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    medekuru

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    medekuru

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    相互様との秋バルシャス企画用

     お付き合いしているバルシャス妄想です。まどめ世界に紅葉があるかどうかは分かりませんが……2次小説ということで。互いの好みの色なども捏造しております。

    その色に何を思うのか「あなたは好きな物とかあるのか?」
     いつも通り紅茶を飲んでいた時に問われたのはそんな話題だ。
    「あ? そりゃまあ、肉と酒だな」
     なんてことのない話題。既に知っていそうな気もするけどそのふたつを言葉にして。

     あとこの不味い紅茶と内心で付け加える。

     自分にとってこの時間は魔術の研究よりも優先すべきものだ。それは付き合い始めてからも変わらない。
     いや、自分の気持ちを認めてからは更に大事になったかもしれない。
     もっとも、この口から出るのは相変わらず悪態ばかりで素直な気持ちというものは時々しか言えないけれど。
    「いや、それは知っているのだが……な、なら好きな色とかはあるのか?」
    「色ねえ……つうかさっきから何でそんなこと聞くんだよ?」
    「その……好意を持つ相手の好きな物というのは知りたいというか……深い意味はないし、聞かれるのが嫌とかなら無理には……」
     確かにそれは自分も同感だ。なんならシャスティルを子供の頃から知っているというやつから好物を聞き出したことすらある。
    「……赤系統だな」
    「赤系……もしかして血を見るのが好きとかそういう……」
    「お前、俺のことなんだと思ってんの? 仮にも共生派筆頭のなのに魔術師に対する偏見酷くねえか?」
     とはいえ、魔術師という人種は基本自分本位なものだ。事実そういう奴もいるのであながち間違いでもない。
    「すまない。赤と聞いてつい……」
    「ったく……まあ綺麗だから、かな」
    「そういえば前に選んだカップも確かに綺麗な緋色だったな」
    「そういうポンコツは何色を好むんだよ?」
     自分はまだシャスティルほど素直には聞けない。だから不自然なく聞き返せる今はチャンスだ。
    「……黒、かな? でもあなたがくれたピアスの緑も好きだし、髪飾りの色も気に入っているから特定の色というわけでもないかな」
    「黒ねえ……まあ厳格ってイメージは確かにあってるかもだけどよ。なんつうか暖色系なイメージだったな」
     でも悪くはないかもしれない。黒は赤を引き立てるし……今度その色で何か見繕うのもいいかもしれない。
    「まあ赤系も綺麗だとは思うのだが……」
     そういいながら視線は一瞬1枚の書類へ――つい先日町外れで馬鹿な魔術師の起こした騒動についてだ。
     知らせを受けたこいつはすぐに現場へ向かったし、その後の対応は完璧だったともいえる。
     けど駆けつけたときには被害を防いでいた聖騎士は全身から生命に関わるほどの血を流していて……
     こいつの性格上、その光景を見て何も思わないなんてことはない。

     もしかして赤系と聞いて即血を連想するのは俺のせいではなく、むしろ……

    「……気に入らねえ」
    「すまない……そういうつもりじゃ……」
    「別に俺の色の好みについてじゃねえよ。むしろそっちが理由だったらよかったんだがな」
     こいつは聖騎士だ。剣を振るって戦えば血は流れるし、時には真っ赤に染まった仲間というものも目にする。
     多分シャスティルのイメージに強く残っているのはそういう赤ばかりなのだろう。

     別に色の好みなんざ口出しするようなものでもない。けど赤系を不吉な色だと思われんのは気に入らない。

    「……なあ、明日って確か教会は休みだよな?」
    「あ、ああ。一応暦の上でも休みだけど、少し書類を――」
    「どうせその仕事はやっても終わんねえ。なら明後日人がいる時にしろ。他人に頼れねえのは本末転倒なんだろ?」
    「で、でも頼るにしても少しでも進めておいた方が他の人の負担も減るではないか」
    「他人の負担よりポンコツの負担を減らせって言ってんだ。そもそもてめえは働きすぎだと他の奴らにも言われたろ?」
    「し、しかし特に予定はないし、空き時間になるくらいなら有効活用するのは」
    「だから明日1日お前の時間俺に寄越せっつってんだ。それとも仕事に使う時間はあんのに俺に割く時間はねえってか」
    「ふえっ!? えっと、そういうつもりじゃ」
     どうせこいつの頭の中では〝そんなこと言ってない〟とか〝誘われてたのか〟とか思ってんだろう。
     不器用な誘い方の自覚はある。それでも付き合う前は中々言い出せなかったのだからこれでも進歩してるはずだ。
    「んじゃ、決まりな。明日出かける準備が出来たら迎えに来るからよ」
     決定を告げ、返答を聞く前にそのまま煉獄の中へと戻る。
     あいつは律儀な性格をしているから本当に行けないならきちんと断りを入れてくるし、その時はあいつの意志を尊重する。
     影の外は何も言ってこない。それを肯定と受け取り、煉獄を通して幾つかの候補から明日連れ出す場所を見繕う。

     丁度この時期は目的に見合った光景になっているはずだ。



     バルバロスと約束をした翌朝、シャスティルは出かけるために身支度を整える。
     他の人から見れば〝それは約束ではなく一方的な要求だ〟とでも言われる内容ではあるのだが……
     そんな残念な誘い文句もシャスティルにとってはれっきとした約束である。

     私服に袖を通すのは久しぶりだ。
     思えばバルバロスはいつも傍にいてくれるけど、自分は礼服か洗礼鎧姿ばかりで場所も殆ど教会か仕事終わりの自宅なのだ。

     ――仕事に使う時間はあんのに俺に割く時間はねえってか――

     ……確かにこれでは言われて当然だ。
     バルバロスは声をかければほほ必ずと言っていいほど返事をくれたり姿を見せてくれる。
     うっかりをしたときは、すぐに出てきて助けてくれて……その際悪態をつくのはお決まりだけど。
     ぶっきらぼうだけど本当はすごく気にかけてくれて、彼はこんな自分のために沢山の時間を割いてくれているのだ。
     なら私だってバルバロスのために時間を使う……というより理由なんかなくとも、むしろそうしたいのだ。
     最も長い間、恋と縁のない環境だったたから恋人との時間というのはどうすればいいのかなんて分からないけれど。

    「んじゃ行くか」

     準備が出来たと同時に彼は姿を現す。
     丁度いいタイミングだ。的確すぎるくらいで、まるで見ていたんじゃないかと思う、くらい……

     ……あれ? もしかして……

    「どうしたんだよ? 急に固まっちまってよ。なんか忘れもんあるなら別に待っててやるけど」
    「ああああのっ、その、随分と来るタイミングがいいなって……」
    「あん? そりゃ影が繋がってんだから様子分かるし当然だろ?」

     様子が分かる。つまり……

    「み、みみ……」
    「耳? あー、ローブじゃなくてピアス付ける方がいいっつうならそうするけどよ」
    「違うっ! そうじゃなくて着替え、見てたり、とか……」

    「まあ別に構わねえよ」
    「私が厭うんだがっ!?」

     過去にバルバロスはスカートから出てきたこともあるし、私の下着姿なんて見たところで壁のシミ程度かもしれないけどっ!
     ……でも、恋人なんだからそのうち下着以上の……い、いやでも流石にまだ早いっ。

     じゃあ本当に嫌かと聞かれたらそれは――

    「あん? まあピアスに込められる魔術は普段と比べるとすくねえけど、ポンコツの護衛なら何とかする」
    「え? いや、その……」
    「それに移動くらいならこれでも問題ねえしな」

     あれ? 何か話が噛み合ってない……?

    「まあ着替えつってもローブを亜空間に放り込んでピアスぶっ刺すだけだから見ても面白くもねえと思うけどよ」
     そう言いながら目の前でローブを脱ぎ、髪も存外手際よく纏めていく。
    「構わないって……もしかしてあなたの着替えを見てもって意味……だったり……?」
    「見てえっつっただろ?」
    「えーと、その……」
    「流石に敵の目の前で着替えはしねえけど、別にポンコツに着替えるとこ見られたって問題ねえしな」
     もしかしなくとも、バルバロスの着替えを見たいと強請ったと勘違いされてる!?
     い、いや別に見たくないとかそういう訳じゃない……けど……
    「その、こういう見た目とかって気にするもんなんだろ? ……まあ確かに私服のお前も悪くねえしな」

     完全に善意の発言だった!

    「気持ちは嬉しい……けど、私はローブのあなただって好きだし、無理する必要は……」
    「厭うっつってもよ、別に魔王候補レベルにも届かねえ奴ならこれで十分だし、仮にやべえ奴と遭遇しても一旦引きゃいいだけだ」
    「厭うってそういう意味じゃ……って血! ピアスはそんなふうに刺すものじゃないって聞いたぞっ!」
     ポケットから取り出したピアスを、なんの躊躇いもなくそのまま耳へ。あの痛みは色んな意味でよく覚えている。
     バルバロスは平然としてるけど……魔術師たちは耳の痛覚というものはないのだろうか?
    「んな面倒くせえことしなくとも、くっつきゃ一緒だろ? ……血ならこれで問題ねえし気にすんな」
     淡い光と共に、あっという間に血は見えなくなる。確かに結果だけ見れば一緒かもしれないけど。
    「俺のことよりポンコツの準備はいいのかよ? 忘れもんねえなら移動すっけどいいか?」
     移動も緊急時以外は必ず声をかけてくれる。まあネフィの故郷に行った時は半分騙されたようなものではあったけど。
     了承の意を伝えれば足元の優しい黒は広がる。
     いつだって気遣ってくれて何かあれば助けてくれて……すぐ悪態つくけど大好きで大切な人の色だ。



    「わぁ!」

     影を通り抜けた先の光景に思わず感嘆する。

     眼前に広がるのは赤く色づいた葉を付けている木々。
     優しい風は頬をかすめ、それに乗って舞う木の葉は幻想的な雰囲気を魅せる。
     ひらり、ひらりと水面に舞い降り、ゆっくりと水に運ばれていく様子すら、ついつい目で追ってしまう。
     壮観とはまさにこういうのを言うのだろう。
    「すごい……」
    「この色は今の時期しか見れねえんだよ。暑い時期は緑だし、寒くなってきたら葉は全部落ちちまうしな」
    「こんな場所があるなんて……他に人はいないのか?」
     本当に素敵な所だけど、他に見に来ている人は見当たらない。人里から離れた場所なのだろうか?
    「今のところ近くに人の気配はねえし何かありゃすぐ対応してやるから護衛の心配はすんな」
    「あ……えっと、その……厭うってそういう意味じゃなくて……むしろその点に関しては信用してるから……」
    「あん? んじゃ何が問題なんだよ?」
    「それに関しては私の勘違いで……」

     あれ、そもそも勘違いの原因って……

    「その、あなたが来るタイミングが……影が繋がってるから様子がわかるって……」
    「まあ、そうだな」
    「その……見たのか?」
    「何をだよ? さっきからポンコツな挙動不審が多くて要領を得ねえんだけどよ……」
    「……わたしの、着替え」
    「は?」

     瞬間、バルバロスの表情は惚けたような状態でかたまり軽口すら止む。
     まるで時間でもとまったかのような静寂。

    「は、はああーーーーっ!? んなの覗いてねえっ!」
    「だ、だって様子がわかるって」
    「そりゃ音だ! 普段から護衛のために何かありゃ聞けるようにしてっから物音の止むタイミングとか扉の音とかで判断しただけだ」
     下着姿で部屋の外を動き回るわけじゃねえだろ、と言われたら確かにその通りで。
     つまり最初の会話から全て勘違いで……
    「ったく、さっきからのはそういう意味かよ。紛らわしいポンコツ発言してんじゃねえっ」
    「す、すすすまない! いつも野武士とか言ってるからそういうの意識されていないのかと……」
     申し訳なさに項垂れていると、差し出されたのはバルバロスの手。
    「このままじゃ、ポンコツが更に加速しかねねえからな。まあ転倒防止っつうやつだ」
     いつものように悪態混じりの言葉と揶揄うような表情。まるで先程の誤解なんて全く気にしてないとでもいうように。
    「うう……そこまで酷くは……」
    「はっ、んなことは普段のポンコツを改善させてから言うんだな」
     戸惑う間に手を引かれそのまま歩き出す。ぶっきらぼうだけど、やっぱり優しいのだ。

     ふと目についたのはバルバロスの耳。
     今日は髪を纏めているからよく見えるそこは、まるで周りの木々と同じように染まっていて……
     自分は魅力的とは言い難いから、そういう意味ではあまり意識されてないと思ってたけど、もしかして……

    「……もちっと女だって自覚しろ」

     女としても意識してくれてるのだろうか? もしそうなら嬉しいと思う。
     いつも自分ばかり……今も現在進行形でドキドキさせられるのだ。
     だからほんの少しでもバルバロスも同じ気持ちにさせられたらと、そう思いながらふたりっきりで歩いていく。

     彼の好きな色の世界で手を繋ぎながら。



    「まるでどこまでも続く赤い絨毯みたいだ!」
     少々誤解を招くトラブルはあったものの、手を引いて歩けば、すぐにいつもの明るさを取り戻す。
     はしゃいだり笑ってくれたりしてるし、概ね喜んでくれてると思う。
    「本当に綺麗」
    「……そうだな」
     赤い世界で豊かな表情を魅せる緋色。

     ふと前に聞いた言葉を思い出す。
     多分こいつのお袋さんの言う女の子というのは、こういうものを言うんじゃないだろうか?
     赤と聞いて血を連想する殺伐とした生活じゃなくて、こうやって平和な場所で無邪気に笑ったり……

     ……このシャスティルを辞めたと思ったなら、そりゃ心配にはなるわな。

    「辺り一面の葉が紅葉して……あなたが赤系を綺麗だと言う理由がわかる気がするよ」
     これだけで何度も見てきた血のイメージを払拭できるとは思わない。
     けど少しでも赤系は綺麗なものだという印象で上書きできればいいと思う。
    「でも他の季節で見れないのは残念だな。せっかくあなたが好きな色なのに」
    「そんなのいつでも見れる綺麗な赤系があんだから別に……」
     ついうっかり口走り、しまった……と思った時にはもう遅く。
    「他にも綺麗な赤を知ってるのか」
    「……まあ、朝焼けとか……」
    「朝焼けかあ。確かに素敵だな」
     誤魔化すために咄嗟に出たけど……
    「……気になるなら今度見にいくか?」
     こいつの喜ぶ顔を見られるなら綺麗に見える所を探しておくのも悪くない。
    「いいのか?」
    「なら、もっと仕事を周りに振り分けんだな。仕事に体力とられてっと早朝起きれねえぞ」
     ついでにワーカホリックなこいつに釘もさしておく。こいつに必要なのは休養で、俺の欲しいのはシャスティルとの時間。
     その両方を達成できるのだから我ながら悪くない案だと思う。それに……

     紅葉よりも朝焼けよりも――なによりも綺麗な緋色赤系の笑う姿をみられるのだから。
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