悪戯防止のプレゼント「ごはんさーーん!」
「にいちゃーん!」
「パパー!!」
「「「トリックオアトリート!!」」」
珍しく修行に精を出す悟飯目掛けて飛んできた3人が揃って同じ言葉を口にする。
そのままの勢いで突っ込んでくるパンに、悟飯は宙でぐるりと後転して衝撃を殺し、受け止めた。
悟天とトランクスはその直前でぴたりと止まって2人を見下ろすように腰を折る。
「お前たち、まだやっていたのか」
そう、このドラキュラと狼男、それから小悪魔の3人は朝早くに俺の家に来て同じ事をして帰っていった。
トリックオアトリートと言いながらその実、菓子が欲しいだけのようで、菓子を出すまで帰らんと3人揃って床に転がり出したのを見て、仕方なく魔術で出した菓子を持たせて追い出したのだ。
それがこんなところまで来て、今度は悟飯にも同じように強請るのを見て、全くいつまでも子供だなと息をつく。
「あったりまえだよ。今日は全部の大人からお菓子を貰うまで帰れないんだから」
「ピッコロさんは?他に誰かにあげたの?」
「…お前たちのせいで二号にも言われたな…まぁ、別に構わないが…」
3人に聞いたんだけど!と目を輝かせながら訪ねてきた二号にも同じように菓子を出してやったのを思い出した。
二号は逆にそれが少し不服そうだったことも。
「あー、ごめん。これしかないな。パンだけでいいか?」
ポケットを漁って黒い飴を1つだけ取り出した悟飯はそれをパンに持たせる。
パンはにやっと笑ってそれを両手に包むと悟飯から離れてふん、とふんぞりかえった。
「だめだよぱぱ!2人の分がないならお仕置きだよ!」
「悪戯だよ、ぱんちゃん。でもそうだね、にいちゃんには悪戯しちゃおっ」
かかれー!と2人に合図を出した悟天に従って3人で悟飯に群がる。
わわ、と両手を上げた悟飯の脇腹に手を差し込んだ3人はそのままわきわきと揉みしだいた。
「あっ!!ひっ!!ちょっ!ちょっとまっ!!ひひっ!!ちょっとまってって!!はははっ!」
身体を前後に振って逃げだそうともがく悟飯は気のコントロールがうまくいかないのか、ぐら、ぐらと揺れながら高度を落とす。
それに構わず擽りつづける3人に悟飯の悲鳴が荒野に響いた。
「あっ!も!ちょっと!!あはっ!はっ、はひっ!ま、まって!!ホント!擽ったいって!!」
「だめだよぱぱー!悪戯が嫌ならお菓子頂戴!!」
「悟飯さんて擽り弱いんだ!すげー意外!」
やめてやめてと手を振る悟飯に止める気配のない3人。
それを見て、やれやれと肩をすくめて、ぴっと菓子を出してやった。
「あっ!」
「それをやるから離してやれ」
目の前に出てきた菓子を受け止めて手を止めた3人に、はぁ、はぁと肩で息をしながら眼鏡を押し上げて涙を拭う悟飯。
3人はお菓子を片手にぶつくさと文句を言い始めた。
「もー!ピッコロさん邪魔しないでよぉ」
「ピッコロさんはホント悟飯さんに甘いなー」
「ねぇ。にいちゃんばっかり贔屓してさぁ」
「別に贔屓なんてしとらんだろ。なんだ?そんなに言うならお前たちも一緒に修行でもつけてやろうか」
ん?と覗き込んで笑えば、トランクスと悟天はぶんぶんと首を振った。いつもは修行を嫌わないパンも今日ばかりは2人と遊ぶことが勝つのか、じゃあもう行こう、と2人の袖をひく。
結局3人は俺が出した菓子を朝と同じように口に頬張って、満足したようにじゃあまたねー!と手を振って去っていった。
「…で?お前はいつまでへばってるんだ」
「…は、はは。ありがとうございます…」
腹を抱えて前に屈む悟飯が、下がった高度を持ち直し、俺の目線まで上がってくる。
3人がくる前までの凛々しい表情が嘘のようにいつもと同じかそれ以上にくしゃくしゃになった髪や衣類。
全く、とため息をついてぴっと指を振ると、佇まいを正すついでに、悟飯の前にも菓子を出してやる。
「え、」
「持ってろ。また同じ目にあうかもしれんだろ。余ったら好きに食えばいい」
「わぁ!ありがとうございます、ピッコロさん」
子供のように無邪気な笑顔にふ、と口角が上がった。
3人の言う通り悟飯に少し甘い自分にチッと舌打ちをして、それをいそいそとポケットにしまい込む悟飯に気功波を放つ。
両手の塞がった悟飯がばっと気で空気を蹴って飛び上がるのを見届けた。
「さぁ、続きをするぞ!」
「は、はい!」
悟飯はさっと臨戦体制に入る。
その後の修行がいつもより厳しいものになったのが、このやりとりのせいであることを悟飯はきっと知らなかった。
ー悪戯防止のプレゼントー