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    カリフラワー

    @4ntm_hns

    🐓🐺・🥴🐺
    作品はすべて全年齢向けです。

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    カリフラワー

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    12/17の新刊の書き下ろし部分サンプルです。
    話のタイトルは『Summer Rain』です。マーヴがルスと一緒に暮らす意思を告げる話です。
    ↓以下新刊の詳細↓
    ・『Rapture』
    ・文庫サイズ/330ページ程度
    ・全年齢向け
    ・900円(予定)
    ・web再録中心、書き下ろし2本収録
    ご参考になれば幸いです🐓🐺
    本になっても、どうか変わらず低ハードルでご覧ください。

    #TGM
    #ルスマヴェ
    rousmavet
    #レカペ2312
    #新刊サンプル
    samplesOfNewPublications

    12/17新刊サンプル2異常気象のためか、年を追うごとに太陽の光が鋭くなっている気がする。砂漠に住んでいるのは自分の選択ではあるが、針を刺すような日差しは勘弁してほしい。
    しかし愛機のメンテナンスはどんなに暑くてもやめられない。手洗い場では、パンチングボードに留められた写真が乾いた風にはためく。ブラッドリーの愛車、ブラッドリーの昼寝姿にブラッドリーの笑顔。隙間なく重ねられたそれらの写真は、彼が来るたび増え続ける。
    写真の数は僕とブラッドリーの関係を確実なものにはしてくれない。だけど一番上に貼り付けられた真新しい一枚に写る僕たちは、正直言ってかなりイケてると思うんだ。
    「そろそろ古い写真はどこかに保管しておかないとな」
    漏れる独り言。独りで生きていればこうもなる。

    僕はずっと、物事を真剣に受け止めない方法を学び続けていた。どんなこともあまり深入りしないように、夢中にならないように。夢中になっていいのは、相手が感情を持たないものにだけ。例えば飛行機、車、バイク。人間関係は? それは駄目だ。相手が僕に心を許した時、僕にはそれを受け止める力がないだろう。なら自分からだって相手の心に入り込むべきじゃない。この〝対等さ〟にずっと慣れ親しんできた。過去の相手もそれを了承済みであったり、察していたり、様々ではあるがやはり長続きしなかった。それなのに、ブラッドリーはそういう類の〝対等さ〟を受け入れる子ではなかった。僕が学んで身につけたはずの〝対等さ〟はいとも簡単に崩された。「そういう関係は俺たちには必要ないんだよ」今の僕はブラッドリーの言葉で変わった。

    「あ、これ……ふふ」
    風に吹かれる、〝Watch your head〟と書かれた蛍光色の付箋。トレーラーのドアの上部で注意を促している。あの子が何度も頭をぶつけていた場所だ。まだ剥がせずにいた。あの子は大きな身体を屈ませドアをくぐり、ほとんど客を入れたことがなかったトレーラーの中でぎゅうぎゅうになってうろついていた。トレーラーが狭いんじゃない、君が大きいんだよ、と僕は笑っていた。彼は買い足した皿やマグカップはおそろいの物がいいと言って聞かなかったし、服も何着か置いて帰った。慌てて電話で知らせれば、「ああごめん、忘れてた」なんて嘘をついた。僕はその嘘に喜んで騙されていたよ。
    付箋に触れ、軋むドアを開ける。中に入ると僕のものではない人間の匂いがする。部屋に染みつき始めたブラッドリーの匂い。まだあの子がここに居るような気さえする。キッチンの戸棚にはドアにあったのと同じ付箋が何枚も貼ってあり、あの子の額が心配になる。まるでそれが義務であるかのように、彼は至る所で頭をぶつけていた。今頃彼が痛みに呻いていないといいけれど。
    衣服を脱ぎシャワールームを開けると、目に飛び込んでくるのは知らないメーカーのバス用品。香りはもう消えているが、容器を開けなくとも簡単に思い出せる。シャワー中もあの子の大きな身体を思い出す。一人でも十分狭いはずだったこの空間が、一度彼と一緒に使ったせいで今は彼がいないと広く感じる。水流の中で目を閉じ、ラックに置かれたボトルを適当に選び中身を手に出した。シャワーブースに広がるココナッツとバニラの香り。そうだ、あの子はこんな香りだった。
    身体を拭き新しい服に着替え、トレーラーを出た。砂漠の風が濡れた髪を乾かす。車のキーを取り運転席のドアに触れると、そこにはブラッドリーの指紋。ドアを閉める時に手を置く位置にぴったりと重なる。僕が触れる位置とは少し違い、手のサイズも二回りほど大きくて、べたつく手汗が跡になっている。あの子が滞在中、彼は常に僕を助手席に座らせた。今は僕一人だ、当然だが自分で運転するしかない。行き先を思い出し鼓動が速まる。エンジンをかけて窓を開け、深呼吸を一回。車を走らせると、風がさっきより強くなっている気がして窓を閉めた。
    ミラー越しに遠ざかるハンガー。そこにはもう孤独で侘しくて、それでも人を気軽には受け入れられない自分は存在しない。一吹きで足跡が消える砂の中、あのハンガーのすべての場所にブラッドリーの消えない跡がある。至る所に彼がいる。
    「あれ……」
    雨が降り始めた。知らぬ間に黒い雨雲の中を走っていた。夏には珍しいが、間違いなくこの雨は季節を前に進めるはずだ。

    夏の雨に洗われた後、僕たちはどんな存在になるのだろう。彼は僕と一緒に暮らしたいと言った。夏が終わったら、砂漠ではないどこかで。秋からの勤務地はもう希望を出してあるらしい。僕も本当はずっと考えていた。いつまでもここで彼が来るのを待っているばかりではいけない、ここを去る日が来るはずだ、と。ブラッドリーはハンガーは持ったままにすればいいと言った。「マーヴはこのハンガーを手放したくない、そうでしょ? だってマーヴはこの場所で色々な人に守られてるんだから」グース、キャロル、アイス、写真に写るたくさんの人。彼が指折り呟く名前は、思い出の途上で消えてしまった人たち。たしかにみんな僕のハンガーにいる。僕の親友たる愛機も、出て行けば気軽には乗れなくなることを彼は理解している。だけどあの子は、僕を見守ってくれるもう一人の存在を忘れている。それはブラッドリー自身だ。今も生きて、新たな思い出と絶えない愛の言葉をもたらす人。ブラッドリーが僕を訪ねて来るたび、砂漠に建つあの大きな箱の中に彼の存在が隙間なく詰められていく。そんな場所を去るのは少し惜しい気もするが、そこにあるのは思い出であってブラッドリー自身ではない。
    「はあ……」
    またいつものように考え過ぎているのかもしれない。学んでいたはずの〝物事を真剣に受け止めない方法〟は、やはりブラッドリーには適用されないみたいだ。もしブラッドリーの気が変わって、彼が誰か他の人を愛するようになったら? またこの誰もいない砂漠に戻って来るのだろうか。そんな起きてもいないし起きるかどうかもわからないことに気が散り、考えるべきことを後回しにしている。「大事なのは、自分がどうしたいかだ」どこかの本に書いてあった。「マーヴの心からの望みを教えて」あの子もそう言っていた。
    「……一体僕はどうしたい?」
    降り続ける雨は僕の選択に確信を求める。スピードを落とした車内では、晴れた日より考え事をする時間が増える。雲は重いが、ブラッドリーのことを考えるだけで心は宙に浮かんでくすぐったい。ブラッドリーが僕の心をどれほど軽くするか、あの子に知ってほしい。ならどうすべきか。考えれば考えるほど、掬い上げたはずの様々な選択肢がこぼれ落ちていく。そうして最後に手のひらに残った選択肢は、正直言って意外でもなんでもなかった。だって今の僕にはこれしかないだろう。
    向かう先の空では雲が途切れ、徐々に明るさを取り戻している。雲の隙間から差し込む光はまるでブラッドリーの居場所を照らしているみたいだ。きっとあの光の下にブラッドリーはいるのだろう。
    助手席に置いたスマートフォンが着信音を鳴らした。電話の向こうからは雑音に紛れるブラッドリーの声。
    『マーヴ? 着いたよ』
    「了解、僕ももうすぐ着くよ」
    やはり雨の日の移動は想定より時間がかかる。
    『急がなくていいよ、ゆっくり来て』
    どうして今僕が車のスピードを上げたことが彼にわかったのだろう。いつもそうだ。彼は僕の声や言葉の間ですべてを理解してしまう。それができるのは僕の方だったのに。
    「いつもの場所で待っててくれるか」
    『了解。いつもの場所、いつもの席ね』
    同じ場所を想像して笑い合う。お決まりの場所を共有できる嬉しさが、少し前までの僕にわかるだろうか。
    『マーヴ、電話繋いだままにしていい?』
    「いいけど、もうすぐ会えるよ」
    『うん、わかってる。でもマーヴが運転する音を聞いていたいから』
    「それももうすぐ直に聞けるよ」
    言いながら笑うと、いいから繋いでて、とブラッドリーも笑った。君がそう言うのなら。
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    カリフラワー

    MENU12/17新刊サンプルです。『今日の同棲ルスマヴェ』ツイート群をSSにしたものの第1巻です。(来年作る予定の『同棲ルマ』ツイログ本とは別物になります)
    ・『Past Ties, Present Love / The Diary of Roosmav 1』
    ・A5/62ページ/全年齢向け
    ・400円(予定)
    ・ほぼすべて書き下ろし
    本になっても変わらず低ハードルでご覧ください。
    12/17新刊サンプル3※連続した日々の記録ではなく、ある一日を日付を特定せず抜き出したもの(という設定)です。
    ※二人の薄い設定としては、ルスはノースアイランドでトップガンの教官をし、マーヴは退役後乗り物の知識と趣味が高じて車やバイクの修理店でバイトしている(免許とか取りそうだし…)…みたいな感じです。

    ※上記の設定は完全に筆者の趣味であり、設定を無視しても問題なく読み進められる内容になっていますので、どうしても二人の設定が気になる!という方はご参考までにどうぞ…笑

    ↓以下本文↓


    ―マーヴとの生活は、言ってしまえばとりとめのないものだ。愛する人と生活しているからといって、毎日重大なことが起こるわけではない。ただ、何も起きない日にもマーヴはここにいて、何も始まらず何も終わらない日々にマーヴという唯一の奇跡が光るのだ。
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