阿吽の呼吸「よし!終わった!」
予定よりも早く終わった論文を保存してPCを閉じる。
慌てて胴着に着替えて、ぐっ、ぐっ、と何度か屈伸をすると窓から飛び出した。
あれから修行をし直した僕はピッコロさんに仕事と家庭と修行を全て両立できなければ修行しないと言われてしまった。
うそ、と項垂れる僕にお前ならできるだろう?なんて言われればやらないわけにもいかない。
そんな無茶振りは結果的に僕の生活を正すいいきっかけになった。
元来、夢中になりすぎてしまう癖も、その約束を思い出せばある程度で我にかえることが出来るし、身体を鍛え始めたことで集中力もぐっと上がった。
そうしてできた時間でパンやビーデルさん、ピッコロさんとの時間を取れるようになってやっぱりピッコロさんはすごいなぁと思うばかりだ。
そうこうしてるうちに眼科に見えたピッコロさんの浮かせた岩の上に降り立った。
「お待たせしました!」
「終わったのか」
「はい!」
僕の返事にピッコロさんは嬉しそうに含み笑う。
じゃあやるかと構えられて、瞬間、飛びかかる拳をかわして、こちらも拳を振った。
当たれば受けて、カウンターを打ち込む。
それを受けられて飛んでくるカウンターをこちらも受ける。
自分の汗が弾けて飛ぶのまでわかる動体視力の中で、ピッコロさんの楽しそうな顔もはっきり見えていた。
手加減なしで打ち込んで交わしあう言葉以上のコミュニケーション。
懐かしさを感じながら、僕もきっと笑ってるんだろうと思った。
闘うのも、争うのも好きじゃないけど、ピッコロさんとする修行は昔から嫌いじゃなかった。
それがきっとこの人の言葉にしない心のうちを一緒に見れた気になるからだろうなんて、言葉にできたのは本当に最近だけど。
ピッコロさんの拳が眼前に飛んでくる。
かわしきれず吹っ飛んだ僕の所にふわりと降りてきたピッコロさんは楽しそうに笑う。
「まだまだ鈍ってるな。今の生身なら俺の方が強いんじゃないか?」
「そりゃそうですよ、ピッコロさんは…」
浮かんだ言葉を飲み込んだ。
その尊敬の意はきっとわざわざ言わなくても伝わるだろう。
へへ、と頭をかいた僕に手を差し出す。
それに捕まって立ち上がった僕を目一杯の力で空に放って、懐かしいだろうと笑ったピッコロさんに悔しような嬉しいような気持ちでやりましたねと叫んだ。
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論文の締切前は篭りっきりになっていた頃の悟飯君は最終日は大抵ソファに顔から沈み込んで行き倒れてた。
大分マシになってきた最近でも、心配になってついついこうして覗きにきてしまう。
「悟飯君、終わった?」
いつもよりほんの少し重たい扉を開けると、ぶわっと風に煽られて資料が飛ぶ。
ぱたぱたとカーテンを煽って舞い込む風。
開け放たれた窓に悟飯君の行き先を悟る。
「いいなぁ。私も行こうかなぁ」
散らばった資料をかき集めて、飲みかけのコーヒーを煽った。
そのまま空っぽのソファに座ってあんまりにいい天気を仰ぎ見る。
探った先の気は楽しそうで、邪魔しない方がいいかしらとコーヒー飲み干すと窓を閉めた。
-阿吽の呼吸-