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    むつき

    @mutsuki_hsm

    放サモ用文字書きアカウントです。ツイッターに上げていた小説の収納庫を兼ねます。

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    むつき

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    ナイトプールイベントのフッキとヤマサチヒコ

    #東京放課後サモナーズ
    tokyoAfterSchoolSummoners
    #フッキ
    #ヤマサチヒコ

    お兄ちゃん対決 人工的な波の打ち寄せるプールの向こうには流れるプール。高さも長さもたっぷりのウォータースライダーに、飛び込み台の設置されているプールもある。この施設にあるすべてのプールを体験しようとすれば、到底一晩では間に合わないほどだった。
    「兄貴、次はあっちへ行ってみよう」
    「もちろんええぞ! おっ、なんじゃあ、滝があるのう」
     せっかく来たのだから、色々体験してみないともったいない。ゴム草履の足裏をぺたぺたと鳴らしながら、ヤマサチヒコとサモナーはプールサイドを並んで歩いた。
     泳いだりすべったりする合間、近くのフードワゴンに立ち寄っては、派手な色合いをしたドリンクを買ったり、揚げたてのポテトをつまんだりする。夜遅い時間にジャンクな軽食をとるなんて、普段の学生生活ではご法度だ。「いけない秘密」が増えるねなんて、冗談めかして言っては笑い合った。

     花火が打ち上がるのは一晩に一回だけかと思っていたが、どうもそうではなかったらしい。少なくとも一時間に一回の頻度で、火薬の炸裂する音がプールの上に響き渡る。いくつか並べられたデッキチェアへ横になると、視界いっぱいに花火が映った。
    「プールに花火。ここはいつまでも楽しめる場所じゃ。まったくすごいのう」
    「全然飽きないよね。何日でもいられそう」
     大小さまざまな形、辺りに立ち込める火薬のにおい。鮮やかな光に肌を染めながら、ふたり並んでじっと花火を見上げている。
    「ねえ、あに――」
     サモナーが今日何度目か分からない「兄貴」を言いかけた時、ふいに顔の横へ影が差した。
    「ふふ。楽しそうですね、君よ」
     ゆったりとした声が降ってくる。長身を軽く屈めるようにしてサモナーの顔を覗き込んでいたのはフッキだった。きっちりと筋肉をつけた肩の向こうから、長い髪がさらさらとすべり落ちた。
    「あっ……ええと、また会った、ね……?」
     上体を起こしつつ、サモナーは反応に困る。向こうはこっちをよく知っているらしいが、こっちは向こうのことをよく知らないのだ。並大抵でない好意を寄せてくれているらしいのはひしひしと感じる分、なんだかばつが悪い。
    「あんたは……」
     ふたりきりで過ごしていたところに突然割り込まれ、ヤマサチヒコも困惑の表情を浮かべた。実は今日何度かプールサイドですれ違っていたのだが、視線が吸い寄せられるのはサモナーの姿ばかりであったヤマサチヒコがフッキの姿に目を止めることはなかった。
     ヤマサチヒコに視線をすべらせ、フッキはにっこりと笑う。いかにも作り笑顔だと言わんばかりの口角の上げ方だった。
    「こんばんは。お兄ちゃんごっこは捗(はかど)っていますか?」
     含みのある物言いに、さしものヤマサチヒコも眉をひそめた。
    「僕はその子のお兄ちゃんですよ。唯一のね」
     ――お兄ちゃん。それも、唯一の。
     突然寄こされたのは思いもよらなかった情報で、ヤマサチヒコはあっけにとられる。
    「な、なぁ……。オイの他にも、兄貴がおったんか……?」
     これまで、自分が唯一の兄貴分かどうかを問うたことはなかった。けれどサモナーというのは、とにかく手を貸してやりたくなるし頼られたいと思わせてくる存在なのだ。よくよく考えてみれば、兄貴分の一人や二人、先にいてもおかしくない。
     頭ではそう分かっているのに、どうにも釈然としない思いが胸にうずまく。ヤマサチヒコは知らず知らずのうちにうなだれていた。
    「ヤマサチヒコ。あのね」
     隣のデッキチェアから手が伸びてくる。甚平を着た腕を、軽くつつかれた。
    「うん?」
    「別の世界で兄妹だったとか何とかって聞いたんだけど。でも自分にもよく分からなくって……」
     物腰やわらかな竜人は自身のことを兄だと言ったが、肝心のサモナーは妙な顔をしている。訳が分からず、ヤマサチヒコも首を傾げた。
     サモナーは、すぐそこに立って優越感たっぷりに微笑んでいるフッキと、すっかりへこんでしまったヤマサチヒコとをちらちらと見比べる。少しののち、意を決したように息を吸い込んだ。
    「……ちょっとやばめのお兄ちゃんなんだ」
    「お、おう……ちょっとやばめのお兄ちゃんかぁ……」
     妙な空気が流れた。
     その会話はフッキの耳に入ったのか入らなかったのか、彼は相変わらず余裕綽々の気配を漂わせている。サモナーが自分には何も話しかけてこないことに焦れたのか、甘い声で相手を呼んだ。
    「ふふ。可愛らしい声で、何をひそひそお話しているのです?」
    「何って、お兄ちゃんの話だよ?」
     フッキを見上げた顔は、無邪気な雰囲気に満ちて明るい。嘘は言っていないというぎりぎりのラインを、サモナーは攻めた。
    「そうですか……うふふ!」
     さもご満悦そうな表情を浮かべ、フッキは肩を震わせて笑う。続いてヤマサチヒコへと投げかけられた眼差しは物言いたげだった。視線はそのままじとりと貼り付く。それが相手の心を妙に刺激した。
    「ちぇっ、なんじゃなんじゃあ」
     ヤマサチヒコは半ば投げやりな声を上げる。喧嘩は得意ではないし好きでもない。けれど今まさに喧嘩を売られているような気がするし、だとすればそのまま黙っているのは漢としてどうなのか。ましてや隣でサモナーが見ている。それならばと、息を吸い込み、フッキを真っ向から見据えた。
    「別の世界……昔のことは知らんが、オイはここ東京でコイツと縁を結んだんじゃあ。つまり今のオイはコイツの兄貴分なんじゃ」
     過去のことばかり考えてそれに囚われていても仕方ない。新しい世界で何を見つけ、何を選択していくか。それこそが大切なのだと、ヤマサチヒコは新しいきょうだいに教えてもらったのだ。
     息巻くヤマサチヒコをよそに、フッキは依然柔和な表情をして微笑んだ。
    「そうでしたか。ええ、無論構いませんよ。新しい世界で新しい関係性を築くことは、僕の妹の成長を促すでしょう」
     喧嘩を売られたわけではないと、ヤマサチヒコはふいに気づく。目の前の男は、同じ土俵になど立ってはいないのだ。
     ヤマサチヒコの動揺をよそに、「つまり」とフッキは言う。
    「つまり貴方は、新参お兄ちゃんというわけです」
     つんと顎を逸らして言い放つさまを、じっと窺う。仮にもサモナーの兄だというのなら無下にもできない。なんなのだ、この男は。
     フッキはヤマサチヒコの反応などさして気に止めていないのか、すぐにサモナーへ視線を移した。
    「可愛い君よ。今夜のところは、新しいお友だちとゆっくり遊んでおいでなさい。飽きたらすぐにこの兄様を呼ぶのですよ。兄様ならきっと君を退屈させませんからね」
     歌うような調子で話しかける。当の本人はぎこちなく頷いた。

    「――ごめんね、ヤマサチヒコ」
    「んん……。いやいや、お前は何も悪くないじゃろうが」
     すっきりとしない思いを抱えつつ、それでもひとまず首を振ってみせる。サモナーは眉根を寄せて苦笑した。
    「悪くはない人だと思うんだけど」
     姿勢も良く、足の運びも優雅なフッキの後ろ姿を見送りながらぽつりと呟く。
    「でも今は、ヤマサチヒコ兄貴とデートしてるところだからなぁ」
     付け加えられた一言に、ヤマサチヒコの体温がゆらりと上がる。お兄ちゃんヅラをして首を突っ込んできた男のことで思い悩んでいる暇はない。肝心のサモナーが今の時間を「デート」だと認識しているのだ。かっこいいところのひとつやふたつやみっつ、早く見せてしまわないといけない。途端に汗ばんできた胸元をぱたぱたと扇いだ。
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