大食漢💜食欲の秋。冬に向けて蓄えようとする体は常に空腹を訴える季節。
「ねえシュウ、ここ行ってみない?」
「わっ、近……デカ盛り?」
シュウはスマホから顔を上げると一枚のチラシが目前に迫っており驚きの声を上げた。少し離して見てみると、ツルリとしたチラシに大きなポップ体で「デカ盛りチャレンジ!完食したら無料!賞金もあります」と書かれていた。突きつけてきたルカ・カネシロは目をキラキラと輝かせて、返答を待つその姿はゴールデンレトリバーを彷彿とさせる。チラシの背景はなんだか茶色い食べ物たちが皿が見えないほど山ほど盛り付けられた写真で、真ん中になぜか店主さんの顔写真も鎮座している。
「シュウっていっぱい食べるだろ?ここならシュウでもお腹いっぱいになれると思って!」
どう?どう?と体を左右に揺らして待つ姿も愛らしいが、シュウには懸念すべき点があった。
「時間制限がなければなぁ…」
急いでご飯を食べたいわけでもないが、食べきったら無料という言葉にも惹かれる。なぜなら大食らいのシュウの食費は毎月馬鹿にならないのだ。外食なんてしたらそれこそ破産する勢いで。
「俺、お腹いっぱい食べてるシュウが見たいな…」
「う……」
顎を引いて眉尻を下げ、目をうるうるとさせて上目遣いに見つめる視線に、シュウは白旗を上げた。
「それなら行ってみようか、食べきれなかったらお代はルカ持ちね」
「やったー!!」
「ごちそうさまでした」
「えっ」
「えっ」
「え?」
店に着いて早々デカ盛りを注文すると、しばらくして出てきたのはシュウの頭二つ分の皿に山ほど盛られた食材たち。ミートソースがこれでもかとかかったパスタ、ソーセージ、海老フライ、チキンライス、ハンバーグ、フィッシュチップス、フライドチキン、エトセトラ…総重量3.5キロという化け物みたいなひと皿を制限時間四十五分で食べろというのだ。しかもタイマーを含め時計類は見てはいけないという精神的にもつらい状況でよーいドンでいただきます。サイズのミートソースパスタを一緒に食べ始める。おいしいね〜と笑顔を浮かべながらカトラリーが一度も止まることなく食べ進めた結果、シュウはわずか十五分足らずで完食した。早すぎる、本当に人間か?店主も店主でびっくりしすぎたのか、賞金を渡しながらチャンピオンとして写真を店に飾らせてくれないかと直談判までしていた。丁寧に断っている横で俺は普通サイズのオムライスを頬張っていた。
ごちそうさまでしたぁと苦しさを見せずに足取り軽く店を出る時は、店内の視線を独り占めしていたことに多分シュウは気付いていない。そりゃあそうだ、こんな細っこい美人が某吸引力の変わらない掃除機のようにあの量を食べきったのだから。
「美味しかったね〜賞金も貰ったことだし帰りにケーキでも食べて帰ろっか!アイクたちにも買って帰れるね。ルカはお腹に余裕ある?」
「あ、ああ…俺は大丈夫だけど、シュウは…?」
「僕もデザートなら入るよ。外食でこんなに満腹になったの久しぶりだから嬉しいな」
誘ってくれてありがとね、とはにかむ姿は無垢な少女のようだ。つい先程までえげつない量の食事とは思えない。
この薄い体のどこに入っているんだろう…とそっと腹の厚みを測るように手を当てると腹の部分だけぽっこりと膨れていて、妊婦さんみたいになっていた。