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    けがわ

    @kawaii_hkmr

    文字書いたり、あまりないと思いますが絵を描いたりします

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    けがわ

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    隠し味は愛情ルカは冷めた硬いパンを奥歯でガリと噛み締めた。スープに浸せばいくらかマシになるものの、皮の分厚いそれは腹を満たせばそれで良い。脳に糖分を回すためと作業的に飲み食いすることに、特にこれと言った娯楽も無く、倒れない為にと生命活動の維持の為だけにそれを口に運ぶ。租借する、嚥下する、消化する。特に何も感じることは無い。ただ食事と言う行為だけに取り組んでいただけだ、と言うのに。

    コンコンコンとノックの音が三度響く。

    「ルカ、今良いか?」

    聞こえてきたのは、どこか幼げな印象の残る男としては高音の声。真っ黒い衣装に身を包んでいるアルビノの男は、ルカが「ああ。」と返事をすると恐る恐る扉を開けた。手が塞がっている為、足を使って入って来たのだが、器用にも扉が音を立てずに閉められる。トレイを持っている上には、今作って来たのか湯気の立ったスープと少量のサンドイッチが置かれていた。視界の悪いアンドルーは散らかった机に近付くとやっと申し分程度に残った食べかけのパンに気付いたのか、「あ。」と居心地が悪そうに持って来た食事を隠そうとした。ルカはそれを見逃さずじっと覗き込むと「美味しそうだな。」と笑った。

    「でも、自分でもう食べていたんだろう。ひ、必要無かった。」
    「いや、食べていたと言ってもこれっぽっちだ。それは私の分は無いのかい?」

    綺麗に二つ分用意されているカップと食器に指をさすと、アンドルーはうっと言葉を詰まらせた。居心地が悪くなってきたのか、トレイは緩やかな動作でルカの前に差し出される。
    コーンが申し分程度に浮いた質素なスープ、そしてハムやレタスが挟まれたサンドイッチ。サンドイッチに関してはパンの質はそこまで変わらない。硬い部位から、削ぎ落して柔らかい部位を使っている、だと言うのにルカには、それはとても美味しそうに見えた。

    ぐう。大きく腹の虫が無く。アンドルーは「ふ、ふふふ、よっぽどでかい音だな。」と口元を抑えて笑った。ルカは「本当だ。いきなり腹が減って来た。」と苦笑いをして、これ以上揶揄われる前にとアンドルーの言葉を上塗りした。先ほどまで食べていたものとなんら変わりない。だと言うのに、アンドルーが用意した食事は暖かで色が付いたような気配を感じる。
    食事を前にして、胸元のネックレスに祈りを告げる。ルカは信者でもないが、アンドルーの前では真似したように、共に神に感謝し祈りを捧げた。

    スプーンでコーンスープを一口。ふわりと香る良いコンソメの匂いと、荘園では珍しいベーコンが沈んでいたそれをかき上げて食べる。温かい。ふう、と吐息を漏らしてまた一口食べる。向かいには舌を火傷したのか、アンドルーが顰めた顔をしてカップにふうふうと吐息をかけている。それをルカは笑い、パンを一口噛むが、やや硬いのは変わらないのだが挟んだレタスのせいだろうか水が抜けてややしんなりとしており食べやすいと感じた。八重歯を尖らせて大きな口を開けてかぶりつくと、奥の方からトマトやチーズの酸味が伝わってくる。アンドルーは口が小さいため、奥の方からぼたぼたと零していたが、最終的にはフォークで掬い取って全てを体に運んだ。

    「ごちそうさま。」
    指を組んで挨拶を。どうしてだろう、先程までモノクロの世界で食事をしていたはずだが、何も満たされず美味しい美味しくないとも思っていなかったと言うのに、アンドルーが部屋に持って来た料理はこんなにもルカを温め腹を満たす。そうアンドルーにそのまま伝えてやると、彼は「まあ、特別な調味料が入っているからな。」と答えた。

    「ほう、それは何だい?効率の良い栄養補給に丁度いい。私に教えてくれ!サプリか?薬か?」
    「違う。ちゃんと考えろ。」
    「ううん、なんだろう・・・。そもそも作ったのは君なんだろう?君が入れるものか。何だろうな。」

    食器を片付けながら、アンドルーはルカの返事を待っていたが結局は戻ってこない。全てを整えてルカの部屋から出ていこうとするアンドルーは痺れを切らしたのか、膨れたような面でルカに近付いた。そして目をすっと瞑ると、ルカの唇を柔らかく奪ったのだった。ルカの唇は最後に租借したスープのベーコンの味がした。ちゅ、と柔らかく音を立てて唇を食みそれを介抱すると、アンドルーは恥ずかしげに頬を染めて呟く。

    「僕が込められるものは、これしかないだろ。馬鹿野郎。」

    照れ隠しにと颯爽と食器を持って部屋から出ていくアンドルーを後目に、ルカは自室で「解けたぞ、アンドルー!隠し味は、「愛」ってやつか!」と口に出して解答する。ルカの大きな声の言葉を聞くことなく、アンドルーは(うるさい!)と、すたこら食堂へ逃げ帰ったのだった。
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