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    いたずらキッス沢深、続き書いた。ちゅっちゅ多め(当社比)
    最後尻切れとんぼですまん

    #沢深
    depthsOfAMountainStream

    勘違いから始まっとけ(完)いつか、からかってやろうと思った。
    いつも女子に囲まれたり告白されたりしている男が、同じ男からキスされたら結構面白いだろうなと思っていた。

    だからしてみた。たまたま2人きりだったので。
    綺麗な顎をグッと掴んで、薄い頬にむちゅっとキスした。
    そうしたら、沢北は「えっ」と声をあげたまま固まって、深津の顔をじっと見つめる。
    あれ、笑わないのか。
    冗談きついっすよ深津さん、っていつもみたいに。
    「ふ、深津さん…」
    深津の期待とは裏腹に、沢北はじわじわと顔を赤くして、耳まで真っ赤にして、若干涙目になりながら「……っス」と言った。
    酢?
    「なにが?」
    「…だ、だからぁ、オレ、ほんと……嬉しぃ…っス」
    普段の威勢の良さからは考えられないほど小さな声だ。
    嬉しい?男にキスされたのに?
    「何言ってるピョン」
    予想した反応と違いすぎる。イヤな予感がして、冷たい汗が背中を流れた。

    「えへへ、オレ、オレも、深津さんのこと好きだったから…こんなふうに告られると思わなくて、だから、不意打ちっていうか…」

    告られる?誰が誰に?
    …まさか、沢北が深津に?
    びっくりさせるのは深津の方だったのに、なぜ今、深津の方がびっくりしているのだろう。
    何も理解が追いつかないのに、目の前の沢北はもじもじとしながらうっすら頬を染めている。

    「告白はオレからって決めてたけど、でも!オレ!深津さんのこと幸せにします!オレも好きです!深津さん!」
    沢北がガッと深津の両腕を掴んで迫ってくる。今度は声が大きすぎて、その差に耳がキーンとした。
    何やら1人で盛り上がっているが、深津は冷や汗が止まらない。なんということだ。
    沢北は盛大な勘違いをしている。
    おそらく深津が沢北に不意打ちほっぺチューをしたのは、深津が沢北に淡い恋心を抱いているからだと思われている。
    今更間違ったピョ〜ンなんて言えない雰囲気である。ましてや、お前のことそういう意味で好きになったことないピョ〜ン、なんて。
    とにかく、キラキラした顔で深津を見つめる沢北に、なにか答えなくては。
    「…よ、良かったピョン」
    人生で1番下手くそなセリフだった。幼稚園の時の白雪姫の劇でも、まだ上手く言えていた、深津は森の木B役だったが。
    「今日からオレの彼氏ってことですよね、深津さん」
    「えっ、まぁ…うん、そうピョン…多分?そう?」
    そうだよな?そうなっちゃったんだよな?と自分に言い聞かせるようにつぶやいたが、沢北は嬉しそうにするだけで、最後のぼやきは聞こえていないようだった。
    「彼氏なら、もっとしてもいいですよね」
    さっきまで乙女のように恥じらっていたのに、顔を上げた沢北は獣のような目をして深津の顔を覗き込む。
    あ、ヤバい本気のやつだ。
    と思ったときにはすでに遅く、深津の唇は沢北によって塞がれていた。
    そして深津はその時また絶望する。
    コイツに唇にキスされても、本当に全く何も感じない…ー。
    犬にじゃれつかれているかのようだ。
    そう思いつつも、礼儀として一応、と深津は目を閉じた。完全に否定するタイミングを逃した。
    さて、いつ正直に話そうか。
    ぼんやりとそんなことを考えながら、深津は時間が過ぎるのを待った。
    沢北が、キスの間もずっと深津を見ていたとも知らずに。

    「やっかいなことになったピョン」
    1年生のシュート練習を眺めながら、深津は深いため息と共に吐き出した。隣にいる河田が片眉を上げる。
    「1年か?今年はそんなやっかいでねど」
    「違うピョン、別の話だピョン」
    果たして言うべきか。
    河田の顔を見て、この大切な友人を深津の厄介ごとに巻き込んでいものかと逡巡した。
    「なんだ、なんの話だ」
    「沢北だピョン」
    結局、言うことにした。河田は信頼できる男だ。下手に噂が広まりそうなやつに相談するよりも、河田に相談した方がずっといい。そう判断してのことだった。
    「沢北?あいつまたなんかしたのか」
    生意気な後輩にプロレス技をキメるのが日常茶飯事になっている河田は、深津の言葉に少しだけうんざりした顔をした。
    「キスしたピョン、あいつと」
    途端、河田が吹き出した。
    「……–なんだって?」
    「キス、沢北と。面白いかなと思ってからかってやったピョン」
    河田が今度こそダメだ、とでもいうように目元を手のひらで覆う。さすがに刺激が強すぎたらしい。
    「おめと沢北が?」
    「そうだピョン」
    「なんで」
    「からかってやりたくて」
    「…普通そんたごど、おもしれくてもやらね」
    その通りなのだが、もうやってしまったのだから仕方ない。深津はそんな気持ちで、まだ動揺している河田を見返したが、やはり河田は友人と後輩がキスした事実を受け入れられないようだった。
    「沢北が、勘違いしてるピョン」
    「勘違い」
    「深津さんもオレのこと好きだったんですか、って。さすがにガチすぎて悪ふざけって言えなかったピョン」
    「…いや、まあ、沢北はおめに対してそんな感じはあったども」
    「嘘だピョン、って言うにはちょっと…本気すぎて」
    あのまっすぐな目に、深津は何も言えずにいた。まさか、間に受けるなんて思ってもなかったから。
    河田が、うーんと腕を組んで考え込む。
    「深津は、どうしたいんだ?」
    「…どうしたい?」
    「んだ。沢北の気持ちに応えでやりてんだが?」
    はて、どうなんだろう。
    沢北のことは、可愛いとは思っている。手のかかる後輩だが、覚醒した時は頼りになるエース。もっともっと輝く姿を見たいし、手伝ってやりたい。
    でも、キスされても何も感じなかった。
    可愛い後輩以上にはならないのではないか、というのがここ数日で深津が考えた答えだった。
    そういえば、初めてのキスだった。
    誰ともしたことがないから何も感じなかったのか、それとも相手が沢北だったから何も感じなかったのか、よく分かっていない。
    「河田は、ファーストキスはいつだピョン?」
    聞かれて、河田は虚をつかれた顔をした。
    でもすぐに頬を染めて、視線を逸らす。
    「今の彼女とだから…んだな、3ヶ月前とか?」
    「ふーん、その時何か感じたピョン?」
    「そりゃあ、嬉しいなとか可愛いなとか…言わせるんでね」
    「ふーん…」
    嬉しいなとか可愛いな、か。
    そりゃそうだ、河田の彼女はすごく可愛い。とても可愛い。付き合っていると報告を受けた時に、なんであんなに可愛い女の子が、こんなゴツい河田なんだと思わないでもなかったから。
    「分からんピョン」
    「あ?」
    「沢北に対して、可愛いと思ったのか、どうなのか」
    だって本当にそんなつもりはなかったのだから。
    これは、もう一度試してみるべきではないか
    と、その時、1年のシュート練習の終わりを告げるホイッスルが鳴った。
    「河田、ありがとピョン」
    やはり信頼のおける友だ。いつも深津にヒントをくれる。
    「もう一回、してみるピョン。沢北と。キス」
    当の河田は「はあ?」という顔をしたが、深津は気にせず走りだした。
    そうだ、分からなければもう一回してみればいいのだ。
    シュートが入らなければ練習する、パスが通らなければ何度もトライしてみる。
    今までもやってきたことだ。
    もう一度キスしてみれば、何か分かるかもしれない。


    コンコン、と控えめなノックの後に、「深津さーん」と間延びした声。
    「入れピョン」
    言うと、もっと控えめにゆっくりと自室のドアが開いた。
    沢北が、突っ立ったままこちらを見ている。
    「なんすか、話って」
    珍しく、すぐに部屋に入って来ようとしない。
    「こっちに来るピョン」
    深津が腰掛けるベッドに呼ぶ。
    沢北は、目を見開いて少しだけ身をこわばらせた後、「失礼しまーす」と小さい声で言った。
    「なんでそんなビビってるピョン」
    「え、だって、深津さんと2人きりだし、話があるっていうから、もしかして…と思って」
    どことなく不安そうなのはなぜだろう。
    分からないが、気を取り直して沢北に向き合う。
    「今日呼んだのは他でもないピョン」
    「はい」
    「もう一回キスするピョン」
    「えっ!」
    てっきり喜ぶかと思ったのに、ただでさえ大きな目をさらに大きく見開いて固まるから、深津は眉をひそめた。
    「嫌ピョン?」
    「まさか!嫌だなんてそんな、いや、でも、もしかしたら…やっぱりやめたとか言い出すかと…」
    最後の方はゴニョゴニョ言っていて聞き取れなかった。
    そんなことよりも、悩んだ結果を確かめたい深津はさっさと終わらせたくて沢北の腕を掴む。
    「ふ、深津さん…!」
    今度は嬉しそうだ。さっきから感情がジェットコースター並みに激しくて、しかも全部顔に出ている。分かりやすい男だ。
    「さっさとするピョン、消灯まで時間ない」
    「はい!オレもあれから、ずっとしたいなって、そればっか考えてて…」
    うっとりとしながら近づいて来る沢北の顔を、深津は手のひらで押し除ける。
    「違うピョン」
    「えっ、違う?」
    「俺からするピョン」
    ヒャッ、と聞いたことのない声をあげて、沢北はすごい勢いで顔を天井に向けた。
    背が高い分、深津よりも座高が高いので上を向かれると全然顔が見えない。
    「深津さんがそんなことを言うなんて…」
    耳が赤く染まっている。
    何を言ってるんだ、というのが深津の正直な感想だが、そういえば沢北は深津のことを彼氏だと思っているんだった。
    深津はただ、沢北とキスをして何を感じるかを確かめたいだけなのだが、その説明をし忘れた事にやっとその時気付いた。が、正直もういい。
    「こっち向け」
    緩みきっている沢北の顔を両手で固定して、顔を近づける。沢北は素直に従って目を閉じた。
    至近距離のまつ毛が長くてむかついた。
    ちゅ、と乾いた音がして、唇と唇が触れた。柔らかい感触にむず痒くなったが、それだけだ。
    可愛いとか嬉しいとか、そんな感情は湧いてこない。
    「なるほど」
    「な、なるほど?」
    分かりやすすぎるくらいにはてなマークを浮かべた沢北を押しのけて、深津はベッドから降りる。
    「えっ深津さ、終わり!?」
    「終わりだピョン」
    「サクッとやって終わりなんて、男前すぎませんか!?」
    「以上だピョン、お帰りください」
    情けなく涙目になっている後輩に向かって部屋のドアを開けてやると、不服そうにのそのそとベッドから降りて出口に向かう。
    ドアを押さえている深津を見下ろして、「本当に帰っちゃいますからね」と拗ねた顔を見せた。
    「明日の朝練6:30だピョン」
    「こんなとこでキャプテン出さないで!」
    来た時よりも小さくなった背中に連絡事項を投げたら、もっと泣きそうな顔で振り向いた。
    キスは何も思わなかったけれど、拗ねて涙目になっている顔はちょっと可愛かった。


    それから、深津自身も不思議なことに、沢北とのお付き合いは続いた。
    お付き合いといっても、たまに一緒に昼飯を食うとか、ホームルーム終わりに偶然会ったら一緒に部室に行くとか、自主練に付き合うとか、あくまでバスケと学校がメインの中に、沢北と深津の2人の時間が増えただけなのだが。
    沢北がじゃれてくるのに段々と悪い気はしなくなっていた深津は、もう最初のキスについては説明しなくてもいいかなとすら思ってしまっている。
    絆されている、とも言う。
    なるほどお付き合いってこんな感じなのか、と淡々と受け止める日々。
    沢北があれがしたいこれがしたい、と言うならそれを叶えてやるのも悪くないし、なんだかんだ今までも一緒にいて楽しい後輩だったから、彼氏という関係になってもそんなに変わらないな、というのが正直な感想だった。
    ひとつだけ、変わったことがある。
    キスは相変わらず、している。
    最初の始まりがあんなだったからか、2人の中でキスへのハードルが低くなってしまい、ごく自然とするようになってしまった。
    沢北から「キスしたい」と深津にねだってくるのがほとんどだ。
    それ以上はしないし、深津から「したい」と言ったのは深津の部屋でのあの2回目だけで、それからはずっと沢北のターン。
    単純に気持ちがいいし、沢北は喜んでいるし、自分がしたいわけじゃなくて仕方なく付き合ってやっているだけだし、と自分自身に言い訳して、深津は断りきれずに許している。
    部室の隅。空き教室。すれ違った時、誰もいなかった廊下。
    完全に人がいない場所であることを確認して唇を重ねているが、その瞬間だけは2人の関係がより特別になった気がして、悪くなかった。
    だから今日もまた、朝練終わりの体育館の裏で2人静かに唇を重ねている。
    「はぁ、深津さん可愛い…」
    唇が離れて、そのまま頭を抱き寄せられた。
    最近の沢北はいつも、キスの後に深津を抱きしめて何かに浸っている。
    こんなふうに優しく触れられると、深津自身も胸のあたりがあったかくなるような、むず痒くなるような感覚になってしまうから、最近のこれは少し苦手だった。
    「深津さん好きです」
    沢北は、もう口癖のように、2人きりでキスした後に必ず言うようになった。
    深津からは言ったことはない、こうやって絆されていろいろ許してしまっているが、好きかどうか分からないから。
    最近は少し、悪くないかもと思ってしまっているのがさらに厄介だ。
    「深津さんはオレのこと好きですか?」
    こうやって、少し切ない目で聞いてくるから、答えられない深津は居た堪れなくなって、申し訳ない気持ちになる。
    好き?どうだろう。
    以前よりも沢北を好ましく思っているのは分かる。10回以上、キスを許してしまったのだから。
    でもこれが恋愛感情かというと微妙な気もする。
    キスする度、深津は何度も沢北への気持ちを考える。
    少女漫画で見るような、ドキドキやキュンキュンはしない。だから恋ではない、と思う。
    河田が言ってた、可愛いも嬉しいも無い。
    でも、キスのたびに何故か心が落ち着くような、深津の心臓の、柔らかくて薄い外側をそっと撫でられているような、不思議な感覚になる。
    触れているのは唇だけなのに、沢北自身に包み込まれているような感覚。
    沢北と同じ、純粋な好きの気持ちを返せないのが苦しい。
    言ってしまいたい、最初にキスをしたのはからかいたかったからだと。
    ただ笑ってくれたら面白かったのに。
    でも、それを言うことで傷ついて、泣く沢北を見るのが辛い。
    そんなことで泣かせたくなかった。それくらいには、沢北を大事に思うようになってしまった。
    この弱い後輩を、自分の軽率な揶揄いから守ってあげたかった。
    矛盾した自分の考えにとらわれて、深津は何もできなくなる。
    「いつか言ってね、深津さん」
    沢北の笑顔はずっと眩しいのに、時々痛そうな顔をする。沢北は、深津の曖昧な気持ちに気付いているのだろうか。


    沢北が怪我をしたのは、それから数日後の部活でのこと。
    怪我といっても、手首を少し捻っただけだから、そんなに大事ではない。
    部員の多いバスケ部では、毎日誰かしらが軽い怪我をする。もちろん軽視してはいけないが、重い怪我と軽い怪我の違いくらい分かる人がほとんどだった。

    「深津さん、お話し中すみません」
    1年の後輩が、深津を呼びにきた。別メニューを3年生達とこなしていた深津は、振り返る。
    「沢北さんが、怪我を…」
    「は?怪我?」
    一瞬で形相の変わった深津に1年生はヒッと声をあげて肩を震わせた。まだ、このキャプテンに慣れていないのに連絡係を任された可哀想な1年だ。
    「深津、顔が怖いぞ」
    「んだ、怖がってるべ」
    同じ3年の松本と河田が部活をたしなめる。
    「で、なんだピョン」
    そんなことより内容が聞きたかった深津は、松本と河田を無視して言葉を続ける。
    「手首を捻ったそうで、沢北さんは保健室に行ってて、その間むこうのチームに…」
    「別の2年入れるピョン。ーー河田、あと頼んだ」
    「そんたに焦らねぐても、捻挫までいがねべ」
    河田のその言葉に、深津は妙に焦っている自分を意識する。
    沢北が怪我、という言葉を聞いてから、早く彼の元に行かなければと、深津の中の何かが急かす。
    なぜかわからない。
    「…部員が怪我したら、様子見に行くぐらいはするピョン」
    我ながら、あからさますぎて酷い言い訳だった。
    他の部員がもっと重い怪我をしたと聞いても、マネージャーや先生が付き添い、後から会った時にフォローする程度だったのは、深津自身も自覚している。
    キャプテンといえど選手だ。深津にも割り当てられたメニューがある。それをこなす必要があるから、あまり時間はかけられない。
    「すぐ戻るピョン」
    そうだ、ちょっと様子を見るだけだ。それだけ。
    自分自身に言い聞かせて、深津は足早に体育館を出た。


    「あれっ、深津さん」
    保健室の扉を開けると、沢北はケロッとした顔で手首に湿布を貼っていた。念の為冷やしたのか、氷嚢が横に置いてある。保健室の教諭はいなかった。
    「手首捻ったって聞いたピョン」
    沢北の隣に座る。焦った気持ちが勢い余って、深津の膝と沢北の膝がくっついた。
    「捻ったっていっても、そんな痛くないですよ。捻挫じゃないですし」
    ひらひらと手のひらを見せて、沢北は笑う。余裕そうなその態度を見ても、深津はまだ気持ちが落ち着かなかった。
    無言で沢北の手を取って、手首を撫でる。
    「深津さん…?」
    そして、はぁ、と息を吐く。
    胸の辺りに重たく溜まっていた空気を吐き出して、やっと安堵した。
    「…良かった」
    心からの言葉がぽろっと出てしまった。
    バスケ選手の大事な手首だ、もし痛めてしまっていたらと不安でしょうがなかったのだと、その時やっと深津は気付いた。
    「心配してくれたんですか」
    穏やかな声に顔を上げて沢北を見ると、その目には嬉しそうな、感動したような色が浮かんでいた。
    「心配しちゃダメピョン?」
    掴んだ手をぎゅっと握って、両手で包み込む。自分より少しだけ大きい手があたたかい。
    「オレのこと好きですか」
    指を優しく握り返される。
    「………」
    唐突な問いだった。でも深津は、沢北がその言葉を引き出そうとする意味を分かっていたし、深津ももう認めざるを得ないような気がしていた。
    何度もキスして、抱きしめられて、怪我をしたら心配でたまらなくて、走って会いにきてしまう。
    最初は、そんなつもりじゃなかったはずなのに。
    「もう好きでしょ、深津さん。オレのこと。そんな顔して」
    どんな顔だろう、と思っていたら、沢北の指が深津の頬を撫でた。触れられたところが熱くて、気付かぬうちに火照っていたのに気付く。
    「知ってましたよ、最初にキスしたの。あれ、いたずらのつもりだったでしょ」
    心臓がひゅっと冷たくなった。やっぱり、気付かれていた。
    「それでも良かったよ、オレは嬉しかったから」
    沢北の指が、深津の頬を撫で、そのまま唇までおりてくる。
    深津は沢北を見つめ返すのに精一杯で、声も出せない。
    「深津さんがオレを好きじゃないのも知ってた。知ってて、いつか好きになってくれるかなって、気付かないふりしてた」
    指が深津の上唇をなぞった。
    今までのどんな触れ合いよりも、扇情的で、情熱的に。心拍数が一気に上がった気がした。ドキドキと、鼓動がうるさい。
    「キスする度、深津さんがオレを好きになっていくのが分かって、嬉しかった」
    そのまま顎を上に向けられる。
    もう何度もしたはずなのに、初めてキスするような緊張感。そっと優しく、キスが落ちてくる。
    「オレのこと好き?」
    唇同士を離さないまま、吐息のような音が深津の耳に届いた。
    もう認めるしかない。
    キスされて嬉しいのも、沢北が可愛いのも、深津の胸の中に充分に満ちていて、いつかの河田のあの言葉は本当だったのだと、頭の遠くの方で思って、深津は掠れた声で、伝えた。


    その深津の言葉は、声というよりほぼ息に近かったけれど、沢北にはハッキリと聞こえた。
    確かに深津の声で、「好き」と。
    両腕は、いつのまにか深津の体をかき抱いた。
    さっきまでの、可愛らしいキスなんかより、もっと深津を感じたい。キスしたい。抱きしめたい。その感情が一瞬にして沢北を支配して、噛み付くように深津の厚い唇に食らいついた。
    「オレも」
    オレも好きです、の意味だったのに、最初しか言えなかった。もう待ってなどいられなかった。やっと、やっと欲しかった言葉をくれたのだから。
    「沢北、ちょ、っと待…ー」
    深津がなにか言いかけたが、その言葉ごと丸呑みする。もうどんな隙間さえ惜しかった。
    「ん、…っ」
    言葉を紡ごうとして薄くあいた隙間から舌を差し込むと、深津の甘い吐息が漏れる。
    そのまま綺麗な歯をなぞって、舌を絡めた。
    沢北も初めてした深いキスだったが、本能がやり方を知っていた。必死に深津の舌を追いかけた。
    「はぁ、は…、ん」
    苦しそうな呼吸に一旦唇を離すと、深津の唇は、てらてらとお互いの唾液で濡れて、ますますセクシーに見えた。
    「深津さんエロい、やばい」
    頭がおかしくなったんだと思う、その時頭に浮かんだ事をそのまま口に出した。いまは何を考えても、すぐ声に出してしまいそうだ。
    「待て、やりすぎだピョン、馬鹿…」
    深津の、ばか、の言い方が可愛すぎてさらに頭が沸騰するかと思った。気付いたら沢北は、深津の上に乗り上げて半分押し倒している。完全に無意識だった。
    「ねえ、もっかい」
    「…ッ、調子乗るな、もう終わりだピョン」
    明確に想いが通じ合った上に初めての深いキスがあまりに気持ちよくてねだったのに、深津は顔を真っ赤にして逸らしながら、全然説得力のない声音でそう言った。
    「戻る」
    「ええっ」
    深津も乗り気だったじゃないか。
    もう少し押せばいけると思ったのに、顔を隠したまますくっと立ち上がって、深津は無情にも沢北から離れてしまう。
    「お前もさっさと戻れピョン、手首使えなくても外周くらいはできる」
    完全に先輩としての深津に戻ってしまった。恋人は、こういう時の切り替えが早過ぎる。
    さっきまでの甘い雰囲気は夢だったのかと悲しくなった。もう少し余韻を残してもいいじゃないか。
    「…最後まで頑張ったらご褒美やるピョン」
    背中を向けたままそう告げた深津のうなじがほんのり赤くて、やっぱり深津さんも良かったんじゃん!と叫びそうになる。
    「絶対っすよ!!!!」
    ほぼ叫ぶように言って、沢北は深津の背中を追いかけた。
    やっと気持ちを自覚してくれた彼氏からのご褒美の為なら、何周でも走り切ってやると心に誓った。
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    Orr_Ebi

    DOODLE3/1のうちにあげておきたかった沢深。
    沢への感情を自覚する深の話。※沢はほぼ出てきません
    ・深津の誕生日
    ・深津の名前の由来
    ・寮母、深津の母など
    以上全て捏造です!
    私の幻覚について来れる方のみ読ましょう。振り落とされるなよ。

    ※沢深ワンドロライのお題と被っていますがそれとは別で個人的に書いたお話です
    シオンの花束 同じ朝は二度と来ない。
     頭では分かっていても、慣れた体はいつもの時間に目覚め、慣れ親しんだ寮の部屋でいつも通りに動き出す。
     深津は体を起こして、いつものように大きく伸びをすると、カーテンを開け窓の外を見た。まだ少し寒い朝の光が、深津の目に沁みた。雪の残る風景は、昨日の朝見た時とほぼ同じ。
     同じ朝だ。けれど、確実に今日だけは違うのだと深津は分かっている。少し開けた窓から、鋭い冷たさの中にほんの少し春の甘さが混ざった風を吸い込む。
     3月1日。今日、深津は山王工業高校を卒業する。そして、奇しくもこの日は、深津の18歳の誕生日であった。

     一成、という名前は、長い人生の中で何か一つを成せるよう、という両親からの願いが込められている。深津自身、この名前を気に入っていた。苗字が珍しいので、どうしても下の名前で呼ばれる事は少なかったが、親しい友人の中には下の名前で呼び合う者も多く、その度に嬉しいようなむず痒いような気持ちになっていたのは、深津自身しか知らないことだ。
    6903

    Orr_Ebi

    TRAINING沢深ワンライお題「横顔」で書いたんですが、また両片思いさせてるしまた深は叶わない恋だと思っている。そして沢がバカっぽい。
    全然シリアスな話にならなくて、技量が足りないと思いました。いつもこんなんでごめんなさい。
    横顔横顔

     沢北栄治の顔は整っている。普段、真正面からじっくりと見ることがなくても、遠目からでもその端正な顔立ちは一目瞭然だった。綺麗なのは顔のパーツだけではなくて、骨格も。男らしく張った顎と、控えめだが綺麗なエラからスッと伸びる輪郭が美しい。
     彫刻みたいだ、と深津は、美術の授業を受けながら沢北の輪郭を思い出した。沢北の顔は、全て綺麗なラインで形作られている。まつ毛も瞼も美しく、まっすぐな鼻筋が作り出す陰影まで、沢北を彩って形作っている。
     もともと綺麗な顔立ちの人が好きだった。簡単に言えば面食いだ。それは、自分が自分の顔をあまり好きじゃないからだと思う。平行に伸びた眉、重たい二重瞼、眠そうな目と荒れた肌に、カサカサの主張の激しすぎる唇。両親に文句があるわけではないが、鏡を見るたびに変な顔だなと思うし、だからこそ自分とは真逆の、細い眉と切長の目、薄い唇の顔が好きだと思った。それは女性でも男性でも同じで、一度目を奪われるとじっと見つめてしまうのが悪い癖。だからなるべく、深津は本人に知られないように、そっと斜め後ろからその横顔を眺めるのが好きだった。松本の横顔も、河田男らしい顔も悪くないが、1番はやっぱり沢北の顔だった。
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