髪を乾かす前に大浴場でエッチする話(仮)イングランド棟 大浴場。
「んでさ、あの後半のパスだけど、次はもうちょい低めでもいけると思うんだよな」
「うん」
薄白い湯気が立ちこめる中、広い湯船から、2人の会話の隙間でちゃぷ、ちゃぷ、と水面が波打つ音がする。
さっきまでラッコみたいに仰向けで湯船を泳いでいた凪は、湯船の縁に背をつけて足を伸ばすと小さくバタ足をしている。
隣に凪がいる。
隣で凪の声がする。
それだけで自分の口角が上がるのがわかる。
「レオ、ごきげんだね?」
ふふっと凪が小さく笑う。正確には"笑ったように見える"程度の変化だが、凪の表情の変化を俺が見逃す訳がない。
「ん?」
「鼻歌歌ってた」
仕方ねぇだろ、実際嬉しいんだし。同じように湯の中で足を伸ばすと、凪が肩に頭をのせてくる。
「れお〜」
まったく、俺の宝物は甘えたがりなんだから。
お前だってごきげんじゃん。
「髪、浸かってない?」
「うん。ちょうどいい」
凪の髪が水面につかないように、ちょっと背筋を伸ばして肩の高さを変えてやると、すりすりと擦り寄ってくる。
「お前さっきからずっと浸かってるよな?熱くない?」
「この温度ならへーき。ずっとここにいたいくらい」
「凪は風呂好きだもんな」
「浸かってるのはめんどくさくないからね」
問いかければ答えてくれる。
あんなにギクシャクしてたのが嘘みたいに、自然と会話が出来る。
そりゃ、嬉しくて鼻歌も歌いたくなるっつーの! 凪がなかなか準備しなくて、他のヤツらが風呂に行く時間と完全にズレてしまったが、よかったかもしれない。こんな顔見られたくねぇ。
そういえば、そもそもイングランドのやつら、俺と凪が付き合ってたことすら知らねぇもんな。
「ねぇ、レオ。もう皆風呂入り終わってたよね」
隣にいる凪にも、たぶんニヤニヤしてる俺の顔は見えていない。
「そうだな。俺たちだいぶ遅かったから、もういないんじゃねぇか。って、こんな時間になったのお前のせいだぞ?」
「じゃあ、このままエッチしない?」
「……へ!?」
あまりにも自然な会話からの誘いに目が点になる。
「ダメ?」
「だ、誰かきたらどうすんだよ」
「大丈夫でしょ。レオが言ったじゃん、俺たちが最後だって」
隣にいた凪が体を起こすと、ザブッと大きな波音を立てて俺の正面に移動した。
「ね? レオ、いいでしょ?」
「こ、ここでか?」
「うん」
「いや、ここはまずいだろ」
「部屋じゃ出来ないじゃん」
それはそうだけど……と口籠る俺に、凪の顔がずいっと迫る。
「俺、さっきからずっと素数数えて我慢してたんだよ」
「知るかよ!」
正直、2人きりになったらキスくらいはするかなって考えてた。凪と2人で喋ったのも久々だし、ずっとギクシャクしてたから。一応、恋人でいいんだよなって。
それなのにエッチしよ、ときた。
これはつまりいいんだよな? 俺たち今は恋人に戻ってるって凪も思ってるってことだよな?
でも何も準備してねぇし。何より、心の準備が出来てねぇ!
あ。そうだ。
「知ってるか? 精液って風呂の中だと固まるんだよ」
「え? そうなの?」
「タンパク質だからな、所詮」
「じゃあお湯の中でイかなきゃ大丈夫だね」
はい、論破。
凪の大きな手が俺の肩と頭の後ろに触れて、逃げられないようにロックされる。そのまま凪の顔がアップになり、唇に唇が触れる。柔らかい凪の唇。あぁ、凪だ。そう思ったらもうダメだった。
「あっ……なぎ……んっっ……」
「……っ……」
大浴場の高い天井に、俺たちの貪り合う音が反響する。
「……あ……ッ……」
くちゅくちゅとした粘っこい音をたてて、舌を絡ませ合う。凪に入ってきて欲しくて少し口を開けば、答えるようにキスが深くなる。上のほうの好きなところをゆっくり舐められて身体がビクビクと跳ねても、頭の後ろに回された手が逃がしてはくれない。
凪と混ざり合った唾液をこくん、と飲み込んだ。
「んっ……んんっ……ぷはぁ」
「……あ、キスして大丈夫だった?」
「してから聞くな……」
お互いの唾液で濡れたままの口元を拭うのも忘れて、溶けた頭で俺は返事をした。
「わかった……いいぞ、凪」