悪くはねえ日「そういえばあなたにとって誕生日はどんな日だったのだ?」
シアカーン達との衝突も終わり、いつものように共に紅茶を飲み雑談をしていた時にそう聞かれた。
「あ? 言っとくけと魔術師の誕生日をザガンの祝いみてえなものだと想像してんなら違えぞ」
「それはそうかもだが……でもあなたは自分の誕生日を知っているではないか。ならどのような日だったのかなって思って」
ならポンコツにとって誕生日はどんな日だよ……と問い返そうとして思いとどまる。
――あんな男でも、誕生日くらいは祝福される権利がある――
思い出すと同時に起こる胸の動機を悟られないように表向きは表情で取り繕い、内心は魔術で必死に制御する。
つまりシャスティルにとって誕生日とはそういう日なのだ。生まれてきた事を祝福される日。
もちろん自分にとってもシャスティルという存在の誕生は何よりも祝福すべきで、それに関しては疑いようもない。
そしてその誕生日プレゼントをどうすればいいのか……今1番の悩みではある。
けど今聞かれているのは自分にとっての誕生日についてだ。
魔術師にとっても誕生日は意味を持つ。
ただし祝いという意味ではなく魔術関連という意味ではあるけど。
絶対に知っている必要はないけれど、知っていればやれることは増える。
……かつて生贄の儀式で生まれた日を厳選した女共を集め、魔族を召喚しようとしたように……
もっとも、ポンコツの望む答えはそんなのではないのだろう。
とはいえ真っ当な魔術師の自分では望む答えなどもっているか怪しいけれど。
誕生日――
6歳ぐらいまでは親元で暮らし、その後10歳ぐらいまでは師匠に買われて魔術を学んでいた。
自分を売った親など祝われていてもいなくても同じだろうし、アンドラスに関しては成長を喜ぶのは肉体目当てだ。
それを思えば彼らと一緒の誕生日など、どう過ごしていたところでろくな日ではない。
ではその後はどうだろうか?
師匠をザガンに殺されてからは腐れ縁にはなったけど誕生日などを祝うような関係ではない。
むしろあいつはそもそも生まれも親も知らなかったのだからそんな概念などない。
かといって他に気安く話し合うような関係のやつなどいない……まあ最近は悪友関係で何かとやかましくはなったけど。
なら去年はどうだったのか。
確かビフロンスの夜会から数日後くらいだったか? そういえばシャスティルと紅茶を飲み始めたのもこの頃か。
あの頃は自分の誕生日など意識していなかったし、おそらく当日もポンコツの面倒を見ながら紅茶でも飲んでいたのだろう。
なら――
「まあ、悪くはねえ日だったんじゃねえの」
一緒に紅茶を飲んで他愛もない会話しながら過ごしていたのなら――
今となっては何気ない日常ではあるけど……そんなふうに過ごしていたのなら、それだけで良い日だと思えた。
後日、次の誕生日も〝悪くはねえ日〟と言ってもらえるにはどうすればよいのかと少女は頭を悩ませていたのだけど……
それはバルバロスの預かり知らぬ話である。