構えには隙がなく体重移動は流麗。良く鍛えられた剣だと思った。十分に身に染みた「基本の動作」は相手をその基本の内に引き摺り込むことを可能にするほどであろう。何も知らなければ。
ユエは再び、無手で不死族に挑んだ。この流派の骨頂は相手の呼吸を操ることにあるのだ。引っかかってしまえば一見有利に組み合っているように見せかけられながらさりげなく追い込まれていく。旧い知り合いとの組み手の中で嫌になるほど思い知らされた手口だが、今はその経験が生きるようだ。
「……狡さが足らないみたいだな」
再度懐に潜り込み、返す刃に十分な注意を払いながら避けることに専念する。身に染みているのであろう、基本に忠実過ぎる体捌きはそれゆえに先回りを効かせることができた。
「単純すぎる……ッ!」
「!」
呼吸を乱されるはずのタイミングで、ユエは先んじて踏み換えを早めた。不死族の双眸が驚愕に見開かれ、勢いを流された形でタタラを踏む。
要は乱される前に逆に乱してやればいいのだと、攻略法を伝授してきたのは他ならぬその旧い知り合いだった。習得に際しては口で言うほど楽ではなかったし、ようやくコツを掴んだかと思えば逆対策を練り上げていた彼に呆気なく転がされたものであったが。
「ッ、らあっ!」
片手で抜いた鉈を振り上げて両手に握っていた剣を弾き飛ばし、その流れで片手を掴み、背中の方へと捻りあげる。当然抵抗は激しいものであったが、腕力強化の術式でやりこなすのである。猛烈に暴れるのをなんとか押さえつけ、ユエは吠えた。
「ナディ!」
「ああ——!」
大きく息を吸うと、魔力が燃える匂いがした。どくりと心臓が鳴ったのは反射である。屋外だというのに、強烈に香る。ハルニードの魔力香だ。
「今、行く……!」
ごうごうと噴き出す魔力の炎の中心で、金色の目をしたハルニードは右手に精製った鋭い爪を、自らの胸元に押し当てた。