愛しい痛み ガタンと大きなひと揺れの後、ピタリと静止してしまった大型観覧車の中で俺と焦凍はこんがらがった状態で床の上。
『ちょ、大丈夫か、勝己!』
ン、焦凍が庇ってくれたから大丈夫。っていうかこれ事故、それとも地震とか?暫くグラグラ揺れていたけれど、それ以上揺れが酷くなることはなく、気が付けばBGMも止まっている。
『完全に運転停止しちまったな』
スマートフォンで調べる限りは地震などの大きな天災は起きていなさそう、だったら機械のトラブルだろうか?なまじテッペンで停まってしまっただけあって他のゴンドラの様子が解ンねェけど、きっとそんな類だろう。それにしても、
(強く抱き締めすぎだって)
おそらく無意識なのだろう、その後暫くお待ちくださいっていうアナウンスが流れた所でやっと俺を抱きしめていた焦凍の手が緩んだくらい、全く焦凍は心配性が過ぎる。俺だってバスケで鍛えてんだし、その辺の高校一年生よりは強ぇのに。それを主張してみると、
『解っていても心配になっちまうんだ、勝己は可愛過ぎるからな。それよりこの状況が俺と2人だけの時でマジ良かった、もしもこれが勝己の部活の奴らと一緒とかだったら今頃俺は観覧車をぶっ倒しにかかってる』
ぶっ倒すって何そのコミックみたいな発想?でも焦凍なら欄干をよじ登ってきそう…ヤバ、焦凍ならマジでやりかねない、
『つーか、俺が焦凍以外と遊園地に来るとかねェし、こんな密室に他人と一緒に入るわけねーじゃん、焦凍は心配し過ぎなんだよ』
ちょっとは俺を信用して欲しいと思うけれど、実際襲われることが多いのも事実だから強くは言えない。チクショウ、それもこれも全部この第二の性のせいだ、俺のオメガの性が人を惹きつけてしまうから。
(だから焦凍はこんなに心配性になっちまったンだ)
そう思うと申し訳なくて、でも俺が卑屈になったら焦凍が悲しむから俺はそんな心配性の焦凍を揶揄うことしか出来ないし、そんな俺を見る焦凍の顔に段々と余裕がなくなっていくのが解る。もちろん俺もー
こんな狭い空間に、如何にも恋人同士が好みそうな空間に2人きりで閉じ込められたらどうしたってエッチな気分になってしまう。ほら、焦凍の手が俺の頬に伸びてきて触れただけで俺は動けなくなっちゃうし、顎に指を掛けて持ち上げられれば自然と目を閉じてキスを待ってしまうのだから。
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さっきから勝己の様子が少しヘンな気がする。
(キスし過ぎたか?)
酸欠にならない程度にしておこうと思ったのに、あまりに勝己が可愛すぎてあと少し、あと少しだけと重ね続けたのがいけなかっただろうか?観覧車のシートに身を預け、身体を両腕で抑えるようにして小さくなっている様子はどこか幼気(いたいけ)、心配になって無理やり上げさせた顔は耳までピンクに染まって超絶色っぽい。潤んだ紅の瞳、しっとりと濡れた唇、その口角から緩やかに滴る涎、そしてズクンと身体を駆け抜ける甘い甘い匂い、これはー
『もしかして、ついにヒートがきたのか?』
『解らねーけど、なんか身体に力入ンねェ、あと』
絞り出すような声で股間を抑えながら立ってるって囁かれ、俺の中のアルファが身体を駆け抜ける。
『ごめん、俺がこんな風になったら焦凍は苦しくなっちまうよな、待って、薬、飲むからぁ…』
震える手で鞄の中を弄り何とかカプセルを口に放り込むも水筒の水を零してしまう勝己を助けてやりたいけれど、今、こんな状況で、抑制剤を飲む前の勝己に触れたらきっと俺は止まれねえ。もしかしたら本能よりも意志の方が勝てるかもしれねえけれど、迂闊に動いちゃダメなんだってことは、勝己をお嫁さんにもらうと決めた時沢山勉強したんだ。
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何とか薬は飲めた、あとは薬が効いて発情が治るのを待つだけ。
『服がビショビショだ、これを着ろ』
うぅ、有難いけれど今焦凍の匂いをダイレクトに嗅いだらきっとそれだけでイってしまう。
(そういえばまだ巣作りしたことない)
いつかちゃんとヒートがきたら焦凍の服を幾つか借りなくちゃ、でも焦凍の匂いに包み込まれたいだなんて、そんなのちょっと変態っぽくて恥ずィ…
『勝己?着替えられないくらい力が入らないなら手伝うぞ』
大丈夫だと返事したいけれど、身体に力が入らないし多分今は立てない、どうにかチンコは治ってくれたけれど、これじゃ焦凍に抱っこされて観覧車から降りるのは確定だ。お姫様抱っこにすっかり慣れてる男子高校生ってのもどうなんだろう、あーあ、何かもう散々だ、全く、も、ヤダ…
『かつき、泣きそうな顔してる』
ンなことねェからって言った側からスルリと俺の手をとり、俺の指と指の間に少し骨ばった指をそれぞれ滑り込ませてこれ以上ないくらいピッタリと手を繋いできた焦凍を俺は振り払うべきなのか、そもそも振り払えるのか?
(しょうとを振り払えるワケねーじゃん)
俺はいつだって焦凍を望んでいる、この心も身体も何もかもが焦凍を欲しがっているのだ。今赤ちゃんができるようなことをしたら焦凍と引き離されてしまうから、だから必死に拒まなくちゃいけないって解っていても、どうしても焦凍が欲しくなってしまう。
『ハァ、堪んねえな、俺もお前もすげぇお預け食らってさ』
ずっと見ないようにしていた焦凍のチンコはすっかり立っている。
『無事にここから出られたら、気持ちいいこと沢山しような』
今はこれが精一杯だって、ぎゅっと恋人繋ぎを深める焦凍の手は痛いくらい力が込められていて、その痛みがまた俺の身体にじわじわと浸透して心地よい。ああ、俺はきっと焦凍に与えられる何もかもが気持ちよく感じてしまう、きっとこの身体はそういう風に出来ているのだ、焦凍のお嫁さんになると決めた時から。