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    流菜🍇🐥

    @runayuzunigou

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    TF主ルチの節分。節分ネタは年齢の話から逃げられなくなるなって思いながら書いてました。

    ##TF主ルチ
    ##季節もの

    節分 スーパーに入ると、催事コーナーにお面のついた大豆が並んでいた。鬼の顔を見て、明日が節分であることを思い出す。
     節分、それは、日本の子供たちの定番イベントだ。恵方巻を食べたり、鬼に扮した父親に大豆を投げて豆まきをする。そんな単純なことが、子供の僕には楽しかった。
     ルチアーノにも、節分を楽しんでもらいたい。そう思って、僕は福豆を買うことにした。

    「今日の夜ご飯は恵方巻だよ」
     そう言うと、ルチアーノは怪訝そうな顔をした。寿司を好むルチアーノだが、巻き寿司はあまり好きではないようなのだ。
    「恵方巻? なんだよ、それ」
     冷蔵庫から巻き寿司のパックを取り出して、ルチアーノへと差し出す。あまり大きすぎると食べるのが大変だから、僕が用意したのは細めの三本入りだ。
     パックを見て、彼にも僕の意図が伝わったようだった。納得したように言う。
    「ああ、今日は節分だったな」
    「そうだよ。一緒に恵方巻を食べたくて、買ってきたんだ」
     弾んだ声で言うと、今度は呆れたような顔で僕を見た。
    「君って、本当にイベントが好きだよな」
    「ルチアーノと一緒だからだよ。一人では、こんなことしないから」
     そう言うと、彼は恥ずかしそうに俯く。この表情の変化が、何よりもかわいい。
    「恵方巻の食べ方は知ってる?」
     巻き寿司を渡しながら尋ねると、ルチアーノは頬を膨らませた。
    「それくらい知ってるよ。節分の日に、恵方を向きながら黙って食べるんだろ」
     さすがはアンドロイドだ。経験したことはなくても、知識として知っているらしい。
     今年の恵方は南南東だった。ルチアーノに方角を調べてもらい、何もない壁に顔を向ける。
    「いただきます」
     二人で並んで、黙ったまま巻き寿司を食べる。僕にとってはそこまでではないが、小柄なルチアーノにはそこそこの大きさになるようで、大口を開けてかぶりついている。変な想像をしてしまって、慌てて視線を反らした。
     食べ終わると、僕たちは手を拭って席についた。恵方巻だけでは足りないと思って、パックの寿司を買っていたのだ。
     マグロを頬張りながら、ルチアーノがからかうように言う。
    「で、君は何を願ったんだよ」
    「秘密」
     分かりきっているのに、わざわざ聞いているのだ。僕が願うことなんてひとつしかない。
    「人に言えないことなのかよ。変態だな」
     そんなことを言って、きひひと笑う。教えないのは彼のためでもあるのだが、楽しそうだから黙っておく。変態であることは、まあ、否定はできないし。
    「次は、豆まきをしようか」
     食事を終えると、棚から福豆を取り出した。鬼のお面を剥がして、頭につける。
    「一階にしか投げないでね。掃除が大変になるから」
     ルチアーノは豆の袋を開けた。手で中身をかき混ぜながら、にやにやと笑う。
    「鬼退治だから、本気で投げても良いんだよな」
     彼の本気を食らったら、無事でいられるわけがない。嫌な予感がした。
    「手加減はしてね」
     そう答えたのに、ルチアーノは手加減なんてしてくれなかった。全力で豆を投げ、僕の背中にぶつける。豆がぶつかる度にばしばしと音がして、衝撃を感じた。
    「鬼は外!」
     楽しそうに笑いながら、豆まきの定番文句を口にする。
    「ルチアーノ、手加減してよ……!」
     僕が苦言を呈しても、聞く耳を持たない。にやにやと笑いながらこう返す。
    「これでも、加減してやってるんだぜ?」
     嘘は言っていないのだろう。それにしても、怪力だ。至近距離では食らいたくなかった。
    「痛い……! 痛いって……!」
    「逃げるなよ」
     僕が逃げると、ルチアーノが後を追いかける。あっという間に、家中が豆だらけになってしまった。
    「もう終わりかよ。つまんねーの」
     空になった袋を押し付けて、ルチアーノは言う。僕は全身の痛みに襲われていた。至近距離で当てられたところには、あざができてるかもしれない。
    「じゃあ、片付けようか」
     クローゼットから箒を取り出す。僕が逃げてしまったから、豆は家の隅々まで転がっていた。拾い集めていたらきりがない。
    「節分の豆って、後で食べるんだろ? 箒で掃いていいのかよ」
     ルチアーノが横から口を挟む。
    「でも、箒じゃないと拾いきれないよ。洗えば大丈夫なんじゃないかな」
    「大雑把だなぁ」
     僕が子供の頃は、大豆の代わりに落花生を投げていた。これなら皮をむいて食べられるし、拾うのも楽だからだ。同じように落花生を選んでいたら、僕は今頃あざだらけだっただろう。
     見える範囲の豆をかき集めると、ざるに入れて水で洗う。火にかけて水気を飛ばすと、それっぽい感じに戻った。
     豆まきの豆は、年の数だけ食べるのが節分の風習だ。皿に盛った豆を見て、聞かなくてはいけないことに気づいた。
    「そういえば、ルチアーノっていくつなの?」
     それは、僕がずっと避けてきた質問だった。彼は人間ではない。僕よりもずっと長い時を生きていて、いくつもの出会いと別れを経験してきたのだ。
     ルチアーノは、一瞬だけ笑みを浮かべた。遠いところを見るような目で宙を見て、呟くように言う。
    「世の中には、知らない方が良いこともあるんだぜ」
     その声は妙に大人びていて、なんだか、遠くの存在のようだった。
     僕はルチアーノのことを知らない。彼が何の目的でここに来たのかも、いつここを去るのかも分からない。彼が語ることは、本当に真実なのだろうか。長い時を生きていると思っていても、それは作られた記憶で、本当はこの町以外を知らないとしてもおかしくはない。全ては、彼らの神様にしか分からないのだから。
    「じゃあ、聞かないよ。とりあえず、食べるのは十一くらいかな?」
     豆の皿を差し出すと、彼はきょとんとした顔をした。僕の反応が意外だったようだ。
    「あっさり引き下がるんだな。もっと聞きたがるかと思ったのに」
    「別に、話したくないことを聞いたりはしないよ。僕にとっては、ルチアーノがそこにいてくれるだけで嬉しいんだから」
     人間は、他人の全てを知ることなどできないのだ。僕には、ルチアーノの全てを知ることなんてできない。僕にとって、彼は子供の姿をした寂しがり屋な男の子で、それ以外の何でもないのだ。
    「君の物わかりのいいところは、嫌いじゃないぜ」
     ルチアーノが嬉しそうに言う。その偉そうな言葉選びが、何よりも彼らしい。
     僕は、ルチアーノと一緒にいられるだけで嬉しいのだ。この家に、たくさんの福が来てくれたら、もっと嬉しい。
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