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    けがわ

    @kawaii_hkmr

    文字書いたり、あまりないと思いますが絵を描いたりします

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    けがわ

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    自主練

    髪を切る話シャキ、シャキと音がする。鋏を使う音だ。
    横からチョコレート色の髪がはらはらと舞い落ちていく。ルカは歌うようにして「短くし過ぎないでくれよ。」と無遠慮に注文をしてくる。僕は、「だから僕に髪なんか切らせるなって言っただろ。」と文句を垂れた。

    ・・・

    普段は適当な女性サバイバーや、友人であるビクターに手を借りている僕達だったが、今日は違った。ルカの部屋にたまたま来た時に、突然頭を掻きむしったかと思うと、「ああ、発明が進まない。頭が痛い、髪が伸びた。アンドルー、良いところにいるね。」と呟いたかと思うと、裁ちばさみのような大きな鋏をすっと僕の前に差し出したのだ。
    何を切断していたのか知れるような、オイルなんかが付着した鋏を差し出され、「え。」と一拍を置くと、「今すぐ髪の毛を切ってくれ。君の思うように。」と、やや虚ろな表情でこちらをじっと見つめたものだから、流石に休んでくれと言わざるを得なかった。

    ルカを無理やりベッドへ連れていき、手を握っていると嘘のように直ぐに眠りの淵に旅立った。目の下は色黒く隈を携え、痛々しい程だった。僕はルカの頭を撫でてやる。
    しかし、確かにルカは髪の毛が伸びた。普段は一くくりにまとめている為、分かりにくいが、前髪が特にだらりと目にかかって、見え辛そうに時々髪を振り払っている様子を見かける。僕は意を決して、自室に戻るとルカが渡したものよりは手のひらに収まるサイズの鋏を持ち出した。

    ・・・

    そして、現在に至る。
    一度寝たルカは機嫌が穏やかで「髪?別に切らなくても良いが。」とは言ったが、折角持ってきた手前、僕は「切るぞ。」と借りてきたケープを首に巻く。

    そして大きな錠がかかったルカの首輪が鋏に当たり金属音を鳴らしたことで気付く。怖くは無いのか?と。

    怖いだろう、視界を後ろにして鋏を持った僕みたいな陰鬱な男が居たら。何も考えずにルカに危険を敷いていたことを僕は恥じた。化物のような男が後ろでに凶器を持っていたら、恐ろしいだろう。自分の想像力が足りてないことに対して、今更ながらゾッと寒気がする。人の信頼が自分に無いことを実感するのが怖く、僕は張り切って持って来た鋏を降ろすと「やっぱり。」と固唾を飲んだ。

    それだと言うのにルカは僕のそんな思考を見抜くように優しく「アンドルー。」と名前を呼ぶ。僕は叱られた子供のように肩をびくりと跳ねさせた。ルカはくるりと振り向くと、「良いんだよ。」と、笑った。何が、良いと言うんだ。と思ったが、僕はぽかんと口を開けた。

    ぜんぶ、全部が許されたような気になった。
    ルカが唐突に止まった僕を見て何を思ったか、それこそ僕の考えが読めたか何て全く分からないと言うのに、僕は何故だか目を見開き固まったのだ。生きていることを許されたような気になった。ここに居ても、ルカの傍にいても良いような気がしたのだ。

    「・・・前を向け。」と言うと、「はいはい。」と二つ返事でルカは素直に前を向いた。
    脇程に伸びたルカの毛を梳く前に時間を要した。何故なら僕は間抜けにも、この男の後ろで泣いていたから。ルカは知ってか知らずか、なかなか手を付けてこない僕に対して言及するでもなく、歌うように「短くし過ぎないでくれよ。」と無遠慮に注文をしてくる。僕は、鼻声を誤魔化しながら、「だから僕に髪なんか切らせるなって言っただろ。」と文句を垂れた。
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