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    あずきバー

    @A2U_KI_

    あずきバーの小説置き場です〜〜〜
    たまーに没の供養とか表じゃあげづらい絵とかも載せるかも

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    あずきバー

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    ずっとうだうだ言ってたやつの序章的なアレを書いたのでそっと放流します…………昔より文章ド下手になってる気がして自分でめちゃわろてる

    スケープゴート・エリジウム「……やっと来ましたか。早く行きますよ、2人とも。遅れれば上から苦情が入りますからね」
    「ンなモン勝手に入れさせときゃ良いだろうが。この俺に文句言う奴は全員ブチのめしてやんよ」
    「だめだよ、そんなに怖いこと言ったら……」

    安いスプレーの落描きにまみれた路地裏で、3人は歩き始めた。





    「忘れ物は無いかしら?準備が出来たならそろそろ出ましょ」
    「……問題ない」

    青いネオンの薄明かりの中で、2人は頷きあった。





    「ねぇまだ〜?ボクちょっとコーデ微妙だから1回戻りたいんだけどぉ」
    「ちょい待ちぃな、俺の酒どこにやったかわからんねん」

    偽物の光に照らされた扉を挟んで、2人は欠伸をした。






    2XXX年。

    【Q】キュー────そう称される化け物へと、人間が変異してしまう現象。“この国で産まれた人間にのみ”発生するその現象に対処するため、この国は他国との関わりを最大限に絶つことを決心せざるを得なかった。未知の現象による混乱に陥った国内の景気は悪化し、外交面でも不便が目立つようになった。
    既に最初の【Q】が発見されてから67年が経つが、未だに根本的な解決には至っていないのが現状だ。

    そしてある時、日光を浴びることにより【Q】に変異する確率が上昇する───巷で話題になったその噂に何よりも食いついたのは政府であった。莫大な費用をかけた正式な調査が行われたのち、目を見張る速さでこの国全土には空を覆う巨大な“天井”が国力を総動員して建設され、街はネオンで照らされるようになった。【Q】の発見から7年が経過した年のことだった。

    【Q】は不死身とも言える生命力を持つ、いわゆる“ゾンビ”と言ってしまえるようなものである。そんな中唯一、【Q】に対して有効な殺傷手段が見つかったのはそう遅くはなかった。

    【=】イコール。【Q】と同じく突如として人間が変化したものである。人口の2%程度しか存在しない彼らには、【Q】の息の根を完全に止める力が神から授けられていた。彼らの吐息は敵を苦しめ、彼らの握った道具は全て神の力が宿ったように敵を撃ち抜いた。
    太陽のなくなったこの国に現れた光。太陽と同等──そう信じた民衆から贈られた名が【=】だった。時が経ち“太陽を知らない世代”が生まれても、民衆はみな太陽を恐れ、焦がれていた。

    しかし天からの贈り物とはまさしくその通りで、【=】になった人間には国から多額の奨励金が出され、最低限の生活が保証される。借金まみれで底辺にいた人間が【=】になり、全てをひっくり返した──という話は有名だが、ある種都市伝説のようなもので、真偽は明らかでない。だがそれも現実的にありえてしまう世の中なのだ。


    そして“天井”が出来てから60年が経った今、A・B・Cの3区画に分けられたこの国で、太陽に選ばれた【=】たちは人々を守るために今日も身を粉にして働いている。







    「という訳で、今期もメインのメンバーは変わらないですね」

    定期的に行われる【=】幹部の会議のため、各区画のトップは一堂に会していた。わざとらしく照明が控えられた室内、幹部たちに囲まれて肩身が狭そうにタブレットを抱えた気弱そうな職員が一息ついた。
    行儀悪く机の上に脚を載せて椅子に座っている男───A区画リーダーのメレヴィアが気怠そうに欠伸をした。伸ばされた淡い金髪の襟足がぱさりと垂れる。

    「もう終わったのかよ、ンじゃ帰っていいか?」

    途端に職員は慌てて手を振った。くたびれた黒いスーツがさらによれていく気がする。

    「ちょ、ちょっと待ってください!まだ身体検査が残ってますから……!」
    「そうですよ、メレヴィア。毎回やっているんですから、いい加減覚えてください」
    「?どうせなんも変わんねぇだろーがよ」
    「貴方、検査の意味分かってるんですかねぇ……」

    メレヴィアに小言を言うのは同じくA区画のイニアスだ。その背後ではもう一人のメンバーのノーナオが大きく頷いていた。
    メレヴィアは整った顔を大きく歪めて不服そうな表情を浮かべる。

    「ンなダラダラしとくわけにいかねぇだろ、俺らが街留守にしてる間なんかあったらどうすんだよ」
    「てゆーかそのために、日頃から部下くんたちを教育してるんでしょ〜?頭硬いですよ、A区のメレヴィアさん」
    「せやせや、こういう日くらいゆっくりしようやないか」

    部屋の反対側で座る2人─────C区画のマオとイサラザが野次を飛ばしている。人を小馬鹿にしたような口調のマオと妙な喋り方のイサラザに、メレヴィアは拗ねた子どものように腕を組んでそっぽを向いた。

    「チッ……C区の奴らは毎度お気楽そうなこった」
    「確かに彼らの言う通りですよ、メレヴィア。貴方が育てたチームが、たった1日すら街を守れないとお考えで?」
    「分かった分かった、テメェまで口煩く言うなってンだよ」

    まぁ貴方の考えも悪いことではありませんけどね、とイニアスは眼鏡の位置を直しながら付け足した。

    「あ、あはは……。では皆さん、検査会場へ移動していただけますか」

    職員の案内に反応して、それぞれの区画ごとに別の部屋へと移動するために立ち上がる。すぐに早歩きで移動する者もいれば、椅子から立ち上がるのも気怠そうな面々もいた。
    職員の男は苦笑いをして胃を抑えながら、担当スペースへと向かっていった。








    C区の幹部メンバーであるイサラザとマオ、そして検査担当の職員はとある一室にて向かい合っていた。マオの身体検査結果がディスプレイに映し出されている一方、イサラザのものは部屋のどこにも見当たらない。

    「あのぅ、イサラザさん。検査の日はお酒飲んで来ないでくださいって、前にも言いましたよね……?」

    職員はおずおずと、タブレットの影から顔を覗かせるようにして告げた。告げられた人物──イサラザ──は、斜め上に視線を向けて頭に疑問符を浮かべる。

    「え?せやったっけ?」
    「言いましたよ!前回の帰り際にも言ったし、なんなら1週間前に送った会議と検査のお知らせのメールにも書きませんでしたっけ」

    イサラザは安っぽい椅子の背もたれに大きく寄りかかって、斜め後ろにいるマオに問いかけた。顔の片側に垂れる三つ編みも共に揺れる。

    「あった?そんなん。なぁなぁマオくん覚えとる〜?」
    「ボクもわかんないよ〜」
    「そもそもマオさんはなんで止めないんですか!今日の朝から一緒に来たなら言ってくださいよ呑むのやめろって!」

    職員の悲痛な叫びに、マオは珍しく少々虚ろな目で薄く笑いながら応えた。

    「いや……普通に忘れてたね……イサラザがお酒飲んでるのが日常すぎてなんの違和感もなかったね……」
    「マジトーンで言わないでください……」

    酒の抜け切っていない赤らんだ顔で、コレまだ終わらんの?はよ酒買うて帰ろ、と呑気に言ってのけるイサラザに、職員は軽く目眩がした。

    ……この仕事、辞めたいな─────。





    「えぇ、俺また検査しに来るしかないん?」
    「当たり前ですよ、お酒飲んでる状態で検査なんてできませんから……」

    部屋を出たあと、会場の出口へと向かう中、少し怒っているような素振りで職員はため息をついた。
    めんどいなぁ、と頭を搔くイサラザの顔を見るに、そこまで嫌がっているのではないようだった。どうせまた1日サボれてラッキーくらいの気持ちなのだろう。
    イサラザはまだ酒が抜けていないのか、歩きながらマオにもたれかかってくる。大きく開かれた彼のシャツからはアルコールで赤みを帯びた肌が覗いていた。

    「マオくんもまた一緒に行こうなぁ」
    「なんでボクも〜?怒られないならいいよ」
    「マオさんは仕事してください」
    「え〜?ええやんかぁ、こんなにカワイイ子ぉやで、こん子のお願い聞いたってやぁ」
    「マオさんのお願いじゃなくてイサラザさんのお願いでしょ!」

    酒飲みの男は歩くのも怠いのかよく欠伸をしている。マオにもたれかかったまま、彼は駄々をこねた。ひとつに結われた襟足がぴょこぴょこと跳ねる。

    「も〜せやったら俺マオくんとしか行かんよぉ」
    「またそうやってめんどいこと言うよね……」
    「……もうなんでもいいですよ、次はお酒飲んで来なければそれでいいです」
    「それはどうか分からんなぁ」
    「本気で怒りますよ」
    「お〜こわこわ、分かっとるって」

    ふざけた態度のイサラザに 、2人は明後日の方向を向いて溜め息をついた。





    じゃあお気をつけて帰ってくださいね、と言いながら職員はセントラルへの巨大なゲートを閉じた。重要な関所であるというのにセキュリティがなんともあけっぴろげなのは、C区のお国柄──区画柄?──だろうか。
    イサラザは縄張り地元の天井を見上げながら欠伸をした。「やっぱこの区画眩しいわ」
    マオはスマホを見ながら笑った。「暗いよりよくない?」
    太陽のないこの国の中心セントラルにもやはり太陽はなかったが、このC区だけは特別だ。天井にはC区の住民によって施された装飾───太陽のオブジェクトが光り輝いている。電気の無駄であるとして時折論争を巻き起こすこともあるが、基本的にはC区にいる人間の殆どからはこのオブジェクトは愛されていた。これを目当てにこの区画に移住する者もいると聞く。

    「もうこんな時間か……早く帰ろ」
    「せやなぁ、…あ〜マオくん、」

    危ないで。

    その言葉と同時に放たれたひとつの弾丸はマオの頬のすぐ横を駆け抜けたかと思えば、彼の背後に迫っていた【Q】を撃ち抜く。不快な音と共に、壁に黒黒とした血飛沫が飛び散った。醜いそれは撃たれた穴から崩れてゆき、マオへ伸ばした手も歪んで、ぐちゃりと地面に落ちた。イサラザは腰に拳銃を仕舞うと、先程までの腑抜けた態度のまま、帰ってきて早々かいなぁと欠伸をする。マオは少し驚いた顔をして、足元に転がった残骸を見た。

    「うわ全然気付いてなかった、ありがとイサラザ」
    「油断、しとるんちゃう〜?俺おらん時に逝ってもらわれたら困るでほんま」
    「わかったわかったって、今回だけだよ」

    スマホを取り出して慣れた手つきでセントラルへ【Q】討伐の知らせを送るイサラザはやはり眠そうだった。「今月何件目?」「さぁ?まぁABC全体で言うたらひどい数字やろなぁ」
    ひと通りのことを済ませると、イサラザはマオを見て手を振る。酒に呑まれた瞳とはなんとなく視線が合いにくく、マオはいつも苦労する。

    「そしたらマオくん、またなぁ」

    マオはそのイサラザの顔を、“元々人間だった化け物”を殺した直後にしては穏やかな表情だと思った。しかしそれを非情だとは思わなかった。

    「うん、じゃあねイサラザ。今度の検査はちゃんと行きなよ」

    はいはいわかっとるって、と本当に分かっているのか分からない返事をして、イサラザは歩いてゆく。
    おかしいな、その方向に彼の家はなかったはずだが。マオはそう気付いたが、しかしそれを引き止めることはせず、ただ自宅へと向かうことにした。彼の自由は彼のものであり、彼なら心配せずともいいとわかっていたから。

    「……お酒買おうかな」

    珍しく飲酒をする気分になって、マオは近くの店に寄った。








    B区画の幹部2人は、ただ静かに検査結果を待っていた。
    ソファに座った黒ずくめの男──ソフィア──の反対側に腰掛けた白衣の男は、検査結果の薄っぺらな紙が挟まれたボードを片手に言った。

    「───まだ問題なさそうですね。それにしてもいったいどうやって……不思議なこともあるものです。まぁそうは言っても念の為、注意を怠ることのないようにお願いしますね、ゾールさん」

    視線を投げかけられた女──ゾール──は、特徴的な狐目と、固定されたかたちのようにいつも通り浮かべられた微笑のまま、ソフィアに顔を向けた。

    「えぇ、分かってるわよ。ねぇソフィーちゃん」
    「……」

    常から心ここに在らず、という雰囲気のあるソフィアは何も口に出すことはなかったが、それから何も汲み取ることができないほど、ゾールは彼との付き合いは短くはなかった。





    検査会場を出たあと、2人はこの建物から出るために長く暗い廊下を歩いていた。歩幅をどちらが合わせるともなく、並んで足は道を進んでいく。暫くすると、おもむろにソフィアが立ち止まって口を開いた。囁き声というには芯があり、唸り声というには平坦な、低く沈む音が通路に響く。

    「───いつ俺も、【Q】になるか分からない」

    だから、というその先は、ソフィアは口にしなかった。
    きっと第三者が見ていれば、随分と急な話の切り口だなと思っただろう。
    彼の言う“それ”は、検査結果を見れば誰だって解ることだった。ずっと前から、何度検査しても変わることの無いその事実は常に彼を悩ませている。

    “【Q】と【=】どちらの性質も持ち合わせている”。
    彼は、この世界では極めて異質な存在だった。確かに【Q】化の兆候が出ているのに、彼は依然として【=】として【Q】を始末する力を持ちつつ生きながらえていた。

    無口で常に無私ともいえるソフィアの、珍しく自身から発せられた言葉を受け止めたゾールは、当たり前のことを教えるように、ゆっくりとつややかな唇を震わせた。下品ではない妖艶さを孕んだその声は静かに通路にひびく。

    「もしキミが【Q】になったとしても、私なら殺せるって上から信頼されてるから、今キミを私のもとで自由にできてるのよ?」

    殺せるという単語を選んだことに特に意味は無かったが、それがこの女の通常運転だった。
    ソフィアは至っていつも通りの無表情だったが、それでも、とどこか言いたげな風が、人気のない通路を吹き抜けていった。
    彼は無機質にみえて心が優しいから、きっと化け物の身となって周りを傷付けることを、望んでいないのだ。ゾールは言葉を続けた。

    「しかも、【=】だからって、完全に【Q】にならないわけじゃないわ。私だって、いつかは【Q】になってしまうかもしれない」

    【=】の人間は【Q】化のリスクが低くなる。それは長年の研究のお陰で既知のことだ。でも。
    今にも泣き出しそうな幼子に言い聞かせるように。質のいい革手袋を外して、自身より背の高い男の真っ黒な髪を撫でて、女は告げた。しかしそれは、決して馬鹿にする意図を含んだものではなかった。
    女の手はうつくしかったが、傷つく痛みと治る過程を知っている掌だった。

    「ね?わかったかしら、ソフィーちゃん。大丈夫、大丈夫よ。心配することなんてないわ」

    これでおしまい、とばかりに女が微笑んでみせれば、ソフィアはそれ以上何も言わなかった。ゾールはソフィアの不安を除ききることはできないと解っていたし、ソフィアもゾールにこれ以上を求めようとは思わなかった。
    素に晒された手のままにゾールがソフィアの手を引いて、再び歩き出そうとすれば不意に、廊下に別の足音が響いた。そして角から姿を見せた人物は、2人にとって馴染みのある男だった。
    背の高い男は2人を視界に認めるとにっこりと笑みを浮かべて、白手袋に覆われた手を振った。

    「やぁソフィアくん、元気そうかい?ゾールさんも久しぶり」
    「あら、エルーザ先生。わざわざセントラルまでお越しで?」

    ゾールが首をかしげて言う。金色の長髪と、白を基調としたセットアップに身を包むその男──エルーザ──は、また笑った。少し高いその声には、その職──医者らしく人を安心させるような響きがある。

    「僕はソフィアくんの担当のお医者さんだからね」
    「今回も検査結果はいつも通りだったわ」
    「そうかいそうかい、異常がないようでよかったよ。ソフィアくんはもちろんゾールさんも、身体には十分気を付けるようにね」

    2人の顔を見て満足したように目を細めると、再びひらりと手を振って歩き出した。

    「実は僕、これから総合研究所向こうに用があってね、今日はもう行くよ。また何かあったら、僕の診療所にいつでもおいで」
    「ええ、もちろんそのつもりよ、先生。行ってらっしゃい」
    「じゃあね、ソフィアくんも」
    「……」

    ソフィアはちいさく頷いて返す。
    そしてまた、2人は外へと歩き出した。









    開けた道に出れば、見覚えのある3つの人影がゾールの視界に入った。口論でもしているのだろうか、それともただのじゃれあいか、なにやら言い合っているうちのひとりを見て、なにかに急かされるような感覚を覚えた女は、ちょっとまっててねソフィーちゃん、と囁いてから口を開いた。

    「メレヴィアくん」
    「あ?…………ンだよゾールか」

    A区のトップ、メレヴィアという男。堂々と背筋を伸ばして、しかしどこか気だるげな余裕と色を纏って立つ彼は、ゾールを認識すると素直に身体ごと振り向いた。横にいるイニアスとノーナオは唐突な訪問者に不思議そうな顔をしていた。

    「どうかしたかよ、迷子か?」
    「君じゃないんだから、そんなことしないわ。ただ……気になっただけ。最近は元気かしら?テレビで見る分には元気そうだけれど」
    「たりめーだわ、ガキじゃねーぞ俺は」

    ゾールはメレヴィアの頭のてっぺんから下まで、何かを探すように見た。そして笑った。

    「……そうね、そうよね。ごめんなさい、お邪魔しちゃったわ」
    「別に謝るこたねぇけどよ」

    すぐ横で話を聞いていたノーナオは不思議そうな顔をしたが、彼は何も言わなかった。

    「……じゃあ、これで失礼するわ。また会いましょ、A区の皆さん」
    「えぇ、お互い頑張りましょうね」

    イニアスはゾールの言葉に返事をして、我々もくだらないことで言い合ってないで行きましょうか、とチームメイトを急かす。ゾールもまた外へと向かい始めた。
    メレヴィアはゾールの後ろにいる男ソフィアを見ると、少しだけ口角を上向かせた。

    「んじゃ、またどっかで会ったらよろしくな。ソフィーチャン」
    「……その呼び方をするな、不愉快だ」

    少々突き放すような口ぶりでソフィアは応えると、先を歩く女の方へまた進み始めた。ゾールは彼が追いつけるように歩みを緩めているようにも見えた。

    「ンだよ、あいつには呼ばせてやがんのによォ」

    不可解そうなメレヴィアに、眼鏡の位置を直しながらイニアスは言った。

    「……あの二人の間にパートナー関係があるのか把握していないので、これは憶測ですが。あの二人にとって、あれが“Collar”のような役割を果たしているのかもしれませんね」
    「うーん……自分を縛り、定義し、所有されている証だと示す……カラーのかたちは、たしかに人によってそれぞれかもしれないね」

    ノーナオも同意を示す。反省を促す教師のような眼差しで、イニアスはメレヴィアに笑いかけた。

    「あなただって、自分の首輪に不躾に触られたら不快でしょう?まぁあなたは日頃から首輪をするタイプじゃないですけど」
    「………」

    眉をひそめて眼鏡の奥の瞳をじっと見たメレヴィアは、突然大股でずんずんとソフィアに近寄って声をかけた。メレヴィア?と不思議そうにするチームメイトは無視して。

    「おい」
    「………何だ」
    「………………悪かった、知らなかったンだわ」

    バツが悪そうにしながらも目を見て謝罪するメレヴィアに、ソフィアはその乏しい表情筋を動かして驚いたようだった。知らなかった、その言葉通りである。メレヴィアは知らなかっただけで何も謝る必要は無いと言ってしまえる立場だったが、しかしそれをしなかったのだ。

    「……フッ、子供か」
    「ァ」
    「馬鹿にした訳では無い」
    「いやしてただろ……」

    手袋に覆われた手で、ソフィアは自身より低い位置にあるメレヴィアの頭を撫でた。うげ、とメレヴィアは唸る。

    「……ゾールあいつが世話を焼くのも頷ける」

    またな、A区の小僧。そう呟くと、また先で待っているゾールの元へと歩き出す。

    「ンだよ……つか小僧て……」
    「メレヴィア、また人と仲良くなったんだね」
    「仲良くぅ?今のどこがだよ」
    「なんというか、人を絆すのが上手いんですよねぇ、貴方」
    「ワケわかんねー……」

    メレヴィアはがしがしと頭を掻くと、すぐにどうでもよくなったかのように、早く帰ろーぜ、とノーナオにもたれかかった。







    総合研究所セントラルの最上階、悩ましげに書類と見つめ合う仕事をしている男──ゼタルネ──の研究室に、ドアの向こうから真面目そうな女性の声が届く。

    「ゼタルネ先生、お客様がお見えです」

    女性の影の横には長身の男の影が、曇りガラス越しに見える。研究所に資金を提供する上層部が世間話研究の邪魔でもしに来たか、と思わなくはなかったが、男はそれを許可する道以外を持ちえなかった。

    「通せ」

    機械的な音と共に開かれた扉から聞こえる足音には聞き覚えがあり、あぁこっち・・・だったかと、ゼタルネはひとり心の中で溜め息をついた。
    歩いてきてすぐ、ゼタルネの隣の椅子に馴れ馴れしく足を組んで腰掛ける男──エルーザ──は、長ったらしい金髪と清潔感のある白い服を纏って笑う。

    「やぁ、ゼタルネ先生?久しぶりだね、最近調子はどうだい?」
    「…………君か。いい加減しつこいぞ、またあの件で来たというのならさっさと帰──」
    「あぁちがう、違うんだ先生。今日は別の話さ」

    椅子から身を乗り出して、鼻と鼻が触れ合ってしまいそうなほど顔を寄せたエルーザは、微笑んだ顔のまま囁いた。甘くかすれた中低音が、ゼタルネの鼓膜を揺さぶる。

    「君の力を貸して欲しいんだ。きっと───損はさせないから」



    ***
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    あずきバー

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    「だめだよ、そんなに怖いこと言ったら……」

    安いスプレーの落描きにまみれた路地裏で、3人は歩き始めた。





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    「……問題ない」

    青いネオンの薄明かりの中で、2人は頷きあった。





    「ねぇまだ〜?ボクちょっとコーデ微妙だから1回戻りたいんだけどぉ」
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    2XXX年。

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