キスの口実「ん!」
細いチョコレートのお菓子を口に咥え、向こう端を恋人につき出す。顔を上げたケイローンは、少し笑って首を傾げて菓子を咥えた。
躊躇うことなく噛み進め、チョコレート越しに唇が触れた瞬間に、遠慮がちに押し付ける。ちろりと彼の下唇を湿らせてみると、ケイローンはそっと私の肩を撫でた。そしてがっしりと掴んで舌を捩じ込んだ。
「んんっ……ん、ぅ」
鋭い刺激に口の中がひくりと反応する。強張りかけた歯列を割った舌で探られ、執拗に上顎を撫でられると堪らなくなった。抗議の声も形にならず、つい逃げる舌をあっという間に搦め取られる。ぞくぞくと背中が震え、きつくシーツを握りしめるとケイローンがその手を取って握った。恋人繋ぎに絡め合う大きな手は温かくて心地よい。しかし熱い舌の感触は、私にはあまりに苛烈だった。
口の中で溶かされるチョコレートを、こくこくと飲み込みながら喉の奥で喘ぐ。口の端から伝った雫をも舐め取られ、きゅうぅとお腹の奥が切なくなった。
やっと離れた舌の間に伸びた糸もすぐにぷつと切れる。
「はぁっ……はっ、は……」
見上げた彼は、憎たらしいことに息一つ乱していない。悔しくなって睨んだつもりだが、頬が紅潮していて涙目で……きっと泣き出す寸前のような顔をしていただろう。
「ふふ、私のもどうぞ?」
二本目のチョコレート菓子を差し出される。
躊躇っていると、心底楽しげな笑い声が降ってきた。