目が覚めた瞬間、嫌な腹痛に気付く。マシになるわけでもないのに、布団にくるまったまま身体を縮こめてみる。
予定日が近かったからナプキンはつけていたけれど、我儘を言っていいなら昼間に始まってくれたらよかった。出血してすぐ薬を飲めればいくらか楽なのに、もう痛くなってしまっては薬も効きづらいのだ。
「ううううう」
勝手に溢れそうになる涙を引っ込めるため、ぎゅっと目を閉じて、深呼吸。だめだ、泣くな、泣くな。
枕元のスマホで時間を確認した。ルカはもう帰ってきているだろう。ぽちぽちメッセージを打ち込む。
生理…、はじまっちゃった…、悪いけど…、薬と…、水、もってきて…、もらっても…、いい…?
送信。外で何かしていたのだろうか。バン!と玄関を開く音がして、ドタバタ階下で大きな音がする。とりあえず家にいてくれてよかった。…急いでくれるのはありがたいけど、頭に響く音が嫌で目を閉じる。
バタバタバタ!ドタドタ!ガチャ、ドン!
「シュウ!」
「ゔ、…ちょっと…静かに…」
「わ、ご、ごめん…っ」
「ううん、ごめんね。薬ありがとう」
ルカは忍び足でベッドサイドまでやってくる。グラスにペットボトルの水を注ぎ、いつも飲んでいる鎮痛薬をその横に置いてくれた。
「…頭も痛いよね。オレってば静かにしなきゃダメなのすっかり忘れてた…。座れる?これ、薬…」
背中を支えられながら、薬を二錠飲む。これが効いてさえくれれば、幾分マシになるだろう。グラスに残った水も飲み干して、一息ついた。
ルカは心配そうな顔で僕を見つめている。本当に、泣きたいのはこっちなのに、僕より泣きそうな顔をしてるんだから不思議だ。
「もう待ってたらよくなるから」
「うん…早く効くといいな。シュウは、もう一回寝る?オレ、出てったほうがいいなら出て行くけど。いていいならなんでもするよ」
「………」
痛みを忘れるためにできれば寝てしまいたかったけれど、起きたばかりなので眠気は全くない。かといって、一人でここに残るのも心細い。でも、ルカを引き留めるのも…。
と考えて、一つの案に辿りついた。
「布団ごとリビングに連れてって。そこでルカがゲームしてるの見るから」
「いいアイデアだ!でも、オレは嬉しいけど…シュウはしんどくない?」
「んー、大丈夫じゃないかな。あったかいし、じっとしてるし」
「そう?…じゃあ行こうか。ええと」
「ん」
両手を広げてルカに抱っこしてくれとおねだり。普段の僕ならこんなこと絶対してもらわないけど、なんせ頭も腰もお腹も痛くて、もう正直やってられないのだ。一歩だって動きたくない。
自意識過剰じゃなければいいんだけど、…ルカは気持ち嬉しそうに笑って、僕を布団ごと持ち上げた。
ルカが鍛えててくれてよかった、と思う。安定感のある分厚い胸板に頭を預け、心地よい揺れを堪能する。洗面所とお手洗いに寄ってもらって、その後僕の身体はゆっくりとリビングのソファへ降ろされた。
なんのゲームがいいかな、なんて呟きながら、結局最近進めているRPGにしたようだった。準備を終えてソファに戻ってきて、僕を足の間に挟んで座った。
「あ、なんか飲み物とかいる?」
「…うーん………とりあえずいいかな。いつもの配信みたいに、喋っててほしい」
「うん?配信みたいに?」
「ルカの声を聞いときたいの」
「わは、オッケー任せて!じゃあ始めるよ〜」
ゲームのBGMと合わせて、大好きなルカの声が頭上から降ってくる。重い身体は布団に包まれて、さらにその上からルカの逞しい腕に抱かれている。
こんな幸せなことがあるだろうか。重くなる瞼を感じながら、ぼんやり考える。いつのまにか薬は効いて、痛みは和らいできていた。眠気に抗わず、ルカの胸にもたれたまま、目を閉じた。