターとして。そうあることが自分の存在価値なのだと割り切っていたからだ。
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