Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    流菜🍇🐥

    @runayuzunigou

    文章や絵を投げます

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💕 🍇 🐥 🍣
    POIPOI 470

    流菜🍇🐥

    ☆quiet follow

    TF主くんとルチが会話をしているだけの話。状況は甘いけど会話はシリアスです。

    ##TF主ルチ

    くちびるの奥 目を閉じると、隣からすやすやと寝息が聞こえてきた。吸って、吐いて、吸って、吐く、人間と同じ腹式呼吸だ。彼の身体は機械でできているのに、酸素の取り込み方は人間と同じなのだ。いや、実はこれは不要なシステムで、人間の目を欺くためのカモフラージュなのかもしれない。そんなことを考えながら、静かにその呼吸に耳を澄ませる。
     寝返りを打つと、布団に顔を半分だけ埋めたルチアーノの姿があった。赤い髪をシーツの上に広げて、こちらを向く態勢で眠っている。こうして眠っていると、その姿はただの子供みたいだ。さらさらの髪が美しくて、思わず手を伸ばしてしまった。
     シーツの上に広がった髪を、指先で纏めてみる。髪束は艶めいていて、櫛も通していないのに真っ直ぐだ。僕のコモンドールのようにうねった髪とは違う、美しい髪。絹のように柔らかい髪に触れようと、手のひらを髪の上へと広げた。
    「何やってるんだよ」
     不意に、下から声が聞こえてきた。さらりと髪が動いて、ルチアーノが顔を上げる。少女のように綺麗な顔が、鋭い瞳で僕を見上げていた。
    「ごめん。起こしちゃった?」
     尋ねると、彼は僅かに頬を膨らませた。拗ねたようにくぐもった声が、薄暗がりの中から聞こえてくる。
    「ずっと起きてたよ。君がごそごそしてるから、怪しいことを企んでないか見張ってたんだ」
     彼の言葉が本気ではないことは、語調の柔らかさから伝わってくる。彼は、一体何をしていたのだろう。疑問に思いながらも、尋ねたりはしなかった。
    「そっか。なら、良かった」
     答えて、しばらく二人で見つめ合う。ルチアーノの緑の瞳は、暗闇で見ると少しだけ発光して見えた。窓から入ってくる月明かりが、ぼんやりと僕たちを照らす。
     ルチアーノのぷるぷるとした唇を見ていると、ひとつの感情が浮かんできた。顔を近づけると、
    耳を刺激しない音量で囁く。
    「キス、してもいい?」
     彼は、少しだけ頬を染めた。僕から目を離すと、突き放すような語調で言う。
    「好きにしなよ」
     僕は、ルチアーノの頬に手を添えた。一息に顔を近づけると、小さな唇に唇を重ねる。
     最初は、唇だけのキスで終わらせた。すぐに顔を離すと、大きく息継ぎをする。再び顔を近づけると、今度は舌を差し込んだ。
     音を立てて唾液を交わしながら、ルチアーノの口の内を貪る。僕の求めに応じるように、彼も舌を動かした。唇と唇が離れる度に、唾液が溢れて零れ落ちる。布団が汚れることも気にせずに、僕たちはひたすら愛を交わした。
     息が続かなくなって、ようやく僕は唇を離した。顎を伝っていた唾液を、手の甲で拭い取る。荒い息を吐く僕を見て、ルチアーノが恥ずかしそうに声を上げた。
    「満足したかよ」
    「うん、したよ」
     僅かに会話を交わすと、再び沈黙に身を委ねる。どちらも言葉を発さないまま、黙って布団に身体を包み込む。カチカチと鳴る時計の音が、妙に大きく感じた。
     眠れなかった。さっきの口づけで、余計に目が覚めてしまったようだ。ぼんやりと天井を眺めながら、特に意味もなく寝返りを打つ。何度か体勢を変えていると、隣から声が聞こえてきた。
    「おい、明日も早いんだから、とっとと寝ろよ」
     ルチアーノも、まだ眠っていないようだった。彼はスリープモードに移行するだけだから、その気になればいつでも眠れるはずだ。僕が眠るまで待っていてくれているのだろう。
    「なんだか、眠れなくて」
     そう言うと、彼は大きく溜め息をついた。ごそごそと音を立てて体勢を変えると、ちらりと僕に視線を向ける。
    「なんだよ。変なことでも考えてたのか? 君は、いつも不埒なことばかり考えてるからな」
    「そんなことないよ」
     答える声は、少し焦った響きになってしまった。彼は僕のことを誤解している。別に、僕は不埒なことばかり考えているわけではないのだ。
    「そんなこと言って、本当は図星なんだろ。君のことなら、僕にはなんだって分かるんだ」
    「違うって。僕が考えてたのは、もっと真面目なことだよ。僕たちの、これからのことなんだ」
     隣で、ごそごそと音が聞こえた。ルチアーノが体勢を変えたのだ。視線を向けると、目が合ってしまった。慌てて逸らそうとするが、布団の中で手を握られてしまう。
     ルチアーノがにやにやとした笑みを浮かべた。いたずらっぽく笑うと、僕を急かし始める。
    「君が真面目なことを考えてるなんて、珍しいじゃないか。何を考えてたんだ? 聞かせろよ」
     どうやら、彼は僕をからかうつもりらしい。楽しそうにくすくす笑いを漏らしながら、僕の言葉を待っている。しかし、僕の考えていたことは、そんなに明るいものではないのだ。彼の期待に応えられるかは分からなかった。
    「じゃあ、話すよ。笑わないでね」
     前置きをすると、僕は息を吸った。これから話す内容を、簡潔に頭の中でまとめる。用意ができると、一言ずつ言葉を発した。
    「まず、僕とルチアーノが出会えたのは、僕がここに引っ越して来たからだよね」
    「そうだな」
    「それで、ルチアーノが僕を選んでくれたのは、神様の任務を実行するための仲間がほしかったからだよね」
    「……仲間じゃないよ。部下だ。勘違いされたら困るね」
    「同じようなものだよ。要するに、一緒に戦う存在ってことでしょ」
    「違うよ、僕は神の代行者で、君は人間だ。対等にはならない」
    「分かったよ。ここは重要なところじゃないから、話の続きは後にしてね」
     ルチアーノは納得してない様子だったが、ここは強引に収めてもらった。この部分は、話の本筋とは関係がないのだ。
    「なんだよ。それなら、とっとと先を話せよ」
     不満そうな横槍を聞きながら、僕は話の先を組み立てた。この順番なら伝わるだろうか。とりとめの無い思考を伝えるのは、普通に話をするよりも難しい。
    「僕たちは、少しでも立場が違ったら会えなかったんだ。一緒に戦うことも無ければ、こうして一緒に寝ることもなかった。そう思うと、なんだか奇跡みたいだと思わない?」
     語り終えると、彼は呆れたように息をついた。僕の方をちらりと見ると、気の無い声で返事を寄越す。
    「そうか?」
    「そうだよ。人間は、こういうのを奇跡って言うんだ」
     僕の感じている情緒は、きっとルチアーノには伝わっていない。自由に歴史を操れる彼にとって、人と人の出会いはいくらでも書き換えられる予定調和なのだ。僕が彼に選ばれたのも、彼らの語る神なる者の意思なのかもしれない。
     だから、僕は彼にこの情緒を知ってもらおうとは思わなかった。ただ、話を聞いてもらえたらそれでいい。僕の伝えたいことは、これからが本題なのだから。
    「でも、最近はこうも思うんだ。もし、僕たちの立場が違っていたら、ずっと一緒に居られたんじゃないかって」
     僕の言葉を聞いて、ルチアーノがこちらに身体を向けた。緑の瞳をこちらに向けると、鋭い視線で僕を射抜く。
    「どういうことだよ」
    「だって、僕たちは大会までしか一緒にいられないでしょ? 大会が終わったら、ルチアーノは神様の元に帰っちゃう。そうなったら、僕はひとりぼっちで残されることになるんだ」
     そう。僕たちは、限りある時間を生きているのだ。ルチアーノが神の代行者である限り、決して逃れられない制約の中を。どれだけ一緒に居たいと願っても、彼は神の元に帰らなくてはならない。それが、天使として産み落とされた者のの使命だからだ。
     ルチアーノは何も答えなかった。僕の語った言葉を否定できなかったのだろう。彼にとっても、これは向き合いたくないことなのかもしれない。彼は、とっくの昔に僕には絆されているから。
    「僕は、ずっとルチアーノと一緒にいたいよ。一緒に生きて、歳をとって、同じお墓に入りたい。でも、それは叶わない夢なんだよね。僕たちが僕たちである限り」
     やっぱり、返事はなかった。ごそごそと音がして、布団がずれる。彼が体勢を変えたのだ。
    「だから、せめてひとつだけは教えてほしいんだ。ルチアーノの、本当の目的を。大会の日に何があるの? イリアステルは、なんのために大会を開いたの? 僕だってルチアーノの仲間だから、本当のことを知りたいんだよ」
     そう言うと、僕はルチアーノの答えを待った。薄暗い部屋の中に、沈黙だけが満ちていく。いつもは多弁なルチアーノが大人しくしてるから、重々しい雰囲気が流れてしまう。
    「それは、できないよ。誰にも言えないんだ。神からの命令だから」
     しばらくすると、彼はようやく口を開いた。悲しむような、呆れるような、表情の分からない声だ。僕は、タブーに触れてしまったんじゃないかと、尋ねた後になって思った。
    「そっか。ごめんね」
     謝るが、返事は返ってこない。視線を向けても、彼がどんな表情をしているかは分からなかった。泣きそうな顔をしているのか、呆れているのか。きっと悲しい顔をしているのだろうと、希望的観測で考えてしまうのは、僕が彼を愛しすぎているからだろうか。
    「でも、いいんだ。僕は今、すごく幸せだから。好きな人と一緒にいて、同じ時間を過ごせてる。さっきはキスもさせてくれた。ルチアーノとそんなに長く一緒にいた人間は、きっと僕だけなんだろうね。だから、僕は幸せだ」
     繕うように言うと、ルチアーノはようやく顔を上げた。僕の方をじっと見つめる。鋭い瞳に捉えられて、少しだけ恥ずかしくなった。
    「どうしたの?」
     尋ねると、彼は僅かに表情を変えた。言葉には表せないような複雑な表情を浮かべると、感情の無い声で言葉を紡ぐ。
    「○○○、死んだりするなよ」
     その言葉に、僕は息を飲んだ。ルチアーノの瞳には、じわりと涙が滲んでいたのだ。パニックになって、慌てて否定の返事を告げる。
    「死なないよ。どうして、そんなことを思ったの?」
    「死を求める人みたいなこと言ってたから」
     淡々とルチアーノは答える。まるで、自殺志願者を知っているような口振りだった。彼の言葉に恐怖を感じて、何も答えられなくなる。
     彼は、知っているのだろうか。死を求める人の感情というものを。そんなことを考えてしまって、心臓が凍りつく思いがした。
    「ルチアーノも、死んだりしないでね」
     なんとかそう言うと、彼はいつもの表情に戻った。からかうような笑みを浮かべると、含み笑いの声色で言う。
    「僕が死ぬわけ無いだろ。本当に、君は心配性だな」
     ルチアーノのくすくす笑いを聞きながら、僕は布団の中に顔を埋めた。さっきの言葉で、肌寒さを感じてしまったのだ。しっかりと布団にくるまると、恐怖を隠すように目を閉じる。
     僕は、本当に幸せなだけなのだ。この世界に絶望なんてしていないし、未来を悲観してもいない。確かに、お別れは悲しいけど、それはルチアーノも同じなのだ。だから、僕は耐えられる。
     なのに、彼は僕の言葉を、『死を求める人』と称した。幸せを感じている人は、その幸せのままに自身を葬ろうとすると言わんばかりの言葉だった。
     ルチアーノは、僕が思っているよりも壊れているのだろうか。幸せのままに死にたいと思うくらいに、自身の宿命を疎んでいるのだろうか。そう思うと、少しだけ未来を恐ろしく感じた。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    🙏🙏🙏💞💞💞
    Let's send reactions!
    Replies from the creator