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    いなばリチウム

    @inaba_hondego

    小説メイン
    刀:主へし、主刀、刀さに♂
    mhyk:フィガ晶♂
    文アル:はるだざ、菊芥、司♂秋
    文スト:織太

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    いなばリチウム

    ☆こそフォロ

    2月月刊主へし「主命以上」1つ目。
    元社畜っぽい中途採用審神者と長谷部。くっついてないけどいずれくっつく二人の初期の話。

    主命以上 元社畜中途採用審神者×長谷部(主へし未満)「主命とあらばなんでもこなしますよ」

     その言葉に、イラッとした。

    「なんでも?」
    「ええ、もちろん」

     自己紹介を、と告げれば名前と共にそう言ったへし切長谷部に、俺は溜息を吐いた。途端、長谷部の瞳が不安げに揺れる。

     指示待ち人間って好きじゃないんだよなあ。いや、刀剣男士はヒトじゃないんだけど。
     何でもします、って、部下の言葉としては従順でやる気があるようで、まあ実際やる気はあるにせよ、俺からすれば楽な方へ逃げている言葉に聞こえる。言ったことだけやるんじゃなくて、自分で考えて動いてくれないと、上司としては自分の仕事が増えるばっかりだ。最近はそういう若いやつらばっかりで……と、そこまで考えてまた溜息が零れた。何もかもが急すぎて、まだ考えが現世にいた頃に引きずられている。スカウトという形で審神者に就任したのはほんの数日前のことだった。前職と桁違いの報酬に釣られたのを早くも後悔し始めている。個性、と一言で片づけるには濃すぎる面々が続き、真面目そうなのが来たかと思えば部下としては好きじゃないタイプの性格、ときたら溜息も度々出るというものだ。
     とはいえ、桁違いの報酬に見合った働きをするべきだし、するだけの力があると見込まれているのだろう、と思う。もう行っていい、と長谷部を追い出して、支給された電子端末に向き直った。端末関連の使い勝手が現世のものとそれ程差がないのは幸いだった。出陣の編成や内番を組んで、ある程度各々の能力が分かれば数値変換して自動化できるはずだ。余裕があれば現世の仕事と兼任も許可されるというし、引継ぎも中途半端になってしまったから、落ち着いたら前職の同僚に連絡をとってもいいだろう。一つずつ、着実に片付けていけばいいだけの話だ。今までだって、そうだったのだし。そう考えながら、俺はキーボードを叩き始めた。



     そうして、あっという間に数か月が過ぎた。

    「あの、主」
    「なに……?」
    「その、あまり根を詰めない方が……一度休憩にしませんか」
    「ああ、うん……」

     俺の生返事に、長谷部は今来たばかりだというのに落ち着かない様子で、すぐに執務室を出て行く。

     何も、うまくいってなかった。
     最初の鍛刀である程度揃った刀達で何通りかの編成を組み、出陣させ、出陣先の敵編成や時代に応じて組み直し、また出陣させるの繰り返しで最善編成を模索して、というやり方自体は間違っていないはずだ。しかし、そこから先に進めない。うまく切り抜けた、と思っても、次に出陣した時には敵がこちらの手を読んだ上で更に良い手を打ってくる。最善の編成を、と組むとどうしても戦力や出陣回数が偏り、出陣が少ないものから不満が出る。戦力や出陣回数くらいなら自作のシステムに組み込めば調整は出来るが、各自の不平不満を聞いて一番文句が出ず、かつ攻略可能な編成を、となるとシステム的には進められない。その上、戦力が増えると同時に調整はどんどん面倒になる。せめて内番だけでも自動化すれば、と端末上で作ったものの、負傷して手入れに数日かかったりサボりが出たりであっけなく破綻した。刀剣男士は基本的には審神者である俺に従順だったが、やはり、人間の部下とは勝手が違った。嫌なことは嫌だというし、普通にサボるし、構ってやらないと拗ねるし、かと言ってめんどくせえなお前明日から来なくていいよ、が出来ないのがまた面倒だった。
     もうやめよっかな、と思って早い段階で前職に探りの電話を入れたものの、残った人間でいい具合に回せてるから心配しなくても大丈夫と早口で言われてすぐ切られてしまった。困ったことがあれば連絡してくれ、とメールを送ったものの、それ以降返事はない。力不足ですまない、とこんのすけに愚痴混じりに謝ったこともあったが、無機質な目を丸くした狐は「いや別に、審神者様はいてくれるだけで役目を果たしているので、何も力不足ではありませんが」と不思議そうに言った。「審神者適正があるからスカウトしたので、それ以外の働きは特に求めてないですよ」とも。力が抜けた。そうして、色々試してはみるものの、何も手ごたえがない日々が続いている。

    「……主」

     ぼうっとしたままどれくらい経っただろうか。襖の向こうから遠慮がちな声がして、長谷部が顔を覗かせている。こいつ、いつも不安そうな顔してるな。

    「お茶を、お持ちしました」
    「あー、ありがとう」

     湯気の立つ湯飲みが、そっと机の上に置かれる。その横に、個包装された飴玉が二つ転がった。

    「疲れた時には、甘いものが良いと、聞いたので……」

     疲れている、とは少し違うが、煮詰まってはいる。俺は素直に飴を貰うことにして、早速一つを口に放り込んだ。甘さがじんわりと口の中に広がっていく。長谷部は安堵したように少し頬を緩ませた。

    「すみません。命じられませんでしたが、その、……心配で」
    「……?」
    「差し出がましい真似を」
    「いや……?」

     どうしてそんなに不安げな顔をしているのか分からない。
     そういえば、主命とあらば、との言葉通り、長谷部は言えば何でもこなす刀ではあったが、こういう風に自分から何かしてきたことはなかったかもしれない。苦手意識があったせいか、近侍にしたのも多分今日が初めてだ。

    「お前が、そうしたいと思ってしたなら、別にいいんじゃないの。ありがたいし」
    「!」

     途端、長谷部の表情がぱっと明るくなる。

    「よかった……」

     小さな声でそう呟いたのが耳に入って、俺はふと、考える。
     こいつ、命令通りに動くだけの指示待ち人間じゃなくて、もしかして命令以外のことをやるのがこわいんだろうか。

    「あ、あの、じゃあ俺はこれで、湯吞みは後で下げに、」
    「待って」
    「えっ」

     きょとんとする長谷部に、俺は隣の座布団を指した。

    「もうちょっとここにいてくれない?」
    「しゅ、主命あらば」
    「違うけど……いいや、何でも」

     恐る恐るといった様子で隣に腰を下ろした長谷部に、俺は少し考えて、尋ねる。

    「あのさ、俺のやり方、なんか変?」
    「へ、へんとは……?」
    「編成とか、内番の組み方とか……なんか、うまくいかなくてさ」

     我ながら、単純な人間だなと思う。心配したとか言われて、労いのお茶とか淹れられて、甘いものを差し入れされて。命令じゃなくてもそうしてくれたことが、なんだかひどく、うれしかった。本心でどう思われていようと、今までそういう風に接してもらったことがなかったからかもしれない。ただ日々の仕事を機械的に片付けて、それで良かったから、気にしたこともなかったけど。
     長谷部は少し黙り込んでから、ゆっくりと口を開いた。

    「編成は、各部隊長をまじえて話し合った方が、良いかと思います。主の決めたことにはもちろん従いますが、その、俺達も主に報告する機会が欲しいですし」
    「うん」
    「内番については、主が頭を悩ませるのでしたら、俺達に一任して頂いても構いません。相性も、好き嫌いも、互いにある程度は分かっていますし……」
    「うん。……そうしようかな」
    「あと、あの、差し出がましいとは思いますが……」
    「なに?」
    「一度も演練に赴いておりませんので、顔を出した方が良いのではないかと」
    「演練……? 練習試合みたいなやつ?」
    「演練後に、審神者同士で情報交換をしているようなので」
    「……何それ知らん……」
    「買い出しの際に耳にしました。自由参加とは言っていますが、新人の内は通うものが多いようです」
    「そうなんだ……」
    「あと、」
    「まだあんの?」

     思わず眉を顰めると、長谷部の肩がまたびくりと揺れて、真っ青になる。そうだ、これがいけないんだった。

    「いや、いい。言って」
    「……あの、近侍の仕事を、もう少し、残して頂けると、ありがたいのですが」
    「……」
    「主は、何でも一人でやってしまわれるので」
    「まあ、確かに」

     だって自分でやった方が早いし、それが俺の仕事だし。
     そう思うものの、長谷部はまだ何か言いたげにしている。

    「……何?」
    「ずっと、考えていました」

     手にしたお盆を手持ち無沙汰にいじりながら、長谷部はまだ俺の顔色を窺っている。

    「俺は、主命とあらばなんでもこなすつもりでいますが、主が、俺にあまり命じないので、俺にできることは、ないのかと」
    「……」
    「でも、主はいつも難しい顔をしていますし、俺は、……主の、力になりたくて、だから……」
    「……だから?」
    「主命を頂けなくとも、お手伝いを、しに来ても良いでしょうか」
    「いいよ」

     一大決心みたいな顔をしているから何事かと思った。俺の即答に、長谷部は「えっ」と声を上げて、それから自分の声に驚いたように口元を押さえた。

    「お手伝いっていうか、近侍? を暫く長谷部一人に任せるのもいいかもね。それもよくわかんなくて、適当にシフト組んでたけど、頼むことないから持て余してた」
    「持て余す……」

     信じられない、って顔をしているのがなんだか面白い。そういう顔も出来るんだな。

    「うん。自発的に動ける子は好きだし」
    「す、」
    「さっきみたいに、助言してくれたらそれも助かるし、いい?」
    「ふぁ、はっ、はい、もちろん! しゅ、」
    「主命じゃないって」
    「あ、はい……」

     しゅんとするあたり、指示待ち人間というより、指示、いや、主命大好き人間なんだな、と思う。人間じゃないんだけど。
     すっかり冷めてしまったお茶で喉を潤すと、残った飴玉も口に放り込んで転がした。本丸での生活に、ほんの少し、光が見えてきた気がした。


    主命以上 終
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    いなばリチウム

    自主練https://poipiku.com/594323/10668650.html
    これの続き。騙されやすい審神者と近侍の長谷部の話。
    だまされやすい審神者の話2 疎遠になっても連絡をとりやすい、というタイプの人間がいる。

     それがいいことなのか、はたまたその逆であるなのかはさておき、長谷部の主がそうだった。学校を卒業し、現世を離れてから長いが、それでも時折同窓会やちょっとした食事会の誘いがあるという。ほとんどは審神者業の方が忙しく、都合がつかないことが多いけれど。今回はどうにか参加できそうだ、と長谷部に嬉しそうに話した。
     もちろん審神者一人で外出する許可は下りないので、長谷部が護衛として同行することになる。道すがら、審神者は饒舌に昔話をした。学生の頃は内気であまり友人がいなかったこと、大人しい自分に声をかけてくれたクラスメイトが数人いて、なんとなく共に行動するようになったこと。卒業する時に連絡先を交換したものの、忙しさもありお互いにあまり連絡はしていなかったこと。それでも年に一度は同窓会や、軽く食事でもしないかという誘いがあること。世話になっている上司を紹介したいと何度か打診され、気恥ずかしさはあったものの、紹介したいと思ってもらえることは嬉しかったこと。今回やっと予定が合い、旧友とその上司に会えること。
    1820

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     大倶利伽羅の周りをぐるぐる回りながら上から下まで眺め回す。
    「鬱陶しい」
    「んぎゃ!だからって顔つかむなよ!」
     アイアンクローで動きを止められておとなしく正面に立つ。
     ぐるぐる回ってるときに気づいたが角度によって模様が浮き出たり無くなったりしていてさりげないおしゃれとはこういうものなんだろうか。
     普段出さない足も想像よりごつごつしていて男くささがでている。
     あのほっそい腰はどこに行ったのかと思うほど完璧に着こなしていて拝むしかない。
    「ねえ拝んでいい?」
    「……医者が必要か」
     わりと辛辣なことを言われた。けちーと言いながら少し長めに思える左腕の袖をつかむとそこには柄がなかった。
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    「あぁ、それは」
     大倶利伽羅の左腕が持ち上がって頬に素手が触れる。一歩詰められてゼロ距離になる。肘がさがって、袖が落ちて、するりと竜がのぞいた。
    「ここにいるからな」
     ひえ、と口からもれた。至近距離でさらりと流し目を食らったらそらもう冗談で 738

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    供養主くり
    伊達組にほのぼのと見守られながらのおやつタイム
    伊達組とおやつ


     ずんだにおはぎに色とりどりのフルーツがのったタルト、そして一等涼しげな夏蜜柑の寒天がちゃぶ台を賑わせる。
     今日は伊達の四振りにおよばれしてのおやつタイムとなった。
     燭台切特製のずんだに意外とグルメな鶴丸の選んできた人気店のおはぎ、太鼓鐘の飾りのようにきらきらと光を反射するフルーツののったタルトはどれも疲れた身体に染みるほどおいしいものだった。
     もっと言えば刀剣男士達とこうしてゆっくり話ができるのが何よりの休息に思う。
     本丸内での面白エピソードや新しく育て始めた野菜のこと、馬で遠乗りに出かけたこと、新入りが誰それと仲良くなったことなど部屋にこもることが多い分、彼らが話してくれる話題はどれも新鮮で興味が尽きない。
     うん、うんと相槌を打ちながら、時折質問をして会話を楽しんでいると、燭台切がそういえばと脈絡無くきりだした。
    「主くんって伽羅ちゃんに甘いよね」
     それぞれもってきてくれたものに舌鼓をうって、寒天に手を着ける前にお茶を口に含んだ瞬間、唐突に投げられた豪速球にあやうく吹きかけた。さっきまで次の出陣先ではなんて少し真面目な話になりかけていただけに衝撃がす 2548

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    菊酒をのんで酔い潰れた後日、大倶利伽羅が好きだなぁと自覚しなおした審神者と日を改めて飲み直し、仲良し()するまで。
    月色、金色、蜂蜜色


    急に熱さが和らいで、秋らしい涼やかな風が吹く。
    空には満月が浮かんで明るい夜だ。
    今は大倶利伽羅とふたり、自室の縁側で並んで酒をちびちびとなめている。徳利は一本しか用意しなかった。
    「あまり飲みすぎるなよ」
    「わかってるよ、昨日は運ばせて悪かったって」
    「あんたひとりを運ぶのは何でもないし、謝られるいわれもない」
    「じゃあなんだよ……」
    「昨日は生殺しだったんでね」
    言葉終わりに煽った酒を吹き出すかと思った。大倶利伽羅は気を付けろなんて言いながら徳利の酒を注いでくる。それを奪い取って大倶利伽羅の空いた杯にも酒を満たす。
    「……だから今日誘ったんだ」
    「しってる」
    静かな返答に頭をかいた。顔が熱い。
    以前に忙しいからと大倶利伽羅が望むのを遮って喧嘩紛いのことをした。それから時間が取れるようになったらと約束もしたがなかなか忙しが緩まずに秋になってしまった。
    だいぶ待たせてしまったとは思う。俺だってその間なにも感じなかったわけじゃないが、無理くり休暇を捻じ込むのも身体目的みたいで躊躇われた。
    そして昨日の、重陽の節句にと大倶利伽羅が作ってくれた酒が嬉しくて酔い潰れてし 1657

    Norskskogkatta

    供養主くり
    寒くなってきたのにわざわざ主の部屋まできて布団に潜り込んできた大倶利伽羅
    秋から冬へ、熱を求めて


    ひとりで布団にくるまっていると誰かが部屋へと入ってくる。こんな時間に来るのなんて決まってる。寝たふりをしているとすぐ近くまで来た気配が止まってしまう。ここまできたんなら入ってくれば良いのに、仕方なく布団を持ちあげると潜り込んできて冷えた足をすり寄せてくる。いつも熱いくらいの足を挟んでて温めてやると、ゆっくりと身体の力が抜けていくのがわかる。じわりと同じ温度になっていく足をすり合わせながら抱きしめた。
    「……おやすみ、大倶利伽羅」
    返事は腰に回った腕だった。

    ふ、と意識が浮上する。まだ暗い。しかしからりとした喉が水を欲していた。乾燥してきたからかなと起き上がると大倶利伽羅がうっすらと目蓋を持ち上げる。戦場に身を置くからか隣で動き出すとどうしても起こしてしまう。
    「まだ暗いから寝とけ」
    「……ん、だが」
    頭を撫でれば寝ぼけ半分だったのがあっさりと夢に落ちていった。寝付きの良さにちょっと笑ってから隣の部屋へと移動して簡易的な流しの蛇口を捻る。水を適当なコップに溜めて飲むとするりと落ちていくのがわかった。
    「つめた」
    乾きはなくなったが水の冷たさに目がさえてしまっ 1160

    Norskskogkatta

    供養主くり
    徹夜してたら大倶利伽羅が部屋にきた話
    眠気覚ましの生姜葛湯


     徹夜続きでそろそろ眠気覚ましにコーヒーでもいれるかと伸びをしたのと開くはずのない障子が空いたのは同時だった。
    「まだ起きていたのか」
     こんな夜更けに現れたのは呆れたような、怒ったような顔の大倶利伽羅だった。
    「あー、はは……なんで起きてるってわかったんだ」
    「灯りが付いていれば誰だってわかる」
     我が物顔ですたすた入ってきた暗がりに紛れがちな手に湯呑みが乗った盆がある。
    「終わったのか」
    「いやまだ。飲み物でも淹れようかなって」
    「またこーひー、とか言うやつか」
     どうにも刀剣男士には馴染みがなくて受け入れられていないのか、飲もうとすると止められることが多い。
     それもこれも仕事が忙しい時や徹夜をするときに飲むのが多くなるからなのだが審神者は気づかない。
    「あれは胃が荒れるんだろ、これにしておけ」
     湯呑みを審神者の前に置いた。ほわほわと立ち上る湯気に混じってほのかな甘味とじんとする香りがする。
    「これなんだ?」
    「生姜の葛湯だ」
     これまた身体が温まりそうだ、と一口飲むとびりりとした辛味が舌をさした。
    「うお、辛い」
    「眠気覚ましだからな」
     しれっと言 764