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    もくもく

    @8clouds_hrkw

    ss置き場。
    書いたものや書ききれなかったもの、それから進捗をまとめておいています。

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    もくもく

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    中学生の両片思い颯新。
    いちゃいちゃしてる二人が見たかった。
    原作軸だと夢を叶えるまで付きあわなそうだなと思っているのですが、ずっと前から恋愛の意味で好きであれ(暴論)お互いの考えてること顔見れば分かると思ってる二人かわいいね。

    #颯新
    dashingNew

    無自覚恋心(颯新) 新の声はどこにいてもよく聞こえた。
     爆音のライブ会場だって、人混みの中だって、なんと言っていたのか聞き返したことはない。一度、新本人に伝えたことがあったけど、彼はパックジュースのストローを口に含みながら首を捻った。
    「颯真には負けるよ」
    「どういう意味だ?」
     つられてオレも頭の上にはてなマークを浮かべる。
    「俺は隣のクラスまで聞こえるような大声は出せないってこと」
     それはそれは大変失礼しました。授業中寝てて悪かったな。五限の世界史はキツイんだって。……まてよ。二組にも聞こえてたってことはもしかして、反対側の四組にも聞こえてた?
     ったく、ニヤニヤしやがって。
     新のからかいはいつものことなので、気にしたってしょうがない。オレはビニール袋からメロンパンを取り出して大口で食らいつく。反動でビスケット生地がほろりと零れ落ちた。
    「これ食ったら、練習再開するぞ」
    「はーい」
     夏は日が長いから、練習時間も多い。今日はあと一時間くらい粘ったって親は何も言ってこないだろう。といっても、早く帰ったって親はいないんだけど。
     クラスが離れていたって、友達ダチよりも家族よりも、新と過ごす時間が一番多かった。新といるときが一番楽しかった。

     翌日の休み時間。オレはここ最近で一番真面目にノートを取った。カタカナ語に弱いオレにとっては、世界史は苦痛でしかない。もうすぐ定期考査もある。今日、赤字で書いた単語、二問くらいでないかなあ、なんて邪なことを考えていた。その時だ。
     ポンと肩を叩かれ、振り向くと後ろの席の武藤が立っていた。
    「今日は怒られなくてよかったな、宮田」
    「……一限から寝るかよ」
    「俺、一番前で爆睡してるやつ初めてみたわー」
    「そうそう。寝言まででけぇしよ」
     右隣の高橋が絡んでくる。お前ら覚えてろよ。キッと睨んでみるが、二人ともニタニタとしている。オレより身長が高いからって馬鹿にしやがって。いつか絶対見下ろしてやる。
    「あ? 寝言?」
    「気づいてなかったの? 宮田くん。寝言まで言ってたから怒られたのよ」
     学級委員の森さんが先生に頼まれたのか、ノートをさらって行く。やべ、今日の分はいいけど、左下のパラパラ漫画消してねえ。
    「ちなみに、なんて言ってた?」
     暫しの沈黙。まじで変なこと言ってねえよな、オレ。おそるおそる顔を上げる。三人はお互いの顔を穴が空くほど見つめ、その後盛大に吹き出した。

    「新、もう一回練習すんぞ」

     ……新、ごめん。寝言の真相にオレは心の中で頭を下げた。昨日の口ぶりだと、寝言までは隣のクラスには伝わっていないだろう。
    「颯真」
     新の声がした。教室の扉の方を見ると、新がひらひらと手を振っていた。
    「悪い。ちょっと待ってて!」
     生徒の声があちこちでざわめく教室の端っこ。ほんの数分ではあるが、教師が入れ替わるこの時間は騒がしくなる。そんな中でもやっぱり相棒の声はクリアに聞こえた。オレの席が窓側であるにも関わらず。
     呼ばれたのは次の授業が美術だったからだ。
     技能教科は選択制だったため、隣のクラスの新とも一緒に授業を受けられた。
     美術を選んだのは消去法。音楽は楽器はいいとして、合唱だと、歌い方がいつもと異なるし、書道は毎回汚しそうだったからやめた。
     口裏を合わせたわけでもないのに、美術に行くと新がいて、オレは少しだけこの時間を楽しみにしていた。
     でも、今日はそんなにのんきにもしてられなさそうだ。なぜなら扉の前に佇んでいた新は、眉間に皺を寄せ、口を尖らせていたから。
     険しい表情を見るに、間違いなくさっきの会話を聞かれたんだと思う。うはー、どうやって機嫌とるかな。
    「……新のやつ、顔に出すぎだろ」
    「いやいやいや、その言葉そのままそっくりお前に返ってくんぞ。ブーメランだわ」
     口からぽろりとこぼれた独り言に武藤がツッコミをいれる。お前柔道部で力強いんだから肩を叩くな、痛え。
    「は」
    「宮田くん、いつも遠野くんのこと話してるわよ。気づいてないの?」
    「お前、ほんと遠野のこと好きだよなあ」
    「見えない尻尾が俺たちに見えるもんな」
     うんうんと強く頷く面々。おい、頭を撫でるな頭を。オレは犬じゃない。
    「そりゃあ、相棒なんだから当然だろ」
     オレは机の上に散らばっていた文房具を、乱暴に投げ入れる。ファスナーは締まりきってなかったけど、中身が落ちなきゃ大丈夫だろ。早くしないと、次の授業に遅れる。あまり成績が良くない以上、印象まで悪くならないようにしねぇと。
    「すまん。待たせ、だっ……!」
     脇腹に肘鉄は結構くるからやめろってば。新は待っていてくれたくせに、オレをおいてどんどん先に行ってしまう。早足で追いかける。でも、新の歩く速度はさらに速くなった。
     仕方ないと諦めて、新の斜め後ろに座った。授業前、隙をみてちらりと新の表情を確認する。新の耳が赤かった理由を考えて、ふっと笑みがこぼれた。
     やっぱり顔に出すぎだって。

     翌週の美術の時間。今日の課題は人物の模写。ペアを作って、お互いの顔を描くんだと。
    正直やってみようと思える課題ではない。
     ペアに新を誘い、向き合って座った。制作は二十分ごとの交代制で、モデルになる側はあまり動いてはいけないらしい。話すことも禁じられ、学生たちの深い溜息がそこら中に蔓延していた。
     せめてスマホぐらい触らせてくれたっていいのに。授業中だから、だめかー。オレは仕方なく目の前でさらさらと動く新の腕に注目する。
     新は昔からなんでもそつなくこなすタイプだった。今も鉛筆の動きに迷いがない。スケッチブックにはどんなオレが描かれているのだろう。終わったら見せてもらおうか。絶対断られると思うけど。それにしても、
    「あっちいー……」
    築四十年以上の古い校舎。何故か美術室にはクーラーがない。気休めに扇風機が二台、教室の前後で回っていたけれど、この席には風が届かなかった。
     手をうちわ代わりにして仰ぎながら、ワイシャツのボタンを一つ外し、首元を緩める。効果はやはり薄い。
     オレの不自然な動きに、新の手がピタリと止まる。不思議に思って視線を上げると、思いっきり目を逸らされた。変なの。
     前半終了のアラームが鳴った。張り詰めていた静かな空気が弾けるように、あちこちで生徒が囁く声がした。教室の中には二酸化炭素が一気に充満したような気さえする。
     美術の先生は話し声をかき消すように後半組、準備をしなさいと高らかに指示を出した。話し声は次第と減り、また息苦しい時間が始まった。暑さで半分ゆだった頭で何かうまく描けるといいんだけどな。
     スケッチブックを開く。新しいページの真ん中より少し上の部分に丸を薄く描いた。手を開いて比べる。パーにした時とだいたい同じくらい。顔の大きさはだいたいこんなもんでいいかな。
     さて、顔を見なければ目や鼻といったパーツは描けない。向かい側に視線を移すと、新は顎に手をついて、足を組み窓の外を見つめていた。今日の授業は新にとってもつまらないものらしい。
     時々、右手が新のさらさらの茶色い髪の毛をすくっていく。髪を耳にかけた仕草にドキッと胸が鳴った。ん? なんだよドキッて。思わず胸を押さえる。気の所為かもしれない。
     新相手に色っぽいなんて思うのおかしくないか? だって、新は男で、友達で、それで相棒なのに。
     先週からかいそこねた新の耳は白い。何かを確かめるように自分の耳朶を触ると、じんわりと熱をもっていた。
     オレの動揺を知ってか知らずか、新は熱くて重い息を吐いた。何故かそれが妙に気になって集中できない。
     ピピッと、甲高い音が響き、タイマーが残り時間があと十分だと告げる。急いで描かないといけないのに、紙の上にはじゃがいもみたいな不格好な丸がのっているだけだ。馬鹿、動けよオレの腕。
     オレの動揺など知らず、新はすました顔で相変わらず外を見ている。体勢がきつくなったのか、新は足を組みかえて座り直した。振動が加えられたことにより、新の肌に滲んでいた汗が頬から首筋へと滑り落ちていく。
     ごくん、思わず喉仏が上下した。口は乾いていたから、オレが飲み込んだものはなんだったのかよく分からない。ただ、心臓の辺りが熱くて、苦しくて――。咄嗟に右腕のワイシャツの袖を握った。
     両隣を見ると、左右どちらの生徒も仕上げに入っているところだった。その様子に一瞬で身体を覆っていた熱が、さあーっと引いていくのを感じた。さすがに白紙で提出はやばい。下手でもいいから白い紙を埋めないと。
     がんばりも虚しく、終了の合図が鳴った。オレは耳と首、それから左右不揃いの瞳を描いたところだった。これでは完成とは呼べない。
     日直の号令がかかり、生徒たちは次々と教室を出ていった。オレは慌てて鉛筆を走らせたが、もう間に合わないだろう。
    「ごめん、先帰ってて」
     目の前の新に謝ると、彼は困ったように眉をへの字に下げて笑った。仕方ないなあと呆れている時の顔だ。返事の代わりに新の唇が動く。声にもならないその動きでも、オレには新がなんと言ったのか、よく分かった。
    『 見 す ぎ 』
     ぼぼぼっ、と全身が発火したみたいに赤く染まる。その様子に満足したのか新は、くすくす笑いながら、美術室を出ていった。
     ……くそー、またからかわれた。
    新の背中が遠ざかっていくのがスローモーションのように見えた。完全に見えなくなると、大きくため息をついて項垂れる。

     そうか、オレ。新の口元ばっかみてたんだ。

     同級生はみんな、新のことをクールだと言う。そこがミステリアスでかっこいいとモテることも知っている。
     でも、新は意外と子供っぽくてイタズラ好きだ。逆にこっちがからかうと根に持つし、甘いものが好きでオレの前ではよく笑っている。
     遠野新は決してクールなんかじゃない。
     オレとの約束を叶えるために、苦しい練習にも付き合ってくれる、良い奴なんだ。
    「でも、まあ。それはオレだけが知ってればいいか」
     気づけば教室に残っているのはオレだけになっていて、慌てて使っていた椅子と道具を片付けた。
     未完成になった美術の課題は、先生に頭を下げて来週まで待ってもらうことにした。自室で新と撮った写真を見ながら、ぎりぎり人間の形をしたそれを完成させ、後日きちんと提出した。
     結局、新にスケッチブックを見せてもらうことは叶わなかったから、取り残されたオレは、新がどんな風にオレを見ていたのかなんて、知ることも出来なかった。新の瞳にオレはどんな風に映っていたんだろう。
    課題は終わったけど、あの日以来、新のことを考えると楽しいのに、ちょっと胸が苦しくなる。このモヤモヤはどうやって解消すればいいんだろう。
     ねえ、先生。これって勉強したらちゃんと分かるようになるかな?
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