Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    むつき

    @mutsuki_hsm

    放サモ用文字書きアカウントです。ツイッターに上げていた小説の収納庫を兼ねます。

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 46

    むつき

    ☆quiet follow

    ケンゴ+シロウ
    歌舞伎町ハロウィンイベント時空
    サモナーが泊まりがけの留学だなんて!ってやきもきするシロウと、いつも通りのケンゴの話

    #東京放課後サモナーズ
    tokyoAfterSchoolSummoners
    #本居シロウ
    shirouMotoori
    #高伏ケンゴ
    kengoTakabushi

    心配性 綺羅綺羅しい微笑みを振りまく上級生とサモナーが連れ立って消えて以降、シロウはずっと心ここに在らずの様子を見せていた。
     授業はおろか、ホームルームもとっくに終わっている。開け放たれた窓の向こうからは、様々な運動部の掛け声や各種楽器の音色が風に乗って聞こえていた。自分の席に腰かけ、握りしめた端末の画面を頻繁に眺めては何もメッセージが来ていないことを確認してため息をつく。そんなことをしているのは、教室の中でシロウただひとりだった。
    「なあシロウ、そんなに心配することねぇじゃねぇか」
     教室の後ろ、引き戸の上の欄間を使って懸垂を繰り返していたケンゴが見かねたように声をかけた。
    「あいつひとりで歌舞輝蝶に留学するわけじゃねぇだろ。むしろ向こうに顔がきく奴が、うちの学園の別学年の代表になって同行してくれるんだ。ありがてぇ話じゃねぇか」
     振り向いた友人に向かって説得を試みる。けれどシロウの表情は曇ったままだった。
    「ツクヨミさんがいてくれることは確かにありがたいよ。けれどそれだけで万事良しというわけにはいかないかもしれないじゃないか」
     くぐもった声で言い返し、ため息をつく。
     交換留学なるもののメンバーに選ばれたサモナーが、歌舞輝蝶学園に世話になるというより歌舞伎町ギルドに世話になることは確実だった。昼日中に小一時間遊びに行くならいざ知らず、今回は何日にもわたる留学なのだ。それも学校に通うだけではなく、向こうで泊まるのだという!
     ツクヨミがいる以上――そして彼がサモナーに好意的な感情を抱いてくれているらしい以上――、悪いようにはされないと思うが、それでもシロウとしては心配なのだった。ひとつのギルドといえど、全員の意向が同じとは限らない。サモナーには新宿のギルドマスターという立場がある。余計な軋轢を生まないか、きっと向こうでも神経をとがらせていることだろう。シロウとしては、挨拶のひとつでもしに出向きたいところだった。
     歌舞伎町ギルドのメンバーは、みな義理堅く情に厚いと聞いている。こちらが誠意を見せれば向こうも同じだけ真摯に応えてくれるとは踏んでいるが、あまり過剰なことをして彼らの誇りを刺激するのは困りものだった。
    『アタシらがアンタのとこのサモナーに何かすると思ってんのかい?』
     例えばそんな風に疑われるのは、シロウの望むところではない。良くも悪くも他のギルドと接点を持ちたがらない歌舞伎町ギルドに対して、新宿の参謀は距離感を計りかねているのだった。
     ひとりでは答えの出ない事柄に思いを馳せ、頭を悩ませていたシロウの目の前、携帯端末が不意に震える。
    「ああ、やっとメッセージが……えっ?」
     切望していたサモナーからの連絡は、予想外の内容だった。
    「留学期間の間、歌舞伎町ギルドのセーフハウスに泊まるって!?」
    「へえ、そりゃ羨ましいな」
     唖然とし、思わず瞬きを繰り返したシロウのすぐ近くで声がする。懸垂の目標回数を済ませたらしいケンゴが傍らに立っていて、シロウの端末を覗き込んでいた。
     サモナーからのメッセージを自分の目でも確かめ、口元を緩ませている。楽しそうな様子を見せるケンゴを、シロウはぎゅっと睨みつけた。
    「どうしてそんな感想が出てくるんだ!」
    「どうしてって……。だってよ、よそのギルドのセーフハウスなんかめったに拝めるもんじゃねぇだろ。面白そうで羨ましいじゃねぇか」
    「お前はまたそんな脳天気なことを……」
     こっちは死ぬほど心配しているというのに、この幼なじみはどうしてそうも悠長に構えていられるのだろう。その神経がとんと分からない。頭を抱えるシロウをよそに、ケンゴは友人の肩をぽんと叩いた。
    「どうしてそんなにピリピリするんだよ。寝泊まりする場所が決まって良かったじゃねえか。野宿させたくはなかっただろ」
    「それはそうだが!」
     いくらなんでも野宿と比べるのは極端すぎる。気持ちにさざなみを立てたまま、再び顔を上げたシロウは憤然と言い返した。
    「けどよ、誰か特定の奴の部屋よりも、むしろギルドのセーフハウスの方が安心なんじゃねぇか? きっといろんな奴が出入りする場所だろ。いろんな奴の目があるってことは、なんていうかその……もし誰か一人がカゲキなことを考えたり言い出したりしても大丈夫っつーか……」
    「……複数のギルドメンバーが話し合うことによって、偏った意向や一個人の意見に対しての抑止力が働く」
    「そんな感じだ」
     適切な文句を見つけられず言いよどむ友人に言葉を足してやりながら、シロウは目の覚める思いがした。説明の言葉こそまとまりに欠けていたものの、ケンゴの指摘は冴えていたと言っていい。
    「確かによそ者扱いされるかもしれねぇ。でもあいつは歌舞伎町にダチだっているんだ。確かテツギュウとかイバラキとか言ったっけか、ずいぶん良くしてくれてるらしいぜ。そういう奴らが、きっとあいつを守ってくれるはずだ」
     ろくろく何も考えていないように見えながらも時折的を射たことを言う奴だと、内心シロウが感心していることに気付かないまま、ケンゴはぽつぽつと考えを述べる。
    「だからシロウ、お前がそんなに心配することないっての。どーんと構えてろよ! なあ?」
     何の迷いも見せずにそう言ってのけるケンゴが、シロウには眩しかった。ケンゴ自身の肝の据わり具合が、サモナーへの信頼が。
    「……そうだな」
     サモナーのことだ。歌舞伎町ギルドのメンバーとだってきっとうまくやれるだろう。ひとり残らず友達に、というわけにはいかないとしても、サモナーらしい、いい関係をきっと築くだろう。そのことをケンゴのおかげで思い出せたというのが、シロウには少し悔しかった。
     指先で押し上げた眼鏡のフレーム越しに、相手へじとりと視線を送る。
    「まったく、お前というやつは……」
     不服そうな口ぶりを受けて、ケンゴの眉が不穏に跳ねた。友人を真正面から睨みつけ、彼の机にどんと両手を叩きつける。
    「あ? なんだよオレが馬鹿だって言いてぇのか!」
    「そんなこと言ってないだろう!」
     反射的に、食ってかかってくるケンゴと同じ調子で言い返した。
    「……その逆だ」
     静かに言い添える。ケンゴはまるで分からないと言わんばかりに、思いきり顔をしかめた。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works