雨降ってたなぼた 忙しない日だなと、思った。
暑い日差しが照りつける中、家から距離のある書店までわざわざ出向いて取り扱いの少ない専門分野の論文誌をようやく手に入れたものの、その帰り道で雨が降り始めた。空へ黒い雲が急激に集まり始めた時点で退避できそうな店に向かって走ったが一足遅く、小さな喫茶店へ飛び込むように入店した時には既に髪や肩が湿っていたのだが。
「いらっしゃ、」
「……あ? 三ツ谷?」
トートバッグの中身が無事であることを確認している最中、不自然に途切れた声に顔をあげれば、そこにはこの店の制服だろう白いワイシャツと濃茶のギャルソンエプロンを身に着けた恋人が、引きつった笑みを浮かべて立っていた。
「え、なん、……なんでここにいるの、大寿」
1768