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    betsuno_nanika

    @betsuno_nanika

    ロクセリという鳴き声のやつです

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    betsuno_nanika

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    お着物であーれーしようとして全然ならなかったやーつー。もし期待していた方いらっしゃったらほんとごめんな…さ…い…。
    タイトルは最後に翻訳載っけてますよ!

    strike back新しい年を東方の国ドマにてかつての旅の仲間と祝い迎えた翌日。臙脂色のたおやかな布地に山吹色と白色をした大輪の牡丹を咲かせた華やかな着物を纏ったリルムが応接室に向かう木造の廊下を習った内股歩きで苦戦しながら進んでいると、旅の最中見慣れ過ぎていた黄色と青のコントラストが特徴的なすらりとした後ろ姿が目に入り、大きな目をぱちくりとさせた。

    「あれーセリス?今日は着物着ないのー?」

    背中に掛けられた声に跳び上がらんばかりに驚いた月光の髪を持つ女性が振り向き、酷く慌てた様子で口を開く。

    「お、おはようリルム!え、ええ、締め付けられるのが苦しくて…昨日おせちを頂き過ぎたのかしら?今日はドマの町をカイエンが案内してくれるから少しでも動き易い格好にしたのよ。」

    あはは、と笑ってそれらしい理屈を述べる珊瑚の口唇。
    途端、リルムの普段はくりくりと愛らしい瞳がすいと細められた。今をときめく新進気鋭の少女画家が持つ生物の細部までキャンバス上へ完璧に顕現せしめる観察眼からは逃れられない。
    晴れた日の空色の瞳は泳ぎ、頬は紅潮。いつもより早い口調と聞いてもいないのにすらすらと流れ出てくる言葉たち。そしてダウンスタイルの髪型。

    そこから導き出される答えは。
    天才画家は天使の姿で瞳に悪魔の輝きを宿す。

    「ふうーん?」

    少女はにやりと口唇を吊り上げると慣れない着物を着ているとは思えない素早さでセリスの背後まで近づき、己の頭ひとつ分高い位置にある首元に掛かる金糸の髪を、がばりと纏め上げた。

    「きゃあ!」
    「あれぇ?ドロボウの事だから『俺のもんだー!俺以外に見せるなー!』とか言って絶対うなじにキスマーク付けてると思ったのに。」
    「リリリリルム?!」

    そこに現れたのはしみ一つなく輝く白い首筋だった。無論言及された鬱血の跡など見当たらない。
    己の観察眼に絶対の自信を持つ少女画家は憶測が外れたことに彼女流に言えば「つまんない」気持ちになる。興味を失った手のひらからさらさらとこぼれ落ちて行くひやりとした髪たち。
    するとそこへ一足先に応接室へ向かっていた彼女の祖父の声。

    「おおーいリルムや、食事の準備が出来たそうじゃ!そろそろ行くゾイ!」
    「はいはーい聞こえてるよ!じゃあセリス、先に行ってるからね!」

    ドロボー待ってるんでしょ?とぽんと肩を叩き、光輝く向日葵は去っていった。
    一人になりしんと静まり返った長い板張りの廊下に自分の鼓動の音だけが耳に反響する。
    視線が足元に下がる。正確には自分の胸元に、だ。新雪に散らされた赤が服の上から透けて見えてはいないか。リルムはそれを見つけたのではないか。そんな事はありはしないのに気が気ではなく脈は狂い、幾度も確認してしまうのだ。

    昨夜の事を思い出す。
    ドマの煌びやかな帯結びは独特だが、布である以上、かの手先が異様に器用な男が結び目を解くのは容易い。但し質量と長さがあるため普段の様に瞬きをする間に着衣を剥奪する芸は見られない。代わりにするすると緩められすとんと床に落とされ羞恥心が煽られた。逃げを打っても振袖の重さと動き辛さが邪魔をし背後から捕らわれる。
    結い上げられた髪の付け根、うなじの辺りに柔らかく濡れた吐息を覚えこれからされるであろうことに甘く戦慄する。そこは、いけない。

    「…お願い、皆から見えないところにして…!」
    「…!…了解。」

    一層低くなった黒く燃える声が耳に注がれ、布団の海へと沈んでいった。





    記憶に乱される呼吸と脈を努めて戻そうと深呼吸を繰り返せば、近づいてくる喧騒に現実へと引き揚げられる。


    おーいロック!今日は着物着させてもらってないんだな?
    あ、ああ昨日餅食い過ぎたのか苦しいんだよな!

    マッシュと今脳裏に思い浮かべていた相手のやり取りが聞こえ、思わず噴き出す。二人して同じ事を聞かれ、同じ言い訳をしている。当事者で無い立場で聞けばなんと稚拙なのだろう。

    …そう。ひとつは同じ左胸に。もうひとつは腕も捲れなくしてやろうと右二の腕の内側に。胸元に赤い花を散らした相手に仕返ししてやったのだ。

    二人揃って着物を着る事が出来ない事情があった。着付けをお願いすれば必ず目に止まってしまう位置にお互いのものであると主張する色が存在するのだ。

    勿論彼との時間は愛おしく尊いものであるが、煌びやかで貴重な異国の民族衣装である着物を着る機会など滅多にないため、表には余り出していないが袖を通せると知った時、実は胸を弾ませていた。好みの柄を選ぶのも楽しく心躍り、着付けを終え、鏡で見せてもらった時も普段とは全く異なる己の姿に胸が高鳴った。その姿を彼に褒められた事もくすぐったくも嬉しく、翌日も綺麗だと言ってくれるだろうか、と着られる事を楽しみにしていたのだ。そんな彼女の秘めた乙女心を計らずも打ち砕いてしまった男に、可愛らしい悪戯となって跳ね返ってきたのだった。

    振り返り、声の聞こえる方へ。

    よおセリス。おはよう。
    ええ、おはようマッシュ。

    快活な笑みを浮かべ片手を上げながらすれ違うフィガロの王弟はセリスの姿に一瞬目を瞬かせたが応接室へと真っしぐらだ。一番長く共にいた気の置けない戦友として信頼している彼に服装について言及されるのは避けたかったので、気遣いに感謝する。理由がなんとも居た堪れないが。
    マッシュと歩いていた件の男へ視線をやれば、むっすりと唇を突き出した顔に「やってくれたな」と書いてあり、昨夜翻弄してきた男と同一人物と思えない程随分可愛らしい。その顔を見たら胸の内にわだかまっていた黒いもやが霧散し、空いた場所に「仕方のない人」という言葉がすとんと収まった。結局は自分も身を委ね幸せな時間を過ごしていたのだからお互い様だ。

    ふふん、と勝ち誇ったように笑って「さあ、行きましょう。カイエン達が待ってるわ。」と、追い越し側に左肩に手を置いた。

    そこにはもうひとつ。本人に見えない場所に咲かせた一輪の花。
    自分だけの秘密にそっと触れて、思わず笑みが深まる。後ろから迫る仕方のない愛する人の気配を感じながら着付けの方法を習ってみようかなどと考えるのであった。




    Strike back at Locke Cole.
    ロック=コールに反撃を!
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