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    Norskskogkatta

    @Norskskogkatta

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    Norskskogkatta

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    主くり
    帰還予定の時間を過ぎても帰ってこなくて不安がいっぱいの主とその部隊の隊員だった大倶利伽羅

    ##君とひととせ

    花冷え 
     
     遠征部隊が最後の帰還連絡から数時間経っても帰ってこない。
     夕方に帰ってくるはずだった第二部隊が夕飯時を過ぎても音沙汰がなく、こちらから隊長に持たせた端末に連絡しても通じない。こんなことは初めてだった。取り乱してはいけないと普段通りに振る舞っていたつもりだが本丸に残っていた面々には筒抜けだった。
     春も間近となって暖かくなってきていたのに花冷えしたのか厚めの上着を羽織らないと肌寒く、ことさら焦燥を掻き立てられる。
     帰ってきた時に主が空腹で倒れていたら怒られてしまうからと宥められて喉を通らないものを少しだけ食べた。その間にも帰還を知らせる鐘や返信はなかった。
     それから玄関を出て待っていようとするのを近侍の蜂須賀に風邪をひくからと引き留められ、とうとう日付を越えようとしていたときだった。帰還を知らせる鐘が鳴る。やっと帰ってきた。
    「みんな無事か!」
     俺が玄関から飛び出したせいできょとんとする面々の中に目を見開いている金色を見つけて心の底から安堵した。安堵してしまったことに、はっとした。
     そんな自分の身勝手な考えに固まっている間に蜂須賀が状況を聞いてくれていた。
     どうやら部隊の方では特に異変はなかったらしく、帰ってきたら暗くなっていたので驚いたらしい。こちらの状況を伝えてからその場で報告をしてもらい、もう遅い時間だからすぐに解散とした。
     蜂須賀にも遅くまで付き合わせて悪かったと言えば政府への報告書作りも手伝うと申し出てくれたが気持ちだけ受け取っておいた。
     執務室に戻って文面を起こす。それと合わせて調査依頼と、必要であれば転移装置の修復もしておくかとフォーマットを立ち上げて打ち込んでいく。
    「こんのすけ、いるか」
    「はい審神者さま」
     こうした緊急の依頼なんかはこんのすけを通した方が早いし確実だ。
    「政府に連絡頼めるか」
    「かしこまりました。受領いたします」
     こん、と鳴いたこんのすけの頭を撫でる。
    「夜遅くにごめんな」
     気にするなというふうにふっくらとした尻尾をふってどろんと空へ消えた。
     静かになった部屋でぐったりと背もたれに寄りかかる。目を閉じれば遠征部隊の顔が浮かぶ。
    「……なにもなくて良かった」
     言葉にしてようやく安心を実感できたのか、今まで感じていなかった眠気が一気に襲ってくる。寝るなら布団にいかないと、と思うのに目蓋が落ちていった。
     
    「おい、こんなところで寝るな」
     揺り動かされ、低くて優しい声がする。でもごめん、瞼が開けられないんだ。
    「……風邪をひく」
     わかってる、そういったつもりだが音になったのはむずがるようなうめきだけ。それからひやりとした肌寒さに近くにある温かさに寄りかかると呆れたようなため息が聞こえた。
    「……しょうがないな」
     浮遊感と規則的な揺れにさらに瞼が重くなる。
     このまま本当に眠ってしまえそうだと微睡んでいると横たえられた。布団に寝かされたのかとどうにかこじ開けた薄ぼける視界でとらえていると隣に馴染んだ温かさが潜り込んでくる。
    「か、ら……大倶利伽羅……」
     一番近くで見ることが多くなった焦茶色に鼻先を埋める。触れれば安心するようになった柔らかい猫っ毛のくすぐったさがうれしくて、申し訳ない。
     自分の弱い心を誤魔化すように抱きしめるとそろそろと抱き返されて、やっぱり安堵してしまう温かさに包まれて意識を沈めた。
     
     見上げればまぶしくなるような青空のもと、まわりを囲むように生えている桜から花弁が舞い散っている。見事な桜吹雪に見入っていると一際強く風が吹いて視界が優しい桜色に染まり、その中から待ち焦がれていた姿が現れた。
     戦場を駆け巡る黒の詰襟に赤い腰布。それからいつも通りの凪いだ金色。ずっと見ていたくなるようなその色を見つけたときに初めて安堵してしまったことが信じられなかった。
     この本丸に顕現してくれた刀はみんな等しく大事に思っているはずなのに、大倶利伽羅を見つけてやっと不安がなくなっただなんて。
    「……戻った」
     おかえり、と返すが顔を見ることが出来ないでいると大倶利伽羅が一歩近づいてくる。
    「あんたは、俺が帰ってきたことを喜んではくれないのか」
    「そんなわけないだろ!」
     つい顔を上げて反論してしまった。視線を捉えた金色は、なら何故だと静かに問いかける。
    「それは、」
     答えかけて今の状況の不可思議さに気がつく。まず大倶利伽羅はあんなことは言わないし今は昼間でもない。桜もまだ吹雪くほど咲いていなかったはずだ。
     ならこれはきっと夢なのだろう。自分の罪悪感が見せた都合のいい夢。だったら懺悔くらいはしても良いだろうか。
    「……みんなが無事だったのを喜ぶよりお前の顔が一番見たかったなんて言えないだろう」
     さんざん特別扱いはしないと言っておいてこの体たらくなのだから我がことながら呆れてしまう。不甲斐なさに頭が下がりつま先を見つめていると黒の革手袋に覆われた手がこちらへと伸ばされて指が絡められた。
    「俺は――」
    「お、」
     自分の夢の中なのにすぐ近くにいるはずの大倶利伽羅の声が聞き取れない。なんといったのか、名を呼ぶ前に桜が舞い上がって視界を埋め尽くされる。桜色から次第に黒く染まってそのまま意識を手放した。
     
     障子を透けて差し込む朝日に瞼を撫でられ寝返りを打とうとして腕の中に大倶利伽羅が収まっていることに気がついた。
    「……?」
     たしか昨日は遠征部隊の帰還の遅れがあってそれを玄関まで出迎えて、執務室に戻って書類を作ってと昨夜の記憶を順繰りに辿っていく。しかし大倶利伽羅と一緒に布団に入った記憶はない。
    「……いつのまに潜り込んだんだ?」
    「覚えていないのか」
     もぞりと動いて顔を上げた大倶利伽羅にとりあえず朝の挨拶をするとぼそりと返してくれた。それよりも覚えていないのかとはどういうことだ。なにか寝ぼけてやってしまったのだろうか。
    「え、わるい……なんも覚えてない……」
    「薄情だな」
    「ほんとになんかしたのか……?!」
    「さあな」
     布団を跳ね飛ばす勢いで起き上がると大倶利伽羅もはぐらかしながら胡座をかいてくありとあくびをしていた。
    「まあでも、悪くなかった」
    「なにがだよ……」
     いつになく機嫌がいい。しかしこうなったらなかな口を割らないのが大倶利伽羅だ。気にはなるが下手に突っ込んで喧嘩になるのは避けたい。
     まあいいかと肩を下ろすと大倶利伽羅は朝餉に遅れるなよと言い残して部屋を出て行った。
     布団の周りに誉桜が散らばっているのに気付いたのはその背中を見送ってからだった。
    「なんでこんなに……まさか、な」
     うっすらと桜吹雪を思い出して、そんなはずはないとかぶりを振った。
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    Norskskogkatta

    Valentine主くり♂くり♀のほのぼのバレンタイン
    料理下手なくり♀が頑張ったけど…な話
    バレンタインに主にチョコ作ろうとしたけどお料理できないひろちゃんなので失敗続きでちょっと涙目で悔しそうにしてるのを見てどうしたものかと思案し主に相談して食後のデザートにチョコフォンデュする主くり♂くり♀
    チョコレートフォンデュ一人と二振りしかいない小さな本丸の、一般家庭ほどの広さの厨にちょっとした焦げ臭さが漂っている。
    執務室にいた一振り目の大倶利伽羅が小火になってやいないかと確認しにくると、とりあえず火はついていない。それから台所のそばで項垂れている後ろ姿に近寄る。二振り目である妹分の手元を覗き込めば、そこには焼き色を通り越して真っ黒な炭と化した何かが握られていた。
    「……またか」
    「…………」
    同年代くらいの少女の姿をした同位体は黙り込んだままだ。二振り目である廣光の手の中には審神者に作ろうとしていたチョコレートカップケーキになるはずのものがあった。
    この本丸の二振り目の大倶利伽羅である廣光は料理が壊滅的なのである。女体化で顕現したことが起因しているかもしれないと大倶利伽羅たちは考えているが、お互いに言及したことはない。
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