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    もくもく

    @8clouds_hrkw

    ss置き場。
    書いたものや書ききれなかったもの、それから進捗をまとめておいています。

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    もくもく

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    切ない話を書いていたらしんどくなって、原作軸でもいちゃいちゃしてる二人もみたいとかきなぐりました。
    内容はタイトルのままです
    たまにはちゃんとCPしてる幻覚も収穫したいよね。

    #颯新
    dashingNew

    親愛のキスは建前なので(颯新) 暑さは人を狂わせるのかもしれない。絶えず続く猛暑で倒れる人がやまないというし、実際街中で救急車を見かけることが増えたけども……。
     一定の温度に保たれている室内に居るはずの颯真が変だ。現にいつもより顔が赤い。
    「遠い。ほら、もうちょっと」
     彼は顔の横に手のひらを出し、骨張った指先を小さく揺らしながら俺を手招く。
     普段は俺を引き寄せることすらかなわないくせに。汗だくで炎天下を歩いてきた俺を嘲笑うかのように声だけで俺を誘うんだ。まんまと従っている俺も大概なんだけど。
     白いシーツの上に膝をついて乗り上げると、二人分の体重にスプリングが軋む。反動で俺の襟足から落ちた汗が首筋をつぅ、と流れていった。
    「外、あっちいな」
     カーテンの閉めていなかった窓から日が差し込む。それを背中に受け止めながら、颯真は低く呻いた。
     彼の声が俺の耳朶を掠め、至近距離で鼓膜を揺する。心臓を筆の先で撫でられているような擽ったさに息が止まりそうになった。
    「ねえ、汗くさいから今日はやめない?」
    「やだ」
     否、の返事は俺の提案のすぐ後。思えば、俺の意見なんていつも無視だ。提案を飲んだふりをして、いつだって颯真は意見を曲げない。一途で頑固、そんな性格に憧れて、それからほんの少し嫌いだった。
    「だって、もう帰っちゃうんだろ?」
    「そりゃあ帰るよ。面会時間終わるし」
     なにを子どもみたいに甘ったるい声を出してごねるのか。転院したての頃は、練習があるなら来なくていい。なんて殊勝なことを言っていたくせに。
     この悪い遊びを始めてからは随分甘えんぼになってしまった。お前自分が何歳か分かってんの。
     あらた、と名を呼ばれた気がした。
     至近距離にいる俺にすら聞こえているか分からない程度の声だったから。心配になる。
     これって俺の願望がもたらした幻聴なんじゃないの?
    「ん、いつもの」
     颯真が瞼を閉じる。だめ、やめて。望まれたら俺はきっと応えてしまう。
     白くて赤みのない頬に手を添える。親指で途切れた眉を撫でると、くすぐったそうな声が上がった。
     ふに、と颯真の肌に俺の唇の先が触れる。
     頬へのキスは親愛の情。だからこれは付き合ってなくてもしていい。それに、罪悪感をもつ必要はない。だけど、俺は……。
     相棒に触れる度騙しているような気分になる。血液が沸騰し、熱くなった感情が目頭を湿らせていた。
    「じゃあ、お返しな」
     いいというのに。俺にもさせてと颯真は強請る。だから、断ってるのに。馬鹿颯真! 
     颯真は自分では上手く動けないから、俺が身体を近づけるしかない。まるで俺が颯真にキスされたがってるみたい。
     ベッドに手のひらをついて颯真の方に体重をかける。スプリングが軋む音は、この無垢な行動の裏に透けた卑猥さを非難しているように思えた。
     空いた窓の外からは救急車の音がする。その音が近付いてくると、俺の頭の中のサイレンの音も大きくなっていく。
     あぁもう、俺の方が倒れそうだ——。

    ✳︎ ✳︎ ✳︎

    「何見てるの?」
    「海外ドラマ。話長いから、こういうときにしか見れないかなと思ってさ」
     テーブルの上に置かれたスマホスタンド。四角い液晶の中では、碧眼ブロンドの美少女が父親らしき男性の唇に口付けていた。父親も娘の行為にお返しのキス。続いて奥さんへ。しかも愛の言葉付き。
     なんとなく、年頃の男同士で見るのは気まずい内容だ。
    「……颯真、顔赤くなってるよ」
    「な…っ、おま! なってねえよ」
     沈黙が続いたら厄介だ。ちょっとからかってやれば、いつもの調子に戻るだろう。俺はくすくすと笑って、差し入れの品をベッド下の小さな冷蔵庫を入れる。
     なのに、颯真ときたら。そんな俺の気遣いを無視した爆弾を投下するのだ。
    「あっちでは、こういうのって挨拶みたいなもんなの?」
    「あぁ、キスのこと?」
    「キ…っ、ぁ、うん、そう」
     颯真は俺から視線を外し、歯切れの悪い返事をする。ベッドの脇に並べてあったソファーに腰掛けると画面はすっかり暗くなっていた。仲睦まじい家族の様子はもう映っていない。
    「そうだねぇ。海外はさ。日本に比べると愛情表現がストレートだと思うよ。過剰反応すると馬鹿にされるし。気にしないが方がいいよ」
     今のお前みたいにね。恋愛には程遠い位置にいる颯真には酷な話かな。
     ふっと、鼻で笑うと、颯真は口を尖らせて面白くなさそうに頬を膨らませた。ほら、そういう初心な所が悪い奴にからかわれちゃうんだって。
    「友達同士でもしょっちゅうあったしね」
     はい。これでも食べて頭冷やしな。俺はビニール袋からアイスを取り出すと机の上に置く。俺はカップのバニラアイス。颯真は誰かと分けて食べてね、という宣伝文句が売りのチョココーヒー味のアイス。食べ切れるか分からないから、二本入りのこれがいいんだって。
     むすっとした表情のままに颯真はボトルを潰し、食べ頃のアイスを身体の中に流し込んだ。
    「おまえもちゅーされたことあんの?」
     ボトルの先を噛んでぶらぶらさせながら颯真が突拍子もないことを尋ねてきた。
    「なに? 急に。男二人で恋バナとかないでしょ」
     木のスプーンからアイスが溢れ落ちて、黒いスラックスの上に染みをつくる。あーあ、これお気に入りだったのに。
    「だって……!」
    「うるさい。また怒られるよ」
     ただでさえ声が大きくて普通に話しても静かにしてくださいって何度も看護師さんに注意されてんのに。こんなの聞かれたら、恥ずかしくてしばらく見舞いにこれないだろ。
    「っ、だって、ずるい。新ばっかり」
    「はあ? 意味わかんないんだけど」
    「オレも青春っぽいことしたいの! それで、どうなんだ? ……したことあるのか?」
     手の中で皺くちゃになったボトルをさらに揉みくちゃにしながら、颯真はじとりと俺を見つめた。
     こうなるとこの馬鹿は引かないのを知っているから、俺は心底見舞いに来たのを後悔した。
    「ない、わけじゃないけど」
    「うわ〜、モテるやつしか言わないセリフだってそれ」
     颯真の腕がくたりとベッドに投げ出される。俺はその手からひしゃげたボトルを抜き取ってゴミに捨ててやった。
    「なあ、どんな感じ?」
    「何で、颯真に答えなきゃいけないの?」
    「うーん。今後の参考に! オレにだって可愛い恋人ができるかもしんねえじゃん?」
     恋人、その単語にずきりと胸が痛む。俺の心中なんて察しもせず、颯真はきらきらと期待の眼差しで俺の顔を覗き込んだ。
    「……頭痛いんだけど」
     俺が食べてんの、かき氷じゃなくてアイスだったよね。大きなため息をついて、食べ終わったカップをゴミ箱に投げ捨ててやった。
    「うーん。だめかー。じゃあ、実践して教えてよ。新せんせ」
     帰ろうと立ち上がった足が止まった。空気が凍ったのにもかかわらず、相棒の言葉の意味を理解した俺の身体は体温が二、三度上がったみたいに熱くなった。
    「は?」
     動揺を悟られぬよう、努めて表情を隠す。意味がわからないと呆れた顔をしても颯真はにこにこと笑うだけ。何を考えているのか、全く分からない。
    「はい、どうぞ」
     腕を広げて颯真が瞳を閉じる。こいつ、まさか俺に抱きしめろっていうのかよ。
     たしかに、再会した時は感極まってハグしたけどさ。今、そういうのじゃなくない?
     深いため息をもう一つ。躊躇っていると、俺の本心を見透かされて余計に拗れてしまいそうだ。ただの挨拶なんだから。颯真相手に気にしたってしょうがないだろ。
     ほんの数秒の間に言い訳をいくつも考えて俺は結局、ベッドに膝をついた。颯真の身体を一瞬だけ抱きしめて、それから頬に親愛のキスを一つ。
     顔を離すと今度は颯真の唇が頬に寄ってくる。ちゅ、と耳元で響いたリップ音とチョコレートの甘い香り。どうしようもなく胸の中心が痛かった。
    「どう、これで満足した?」
    「なんか照れるな! でも、海外の人がキスする理由、ちょっとわかったかも。ぎゅってされるとなんかほっとした」
     頬を人差し指で掻いて、触れられた場所を確かめるように、相棒は笑った。その仕草に胸が締め付けられ、すっかり怒る気も失せてしまった。
     颯真はずっと家族から離れて寂しい想いをしているから。
    「……じゃあ、帰るよ」
    「おう、またな!」
     その日の練習は颯真の唇の感触を思い出して、あまり身が入らなかった。……彰人くんに怪訝な顔をされてしまい、誤魔化すのが大変だった。冬弥くんは風邪でも引いたのかと本気で心配するし。馬鹿颯真。
    「馬鹿なのは俺の方なのかも」
     落ち着くまでしばらくは見舞い控えようかな。なんて考えてたのに。颯真からはメッセージが毎日のように送られてきた。
     内容はこれが必要だから、今度持ってきて欲しいとか、漫画の新刊買ってきて欲しいとか、いわゆるおつかいで、俺は結局病室に行くより他なかった。
     見舞いに行けば、甘いものを食べてくだらない話をする。それは前と変わらない。

     変わったのは、颯真が帰り際、親愛のキスを要求するようになったこと。
     
     断ろうとしても「安心するから」と子どもみたいなことを言う。
     寂しそうな顔で袖を引かれると俺だって無下にできない。そうして恋愛ごっこか家族ごっこかよく分からない遊びをしているうち、「ごっこ」の枠を颯真が飛び越えてくるようになった。
     初めはハグをして、それから頬にキスをして終わりだった。けれど、最近お返しが重い。物理的な重さではなく、愛情表現が重いのだ。
     俺は頬にしかしていないのに、颯真がキスを落とす箇所も、回数もだんだんと増えていった。頬、髪の毛、頭、おでこ、鼻、瞼……。ついこの間は頬を擦り寄せてくる振りをして、首やうなじにまでキスの雨が降るようになった。
     ねえ、これも練習なの? そう聞けたらいいのに。いくじなしの俺は赤くなった頬を隠すように帽子を目深に被り、早足で病院を後にする。
     深夜、触れられたところに毒が回ってるみたいに熱くなっておかしくなる。襟足をなぞる指も、頬に添えられた熱も、耳元を掠める吐息も、全部鮮明に覚えさせられた。
     何が親愛のキスだ。何がほっとするだ。俺はずっと苦しくて颯真の顔を見ることすら辛いのに。
     俺をこんなにめちゃくちゃにして、一体どうしたいんだよ、お前は。
     いつしか颯真の考えてることが俺には分からなくなった。

    ✳︎ ✳︎ ✳︎

    「っ、それ、やめ……」
     ぬるり、颯真の舌が俺の頬を舐める。犬みたいなやつ。そういって罵ってやればいいのに、俺の喉は小さな悲鳴をあげるだけだった。
    「なんで?」
    「汗かいてるって、言ったじゃん」
    「別に、オレは気にしないけど」
     執拗に頬を舐め回していた唇が、今度はあちらこちらに口づけを落とす。俺はそれを早く止んでしまえと願いながら、きつく目を閉じた。
    「……っ ばか…! へんなこと、するなって」
     首筋へのキスの後、そこにしたのだと分からせるみたいに、舌が這わされた。じゅるり、と粘着質な水音が鳴り、耳を犯される。
     じわりと身体の内側から、俺の何かが漏れ出すのを感じた。
    「へんなことって、これのこと?」
     颯真は俺の首筋に顔を埋めたまま、先程舐めた箇所に今度は吸い付く。びくんと、肩が大きく跳ねた。今、なにが起きた?
     恋人同士がするみたいに愛撫されるのは、初めてのことで俺の頭はいよいよ正しい判断ができなくなる。
    「ん、ぁ……!」
     自分の体なのに言うことを聞かない。ライブの時のファルセットとは違う、高くて掠れた声が自分の喉から発せられた。
     反射で颯真の胸を押すが、殆ど力は入れられなかった。俺が拒んだことで彼の身体を傷つけてしまったら。颯真を失うことも、颯真の容態が悪化することも怖くて、残った理性がブレーキをかける。
    「新、目開けて」
     下を向いて首を小さく横にふる。颯真の瞳を見てしまったらもう、戻れない気がした。俺の気持ちが全部お前に伝わってしまう。お遊びみたいな触れ合いを俺も望んでいることを。
    「お願い。頼むよ、新」
     颯真の願い乞う声に、俺はぴたりと動くのを止めた。この距離だ。いくら身体が麻痺しているからって、力づくで顎を掬うだけのことはできるはず。でも、彼はそうしない。俺が自らの意思で顔を上げるのを待っている。
     だから、お願いはダメなんだって。お前の頼みなら全部、きいてあげたくなってしまうから。顔を上げ、欲に濡れた瞳で颯真と見つめ合う。俺の瞳は溢れ出した感情のせいで、ぼやけていてよく見えない。ただ、颯真の瞳の紫色が夜を照らす月のように光って見えた。
     しばらく交わっていた視線。意を決したように颯真の喉仏が上下した。いよいよ紫色の満月が俺の元に降りてくる。だんだんと瞼が閉じ、満月が三日月になるかと言う頃、颯真の息が俺の唇を濡らした。
    「嫌ならちゃんと拒めよ。オレはお前に無理させたいわけじゃないから」
     その言葉にハッとして瞳を開く。けれど、泣きそうに眉を下げ笑う姿に、真夜中に感じている苦しさとは別の意味で胸が締め付けられた。
     それが愛しいと、愛しているという感情だと気がついたのはもっと後のことだった。
     返事の代わりに、いつもみたいに仕方がないなと笑ってそれから肩に手を回す。落ちてこないなら俺がお前を引き寄せるから。
     瞳を閉じると、颯真の手のひらが遠慮がちに背中に回された。そして、二人の距離がゼロになる。
    「ずっと昔から新のことが好きだった――」
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