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    むつき

    @mutsuki_hsm

    放サモ用文字書きアカウントです。ツイッターに上げていた小説の収納庫を兼ねます。

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    むつき

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    本編のフッキと主人公

    #東京放課後サモナーズ
    tokyoAfterSchoolSummoners
    #フッキ

    或るディーラー こんなのは、悪党どもの常套手段だ。そんなことは分かっていた。
     洒落た彼の装いは、ゲームの場を悠然と取り仕切るディーラーのようだった。さまざまなものを包み隠す、優雅な物腰。フッキと名乗った竜人の男は、力なく崩れ落ちた主人公に向かってまっすぐに視線を投げかけていた。
    「助けようとしていた相手の本当の姿が、君もようやく分かったはずでしょう」
     怒涛の出来事に、頭は混乱しきっていた。そんな主人公を前に、フッキはあえて言葉を重ねてみせる。相手に、より重要な事柄を理解させるように。相手が、より絶望をおぼえ、救いを求めるように。
     予測もつかなかった事態や絶体絶命の修羅場なら、これまでにも幾度も切り抜けてきた。でも今回のこれは、今までのものとはレベルが違う。今まで信じてきた前提や世界のことわり。そういったものがあっけなくひっくり返っていく。まるで、テーブルの上に並べられた、ただの紙でできたカードを一枚、ぺたりとひっくり返すように。
    「この世界はそんな君を弄んで恥じないゴミです」
     フッキのこめかみに青筋が立つ。次いで、彼は竜人特有の長い鼻面に遠慮なく皺を寄せ、分かりやすく憤りを示した。
     それもまた、芝居めいたやり方だ。相手を苛むものに対して、一緒になって怒りと拒絶を示してみせる。そうすることで、相手と自分とは同志なのだと伝えて寄こす。そう、これは策略なのだ。
     そんなことは分かっているはずなのに、頭が痺れたようになっていてろくな思考が働かない。ここには自分とフッキ以外、もう誰もいないのだ。シロウをはじめとした新宿のギルドメンバーも、頼りになる同盟相手たちも。勇気を出して一緒に立ち向かおうと、ついさっき誓い合ったばかりのカトブレパスでさえ、遠く離れたところにいる。だから自分ひとりでなんとか知恵を振り絞り、この場を切り抜けなくてはならない。
     震える指先で、剣をたぐり寄せる。きつく握りしめたいのに、腕に力が入らない。
    「流石に諦めがついたでしょう?」
     諦める理由は、いくらでも見つけられる。今ここに、フッキがひとつずつ並べてくれた。やわらかな物腰で。低く甘い声で。
     こちらの瞳を見据えたまま、彼はゆっくりと距離を詰めてくる。上等そうな革靴のかかとが、こつり、こつりと床を鳴らした。
     フッキが近づいてくるほどに、不思議な香りが鼻先をかすめた。華奢なガラス瓶の中で揺れる、うすく色のついた香水とは違っている。甘い煙のくゆる、小さな粒状にかためられた香の気配。フッキが追い求めている誰かなら、この香りを懐かしいと感じるのだろうか。懐かしく、好ましいものだと。
    「頑張りましたね、お疲れ様。あったかいお布団が待っていますよ」
     そんなわけない、と言いたいのに、口の中が乾ききっていて声も出ない。とうとうフッキが目の前にしゃがみこむ。腕を振り回せば十分に当たる距離だ。剣のつかを握りしめて、思いきり振り回しさえすれば。
     至近距離から瞳を覗き込まれた。端正だったはずの顔がにたりと歪む。思慮深げに見えていたフッキの両眼は、今や爛々と輝き、怪しいあやめ色の光を強く放っていた。
    「さあ、」
     尖った爪を持つ手が、ゆっくりと伸びてくる。なすすべなく抱きしめられた。やわらかい体に、肩が、顔が、ゆっくりと沈み込んでいく。
    「――ふふ!」
     耳元で名前を呼ばれる。それは毒のように、ゆっくりと体じゅうを巡っていった。
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