愛しい小鳥「ん?」
窓をコツコツと叩く、微かな音が聞こえた。
白いレースのカーテンを開け、小さな来訪者に頬を緩める。
「おや、すっかり常連ですね」
みかん色の羽の小さな鳥。
一度餌をあげたからか、たびたび訪ねてくるようになった。
妻が起き出す前のわずかな時間。コーヒーを啜っていると、この小鳥は姿を表す。
窓を開けてやれば、チュン! と一鳴きしたその子がなんの警戒もせずにこちらの手に飛び乗った。
早くご飯ください、と言わんばかりに首を傾げている。この子の為だけに買っておいた鳥の餌を、もう片方の手のひらに乗せた。
「さあどうぞ」
嬉しそうに鳴いたその子が朝食をつつく。
その様子を、手のひらに乗せたままじっと観察していた。
やがて満腹になった小鳥が、幸せそうに身を擦り寄せてくる。
「ふむ……何かに似ているような」
人懐こい、甘えた仕草。見ているこちらの心を解きほぐすような表情。妙に覚えがある。
思案しているうちに、チュン! とまた元気に一鳴きしたその子は窓枠に飛び乗った。
「またいらっしゃい」
ふわふわしたお尻を振った小鳥は、また愛らしく鳴いて飛び立つ。
小さな後ろ姿を見つめていると、背後で物音が聞こえてきた。
「ふあ……おはよ……」
「おはようございます、まだ眠たそうですね」
「ん……」
起き出してきた妻が、ゆっくりと階段を降りてくる。
蜂蜜色の瞳を眠たげに擦り、ふらふらとこちらに近寄る仕草が愛おしかった。
抱き止めれば、嬉しそうに微笑む。
「朝ごはんなぁに?」
立香は愛らしく、こてんと首を傾げた。
その姿に何かを想起させられる。
先程感じた既視感の正体に思い当たり、自然と唇の端が吊り上がる。
少女を椅子に座らせ、用意した朝食を披露した。
煌めく瞳を見て心が満たされる。
「さあ、どうぞ」
「いただきます!」
焼きたてのトーストに、好物のジャムを塗って齧り付く妻の向かいに腰掛ける。
このまま、彼女の腹が膨れるまで見つめ続ける予定だ。
目が合えば、立香はにこりと無邪気に微笑む。
甘い心地に浸りながら、我が家の小鳥の頬を撫でた。