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    むつき

    @mutsuki_hsm

    放サモ用文字書きアカウントです。ツイッターに上げていた小説の収納庫を兼ねます。

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    むつき

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    サンダユウ←主人公くんちゃん
    歌舞伎町ハロウィンイベント時空
    先生が職員室の自席でカップラーメンを食べるのが見たい

    #東京放課後サモナーズ
    tokyoAfterSchoolSummoners
    #サンダユウ
    sandayu

    職員室 自分の学校でだって職員室に入るのはあんまり好きじゃないのだから、他の学校の職員室なんて余計に緊張するに決まっていた。
     引き戸をからりと開け、失礼しますとほんのひと声、その瞬間にあっちの先生もこっちの先生も首を巡らせて自分の方へ視線を送ってくる。悪いことをしたおぼえもなければ、先生たちから向けられる視線が咎められるようなそれというわけでもない。それでもいつでも何とはなしに、職員室というのは緊張する場所なのだった。
    「失礼しまーす……」
     お弁当を開けたり購買部や食堂へ行ったりする休み時間がのどかに過ぎていくのは、どこの学校でも同じだ。ここ歌舞輝蝶学園と神宿学園との違いは、外は日が暮れているどころか真夜中で、窓の外からの明かりといえば無数に立ち並ぶ街灯や、あちこちのお店のネオンカラーだった。
     恐る恐る首を差し込んだ職員室は、幸いなことにほとんど人影がなかった。祈るような気持ちで見知った姿を探す。もしかしたら資料室か、教科それぞれの準備室に引っ込んでしまっているかもしれない。
    「おう、どないしたん」
     少し不安に思いながらきょろきょろしているうち、聞き馴染みのある声が飛んでくる。堂々とした響きだ。探していた先生は、窓際の机の前にどっかりと陣取っていた。
     雑にまくったシャツの袖に、ネクタイのゆるんだ首元。教壇に立っている時とちっとも変わらなかった。
    「儂に用か?」
    「は、はい」
     まっすぐな視線を浴びても体がこわばらなかったのは、きっと自分がサンダユウ先生のことを結構好いているからだ。そんな風に分析しながら、先生の目を見つめ返して頷いてみせる。
     これが仮に好きな「同級生」だったら、ある程度は緊張したと思う。相手が「先生」だから、気さくに接してくれるから、自分に何の意識もしていないと分かっているから。だから自分も肩の力を抜いて、相手に寄りかかっていける。そんな気がした。
     サンダユウ先生はニッと笑って片手を上げた。
    「ほおか。ほなこっち。入って来ぃや」
     なんだか声がくぐもっている。近付いてよくよく眺めた机の真ん中にはカップラーメンが鎮座していた。ふわふわ上がる湯気が、おいしそうなにおいを運んでくる。透明なプラスチックカップに入ったサラダに、飲みかけのペットボトル飲料がその横を固めている。どうやら食事の真っ最中らしかった。
     机の両端に積み上がったプリントやらファイルやらが高々と山を作って、今にも崩れそうになっているのは見ないことにする。
    「あの、さっきの授業で回収するって言ってたノートです」
     胸の前に積み上げた、クラスのほぼ全員のノートを差し出す。受け取った先生は、ノートをじっと見下ろしたあと、片方の眉だけを器用に引き上げて怪訝な表情をしてみせた。組み替えた足元で、素っ気ないサンダルがぺたりと音を鳴らす。
    「なんやあいつら、留学生に持って行かせよったんか」
    「や、違うんです……、って、結果だけ見たらそうなんですけど。でもクラス委員の子は別の先生のところに行く用事があったから、じゃあ自分が持っていこうかって提案したんです」
     教科担任の机にノートを持っていくくらい、どうということはないのだという顔をしてみせる。少しでも手伝いをすることで、留学先のクラスの子たちに馴染めたらいいと思ったのは本当だった。
    「そんならええけどもやな……。パシられるようなことがあったら、こそっと儂に言うんやで? ええか?」
     遠くの方の机で新聞を読んだり採点したりしている他の先生たちの耳に入らないようにか、声を低めてひっそり付け足す。囁くような声もカッコいいなと、ほっぺたがゆるみそうになるのをなんとかこらえた。
    「おーい、聞いとるんか?」
    「あっ、はっ、はい」
     慌てて返事をする。ついでに首を何度も縦に振ってみせると、先生は顔をくしゃりとさせるみたいにして笑った。
    「よし。ええお返事や」
     言いつつ机の上の書類をぞんざいに奥へ押しやって、ようやく確保したスペースに自分が持ってきたノートの山をどんと置く。カップサラダの上から、割り箸が音を立てて転がり落ちた。
    「あ、あの、ごはんの途中にすみません」
    「ん? ああ、気にせんでええでそんなん。ラーメンももうほとんど食べ終わってるしな」
     笑いながら顔の前で手を振る。ふと、はたと気づいたような表情を浮かべ、隣に突っ立っているこちらを見上げた。
    「そういえばジブンはちゃんと飯食うてんのか? うちとこは神宿と違て寮もないさかい、誰が面倒見てるんか知らんけど……」
    「大丈夫です。今日もお弁当を持ってきてますし……」
    「弁当? どんなん?」
     背も高くガタイもいい人なのに、椅子に掛けているもんだから今だけは自分よりも目線が下だ。人の顔を見上げるように覗き込みながら首を傾げるってそんなのずるくないですか。目の前に本人さえいなければ、きいと唸って拳を握りしめていた。けれどそういうわけにいかないので、出がけに作ってきたお弁当の中身を指折り挙げる。最後まで言い終わらないうちに、先生が「おいおい」と口を挟んだ。
    「なんやジブン、えらいけったいな弁当やな」
    「あはは……。ツクヨミ先輩のお店の人たちが、まかないとか余った店屋物とかをくれるんです」
    「ツクヨミ? ……ああー、あの街でウワサの男前ホストくんか」
     得心がいったというように頷いて、顎を撫でる。奔放に伸びた無精ひげ。不意にその感触が知りたくなって、指先がざわざわした。
    「ま、ちゃんと食べてるんやったら安心や。よう食べてよう寝て、毎日学校来るんやで」
     窓の外を、大型の車両が轟音を響かせて通っていく。ぎらつくヘッドライトの明かりが窓から差し込んで、先生の顔に深く入った傷をなめるようにして通りすぎていった。
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