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    karen_nyamnyam

    @karen_nyamnyam

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    バルサーに放ったらかしにされたドルちゃんが寂しさを埋めるためにバルサーのぬいぐるみを買うお話です。

    甘えるのならぬいぐるみじゃなく ナイチンゲールの店には多彩なものが揃っている。
    衣装や携帯品、家具だけでなく日用品や試合で各々使うアイテムの材料、そして個人的な物まで。
    店内にある物でなくとも頼めば何でも届き、アンドルーは数日前から頼んだ物が部屋に届いたと聞いて、足早に自室へと戻っていた。
    部屋に入るとテーブルの上にあるイチハツの花が生けてある花瓶の隣に箱が置いてあり、スコップを壁に掛けては箱を手に取った。
    箱を開けば、そこにあったのは恋人のルカを模したぬいぐるみがあり、それを手に取ってはじっくりと見つめる。

    「……本当に、ルカそっくりだ」

    八重歯を見せた余裕のある笑み、腫れた左目、無造作に束ねられた髪……どれもが彼にそっくりで、アンドルーはそっと頭を撫でてみる。

    「ふふ……可愛い」

    綿が詰め込まれたふわふわの身体を抱きしめるとぬいぐるみの彼が何だか愛おしく感じ、アンドルーは小さな頬に頬ずりした。
    ルカは確かに恋人なのだが、ここのところ研究に没頭しがちでなかなか会話も出来ていない。
    とはいえ、アンドルーは彼の邪魔はしたくないため、こうしてルカにそっくりなぬいぐるみを買って寂しさを紛らわせているのだ。
    頬ずりするアンドルーを、ぬいぐるみのルカの目がじっとりと見つめているが、アンドルーはそれに気付かずただぬいぐるみを愛でている。


    ◇ ・ ◆ ・ ◇


    (……参ったな。まさかこんなタイミングで『バグ』の被害に遭うとは)

    ルカは朝から『バグ』の被害に遭っていたが、身体はどこも動かせず声も出せず、視界も真っ暗で何がどうなっているのか分からなかった。
    報告することが出来なければ、周りの人間にどうにかしてもらうしかない……発明に没頭出来ないのは非常に残念だが、『バグ』が改善されるまでは何も出来ないため、大人しくその時が来るのを待っていると。
    急に視界が白くなり、身体がふわりと持ち上げられ、目の前には恋人であるアンドルーが居たのだ。

    (アンドルー…… 何故私はアンドルーに持ち上げられて……これじゃあまるでぬいぐるみ……いや待て……今の私の身体……完全にぬいぐるみになっていないか……)

    アンドルーはまじまじとルカを見つめては「……本当に、ルカそっくりだ」と呟き、そっと頭を撫でては愛おしそうに微笑んでくれる。

    「ふふ……可愛い」

    頬擦りまでされて、ルカは普段彼にこんな風に甘えられることがないため、やや困惑すると同時に彼を抱きしめられないことにもどかしさを感じた。
    ルカの記憶にあるアンドルーは、いつも控えめに距離をとっていて、甲斐甲斐しく食事を持ってきたり服の洗濯をしてくれたり、それから部屋の掃除をしてたまにはちゃんと寝ろと小言を言う姿。
    手を繋いだりキスをすると、恥ずかしそうに頬を赤く染めては目を逸らす初々しく愛らしい姿。
    こんな風に穏やかに微笑み、素直に甘えてくるのは見たことがない。

    「……ルカ、今頃またブツブツ言いながら研究してるのかな」

    子供を抱き上げるように両手で高く持ち上げ、アンドルーは少し寂しそうに目を細めた。

    「……ルカの邪魔はしたくないけど……やっぱり……何日も話せてないのは……寂しい、な」

    アンドルーはいつも研究に没頭して放ったらかしにされても文句など一つも言ったことは無い。
    アンドルーが寂しさを感じているのを初めて知ったルカは、ピクリとも動かない瞼を見開くような気持ちになり、それと同時に恋人が寂しがっていることを察してやれなかった自分に腹立たしさを感じた。

    「でも、今日からはお前に甘えられるから……大丈夫だな」

    ぬいぐるみのルカを抱きしめて大事そうに何度も頭を撫で、ルカは恋人の寂しさを埋めるのが自分自身ではなく作り物に過ぎないぬいぐるみであることを不服に思った。
    けれど、アンドルーに寂しい思いをさせているのは他の誰でもない自分であり、こればかりは生活習慣を見直さなければどうにもならないが、直せる気がしないのも確かだ。
    このまま彼の寂しさを与えるのは自分で、その寂しさを埋めて癒すのはぬいぐるみなのだろうか。
    そう考えると、ルカの頭の中で浮かんだただ一つの言葉は『そんなのは嫌だ』だった。

    (早く戻って、今すぐ『私』が君を抱きしめたい。君の恋人は私だ、これではぬいぐるみが恋人みたいじゃないか。そんなのは許容できない、したくない)

    身勝手なのは重々承知している、けれども許せないものは許せない。
    これで本人よりぬいぐるみの方が好きだと言われたら狂ってしまいそうだ。
    早く、早く元に戻れ、戻れと強く念じると、ルカの視界は再び真っ暗になった。


    ◇ ・ ◆ ・ ◇


    ハッ、と目を見開くと散乱した机とピッタリと閉じられたカーテンからほんのりと陽の光が射し込んでいるのが見え、ここが自室だと分かったルカは飛び起きて部屋から出た。
    向かう先など決まっている、アンドルーの部屋だ。
    ノックもせず開けたせいでぬいぐるみを大切そうに抱きしめているアンドルーは驚いたように目を見開き、「ル、ルカ……」と慌ててぬいぐるみをベッドに隠す。

    「ど、どうしたんだよ、ノックもしないまま部屋に入ってきて……何かあったのか……?」
    「はぁ……はぁ……っ……アンドルー……」

    ルカはただアンドルーを抱きしめ、アンドルーは頬を赤く染めながら困惑したように腕を彷徨わせ、暫くしてようやくルカの背中に腕を回した。

    「ルカ……?」
    「……いつも応えられるわけでは、ないかもしれないが……」
    「え……?」

    ルカはアンドルーの細い身体をぎゅ……と抱きしめながら悔しげに呟く。

    「……ぬいぐるみよりも……私に甘えてくれ……君を盗られたみたいで、嫌なんだ……」
    「あ、えっ……? ぬ、ぬいぐるみのこと、何で知って……え……?」

    ぬいぐるみを買ったことやぬいぐるみに甘えて寂しさを埋めようとしていたことは、ルカには一言も話していないはず。
    それなのに、何故ルカは知っているのか……その答えを聞くよりも前に、ルカに「……返事は?」と言われてしまい、頷かざるを得なかった。

    それから数日後、アンドルーの部屋の棚にはルカを模したぬいぐるみが飾られていた。
    その隣にはアンドルーを模したぬいぐるみが置かれていて、ぬいぐるみ同士手を重ねて身を寄り添いあっていたのだった。
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