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    medekuru

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    medekuru

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    まどめの二次小説でバルシャスです。
    バル、シャスに素直になれないまま死別したら絶対後悔しそうだよな……「外道を正道に落とす」そんなシャスを失ったバルはどうするのか……
    ということで、そんな彼の話になります。

    所々魔術などで捏造もあります。広い心でお読み頂ければ幸いです。

    平行世界の訪問者 ようやく出来た。これでアイツを取り戻せる
     チャンスは一度だけ、絶対に失敗はできない
     どんな手を使ってでも成し遂げてみせる

    「……本当にやるんだな」
    「今更止めたって無駄だぜ」
    「だろうな……」

     何か言いたそうな協力者に振り返らず、男は魔術で作られた歪みへ触れる――



     キュアノエイデス教会の執務室で業務後のシャスティルはバルバロスと恒例になった紅茶の会の最中だ。
    「そういやお前、明日は久しぶりの休みだし盛大なポンコツでもやらかしそうだよな」
    「全く、なんであなたはいつもそういう事いうのだ。私だって……とにかくもう少し言い方というものがあると思うぞ」
    「おいおい、魔術師に常識なんて求めんなよ。それに俺はまだ話が通じる方だと思うぜ?」
     このように悪態をつかれることはいつもの事だ。もちろん悪いところばかりではない事は知っているけれど。
    「話していて、あなたほど意思疎通が難しい魔術師と話した事はないのだか?」
    「はん、そりゃポンコツが会ったことねえだけだろ……話なんか聞かねえで言葉巧みに騙したりして人を攫うやつとかもいるしよ」
    「そうだな。今まさにネフィの故郷へ連れていかれた時のことを思い出したよ」
    「あん時はちゃんと元の場所に戻しただろ? ま、ポンコツじゃ攫われるまで気がつかねえかもだがな?」
    「むっ、私だって怪しい人相手に無防備でいるつもりはないぞ」
    「だといいな? んじゃ、俺は帰るぜ」
     最後まで悪態つきながらバルバロスは空になったカップを残して影に潜っていく。
     その姿を見送ったあとため息をひとつついて立ち上がる。
    「全くバルバロスはいつも人の事をからかって……」
     その場に残ったカップを手に取り、誰に言うでもなく独り言を呟く。
     別に本気で怒っているわけでもなく、ちょっとした気持ちの発散のつもりだった……はずだった。
    「そうだよな? もっと言葉選べばいいのによ」
    「え?」
     けれどその独り言に言葉を返されて思わず振り返る。そこに居たのは見知った顔で……
    「お前の気を引きてえなら他に方法あるだろうによ……なんだってあんなに悪態ばっかつくんだか」
    「あなたは……」
    「なあ、俺んとこにこいよ。あいつなんかよりも大事にしてやるからよ」
     急に身体はふらつき瞼も重くなる……抱きとめられた感触はしたけど顔を上げる力も出なくて………
     何かされた気もするけど、意識が朦朧としていてよく分からない。

     ――そいつから離れろシャスティル!!――

     気を失う直前そんな声が聞こえた気がした。



     いつものように紅茶を飲みながら軽口を叩きあっていた。
    「話していて、あなたほど意思疎通が難しい魔術師と話した事はないのだか?」
    「はん、そりゃポンコツが会ったことねえだけだろ……話なんか聞かねえで言葉巧みに騙したりして人を攫うやつとかもいるしよ」
     本当にぶっ飛んでる奴は何言ったって話にならねえし、己の目的の為ならどんな手段でも取る。
     もちろんそんな奴をシャスティルに近づけるつもりはない。
    「そうだな。今まさにネフィの故郷へ連れてかれた時のことを思い出したよ」
    「あん時はちゃんと元の場所に戻しただろ? ま、ポンコツじゃ攫われるまで気がつかねえかもだがな?」
     自分はまだ相手に考慮してるだけマシだと思う。最もその相手というのはシャスティルに限定されているかもしれないけど。
    「むっ、私だって怪しい人相手に無防備でいるつもりはないぞ」
    「だといいな? んじゃ、俺は帰るぜ」
     心配だから気をつけろ、なんて言えるわけもなく、いつものように悪態を混ぜた言葉を返して影に潜る。
     けれど影に飛び込んだ瞬間、違和感を感じた。まるで何者かに干渉をされたような……
     今までに影の中まで攻撃された例はいくつかある。けれど煉獄そのものに干渉してきたのはアザゼルの一件だけだ。
     直後、頭を過ぎったのは煉獄の対処よりも、外にいるシャスティルの事だ。
     すぐさま影から飛び出そうとして……出来なかった。シャスティルのそばだけではない。外に出ること自体出来なくされている。
    「何が起こっていやがるっ!」
     嫌な予感がする。干渉出来る相手というのも厄介だけど、それ以上にこんな事をするなら自分狙いか……シャスティル狙いしかない。
    「おい、ポンコツ! 聞こえてんなら返事しろ」
     影越しに呼びかけるものの反応は無い。それどころか外の声や状況も確認できなくされている。
     おそらく今呼びかけた自分の声もシャスティルに届いていないのだろう。
     すぐさま煉獄の復旧作業に取り掛かる。分かりにくくされてはいるけれど、所々干渉を受けている箇所を見つけて修復していく。
     まるで己の煉獄を熟知しているかのような仕業だ。自分はこの分野に関しては誰よりも優れていると自負している。そんなこと出来るやつなんて……
    『――――つく――か』
     異常を排除するにつれ、段々と外の声も聞こえてくる。シャスティルのそばに誰かいる!
    『あなたは……』
    『なあ、俺んとこにこいよ。あいつなんかよりも大事にしてやるからよ』
     シャスティルを何処に連れて行く気だ!? そんな真似は絶対に許すつもりはないっ!
    「そいつから離れろシャスティル!!」
     叫んだ瞬間、シャスティルにつけていた影を切断された。再び繋げようとしたけど外の魔力感知も阻害されている。近くにいたやつの魔力も分からない。
    「くそっ、こっちもか。急がねえと……」
     自分の思考を読み切ったような妨害だ。外に出られないことに意識が向いていて魔力感知の妨害に気づかなかった。
     干渉はされてはいるものの、幸い自分の知識ですぐ対応できる内容ばかりだ。
     修復作業を終え、すぐさまシャスティルのいた場所へと飛び出す……既に彼女の姿はなく魔力も感知できない。
     周りに争った形跡はない。争わずこの短時間で連れ出すなら顔見知りから呼び出されるか、もしくは……
     ――俺んとこにこいよ――
     不意をついて気絶させてから攫うか、だ。



     人気のない場所にある小屋の中、ベットに眠るのは昨晩誘拐してきた大事な人だ。首には細い鎖で作った魔力封じのペンダントをつけてある。
     この小屋自体は空間を折りたたんで持ち込んだもので存在をくらます魔術を施してある。
     それなりの力を持ってる奴には見つけられるけど、それでも多少の時間稼ぎにはなる。
     わざわざ小屋の形にしたのは時間まで彼女を休ませる場所が必要だからだ。そんな彼女を見つめながら連れて来る前にされていた会話を思い出す。
     かつては自分も同じように悪態をついていた。けれどそうして素直になれず、悪態を続けて……
     もう同じ事を繰り返すつもりはない。あとほんの数刻、時間を稼ぎきればいい。そうすれば全て元通りだ。
    「今度はちゃんと大事にするから……」
    「……それは、どういう意味だ」
    「起きたか」
     返事を求めて呟いたわけではなかったけれど、どうやら聞こえていたようだ。
    「あなたはバルバロス……なのか?」
     問いかけながらも、何か違うと確信しているような顔だ。やはり鋭いな、と思う。
    「そうとも言えるし違うとも言えるな。俺はこの世界とは別の世界からきたんだよ」
    「別の世界のバルバロスってことか? 世界が複数あるのも驚きだが……なんでこの世界にきたのだ?」
    「質問に答えるのは構わねえけどよ、その前に少し腹に入れておけ。もう昼も過ぎてるし、ずっと眠っていても腹は減るだろ?」
     シンプルなパンや果物、クッキーなど簡単なものではあるけど食べられるものを取り出し、魔術で水を沸かして紅茶を入れる。
    「心配しなくとも怪しいもんは何も入れちゃいねえよ。ま、今はちょっと街中出歩くのはリスクがあるからこれくらいしかねえけどよ」
    「あなたがバルバロスならそこは心配してないよ」
    「随分と俺を信用しているんだな?」
    「バルバロスとは今まで何度も一緒に紅茶を飲んではいるが警戒しなくてはいけないことなど、なかったからな」
    「そうかよ」
    「それに、私の知っている彼と全くの別物だとしても、わざわざ食べ物に入れずとも、眠っている私になにかするくらい簡単に出来るのだろう?」
     どうやら自分を完全に信用しているというわけでもなさそうだ。まあ誘拐してきたんだから当然のことではあるけれど。
    「バルバロスであるなら、実力は疑いようもないからな。それに、この紅茶の味もそっくりだ」
    「……それ、褒めてんのか?」
    「褒めているつもりだが?」
     実力の件は素直に褒め言葉として受け取れるけど、そっくりと言われた紅茶に関してはどうなのだろうか?
     自分の記憶では〝魔物の体液〟などと言われたはずだけど、こちらの自分は違ったのだろうか?

     もっとも、そんなことを言いながら紅茶を飲むなんて……もう随分と久しぶりな気がする。

    「……これは?」
     彼女の尋ねているのは攫う時につけておいた首元のペンダントだ。
    「魔力を感知できないようにしてあるだけで害はねえ。あとで必要なくなれば外してやるよ」
     鎖は頭を通らない長さで、留め具などもない。更に普通の人間には切断や破壊なども不可能だ。
    「そういうのは枷のような形をしているものだと思ったが……なんというか装飾品に近い見た目のものもあるのだな」
    「そりゃお前が嫌がるだろうし、出来るだけ首に負担のかからねえ形状で作ったらそうなっただけだ」
     魔術というのは概念に縛られている。逆に言えばそれを満たせば多少の形状変化は融通が効く。
     鎖に付いているのは微細な紋様を刻んだ小さな錠だ。
    「……意外だな。そういうの気にしてくれるとは思わなかったよ」
    「別に危害を加えてえわけじゃねえからな」
    「初めてあったときは攫われて枷を付けられたからな……まあ、貴方ではないバルバロスにだが」
    「……そうかよ」

     どうやら出会い方はこちらも同じらしい。
     ――なら、やり直せるはずだ。

    「危害を加えないというのなら、席をたつのは構わないだろうか?」
    「元の場所へ帰せって言いてえのかよ?」
    「そうして貰えると助かるけど、言ったところで帰してはくれないのだろう? その、少しお手洗いに行きたいのだが……」
    「……この小屋から出ねえなら構わねえ、そこの扉出てすぐの所にある」
     逃がすつもりはない。外に繋がる扉には結界を施してあるから触れるとすぐにわかる。
     無体なことをするつもりはないけど、脱走を図るなら時間までもう一度眠っていてもらう。
     極力嫌がられる事はしたくないけど、失わない為ならどんな事だってする。二度と手の届かい所になんて行かせはしない。
     そう思って身構えていたのだが……

    「……逃げたりしないんだな」
     手洗いと言って席を立った彼女は本当に用だけ済ませて戻ってきたようだ。そのままベットに腰掛けている。
    「実力は疑いようもないと言っただろう? 逃げたところですぐに捕まるのは分かっているし、まだ聞きたいことを聞いてないからな」
    「まぁ、そうだな」
    「それで、あなたの目的はなんなのだ?」
    「お前を手に入れることだ」
    「手に入れるって……私をどうするつもりなのだ」
    「そう身構えんなよ。別にどうこうするつもりもねえ。そばで生きていてくれりゃそれだけでいい」
    「その、あなたのいた世界に私はいないのか?」
    「死んじまったんだよ……俺が意地をはってるあいだにな……だから再びお前を手に入れるために世界を越えてきたってわけだ」
    「世界を越えるって……そう簡単にはできないだろう? 今までバルバロスがそんな事をしてるのは見た事ないし……」
    「ああ、そりゃ簡単じゃねえよ。けどまたお前に会うためなら何だってやる……とはいえ好きなように移動できるわけじゃねえ」
     この魔術には色々と制限がある。今回失敗したらもう次はない。
    「もう二度と同じことは繰り返さねえ。何がなんでもお前を護るし、この世界の俺よりも大切にするからよ」

    「だから俺のところにこい。シャスティル」

     次の瞬間、足元で影は揺らめく。
    「えっと、その……ふぇっ!?」
     すぐさまシャスティルを抱えてその場を飛び退けば先程まで自分のいた場所は、漆黒の針で埋め尽くされた。
     すぐそばにある彼女のいたベットは無傷ではあるけど、そこでは何かを捕まえ損ねたように影はうごめく。

     ――誰の仕業か、そんなのわかりきっている。
     自分だって見逃しなどしないのだから――

     揺らめく影から現われたのは自分と同じ姿の男だ。射抜くような鋭い眼光で己を見つめ、周囲の影は怒気を孕んだように揺らいでいた。



    「ようやく見つけたぜ、そいつを離せっ!」
     昨晩攫われた後、ありとあらゆる知識と手段を講じて探し続け、やっと誘拐した奴の魔力を掴めた。
     シャスティルの首にあるのは見慣れない装飾品。恐らく魔力を封じる為、奴がつけたのだろう。
     ――気に入らない。
    「ちっ……もう気づかれたか」
     どうやら離す気はないようだ。僅かに抱える力を込める様は抱き寄せるようにすら見えて更に苛立ちは募る。
    「てめえを殺してポンコツは返してもらう」
    「ま、待ってくれバルバロス! 彼は別の世界のあなただそうだ。殺し合うなんて駄目だ!」
    「はっ! んなの関係ねえ。本当に別の世界の俺だとしてもお前を攫うなら俺の敵だ! 生かす理由はねえ」
    「待って、同じ人間なら話し合えば……」
    「無理だな。この世界の俺と話し合いで解決すんならあの場からお前を眠らせてまでして攫ったりしねえよ」
    「貴方まで……」
    「お前を連れていこうとすりゃ、こいつは必ず邪魔をする」
    「あたりまえだっ。絶対渡さねえ!!」
    「だろうな。けどそれは俺も同じだ!」

     シャスティルを奪還しようと飛びかかれば奴は外へ転移し、直後小屋は炎に包まれ、周りの影は自分を拘束するように絡みつく。
     すぐに空間ごと影を断ち切り、外へ転移すれば待ち受けていたように魔法陣を向けられる。
     奴の手にある魔法陣は〈憤怒の火〉だ。かつて切り札のひとつとして作ったそれを躊躇いなく放ってくる。
    「やめてくれ! さっき危害を加えたいわけじゃないと言ったではないか!」
    「お前には、な。あいつは別だ。大人しく引いてくれるってんならやめてもいいぜ?」
     相手と同じように〈憤怒の火〉を放ち相殺させる。辺りに吹き荒れるのは瞬時に草花を枯らす熱風だ。
     シャスティルは……どうやら奴にも守る意思はあるようで余波に晒されないようにはしているらしい。特に被害はなさそうだ。
    「ならまずポンコツを返せ! 話し合うってんならそれからだ!」
     奴の四方から影を伸ばす。とにかく先ずはシャスティルを引き離さなくては。
    「渡さねえよ。こいつに会うために世界を渡ってきたんだからよ。ちゃんとてめえより大事にしてやるぜ?」
     シャスティルに近づける数多の影は次々と回避されたり届く前に切断されたりしていく。
    「そいつはてめえのなんかじゃねえ!! 返さねえってんなら予定通り死んでもらうぜ」
     ほとんどは捌かれたけど、影のひとつは奴を捉える。その影もほんの僅かな硬直で切断されるが、その僅かな時間でもあれば攻撃に移れる。
     切断された影から即座に黒針を放つ。手傷を負わせることは出来たけど致命傷には程遠い。
    「っ……ようやく手の届くところに取り戻したんだ……もう失う様なことはしねえ」
     お返しとばかりにそばの影から黒針を放たれ、回避すれば更に四方から次々と追撃の黒針を放ってくる。
     その全てに対処した直後、投げつけられたのは空間を断ち割った断層――いわゆる空間の刃だ。直撃すればこの世界で切れない物はない代物だ。
    「はっ、失ったと言うならてめえに任せられるわけがねえ! さっさとポンコツを返しやがれっ!」
     即座に回避すれば先程まで自分のいた地面は深々と切り裂かれるけど、地形や環境などそんな些細なものを気にする余裕は無い。
     ぶつかり合うのは全力の魔術。次第に周囲の枯れ木はなぎ倒され、大地はあちらこちらで抉られ、切り裂かれていく。
    「もうやめてくれ! こんなの直撃したらどちらもただでは済まないぞ!」
    「お前には絶対当てねえよ」
     こればっかりは危険だろうともシャスティルの制止でも聞けない。奪われるのを黙って見過ごすなど出来るはずもない。
    「そりゃ私ではひとたまりもないけど、あなた達だって危ないではないか!」
     気に入らない。自分と一緒に誘拐した相手の事も心配しているのだ。
     もしシャスティルを失ったら自分も同じことをしないとは言いきれないけど……そもそも失わなければいいだけだ。
     彼女を奪うならどんな理由でも、どんな相手だろうとも敵だ。それだけで殺すには十分すぎる理由なのだ。
     仮にこれがドッペルゲンガーの一種だとして、ゴメリの話のように殺したら自分も道連れにされるとしても。

    「そいつが離さねえ限りやめるつもりはねえ!」
    「そいつが引かねえ限りやめるつもりはねえ!」

     再び魔術は衝突し合う。
     実力自体は同等だろうけど、分が悪い。
     相手は片腕こそ塞がってはいるものの、攻撃手段を選ぶ必要はない。けどこちらはそうはいかないのだ。
     シャスティルを盾にするような真似こそしてこないけど、巻き込むような攻撃は論外だし、大技を放って万が一でも当たったら無事では済まない。
     自分なら何をしてでも――それこそ自らを盾にしてでも護りきるけど……奴が同じとは限らない。

     現に奴の言葉を信じるなら失ったという事は護りきれなかったという事なのだから。

     現状、大技は相殺にしか使えず、攻撃もシャスティルのいない方からしか仕掛けられないから読まれやすい。
    「んの……クソ野郎がっ!」
     自分の制御できるギリギリまで影を操り仕掛ける。そんな漆黒の猛攻も掻い潜って飛び出してくるけど、奴の背後へ転移で先回りする。
    「チィっ……」
     空間の断層を織り込んだ短剣を構えシャスティルを捕まえている腕めがけて斬りつける。
     咄嗟に反応されて斬り落とすまではいかなかったけど、抱える腕は僅かに緩む。
     斬り付けるのと同時に反撃の黒針で肩を抉られたけど構いはしない。そのままシャスティルに手を伸ばし――
    「っ!?」
     直後向けられた魔法陣は〈憤怒の火〉
     ――まずい! すぐ防御しないと。
     自分ではなく、シャスティルのだ!
     この至近距離で防がなければ生身の人間など余波だけでひとたまりもない。即シャスティルの前に障壁を構築し、直後魔術は自身に直撃する。
    「バ、バルバロスっ!?」
    「……んな狼狽えんなよ、問題ねえ……」
     自分の守りはローブもある。ダメージはあるものの一発ぐらいなら魔王クラスの攻撃だって凌ぐことは可能だ。
     ただあと少しでシャスティルを取り返せそうだったのに吹っ飛ばされてしまった。
    「離してくれ! こんなのは絶対にダメだ! これ以上続けたら本当に死んでしまうぞ!」
     どうやら彼女は無事のようだ。自分の構築した障壁の他に奴の作った結界もある。二重で護られており無傷だ。
    「もう絶対に離さねえ。二度と失うのはごめんだ!! どんな手を使ってでも連れていく」
     宙に描かれるのは数多の魔法陣。
    「……随分容赦ねえじゃねえか」
     奴に呼び出されたのは亜空間を渡る魔犬で、ザガンの書庫にも仕掛けられているやつだ……けどその数は尋常ではない。
     ざっと見ただけでも数十匹はいる。これだけの数を瞬時に呼べるようにするなら相応の準備は必要だ。
     その準備に一体どれだけのことをしたのか……
    「クソッ……厄介なもん呼び出しやがって」
     更にこいつらは転移しても食らいついてくる。無視してシャスティルに近づいた場合、自分を狙った攻撃で危険に晒す可能性もある。
     すぐに迫ってくる魔犬共に魔術を放つ。
     何匹かは当たるけれど、大半はすぐ亜空間へ回避される。それは炎でも雷でも黒針でも変わらない。
    「危ないっ!」
     シャスティルの言葉に振り返ると、そばまで迫っていたのは空間の断層だ。
     すぐさま別の断層をぶつけて相殺するものの、その隙に背後から数匹の魔犬は噛み付く。
    「ぐっ……」
    「バルバロスっ!」
    「しばらくそいつらと遊んでいろ」
     奴はシャスティルを連れて転移する。絶対に逃がしはしない。魔犬の対処をしながら影の向こうに細心の注意を払い――

    『――世界を渡るにはもう少し時間を稼ぐ必要があるからな』

    「っ!?」
     世界を渡る。つまり自分のそばから奪うだけでなく、この世界から完全にいなくなるということだろう。
     そんなのは許容出来ない。シャスティルのいない世界など受け入れられるわけがない!
    「クソっ、絶対連れていかせねえっ!!」
     迫ってくる魔犬の攻撃をそのまま受け、噛みつかれている状態で黒針をぶち込み確実に仕留めていく。
     このやり方を続けると負傷は半端ないけれど、いつまでも時間をかけるわけにはいかない。
     必ず阻止する。命をかけることになろうとも絶対に連れてなんか行かせはしない。



    「待って! バルバロスが……」
    「あれくらいじゃ俺は死なねえよ。せいぜい時間稼ぎにしかならねえ。世界を渡るにはもう少し時間を稼ぐ必要があるからな」
     出来ればこのまま時間になるまで来なければいいと思うけど、恐らくその前に死に物狂いで追いかけてくるだろう。
     シャスティルを奪われるかどうかの瀬戸際、自分ならそうする。どれほど傷を負ったとしても命懸けで追いかける。
     実際、大量の魔犬を相手にしている今も逃がさまいと自分に影を繋げ続けているのだから。
     これは切断しても直ぐに繋げ直されるのだろう。なら切るだけ無駄だ。
    「貴方の世界に私を連れていくつもりなのか?」
    「そうだ。俺の世界に連れていく」
    「それはできない。私はこの世界でやる事があるから。貴方だって自分の世界でやる事があるのだろう?」
    「そんなのねえよ」
    「え……」
    「俺のやることがあるとするなら、お前を護る事だ。あの世界に護るべきお前はもういねえ。だから連れていく」
    「本当にやる事がないというのなら貴方もこの世界にいればいいじゃないか」
    「その場合、この世界の俺を殺すぜ?」
    「そんなのダメだ! なんでそうなるんだ」
    「これに関してはまだ完全に解明できた訳じゃねえから憶測も混じるけどよ、基本的に世界に全く同じ魂は同時に存在できねえんだよ」
    「でも、今貴方はここに……」
    「今予測できる範囲では、時間がたてば立場の弱い方……この場合は別世界の俺が消滅するってことだ」
    「消えてしまうのか……?」
    「この世界じゃ俺は異物だからな。お前と共にいるならお前を連れていくか、この世界の俺を殺して成り代わるしかねえ」
    「っ!?」
    「お前の性格上、俺を殺すのは嫌がんだろ? ……まあそれしか手段がなくなればそうするがな」
     時間稼ぎよりも骨が折れる作業になるだろうけど、その用意もしてある。もし妨害などで戻れなくなったなら迷わず殺しに行く。
    「……その場合、死んだ後の魂はどうなるのだ?」
    「別の世界のものだろうと立場の強えのは生きてる方だ。この世界の俺を殺せば魂ごと消滅する」
    「……なら尚更駄目だ。貴方と一緒に行くことは出来ないよ」
    「……来ねえなら俺を殺すぜ?」
    「それはダメだ! でも私が貴方の世界に行けば誰も浮かばれない!」
    「んな事はねえ! 俺はお前を取り戻すためにここへ来たんだからよ」
    「貴方の求めているものは私じゃない! 貴方が本当に大切なのは共に過ごした私のはずだ!」
    「っ!?」
    「もしまがい物の私を手に入れて、本物の魂を消滅させたら絶対に後悔する。貴方も、貴方の世界の私も浮かばれない!」
    「けど……あいつはもういねえ……」
    「なら今まで過ごした貴方の世界の私を無かったことにするのか!? 貴方にとって私と過ごした事は消しても構わない程度なのか?」
    「違えっ! そんな事はねえっ!」
    「私に貴方と過ごした記憶は無い。あるのはこの世界のバルバロスとの記憶だけだ。同じ人間でも別物だ」
    「っ……」
     別物。彼女の言葉に迷いが生じ、動揺となって現れていたのだろう。
    「シャスティルっ!」
     その隙を逃すまいと傷だらけの男は鬼気迫る勢いで飛び出して奪い返していく。
     やはり来たか……でもこれで良かったのかもしれない。
     生きているシャスティルを自ら手放す事は出来なかっただろうけど、本当に大切な少女を消すわけにはいかないのだから。



     戸惑いを見せた瞬間、すぐさま飛び出してシャスティルを取り返す。
    「バルバロス! 無事だったんだな」
    「てめえには同情する。けどこいつは渡さねえ」
    「……ならちゃんと大事にしろ。失ってからじゃ何も言えねえし後悔すること以外何も出来ねえんだからよ」
     その言葉には重みを感じた。一体どれだけの思いが込められていたのだろう……
    「はあ……この魔術結構苦労したんだぜ? ザガンの野郎に多大な貸しを作ってようやく一往復可能になったのによ……」
     そう言いながら発動させた魔法陣は転移陣のようではあるけど、その場所の空間だけ歪んでいるように見える。
    「まぁ、久しぶりにお前の顔見れただけでよしとするかな。別物と言うけどやっぱりアイツと同じだな。表情も……きっと言う事もな……」
    「顔……もしかして、てめえは封書作ってねえのか……?」
    「ああん? なんだそりゃ」
     その反応で理解する。自分とは違うのだと。
     今、目の前にあるのは世界を渡るほどの魔術なのだろう。それは簡単には出来ないはずだ。
     研究に長い時間をかけたなら、その間自分とは違う事をしていたはず。己の知っている内容を知らない可能性は十分ある。
     いや……答えはもっとシンプルなのかもしれない。そもそもシャスティルに謝るため、姿を見れるようにするために作った魔術だ。
     もしその時既にシャスティルは存在していなかったとしたら……あるいは、あのとき謝ろうとしなかったのなら……
     そしたら自分も封書を作るなんて事はしなかっただろう。
     服の裏から魔道書を取り出し、影で掴んで渡してやる。
     流石にシャスティルを抱えたまま近づいたり、相手も干渉できる転送で渡すなんて迂闊な真似をするつもりは無い。
    「ポンコツは渡さねえ。代わりにこれやるからそれで諦めろ」
    「なんだこれ? 空間魔術とは違えみてえだが……まあくれるっつうなら貰っとくけどよ。どうせ本当に欲しいものは手に入らねえしな」
     既に連れていく事は諦めているようには見えるけど油断なんて出来ない。
     直感でしかないけれど、あの歪みに取り込まれたら戻って来れない気がする。今は絶対にシャスティルを離す訳にはいかない。
    「んじゃ、時間だし帰ってから読ませてもらうとするか……ちゃんとお前自身の事も大事にしろよ、シャスティル」
    「うん……出来るだけ善処する」
    「〝出来るだけ〟か。まぁ、お前はそうだろうな……誰かの為に簡単に自分の命投げ出すんだもんな」
     もしかしたら向こうのシャスティルの死因はそれなのだろうか。そしてそれは他人事ではないのだろう。
     ここにいるシャスティルもそういうやつなのだから。
    「じゃあな……ちゃんと護れよ」
     そう言い残し空間の歪みへ触れたと思った直後、もう姿は見えなくなり歪みも魔法陣も初めから何も無かったかのように全て消え去っていた。
     今の自分には仕組みも原理も何もかも分からない魔術。自分と同じ時間しか生きていないはずのアイツはどれだけの努力をして成したのだろうか。
     一体どれほどの執念だったのだろうか……
    「バルバロス……その、助けてくれたのはありがたいのだが痛くて……少し力加減してくれると……」
    「あ、ああ。悪ぃ……」
     絶対に離すまいと思っていたら必要以上に力を込めていたようだ。
     シャスティルにつけられた装飾品に力を込める。鎖は外れ、ようやくいつもの魔力を感知できて安堵する。
    「ま、とんだ休みになったな? ったく自分を相手にするなんざ二度とやりたくはねえな」
    「だから話し合えばいいではないか」
    「ああ? んなの無理に決まってんだろ?」
     自分とでは話にすらならなかっただろう。もしアイツがシャスティルの言葉に耳を傾けなかったら……
    「……あんま心配させんなよ」
    「え……」
     絶対にアイツと同じ後悔はしたくはないけど、今のバルバロスにはこれで精一杯だ。
     どうやら大切なものを護るためには力をつけるだけじゃ駄目らしい。こちらはかなりの難題になりそうだ。
    「普通こういう時こそ労うもんじゃねえか? あれだ、感謝とかいうポンコツの茶でも飲んでやるよ」
    「全くあなたは……でも本当に感謝している。戻ったらすぐ準備するよ」
    「んじゃ、さっさと帰るとするか」
     素直にシャスティルの紅茶を飲みたいなんて言える日は来るのかは分からないけど、努力はすべきだろう。



    「そろそろ……か」
     あの馬鹿が馬鹿を実行してもうすぐ1日になる。〝戻ってくるとしたら〟もうじき時間だ。
     ザガンとて好きでこんな馬鹿に協力したわけではない。ただ度重なる魔王などの衝突で悪友の手を借りざるを得なくなり、交換条件で手を貸したに過ぎない。
     恐らくシャスティルはバルバロスの誘いに頷かないだろう。なら無理やり連れてくるか、向こうのバルバロスを殺すか……
     返り討ちの可能性もあるけど、恐らく対策してから向かったはずだ。同じ人物だとしても向こうは荷が重いと思う。
    「本当にお前は何をやっている……」
     昔から馬鹿だとは思っていたけど、あの時からバルバロスは変わってしまい――

    『なんでこいつが死ななきゃなんねえんだよ! こんなのが運命とかほざくなら俺は絶対認めねえ!』
     そう叫ぶバルバロスの声は今まで聞いたことないような悲痛なもので……
    『死ななくてすむ方法だってあったはずだ! シャスティルが生きていられる可能性だって……』
     目の前の現実を受け入れようとしなくて……
    『そうだ……絶対に死なずにすんだ〝可能性〟はあるはずだ。なら何処かで生きているはず……』
    『おい、お前一体何を考えて……』
    『必ず見つける……絶対に取り戻す』

     ――以降、悪友のヘラヘラとした表情は見ていない。あの鬱陶しい顔を懐かしく思う日なんて来るとは思わなかった。
     目の前で空間は歪み始める。どうやらこちらに戻ってくるようだ。
    「はあ……やっぱ一緒にいたかったな……」
    「その割には憑き物が取れたような顔だな」
    「あん、お前いたのかよ」
    「全く……誰の協力で世界を越えるような魔術を使えたと思っているんだ」
    「それだけの仕事はしただろ? ったくてめえに貸しを作るのも苦労したのに収穫は魔道書1冊だけとか割に合わねえよ」
     そんなふうに悪態をつくバルバロスの表現は明らかに以前より柔らかくなっていて……
    「シャスティルに何か言われたか」
    「……ここからじゃ向こうの様子は見えねえはずなんだけどな?」
    「お前が魔道書1冊だけで大人しく手を引くわけないだろ。誰かの言葉を聞くならシャスティル以外有り得んだろうが」
     少なくとも向こうに行く前のバルバロスには誰の言葉も届かず、何を引き換えにしてもシャスティルを連れてこようとしていたのだから。
    「……ま、アイツに会えただけでも行った価値はあったかもしれねえな。向こうの俺には、もう少し素直になれと言いてえとこだけどよ」
    「お前に言われたくはないと思うがな」
    「今度酒でも持ってくから愚痴でも付き合えよ。とりあえず今は行くとこあるしな」
    「何処かいくのか?」
    「……ポンコツんところ」
     その一言だけを残し影に飛び込んでいく。
    「ようやくか……平行世界を渡るなんて気は進まなかったが、あいつにとって良いきっかけにはなったようだな」



    「ここに来るまで大分遠回りしちまったな……遅くなって悪かったよ……」
     バルバロスの目の前にあるのはひとつの墓だ。ここに眠っているのは何よりも大切な少女だ。
    「俺の魔術じゃ魂なんて把握出来ねえから、お前が今もここにいるかどうかは分からねえけどよ……ポンコツのことだ、多分まだこの辺で迷ってるだろ」
     む、失礼な! とか、迷ってたのはあなたの方だろうなど言われそうだ。今回は言い返す言葉もないけれど。
    「お前に会いたくて、わざわざ別の世界まで行ったけどよ、向こうのお前に言われたんだよ。同じ人間でも別物だってな。多分お前も同じこと言うんだろうな」
     それはそうだろう! ……とか言って、ぽんすか怒っているのかもしれない。
    「向こうの俺には魔道書1冊で手を引くように言われるしよ……ったく、ぜってえ価値釣り合ってねえだろ」
     そう言いつつも、自分にとってシャスティルと釣り合うものなんか、ありはしない事はわかっている。
    「そういやコレまだ見てなかったな。あのタイミングで渡すようなもんなんて、なんの魔術だ?」
     魔術の名前は封書……あの時作ってねえのかと聞かれたやつだ。内容は……
    「……記憶の投影、か。ったく、向こうの俺は何でそんなもん作ったんだか。んな事しなくともてめえのそばに本物がいるじゃねえかよ」
     片手を振るうとそこに浮かび上がったのは教会の執務室で自分と一緒に紅茶を飲むシャスティルの姿だ。
    「……はっ、やっぱり同じ顔してんな」
     あの紅茶の味はシャスティルにしか作り出せない。自分のも似たようなものだと言われたけど、やはり別物だ。
    「最初は泥や毒よか酷え味だと思ったけどよ……そんなもんが飲みたくなるなんてな……」
     今となってはもう二度と飲むことは叶わない。
     再び手を振れば封書の姿は変わる。聖騎士の姿や滅多に着ない私服の姿……
    「朧気な記憶でも再現できんだな……もっと色んなの着てみりゃ良かったのによ」
     ふと思い出してもう一度封書を切り替える。ただ一度しか見たことない姿だけど思い描いた通りきちんと再現できた。
    「夜会ん時の服装……今思うと似合ってたよな」
     写し出された姿は耳の治療した後のものだ。
     ――さっきは叩いて悪かった――
     あの時の顔もセリフも忘れた事などなかったけど、こうして目の前にあると何か込み上げてくるものがある。
    「俺も謝れたら……何か変わってたかな」
     柄にもなく寂寥感に震えていると、持っていた魔道書の間から何かが落ちる。
    「……なんだこれ? ひとつは魔道書に関するメモみてえだけど、もうひとつは……何かの記事か?」
     生粋の魔術師であるバルバロスにとって、まず気になるのは魔道書に関するであろうメモだ。
    「封書の改良をしようとしたのか。まだ途中みてえだが匂いも復元しようとしてたのか……? ったく本当に何やってんだか」
     思えばこの魔道書は亜空間ではなく服の裏から取り出していた。つまりわざわざ持ち歩いていたという事だ。
     動機は不明だけど、どうやら暇な時にでも改良を進めていたのだろう。そんなに気になる匂いでもあったのだろうか。
     もうひとつはゴシップ記事のようだが……
    「はあ!? あいつら本当に何やってんだよ」
     そこに書かれている記事は目を疑うような内容で……恐らく真実ではなく、疑わしい現場を面白おかしく書かれただけだとは思うけど……
    「一体何をどうやったら周りからそんなふうに見られたんだよ……聖騎士と魔術師だぞ?」
     よく見てみると、記事の挿絵も封書のようだ。こんな事自分からするはずないから他にも同じ魔術を使える奴がいるのだろう。
     記事の隅に自分の字でメモ書きがある。どうやら封書を動かす技術を解析したもののようだ。
     既に解析は完全に済んでいる。そのままそれを発動させてみると……

    『その男は私のだぞ! 知らないやつらが私の知らないところで勝手に取り合うな!』
    『はあああっ? 俺がお前以外の誰に取られるってんだよふざけんな!』

    「っっっっ!?」
     そこから再生された映像は予期せぬ言葉を喋りだして……けどこれは記憶の投影だ。つまり好き勝手書かれた記事と違って実際にあった出来事なのだ。
    「俺が間違えなきゃ、お前とこんな事言い合う可能性もあったんだな……」
     憧憬を抱きながら眺めていてふと気づく。
     自分の大切な少女は誤解を受けるような言い方をするポンコツだ。もしかしたらそういうことかもしれない。
     再び自分の記憶をいくつか投影させる。転んだり、書類をぶちまけたり、虫1匹に叫んだり……
    「世話がやけるとか思ってたけどよ……ポンコツのフォローするのも案外悪くなかったかもな」
     あの頃は煉獄内に響くシャスティルの悲鳴は日常だった。当然ながら今の煉獄は静まり返っていて……
    「お前のことだ、生まれ変わっても絶対ポンコツやらかすんだろうな……なら俺が助けてやらねえとな」
     魔術師は長寿だ。シャスティルが生まれ変わるまで生きている事だってできるだろう。
    「見つけてやるよ。今度はちゃんとお前のことを探す。んでもって次は同じ間違えは絶対にしねえ」

     ――うん、待ってる――

    「っ!?」
     今、確かにあいつの声が聞こえたような……封書の誤作動でもあったのだろうか? でも……
    「……また来る。ここは荒らされないように見張ってやるから、ちゃんと生まれ変わってこいよ」
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