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    けがわ

    @kawaii_hkmr

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    けがわ

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    罰ゲームの話「じゃあ罰ゲームは、アンドルーとルカだな!」

    ウィリアム・エリスの陽気な声が食堂に木霊した。それに対し、只でさえ白い顔を更に蒼白にして、まるで今にも世界が終わってしまうかのような失望した顔の男が一人。反対に、すでに飲酒が進み既にしっかりと出来上がっている男は、机に頭をつけながら表情は見えずに転がっていた。

    このように閉鎖された荘園では、少しの楽しみだって骨の髄まで貪るのが鉄則なのだ。荘園で定期開催とされている男性サバイバーのみが集まる作戦会議、もとい宴会は本日も深夜まで行われていた。月に一度、医師のエミリー・ダイアーの目を盗んで行われるどんちゃん騒ぎは、それはもう当日も翌日すら酷い有様だった。酒瓶はそこら中に転がっているのは当たり前で、何なら床や廊下に人間が転がっていることだって、見慣れた光景だった。
    宴会に不向きであったアンドルーは、無理やり酔っ払いにドアをこじ開けられ部屋から引き釣り出され、ここに来たことを酷く後悔していた。ただでさえ荘園の命がけのゲームに参加させられていると言うのに、プライベートですら理解出来ないようなゲームに参加させられ、他人から要らぬ注目を浴び、笑い者にされるのは真っ平御免であった。しかし、アンドルーが食堂でふと目についたものと言えば、宴会までに何度の徹夜を経て参加した為、焦点が合わなくなるほど飲まされている、恋人のルカ・バルサーの存在であった。アンドルーとて、鬼ではない。このままではルカが翌日、食堂の隅に打ち捨てられた人間の一人になることは想像に易かった為、それを拾いに来ただけに過ぎない。それなのに、いつの間にか、ミイラ取りがミイラになっている。アンドルーは(帰りたい。)と何度目かの溜息を付いた。
    アンドルーは、自分が酒に弱いことは以前の宴会で重々承知であった。何をしたのか、はっきりとした記憶が無いのが救いであったが、逆を返せば他人の記憶だけに残る自分を語られる程不安になるものは無かった。ルカには自分と同じ轍を踏んでほしくない、その一心でやってきたのに、今ではいつの間にか宴会の中に混じって、酒を飲むふりをして、ちびちびと水を舐めている状態だ。ちらりとルカを眺めると、頭をぐらぐらと揺らしながら陽気な男たちの輪に混ざって更に飲酒を進められている。アンドルーは(すまない、僕には止められないけど、死体だけは拾ってやるからな。)と席に座り続けた。

    そんな最中である。『王様ゲーム』と言ったよくわかないゲームに、アンドルーが巻き込まれたのは。ルールの説明も碌に無く始まったそれは、アンドルーは勿論参加していないと思っていたのだが、どうやらこの手元にある数字が書かれた紙が参加の合図だったようだ。何度か『王様』の命令を受け、無理難題をこなす男たちを横目で嘲笑ったが、まさか自分の番号が当てられるとは思っていなかったアンドルーは、目を見開いた。
    「ぼ、僕は参加してないぞ。」
    なんて反論してみたが、理性を失くした男達がそれを聞き入れる訳がない。冒頭のウィリアムの非情な言葉に、アンドルーは顔を白くした。しかし、今相手はルカと言ったか。アンドルーは、既に机に突っ伏していたルカをじとりと睨んだ。丁度良く潰れているルカを指さして「ルカなら既にあの状態だ。ゲームは無効だ。」とウィリアムに訴えたが、目が座っている様子の彼は、アンドルーの肩を痛い程の勢いで叩くと「王様の言うことは、絶対なんだぜ、アンドルーさんよぉ~。」と返される。椅子を立ち、アンドルーが一歩、二歩と後ろ足を決め込むと、背中にドンと当たる影があった。同じ救助職のナワーブであった。ナワーブも既に酒に飲まれており、「お前、さっきの俺とノートン見ただろうが。お前だけ逃げんなよ。」と、アンドルーが知ったことでは無いことを根に持ち、恨みがましく下から覗き込んでくる。この筋肉を体中に身にまとったような男達に挟まれては、アンドルーにひとつの逃げ場も無かった。それどころか王様であるノートン・キャンベルはゆらりと揺れながら、ルカの首根っこを掴み「ほら、起きなよバルサーさん。あんたが次罰ゲームだからさぁ。」と、話しかけている。ノートンも、煮え切らないルカとアンドルーにしびれを切らして来たのだろう。王様ゲームの中では忌み嫌われている「ねえ、あんまり手かかるなら、キスしろって言う指示にしちゃおうかな。」と冗談交じりに言う。

    その瞬間だった。がたりと椅子を揺らしてルカが起き上がる。勿論理性など欠片も残っていないようで、足取りは覚束ないがゆらゆらとアンドルーの元に確かに近づいてきている。アンドルーは、嫌な予感がした。周りの皆の持て囃す声が遠くに聞こえる。逃げたいと言うのに、ナワーブが背中を押すため、後ろに下がることも出来ない。
    「お、おい!何する気だ。ルカ。考えなお、」
    アンドルーがルカに改心を訴えた次の瞬間だった。長身のアンドルーの顔を掴むように乱暴に両手で包み込んだかと思うと、迷いなくその唇にキスをしたのだ。歯ががちりと当たり、アンドルーの口内から鉄の味が滲む。アンドルーからは驚きと羞恥で「んん!?」と悲鳴のような非難の声が響く。
    しかし、これには周囲からは歓声が上がった。「男らしいぜ!バルサーさん!」「渋る間もなく、やってくれるな。」と好意的な笑いが起こり、何が面白いのか乾杯するような金属の音が響いた。楽しい雰囲気が流れたのもつかの間、飲み干したグラスが机に置かれ歓声は止み、ちらりと振り向いて尚、暫くしてもルカが口を離さなかったのだ。ナワーブはキスをした時点でアンドルーの背後から退いたと言うのに、そのアンドルーの瞳がとろりと落ち始めている。大方ルカの口内の大量のアルコール程度で酔っぱらったのだろうと推測したが、それは所謂ディープキスと言うものだろう。角度を変え、噛みつくように何度もアンドルーの口を啄むルカに、(何か、慣れてないか。)と一同首を傾け始める。その空気が怖くて床に視線を落としていたウィリアムだが、アンドルーの「んっ」と言う声と、ぴちゃりと言う水温で、流石にルカを止めようと、ボールは無いがタックルでもかますかと視線を上げた最中。ナワーブがルカの首を軽く叩いたかと思うと、電池の切れた人形のように床に転がっていく様子が見えた。アンドルーはと言うと、酸欠と酔いにより、ふらりと椅子に座り込んだかと思うと、机に頭をゴンと言う音と共に突っ伏してしまった為、一瞬で寝てしまったのかもしれない。先ほどの盛り上がりと反対に、静寂が食堂を包んだ。
    「なんか、酔い覚めちゃったね。」
    なんて言いながら、それでも更にグラスに口を付けたノートンに「ああ・・・。」とウィリアムは同意する。「とりあえず、こいつら部屋に投げてくるわ。」とナワーブが酔っぱらっているにも関わらず、小柄な背丈からは想像できないほどの怪力で、ルカの足を持ったかと思うと廊下を引きずっていった。残されたアンドルーがすうすうと寝息を立てているのを見て、「あんた、大変なんだな。」とウィリアムは語り掛けたが、首裏に残されたキスマークを見つけ、あーあと首をがくりと落としたのだった。
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