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    流菜🍇🐥

    @runayuzunigou

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    TF主ルチ。ルチがTF主くんのキャラクターの好みを知りたがる話。

    ##TF主ルチ

    好み その日、僕とルチアーノは、いつもの商店街を歩いていた。人で溢れる大通りを抜けると、十字路を曲がって細い通りに足を踏み入れる。真っ直ぐ歩いた先にあるのは、複数の店舗が集まっているショッピングビルだ。中小企業の運営する小規模なカードショップは、このような建物に入っていることが多いのだ。
     狭くて急な階段を登ると、ガラス張りの扉の前に辿り着いた。店内も相当狭いようで、ガラス越しにショーケースが見えている。入り口付近に並べられているのは、発売したばかりのパックのカードだ。扉を開けて店内に入ると、迷うことなくショーケースの前に向かった。
     敷き詰めるように並べられた新規カードを、一枚一枚眺めていく。探しているカードがあると分かると、今度は値札に視線を向けた。機械で印刷されたシールの表面には、ゼロが三つも並んでいる。相場の価格とはいえ、すぐには買えない値段だった。
     結局、ショーケースを一通り見てみたものの、目ぼしいカードは見つからなかった。お目当てのカードはいくつかあったのだが、すぐに買えるような値段ではなかったのだ。他に掘出し物がないかと思って、ぐるりと店内を一周する。真剣にカードを選ぶ僕の姿を、ルチアーノは呆れ顔で見つめていた。
    「やっぱり、新しいカードの値段は変わらないね。せっかくだから、もう一軒だけ見に行っていい?」
     様子を窺うように口を開くと、ルチアーノはあからさまに顔をしかめた。大きく溜め息をつくと、重苦しい声で言葉を返す。
    「まだ行くのかよ。そんなにぐるぐる回っても、カードは安くならないだろ」
    「もしかしたら、次に行くお店には特価品があるかもしれないでしょう。あと一軒だけだから、お願い」
     彼の目の前で両手を合わせながらも、僕は半ば諦めていた。僕たちがカードショップを巡るのは、今回のお店で五軒目なのだ。かれこれ二時間は周辺を彷徨っているから、ルチアーノにとっては飽き飽きだろう。しかし、僕の予想とは裏腹に、彼の返事は優しいものだった。
    「分かったよ。一軒だけだからな」
     吐き捨てるように言うと同時に、彼はフロアの外へと歩いていく。まさか許してもらえるとは思わなかったから、僕の方がびっくりしてしまった。呆然とその場に佇んでいると、ルチアーノはくるりとこちらを向く。
    「何してるんだよ。とっとと行くぞ」
     不機嫌そうな声に急かされて、僕は慌てて後を追った。ガラス張りの扉を押し開けると、小走りで彼の隣に並ぶ。僕の買い物に付き合ってくれるなんて、彼も随分丸くなったものだ。出会ってすぐの頃なんて、一方的に振り回すだけだったというのに。
     感慨に耽る僕の隣で、ルチアーノはエレベーターのボタンを押す。下降を示す矢印ボタンが、淡いオレンジの光を灯した。停止階を示す上部の数字は、上の階で停止したままだ。この手のビルのエレベーターは、乗り込むまでに時間がかかるのである。
    「なんだよ。全然来ないじゃないか」
     扉の前で佇んだまま、ルチアーノは不満そうに声を上げる。待つということが嫌いな彼にとって、この時間は無駄に思えるのだろう。再び階数表示に視線を向けると、僕は諭すように答えた。
    「こういうところのエレベーターは、来るまでに時間がかかるんだよ。急いでるなら、階段を使って降りたら?」
    「嫌だよ。この手の建物の階段は、必要以上に段が大きいだろ。僕は子供の姿で造られてるから、君よりも負担が大きいんだよ」
     せっかくの僕の提案も、ルチアーノは嫌だの一言で片付けてしまう。結局、僕たちは降りてこないエレベーターを、永遠に待ち続けることとなった。背後で扉が開く音がしたかと思うと、誰かが並ぶ気配がする。少し気まずさを感じていると、ようやくエレベーターの扉が開いた。
    「ほら、開いたぞ」
     ちらりとこちらに視線を向けると、ルチアーノは僕の手首を掴む。半ば引っ張られる形になりながら、僕はエレベーターの中へと入った。中にいた数人の人々の視線が、真っ直ぐに僕たちに向けられる。子供に手を引かれる姿を見られるなんて、恥ずかしくて仕方なかった。
     しかし、僕のそんな羞恥心も、そこまで長くは続かなかった。僕の興味の向かう先が、別のものへと移っていったのである。何気なく視線を上げた時、壁に貼られていたものを見て、僕は思わず声を上げてしまった。
    「あっ……」
    「なんだよ」
     僕の発した声が聞こえたのか、ルチアーノが冷静な声で呟く。ちらりと見える横顔は、訝しげに眉を上げていた。エレベーターに乗っている人々の視線が、僕たちの周りに集まってくる。これ以上注目を浴びたくはなかったから、僕は慌てて言葉を返した。
    「なんでもないよ」
     会話が途切れたとほぼ同時に、扉の閉まったエレベーターが動き出す。一階へと辿り着くまでの間、僕はエレベーターの壁を見つめていた。僕の視線の先に貼られているのは、僕が昔見ていたアニメのポスターだ。しかし、そこに描かれていたイラストは、どう見ても当時のものではなかった。
     エレベーターの扉が開くと、僕たちは一斉に外へと向かう。人通りの少ない路地に入ると、僕はその場で足を止めた。
    「ちょっと、調べたいことがあるんだ」
     ポケットから携帯端末を取り出すと、検索機能を表示させる。サーチエンジンに入力したのは、もちろんポスターのアニメのタイトルだった。検索結果のトップに表示されたのは、アニメの公式サイトだった。ページのタイトルを選択すると、画面一杯にキービジュアルが映し出される。しかし、そのイラストも、僕が知っているアニメとは違っていた。
    「どうしたんだよ。気になることでもあったのか?」
     不満そうに唇を尖らせたルチアーノが、つかつかと僕の隣に近づいてくる。至近距離で足を止めると、端末の画面を覗き込んだ。表示されているアニメイラストを見て、あからさまに表情を曇らせる。僕の方を見上げると、少し尖った声で言った。
    「なんだよ、これ」
    「これは、僕が子供の頃に見てたアニメだよ。今年からリメイク版が放送されるんだって」
     ルチアーノに画面を見せつけながら、僕は足を止めた理由を説明する。イラストに重ねられた宣伝には、二十年ぶりのリメイクと書かれていた。僕もついさっきまで知らなかったが、これは相当古いアニメらしい。リアルタイムで見ていた子供たちは、今頃三十路近くになっているだろう。
    「子供の頃に見てたって、君はまだ未成年だろ。もしかして、年齢詐称でもしてたのか?」
    「違うよ! このアニメは父さんが好きだったから、家にDVDが揃ってたの。僕だって、そんなに古いものだとは知らなかったんだよ」
     画面に映し出されるイラストを眺めながら、僕は慌てて否定する。最後まで弁明の言葉を並べたところで、ようやくひとつのことに気がついた。そもそも、ルチアーノは僕の住民データを知っているから、僕が詐称などしてないことくらい分かりきっているはずである。本気で慌ててしまったことに対して、損をした気分になった。
    「ふーん。君も、この手のアニメを見てた時期があったんだな。てっきり昔からデュエルマシーンなのかと思ってたよ」
     淡々と言葉を並べながら、ルチアーノは僕の手から端末を奪い取る。舐めるようにホームページを観察すると、今度はキャラクター紹介のページを開く。画面いっぱいに表示されたのは、リメイクされた主人公のキービジュアルだ。ベースは放送当時と全く同じなのだが、雰囲気は現代的になっている。
    「これは、随分マニア向けのアニメなんだな。君がこんなものを見てたなんて、尚更意外だったぜ」
     ニヤニヤと口元に笑みを浮かべながら、ルチアーノはチラリと僕を見上げる。確かに、彼が口にした通りに、リメイク後のビジュアルはデザインが扇情的だったのだ。誤解の無いように言っておくと、僕に萌え系アニメを見る趣味はない。ルチアーノに視線を向けると、僕ははっきりとした声で言った。
    「リメイク前は、ここまで現代的な感じじゃなかったんだよ。もっと色彩も平淡だったし、こんなにつやつやじゃなかったんだ」
    「へぇ、どうだかな。一般的なアニメにしては、ちょっと女の比率が高すぎるんじゃないか?」
     僕の姿を横目で見ながら、ルチアーノは端末を操作する。キャラクターの切り替えボタンを押すと、次の登場人物が画面に映し出された。主人公の仲間やライバルたちも、それぞれが新しいデザインへと変化している。しかし、そのキャラクターデザインの全てが、彼が言うように萌え系だったのだ。
    「それは……原作が青年向け漫画だから……」
     度重なる追及を受けているうちに、僕は少しずつ声が小さくなってしまう。彼の口から零れる言葉は、やはり一理ある気がしたのだ。当時は気づきもしていなかったが、このアニメのキャラクターは女性キャラクターが多い。それも、身体のラインが強調されるような、扇情的な衣装を纏っているのだ。
    「つまり、所謂お色気漫画ってやつかよ。小学生でこんなものを見てたなんて、君は見かけによらずませてるな」
    「だから、そういうのじゃないって。確かに衣装はこんなんだけど、内容はお色気じゃないんだよ」
     必死に言葉を並べて見るが、ルチアーノは笑みを引っ込めてはくれない。僕の思い出のアニメさえも、彼にとってはからかいのためのおもちゃでしかないようだった。こうなったら何を言っても無駄だから、おとなしく言われるままにしておこう。そう思って口を閉じていると、彼は不意に僕を見上げた。
    「で、君はどいつが好きなんだ?」
    「え?」
     予想もしなかった言葉が飛んできて、思わず口を開けてしまう。僕の呆然としたような間抜けな顔を、ルチアーノは正面から見つめてきた。返事が返って来ないと分かると、催促するように言葉を重ねる。
    「だから、君の好きなキャラクターだよ。そんなに思い入れのあるアニメなら、好きなキャラクターくらいいたんだろ」
    「えっと……それは……」
     しかし、僕の口から零れる言葉は、曖昧で不明瞭なものになってしまった。言葉を返すことに迷ってしまって、すぐに返事ができなかったのだ。僕が子供の頃に好きだったキャラクターは、かなり露出の激しい格好をしているのだ。ルチアーノに見せたりしたら、からかいのネタにされるのは確実だった。
    「なんだよ。僕に言えないような奴なのか? やましいことでもあるんじゃないだろうな?」
     言葉に詰まっていると、彼は正面から問い詰めてくる。ここまで言われてしまったら、もう逃れることなどできなかった。どう考えても嫌な予感しかしないが、ここは素直に答えるしかない。端末に指を伸ばすと、僕はキャラクターの画面を表示させた。
    「……このキャラクターだよ」
     画面の中央に映し出された女性を見て、ルチアーノは不満そうに顔をしかめる。それもそのはず、画面の中の女性キャラクターは、半裸に近い格好をしていたのだ。胸元を覆うだけのぴったりした布地に、丈の短いショートパンツを身に付けている。今風にリメイクされたその姿は、お色気作品のキャラクターと言っても遜色がない。
    「ふーん。君は、こういう女が好みなのか。やっぱり男ってやつは、胸のでかい女がいいんだな」
     画面を睨み付けると、ルチアーノは尖った声で言葉を吐く。さっきまでの上機嫌が嘘のような、切れ味の鋭い声色だった。当然だが、当時の僕は小学生だったから、下心のようなものは一切なかった。単純に戦い方のかっこよさだけで、その女の人を好きになっただけなのだ。
    「違うよ。僕はただ、この人の戦い方が好きだっただけなんだから。そもそも、小学生の男の子が、そんな下心は持たないでしょ」
    「どうだかな。ガキっていうのはませてるから、それくらいの歳で性に関心を持つものだろ。今のうちに白状するなら、特別に許してやるからさ」
    「違うって言ってるでしょ。話を聞いてよ」
     しかし、どれだけ僕が説得を試みても、ルチアーノは聞き入れてはくれなかった。僕に端末を押し付けると、足音を立てながら歩いていってしまう。路地を通って大通りに出ると、そのまま商店街の中を歩いていく。彼が向かっている通りの先に、僕が目指しているカードショップはなかった。
    「ねえ、ルチアーノ。次のカードショップは、こっちの道じゃないよ」
    「気が変わった。今日はこのまま帰るぞ」
     僕の言葉を突っぱねるかのように、ルチアーノは淡々と言葉を紡ぐ。どうやら、さっきのやり取りが原因で、すっかり機嫌を損ねてしまったようだ。こうなったらどれだけ説得を試みても、受け入れてくれることはないだろう。大きくため息をつくと、僕は彼の後に続いた。
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