Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    tooko1050

    透子
    @tooko1050
    兼さん最推し。(字書き/成人済/書くCPは兼さん右固定。本はCP無しもあり)
    むついず、hjkn他
    ■連絡用Wavebox https://wavebox.me/wave/91vqg0alk30tloy9/
    アイコン:れれれめいかあ様(Picrew)

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 🐾 👏 🌸
    POIPOI 20

    tooko1050

    ☆quiet follow

    手遊びをしていたら何故か死にネタになったという…
    目指した物が透けているかも知れない。

    『オルゴールがとまるまで』
    ──1秒がこんなに長いことも、1日がこんなに短いことも、全部貴方が教えてくれた。
                    診断メーカー「新刊のタイトル」より

    ##むついず
    ##死にネタ注意

    「オルゴールが停まるまで」 それがオルゴールだということを知ったのは、何気無く問いかけた時だった。
     興味の広い陸奥守の部屋はゴタゴタと色々な物が雑多に、本人曰くは「ちゃんと把握しちゅうよ!」という具合で、それは我が名高き二代目であるところの『兄上』の部屋とはまた違った意味で散らかった物の多い部屋だった。
     身内といえば身内である歌仙の部屋と言い、幕末仲間と括られることの多い陸奥守の部屋と言い、ちったぁ片付けやがれ! と思っていた副長気質の和泉守にしてみれば「ここもかよ……」となる部屋の一つであった。

     まだ親しいと言うほど親しくもない上に見方によっては仇敵同士の来歴持ちだ。一応は気を遣って整理整頓を説いていたら見事に後頭部を打ったので流石に苦情を述べた。というか、まあ怒鳴った。
     なんなんだこの箱は!
     それに返ったのが。
    「おお、そりゃ西洋の絡繰箱じゃ!」
     ヒトにちょっとしたタンコブ作った男の顔にしては朗らかすぎる回答だったが、絡繰、と言われれば興味も湧いて、どういうものかと説明させたのが件のオルゴールの付いた宝箱だった。それはある時から和泉守の部屋で耳飾りや指輪を仕舞う箱として使われていた。



     今宵、或いは夜明け頃か。いずれにしろ間も無く、そう時を置かずして和泉守は旅立つ。
     もう我が刀身は保たず、すぐにも折れて砕け散ってしまう。人の身はその時死を迎え、未だ知らぬ目的地も解らぬ旅に出るのだ。

     コトリ、小さな音を立てて宝箱の蓋を開けると、キリキリと発条バネの動く音がして、間も無く円柱に付いた棘が金属板を弾いて音楽を奏でるのだ。
     和泉守はこの名も知らぬ曲が好きだった。

     惚れた、好きだ、そう口説いてきた男が、陸奥守が自分の為に直した絡繰だ。
     どんな曲か聴いてみたいと呟いた恋刃の為に修理して贈り物にした。
     彼のそんなところも好きだった。

     初めは何をバカな、と取り合うつもりも無かったものが、いつの間にやら絆されて、絆されてみれば中々に情は深くなって、声を知り、瞳を知り、唇を知り、肌を知った。

     愛しい男は和泉守のことをそれはそれは大切に愛した。愛して愛して、それはまるでただ一人と思い慕うかつての主を彷彿とさせるような一途さで。
     まあ、彼の人、女に関しては武勇伝の人であるから、恋に関しては陸奥守の方がよほど一途かも知れないが。

     とにかく。
     和泉守にとっては胸を熱くするに十二分な、真っつぐで一途で深い、恋で愛だった。応えたいと震える心を、欲しいと口説されて微笑んでしまう唇を、止めぬに十二分な情だった。

     今、思いも寄らず病の床にあって思う事は想像したより多くはない。

     ただただ、陸奥守を置いて行く事だけが寂しい。

     相棒は、良いのだ。
     あれ・・はきっと「兼さん」さえ居ればいつかはいくらか癒される。消えることのない哀しみと傷は残っても、次の「兼さん」とも良い相棒になれる。そう信じている。
     立場がさかさまならそうするだろう、と泣く彼に言えば、反論できないことを言うなんて非道いと尚泣かれて困ったのはつい最近のことだ。

     でも。

     陸奥守とは相棒ではない。
     恋仲だ。

     陸奥守が惚れて恋して愛したのは「自分」であって、「和泉守だったから」ではない。
     次の和泉守が陸奥守をどう思うかは顔を合わせて見て初めて知ることであり、また、陸奥守が「同じ姿形だから」好きになるわけでもない。

     彼がくれた心とは、温もりとは、そんな安い物ではなかった。

     だから。

     置いて行くのはとても辛い。
     誰か一人からだけ悲しみを取り去ってやれると言われたら一も二もなく彼の名を告げる、それくらいに辛いと思う。



    「何を考えゆう」
     穏やかな声が問う。

     ――なにも

    「……追ったりはせんよ。それは、……無責任じゃ」
     悲しみを奥深くに沈めた優しい声が決意を語る。
     そうとも。
     彼はこの本丸の中心だ。初期刀として。そう、だからこそだ。蟠りが解けてしまえば隣にいるのは大変に心地良かった。
     どうも自分は根っからの副長気質だったようで、だから中心で奮闘する彼を補佐する役目は大いに本領発揮、相棒と揃ってもう一人の長とも言える彼を支えるのは大変に遣り甲斐のある御役目でもあった。
     それは恋や愛や情を抜きにした、適材適所だった。
     その活躍を正しく評価するからこそ、その為にこそ、陸奥守は自分を追いはしない。
     志半ばで去るモノへの敬意でもあることを正しく理解すればこそ、己の役目を放り出して情人の跡追い心中など出来はしないのだ。

     手を、

     声にしなくとも解ってくれる、これが深い仲の証だ。
     微笑めば、不安そうにされるのだけは何とも業腹ではあるが、何分場面が場面なもので仕方がない。

     戦う男の手だ。痩せたこの手とは違う。
     そのことに気分を良くして軽く握った。

     もう、己の本体すら取り落としてしまう弱い手でも、直接触れ合えば握ろうとしている事は伝わる。
     優しく両手に包まれたその感触が、もうすぐ解らなくなってしまうのはひどく残念だけれども。

     金属を弾く音がする。
     オルゴールが曲を奏でる。



     そう言えば、何という曲だったのだろう

     不意に湧いた問いを、唇に乗せる事は叶わなかった。
     声の気配に何か、と問うてくれた愛しい男の声すらぼやけて、だからもう、問えたところできっと答えは届かなかったのだ。



     応えを待つほんの僅かがひどく長いことも、終わりの一日があんまりにも短いことも、教えてくれたのは伴侶と定めて愛した陸奥守吉行、そのヒトただ一振りだけだった。



     オルゴールが止まる頃、その時が来るのだろう。
     次第にゆっくりとなっていくその曲の名は聞けずに、それで良かったのかも知れない。

     ぽつり、停まった音と鼓動の止まるのを重ねてしまうくらいなら、いっそ。

     最期に思ったのはそんな他愛のないことで、それはこの日が来ると知ってから想像したどんなものとも違っていた。

     違っていて、とても安らかであったことだけを、ただ柔らかな曲だけが憶えているのだ。
     
     
     
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    😭🙏😭😭😭😭😭😭😭😭😭🙏😭☺😭👏😭
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works

    あるぱ

    DONE三題噺ガチャ/創作小説/30分/すぐ人が死ぬのなんとかしたい(書いてみての所感)とむらう人

     もしも真実があるとするならばここだ。私は扉を押し開けて、そう呟いた。そうだ、それ以外はすべて偽りだ。
     手元の懐中電灯を揺らし、真っ暗な室内に誰もいないことを確認する。深夜の会議室、誰かいるわけもなかった。
     持っていた紙袋を置いて、中のものを引っ張り出す。ジャケットを脱いで、シャツのボタンを外した。着替えを手早く済ませ、イスを引いた。ぎ、と金属の擦れるような音にぎくんと背筋が強ばる。大丈夫。守衛の見回りの時間は把握している。
     二つ折りのミラーを取り出し、長机に置いた。紙袋の底にあったずっしりと重たいポーチを持ち上げ、ファスナーを開けると中身がこぼれ落ちそうになり慌てる。その中からいくつかのメイク道具を、私は綺麗に並べた。下地(これが肝心だそうだ)、ファンデーション(雑誌にのっていたデパコスのやつ)、アイブロウ(違いがよくわからず百均で済ませた)、アイシャドウ(姉がくれた、高級ブランドのもの。紫色でキラキラしていて発色が良い)、口紅(質屋で売ってたシャネルだが、自分に合う色がよく分からなかったせいで自信はない)。
     化粧というのは手間もかかるし金もかかるものだ。私は机 1308