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    Orr_Ebi

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    Orr_Ebi

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    沢深。バスケを辞めて声を失った深津を、N⚪︎A選手の沢北が期間限定でお世話する話です。付き合ってないですが最後はハッピーエンドのつもり。

    #SD腐
    #沢深
    depthsOfAMountainStream

    愛しみのワルツ 深津さんのあの目がこちらを見ている。
    あぁ、これは夢だと自覚する。
    深津さんは何も言わずにじっとこちらを見つめるだけで、オレに何かアクションを起こすわけでも、表情を変えるわけでもなく静かに佇んでこちらを見ている。
    何か言ってほしいな。
    教えてほしい、あなたがなぜずっとオレを見ているのか。
    知りたくて手を伸ばしても届かなくて、なぜかオレの足は動かなくて、深い泥沼の中にいるような感覚。
    走りだそうと、もがけばもがくほど動けなくなっていく。
    なぜそんな、手の届かない場所でオレを見つめているのか教えてほしい。
    最後に思うのはいつもこれで、それからゆっくりと目を覚ます。


     静かに目を開けて、視界に入った自室の天井を見上げた。
    またこれだ。
    山王工業からアメリカに留学して、大学を卒業し、バスケ選手になった。
    自分もそれなりに大人になって、昔みたいに泣き虫じゃなくなって、バスケで食っていけるようになったと自負していた。
    その間、なぜか分からないがずっと高校の時のバスケ部のキャプテンが心に住みついている。
    好きとか尊敬しているとか、そんな簡単なものじゃなく、オレ自身も何故なのか分からないが、深津さんがオレの中からいつまでも消えない。
    好きだったのかな、と思い返すことも多かったけど、そんなものじゃない気もする。
    そして、この夢を見る。
    じっとこちらを見つめ黙っている深津さんに、オレは何もできない夢。
    夢占いなんて信じない。神頼みも、もうしないと高校の時に決めた。
    こうやって深津さんが夢に出てくるのは、オレの深層心理がそうさせているだけであって、なにか無自覚に深津さんへの思いがそうさせているだけであって、意味なんてないんだ。
    起き抜けの頭でそう言い聞かせては忘れるようにしているのに、気を抜いた頃にこうやってまた夢に出てくるから、忘れられず、深津さんを思い出しては、元気にしてるかなと思いを馳せている。
     深津さんと最後に会ったのは4年前だ。バスケ部のみんなで集まった飲み会が最後だった。
     深津さんは、大学でバスケを続けて、卒業後は実業団に入った。最近、選手を辞めてコーチになったらしい。
    らしい、というのは、本人から聞いたわけではなく、人伝に聞いただけだからだ。
    なぜ選手を辞めたかは知らない。
    バスケやめちゃったんだ、とは思ったけど、選手としてバスケに関わるのをやめただけで、指導者としてバスケに関わり続けているのは、ある意味深津さんらしいなと思った。
     何か理由があるんだろう。
    でも、やっぱり少し寂しかった。
     本人から聞きたかったな、と思ったのもあったかもしれない。
    アメリカに留学する時、泣きそうなオレに向かって、頑張れ、と言ってくれた人だったから。
    「おーーいさわきたー」
    寝室のドアを挟んだ玄関から声がして、オレは体を起こした。
    「いねーのー?」
    ガチャ、とドアノブをひねる音がする。
    リョータの声だ。
    なんでこんな時間に、と思って枕元の時計をみると、もう朝の10時をまわっていた。久しぶりの朝寝坊だ。
    「いるよ」
    リョータがオレの家に突撃してくることは珍しくない。いつもアポ無しで突然来るから、もう慣れっこだ。
    寝起きでまだしっかり起きてない体をのっそりと動かして、寝室を出、玄関の鍵を開けた。
    開いたドアから外の熱気と眩しい日差しが入り込んで、思わず目を瞑った。
    「まぶし……」
    「おう寝坊助だな沢北、入れろよ」
    ん、とリョータが掲げて見せたのは大量のパンが入ったビニール袋。すぐ近所にある美味しいベーカリーのものだ。
    「なに、くれんの?」
    「やるよ、だから入れてオレに美味いコーヒー飲ませてくれ」
    「リョータも買ったらいいよコーヒーメーカー」
    リョータがオレの家に来るのは、ほとんどが飯の誘いかうちの高級コーヒーメーカー目当てだ。
    車を20分ほど走らせたところに住んでいるリョータだが、足繁く通ってくるのは気心の知れた友人と日本語でだらだら喋れるのも大きいと思う。
    リビングに案内したら、リョータは勝手知ったるとでも言うようにコーヒーメーカーをいじりはじめた。
    「オレにもコーヒー淹れて」
    「オッケー、顔洗ってこいよ」
    「うん」
    冷たい水で顔を洗ってスッキリして戻ると、リョータは買い込んできたパンをオーブンで温めて、コーヒーを淹れてテーブルにセッティングしてくれていた。
    「いいね、うまそう」
    「な。卵とかある?焼くか?」
    「いいよオレやる。リョータ座ってなよ、外暑かったでしょ」
    冷蔵庫を開けて、卵とウインナーを取り出した。それ以外になんの食材も残っていなくて苦笑した。
    「寝てたとこ起こして悪かったな」
    「いーよ、おかげで起きれたし」
    「お疲れ」
    「うん。リョータも」
    ついこの間、アメリカでのNBAシーズンを終えたばかりだ。今日久しぶりに朝寝坊できたのも、シーズンの終わりで練習の予定が入っていないからだった。
    「よく寝たぁ」
    大きなあくびをしたら、目の前でコーヒーをすするリョータに笑われた。
    「お前いつだっけ、帰んの」
    ん?と壁にかけられたカレンダーを見る。
    「日本?明後日」
    「おーもうすぐじゃん、荷造りしたか?」
    「全然してない」
    「だろうな」
    リョータは荒れ放題のリビングを眺めてそう言った。昔から整理整頓は苦手だ、一人暮らしになった今では規則も何もないから好き放題だった。
    「シーズン中は片付けなんか無理だよ、だからハウスキーパー雇ってるし」
    「そのハウスキーパーの仕事ぶりがこれ?」
    「…この間解雇したから」
    「またお前に惚れたのかよ」
    相変わらずだなぁ、とチョコクロワッサンを頬張りながら言われて、オレは少しうんざりした気持ちになった。
    「オレは何もしてない」
    「次は若い女のハウスキーパーにしないって言ってたのに」
    「今度の人は優しいおばさんだったんだよ、それがヘルプかなんかで違う人が来て」
    基本は外出中にハウスキーピングを頼むから、鉢合わせすることはないのだが、たまたまヘルプで若い女性が来ていた日に、たまたま在室していたオレが顔を合わせてしまって、それからというもの、その女性が何かと理由をつけて家に来るようになってしまったから困ってしまった。
    以前も女性関係で揉めたことがあるから、嫌な予感がして、早々にその会社と契約を打ち切ったのだ。
    「まぁいいんだよ、もう日本戻るし。今度は1ヶ月くらいいられるし」
    その間も日本での仕事が入っているが、オレにとってこんなに長い里帰りは久しぶりのことだ。
    「誰か会ったりすんの?むこうで」
    「んー会うけど…そんなに予定入れてない。山王の同窓会あるらしいけど、行くか迷ってる」
    「へー」
    興味なさそうな返事もいつものことだ。
    「山王といえばさ、深津さん大変そうじゃん」
    飲んでいたコーヒーを吹き出しそうになった。
    「えっ、深津さん?」
    リョータの口から深津さんの名前を聞くのはほぼない、というか初めてだ。
    それに今朝の夢のこともあって、必要以上に深津さんの名前にドキッとしてしまった。
    「なに、聞いてないの?」
    「聞いてない、なにが?てかリョータはどこからそんな…」
    「いや、湘北の先輩とか後輩がさ、山王の深津さんとか松本さんと同じ大学行ってたやつ多くて。その流れで聞いた」
    「で、深津さんがなに」
    オレもよく知らないけど、と前置きした上でリョータは言った。

    なんか、声が出なくなったらしいよ。


    「愛しみのワルツ」


     離陸する飛行機の窓から、沈んでいく夕日をぼうっと眺める。
    インターネットで調べたところによると、現在日本の実業団チームのサブコーチを務める深津一成は、心因性失声症により一時コーチ業を休止している、とのこと。復帰時期は未定。
    選手ではないコーチの情報のため、書かれている情報はこれだけだった。
    失声症。
    あの、何にも動じない深津さんが?と目を疑った。
    コーチ業というのはそんなに厳しいものなのか、あの地獄のような山王の練習より、苦戦を強いられたという大学バスケ時代より?
    何も分からない、何も深津さんのことをオレは知らない。
     飛行機の気圧で、耳が詰まったような感覚を覚える。閉塞感、孤独感。
    自分の意思を音にして伝えられない深津さんも、同じような気持ちを味わってる?
    深津さんから声を取るなんて、ただでさえ表情がわかりにくいのにどうやって生活しているんだろう。
     そういえば、昔聞いたことがある。
    人が人を忘れる時、まず声から忘れるんだって。
    深津さんはどんな声をしていただろう。
    あの日、山王を発つあの日に、頑張れ、と言ってくれたあの声はどんなだっただろう。
    目を閉じて思い出そうとしても、なんの音も降ってこなかった。
    そして、次に目を覚ました時、オレは日本列島の上空にいた。



     ドアを開けてオレを見た時、深津さんの口は「なんで」と動いた。けれどすぐに、音が出なかったことに気づいてハッと口元を手で押さえた。
    やっぱり声が出ないんだ。
    と、オレはここに来るまでの間、何度も「ウソかもしれない」と思い続けていたのが、真実だったことに打ちのめされた。
    「お久しぶりです、深津さん」
    なんでもない顔をして、なるべく普通の態度になるよう努めた。
    さわきた、と深津さんの唇が動く。
    「驚きました?連絡してなかったですし、そりゃびっくりするよね。河田さんに聞いたんですよ、ここの住所」
    河田さん、と言った瞬間に眉毛がぴくっと反応したのを見て、どうやら思い当たる節があるみたいだと直感した。
    深津さんの家は、東京の西側に位置している市の、さらに山奥に建つ一軒家だった。
    建てたのではなく借りているらしい。
    河田さんに、深津さんの住所を知りたい、と言ったら少し渋ったのを思い出した。
    「アイツは、誰にも会いたくねえんだと」
    河田さん自身も、深津さんの今の家に行ったのは引越しの際の手伝いの一度きりで、もう来なくていい、とメッセージで送られてきたらしい。
    誰にも教えるな、とまで。
    渋々オレに教えてくれたのは、誰かに会ったほうがいいと河田さん自身が深津さんを心配しているからだった。
    「河田さんを怒んないであげてくださいよ、これしか方法なかったんだから」
    不服そうな目をしている深津さんに、そう言って微笑みかけた。
    会うのが実に4年ぶりでも、オレは昨日高校で会ったばかりかのように自然と振る舞えるのが不思議だった。
    「ね、長旅で疲れてるんですよ。入れてくれません?」
    深津さんはチラッとオレの後ろに隠れている大きなスーツケースを見て、はあ、とため息をつくようなそぶりをしながら、玄関のドアを大きく開いた。
    入っていい、てことだ。
    おじゃましまーす、と無駄に大きい声で室内に入る。古い一軒家だが、ところどころリフォームされているのか清潔感があった。
    通されたリビングには、ダイニングテーブルと椅子が二脚。それだけが置かれていて、他に物はほぼなかった。
    リビングの奥には狭い板間があり、中庭を見渡せるベランダと、古いロッキングチェアがあった。
    どうやら先ほどまでそこに座っていたらしい、読みかけの本が置いてあった。
    「いい家ですね」
    どこがだよ、と聞こえてきそうな深津さんの顔に、吹き出しそうになった。
    「住んでるのいつからですか?休業してからここに来たって聞きましたよ」
    矢継ぎ早に問いかけるオレに、深津さんは軽く息をついてから、ダイニングテーブルの上に置いてあったスマホを取り、ぽちぽちと何か打ち込む。
    【にかげつまえ】
    「へえ〜だからこんなに物が少ないんですか?」
    また、ぽちぽちと深津さんがスマホに打ち込む。
    【なにしにきた】
    てっきりオレの質問に答えてくれるのかと思ったのに、見せられた言葉は全然違う疑問だった。
    「なにしにって、深津さんが心配だったから会いにきたんですよ」
    半分嘘で、半分本当だ。
    深津さんの現状を知ったのは、リョータに聞いたあの日が初めてで、もともとは深津さんのための帰国ではなかった。
    それでも、日本行きの飛行機の中で、この1ヶ月は深津さんのために使おうと決めたのも事実。
    「オレが深津さんの面倒を見る」
    深津さんは少し驚いた顔をして、オレを見上げた。
    深津さん、少し小さくなった?オレがデカくなったのかな。
    選手引退してから、やはり体も一回り華奢になったのか、記憶の中の深津さんよりもずっと細いような気がする。
    髪はあの日の坊主ではなく伸びっぱなしで、目元にはうっすらと隈が見える。
    チャームポイントの分厚い唇も、乾燥しているのか皮がむけていた。
    そんなことを考えていると、深津さんは突然オレの顔をギュッと掴んで、睨んできた。
    「うわっ、なんすか」
    そしてスマホ画面を見せられる。
    【お前の世話にはならない】
    深津さんのことだから、素直に受け入れないだろうなとは思っていたから、ここまでは想定内だ。
    「話せないのに?」
    振り向いてしまった背中に投げかけると、深津さんはピタッと止まってから、ちょっと怒ったような顔をしてオレを見た。
    「やりにくいことあるんじゃないですか?2ヶ月も住んでるのにこんなに物が少ないなんて、買い物も十分にできてないでしょ」
    図星だったらしい。
    睨むばかりで、スマホになにも言葉を打ち込む様子のない深津さんに追い打ちをかける。
    「オレは1ヶ月は日本にいるから、その間に必要なものも揃えてあげられるし、手伝ってあげれますよ。河田さんや松本さんは仕事があるでしょ。まるまる手が空いてて、しかも深津さんのこと知ってる後輩なんて、使うのに楽なんじゃないですか?」
    我ながら、ずるいことを言っている自覚はあった。声が出せない人が1人で生活するのは、何かと不自由だろうと、そこに付け込もうという魂胆だ。
    「ね、とりあえず今日1日だけでいいから泊めてくださいよ。ホテル取ってないんです」
    オレが深津さんを手伝うかどうかは、もう少ししてから考えればいいから。
    そう言うと深津さんは、やれやれとでも言うように首を振って、スマホに文字を打ち込んだ。
    【勝手にしろ】
    よかった、とりあえずお許しは出た。
    オレは大喜びでスーツケースの荷解きに向かった。
    これが、オレが深津さんの家に来た最初の日の夜のことだった。


    「ただいまー」
    声を張り上げながら玄関に入ると、奥から深津さんがぬっと現れた。
    声は出ないが、おかえり、と手を上げた。
    オレが両手に持つ買い出しの荷物を運ぼうと手を伸ばして来たから、「いいよ」と言ってそのままオレが持って行く。
    ダイニングテーブルの上に置いて、食材をしまおうとすると、深津さんが少し驚いたような顔をして見つめているのに気付いた。
    「買いすぎ?でも2人だとこれくらい食うでしょ」
    笑いながら言ったら、呆れつつも買い込んできた冷凍肉をせっせと冷凍庫にしまうから、なんだか面白くてさらに笑ってしまった。
    深津さんとの生活から1週間が経った。
    初日はあんなに警戒していた深津さんだが、2日目も泊めて欲しい、3日目は雨が降ってて帰れないから、4日目は洗濯物が乾かないから、など理由をつけて滞在を先延ばしにしていたら、深津さんの方から【好きなだけいろ】と言ってくれた。
    厳密には言ってはいないのだが、その一文を見せられた時のオレの喜びはひとしおだった。
    でも、深津さんの中にもプライドがあるのか、沢北の世話にはならない、あくまで少しのあいだ同居するだけ、というような事を伝えられた。
    居候の身だから、深津さんに強いことは言えない。
    家賃を折半させて欲しい、と言ったら、そこまでさせる義理もないと伝えられ、少しショックだったが、その代わり食材費やその他の雑費など、家賃と光熱費以外のものはオレ担当になった。
    だからつい、買い出しで買い込んできてしまうのだが。
    「深津さん寝れた?」
    戸棚にハチミツをしまう深津さんにそう言ったら、コクンと頷いた。ベランダ側のロッキングチェアには、オレが買ったもこもこのブランケットがかかっている。
    「ベッドで寝ないと」
    それにも深津は首を振って応えた。
    あそこが1番眠れるらしい。
    深津さんは失声症と一緒に不眠も併発していた。病院から処方された薬を飲んでいるが、あまり効かないみたいだ。
    深津さんの寝室は2階にあって、ベッドは簡素なものだった。置いてあるのはベッドだけで、白い壁に白いベッドだけの部屋は息が詰まりそうだと、初めて入った時に思った。
    夜はベッドの上で、眠れずに朝を待って、昼間に少しうとうとするのが常のようだった。
    ちなみにオレは、深津さんの隣の客間に布団を敷いて寝ている。
    「ちょっと運動する?走ったり散歩したり。そしたら眠れるかもよ」
    首を振る。ベランダの入り口に放置されたつっかけサンダルを顎で指した。
    深津さんが持っている靴は、あのつっかけサンダルとヨレヨレのスニーカーだけだった。
    「あー、なるほどね」
    走るのには不向きだ。
    それに、ランニングする気力がまだ本人にないようだった。
    プレゼントしたいな。
    もう少し、深津さんに元気が出てきたら。
    そんなことを考えながら、夕飯の準備をし始めた深津さんを眺めていた。


     深津さんはよく、リビングで音楽を流している。
    【音がないのが嫌だから】らしい。
    スマホはほぼ音楽プレーヤーみたいなもので、古いスピーカーを繋いだまま放置されている。
    流している音楽が最新のJ-POPなのもあれば、古い歌謡曲、クラシック、アニメソング、海外の音楽までさまざまだった。
    都内で仕事があって、帰宅した時にリビングから人の声がすると思ったら落語を流していたこともある。
    オレが家の中の家事をこなしている間に、深津さんは音楽を流して、ロッキングチェアに座ってうたた寝したり本を読んだりしている。
    天気の良い日のその様子は、暖かい日差しと眠る深津さんが1枚の絵のように綺麗で、オレはそれを見ているのが好きだった。
     最近の深津さんは、いつも同じ曲を流している。
    有名なアーティストが奏でるヴァイオリンの曲で、歌はないが切ないメロディが特徴的だった。
    「なんでこの曲好きなの」
    洗濯物を畳む手を止めて、ふと聴いてみたことがある。気付けば流れているから、オレもメロディを覚えてしまった。
    【今の俺によく合ってる】
    今の?
    どんな意味だろう、と思ったけど、それきり深津さんは手元の本に視線を戻してしまった。
    深津さんの膝の上のメモには、それまで書かれた深津さんの言葉が並んでいる。
    ロッキングチェアに揺られる深津さんの足元に這い寄って、深津さん愛用のメモを取る。
    深津さんは目線をチラッと寄越したけれど、何もしてこなかったから、見てもいいってことだった。
    【純文学】
    なに読んでるのって聞いた時の返事だ。
    【ハンバーグ】
    なに食べたいって聞いた時に、珍しくリクエストされた時のやつ。
    【そこまでしなくていい】
    風呂入るの手伝おうかって聞いた時。
    深津さんの字はシュッとしてて読みやすくて、綺麗だ。文字書くのも上手いんだなぁって思った。
    パラパラめくると、1番最初のページに【好きなだけいろ】とだけ書かれている。
    ここにいて良い、ってお許しが出た日のやつだ。
    オレ、いつまで居ていいのかな、ここに。
    予定では1ヶ月だったけれど、調整して先延ばしにすればもう半月は延ばせる。
    それを深津さんが許してくれたら、そうしたい。
    なんなら、深津さんをこんなところに残していかずに、アメリカまで連れて行けたらいいのに、と思った。でもきっと、そんなこと本人が望まないだろうな、とも思った。
    ふと、深津さんの指がオレの手に触れた。
    どうした、とでも言いたげな顔だ。
    「なんでもないよ」
    深津さんのメモを見て固まっていたからか、深津さんが心配そうにオレを見つめている。
    穏やかなその瞳を見返して、微笑む。
    「深津さんのお気に入りのこの曲さ、なんていうの?曲名」
    深津さんはメモをオレの手から取って、ペンでザリザリと書き出す。
    【愛しみのワルツ】
    「いと…いとしみのワルツ?」
    あまり漢字が苦手じゃないオレが自信なく言うと、深津さんは意味深に笑ってから頷いた。
    「へー、こういうのワルツっていうんだ」
    【三拍子はワルツ】
    「三拍子?手拍子がってこと?」
    深津さんは笑って首を振る。
    【バスケ以外も勉強した方がいい】
    勉強し、のあたりで笑い出してしまった。そりゃないよ、こんなにバスケが好きなのに。
    深津さんは穏やかに、オレを見つめている。わけも無く嬉しくて、どこか気恥ずかしい気もした。けれど嬉しかった。トゲトゲした深津さんの雰囲気が柔らかくなった気がしたからだ。
    深津さんは本を閉じてしまった。読むのを邪魔したのはオレだ。
    スピーカーから流れる切ないヴァイオリンのメロディだけが響いていて、ありきたりな言葉だけど世界で2人きりになった気がした。
    今だけは掃除も洗濯も中止して、この余韻に浸っていたかった。


     それを見つけたのは、オレたちが夜のワークアウトから戻ってきてから。
     昼間は家の掃除をして、少し出かけて買い出しをして、昼寝をしていた深津さんと夕食をとった。
    眠るまでの時間、オレが外に走りに行くのはいつもの事で、時々深津さんもそれに付き添って散歩したりしている。
     ここに来たばかりの頃に、スニーカーをプレゼントしたい、と思っていたけれど、あれからしばらくして、突然ランニングシューズをプレゼントしたら深津さんはとても喜んでいた。
    深津さんに似合いそうな、黒がベースに白のラインが入っているやつだ。
    渡した後に、お金返す、と伝えてきたのも深津さんらしい。
    「それを履いてオレと一緒に外を歩いてくれたらいいよ」と答えたら控えめに頷いて、でもしっかり翌日から散歩に出かけてくれて、嬉しくなった。
    散歩するようになってから、夜も少し長く眠れてきているように思う。
     今日も散歩に行って、戻ってきてすぐ深津さんはシャワーを浴びにいった。
    オレも次入ろうかな、と思ってコーヒーを淹れて待つ。
     散歩に行って帰ってきたら、2人でティータイムをするのが日課になっている。
    最初、オレがコーヒーミルとドリッパーとコーヒー豆を買ってきて、やった事ないのに淹れてみたら、ものすごく濃いコーヒーが出来上がって2人で大笑いしことがある。
    アメリカの自宅ではいつもコーヒーメーカーだったから、手で淹れるやり方が分からなくて、ネットで調べて2回目はしっかり美味しいのが出来た。
     高級コーヒーメーカーの味とまではいかないけれど、最近は悪くない出来だと思っている。
     コーヒーを淹れたマグカップを持ってダイニングテーブルまで運ぶと、いつものロッキングチェアに、あるものを発見した。
    『初めての手話』
    きっといつもの難しい小説だろうと思っていたから、本のタイトルを見て驚く。
    そして同時に、怒りにも似た感情が湧いてきた。
    風呂から戻った深津さんは、髪の毛の雫はそのままにして近寄って来た。いつもは、風邪ひくよ、とオレがタオルで拭いてあげるけど、今はそんなことする余裕がなかった。
    「これなに」
    オレの声が低く冷たかったからか、深津さんはきょとんとしてからオレが持つ本に視線を移した。
    メモ用紙に文字が書かれる。
    【そろそろ勉強しないと】
    「勉強?」
    【そう】
    「どういうこと、まさか治らないって思ってる?」
    【その可能性もある】
    「誰が言ったのそんなこと、お医者さんも充分な休養と休息で治るって言ってたんでしょ」
    【それがいつかはわからない】
    「そんなことない、絶対治るよ。なんで自分で信じてないの」
    【信じてないとかじゃない】
    オレはなにも言えなくなった。ただでさえ、分かりにくいこの人の考えていることを理解するには、紙に書かれる文字だけでは不十分すぎる。
    どうしてだと声を張り上げたかった。
    オレはもう、二度と深津さんの声が聞けないなんて許せないのに、この人はそれすら受け入れて次のステップに進もうとしている。
    オレを残して、先を見据えているのがとてつもなく腹立たしかった。
    【もう3ヶ月】
    たったそれだけだったけど、深津さんの声が出なくなってからの期間だと分かる。
    「やめてよ、これからも無理だって言いたいの?でも深津さん眠れるようになってきてるし、食事もちゃんと食べれてるでしょ。オレのおかげで」
    【でもお前はいなくなる】
    冷や水を浴びせられた気分だった。
    1人で生きていこうとしている、声を失ったまま。
    それに比べてオレの状況はどうだ。
    こんなに都合のいいことを言っているのに、そう遠くないうちにアメリカに戻るのが確定している男だ。
     深津さんはそれを誰より分かっている。
    そして、これからも声が出ないのであれば、意思疎通の手段を持っていた方がいいと分かっている。オレよりも。
    それでも諦めきれない。
    「深津さんが悪いんじゃなくて、お医者さんが悪いんじゃない?他の病院にしてみたらいいよ」
    深津さんはもう、文字に起こそうとしなかった。ただ寂しそうに首を振るだけ。
    「そうだ、アメリカに来たら?日本よりずっといいかもしれない。嫌なこと忘れて新しい場所にいけば気持ちも晴れるよ、きっと」
    それにも首を振る。
     行かない、だ。
    オレは何故か無性に焦っていた。今すぐ、手にしているこの手話の本を破り捨ててしまいたかった。どうにかして深津さんに頷いて欲しかった。
    「いい病院があるかも。オレ探しますよ、深津さんのためなら」
     声が上擦って喉が渇いて張り付いた感覚。話せば話すほど、深津さんの顔から喜びが消えていくと分かっているのに止められない。
    「最初に言ったでしょ、オレが面倒見るって。そんなに悪くないんですよ、オレの稼ぎも」
    そして、口が滑ってしまった。

    「オレが養ってあげる」

     頬に熱い衝撃が走って、気づいたときには深津さんが息を弾ませてオレを睨んでいた。
    自分で触ると熱を持っているのがわかる。
     深津さんに殴られた。
    眉間に皺を寄せて、怒ったような顔でオレを見ている深津さんは、そのくせ泣きそうな目をしていて、初めて見る表情に自分は失敗したんだ、と直感する。
    オレは言葉選びを間違った。考え方を間違った。
     深津さんは静かに、リビングを出て行った。そのまま音を立てて、玄関から出ていってしまう。
    もうこんな時間なのに、なんて一瞬心配になって追いかけたくなったが、今は離れた方がいいと頭の奥の冷静な自分が言う。
    それに、体がびっくりするほど固まってしまって動かなかった。
    泣きたいのに、涙は全く出てこなくて、心が枯れてしまったような感覚になる。
    オレは間違った。大切な人に酷いことを言った。


    「どうした沢北。いつも電話なんてかけてこねえのに。どうだ日本は。そろそろアメリカ戻ってくるんだろ?こっちはもう秋だぜ。長袖忘れんなよ。…なんだよ、元気ねえな。深津さんのとこにいるんだっけ?ケンカでもしたか。ハハ、図星かよ。どうせお前が悪ぃんだろ。ほらな、やっぱり。なんだ、言ってみろよ聞いてみるから。…ハア?そりゃ怒るわ深津さんも。よくお前、ビンタぐらいで収まったと思うぜおれは。さすが元日本一のガードはアンガーマネジメントが上手だよな。オレならぜってーむり。まだ許されてる方だと思うぜそれは、追い出されてねーしな。…で?深津さんに謝りたいって?んだよ、言えばいいじゃねえか。お前は肝心なところで言葉にしねーからそうやって拗れるんだよ。言えばいいだろ、絶対治して欲しいって。だから頑張ってほしいって。それだけだろ?言いたいのは。アメリカに来て欲しいなんて本当は思ってねーくせに、取り繕おうとして変なこと言うんだよ。深津さんのこと思ってるなら、お前は素直になるべきだ。そんな簡単なこともわかんなくなってオレに電話してくる時間あるなら、今すぐ深津さんの部屋に行って謝って来い」


     深津さんは、オレが部屋に籠ってから数時間後に戻ってきたようだった。
    隣の部屋で、深津さんがベッドに入る音がして、目を閉じながらその音を聞いていた。
    あの、ベッド以外なにもない部屋で、なにを考えているんだろう。
     リョータの言う通りだ。今すぐ深津さんの部屋に行って謝るべき。だけどその勇気が出なくて、道に迷った子供みたいに途方に暮れて、固い敷布団の上でじっとしているしかできない。
    隣の部屋のベッドが軋む音がして、深津さんも眠れていないんだと思った。
    せっかく最近、夜も眠れるようになったのに。ごめんね、深津さん。
    ほんとごめん。
    こんなやつが側にいて、こんなやつが深津さんを愛していてごめん。
    これは愛だ、明確に。


     またあの夢だ。もう何度目だろう。
    深津さんのことを考えていたから、深津さんを夢に見ているんだ。
    じっとこちらを見つめる深津さん。
    いつのまにか、その深津さんは高校の時の4番のユニフォームを着ている。
    頭も坊主で、少し幼い。
    ああ、あの頃の深津さんなんだと懐かしい気持ちで眺める。
    その時、深津さんの唇が動いた。
    「沢北」
    夢なのに、もう深津さんの声は長いこと聞いていないのに、夢の中ではっきりと深津さんの声がオレを呼んで、泣きそうになる。
     いや、もう泣いていた。
    泣きじゃくって、嗚咽が漏れる時の鼻の奥が辛い感じと呼吸の荒さ。
    「沢北」
    深津さんの声が響く。
    ああ、ずっと聴きたかったんだ、この声が。
    迷子のオレをいつも見つけてくれる声。パスをくれる時の声。叱る時、励ます時。いつも聞こえてくる、深津さんがオレを呼ぶ声。
    深津さん。
    精一杯叫んだつもりだったけれど、その声はオレの耳には届かなくて、でもこちらを見つめる深津さんには聞こえているみたいで、不思議だった。
    やっと呼んでくれたね。


     目を開けると、明るい日差しが差し込む天井。いつものアメリカの自宅ではない。
     そうだ、ここは深津さんの家だった。あの夢を見るのは自宅のみで、深津さんの家に来てからは見なかったのに、まただ。
    「……?」
    呼ばれた気がした。けれど夢と現実の区別がつかなくて、オレはまた目を閉じる。
    「沢北」
    また声がする。きっとまだ夢を見ている。
    深津さんの声が、現実でオレを呼ぶはずなんてないのに。
    ゆっくりと目を開けると、傍に深津さんが座っていた。
     神様みたいだと思った。差し込む日差しと、オレを覗き込む深津さんの顔。
    ロッキングチェアでうたた寝する深津さんの、あの日の夕暮れを思い出す。
     オレを、退屈なだけだったバスケから掬い上げて、楽しいを教えてくれた人。
    「沢北」
    今度こそ、深津さんの唇が動いているのを見た。そして、音が出ているのにも気付く。
    「えっ、深津さん!?」
    一瞬で寝ぼけた頭が冴えて、オレは勢いよく起き上がった。
    「おはよう」
    声が出ている、紛れもなく深津さんの声だ。
    そのことが信じられなくて、オレは深津さんの口元を凝視してしまう。
    「深津さん、声が…」
    声が出なかった時の名残か、深津さんは声に出さずにこくりと頷いてみせる。
    「な、なんで」
    首を傾げる深津さんの手を握って、オレは奇跡みたいな出来事に呆気にとられる。
    「お前に言いたいことがありすぎて、気付いたら声が出てた」
    懐かしい接尾語のピョン、は言えてなかった。
    最後の方は掠れて、しまいには少し咳き込んでいたけれど、それでも正真正銘、深津さんの声だった。深津さんが喋っていた。
    オレは感極まって、深津さんを抱きしめる。腕の中の温もりは、想像していたよりもずっと細くて華奢だった。それでも、そこに深津さんがいることを確かめたくて、力を込めてぎゅっとした。
    「よかった、よかった、深津さんオレ、もう、深津さんの声聞けないのかと…」
    「なんでお前が泣く」
    言われて、涙が出ていることに気づいた。深津さんの肩口を濡らしている。
    夢の中では泣きじゃくっていると思っても実際は全く涙が出ていなかったのに、こんなに簡単に泣いてしまうなんてカッコ悪い。それでも、深津さんの声が戻ったことが嬉しくて、泣くのを止められなかった。
    「ごめん、深津さん、オレ昨日ひどいこと言った」
    うん、と頷く感触。本当に、酷いことを言ってしまった。
    深津さんはなにも言わずに抱きしめられている。
    「でも、止められなかった。諦めないで欲しかった」
    ぎゆ、と深津さんの手が背中に回った。オレの声が届いたのだと実感した。
    「諦めない」
     深津さんはそれだけ言って、黙ってオレが泣きやむのを待っていた。
    オレがアメリカに戻るまで、1週間を切っていた。



    「これ、飛行機で読めピョン」
    出がけの玄関で渡されたのは、薄緑の綺麗な便箋だった。
    「手紙?」
    「そう。まとめたから」
    「えっ、せっかく声が出るようになったのにまた手紙ですか?今話せないの」
    深津さんの声が聞きたくてそう言ったら、困ったように笑ってから「そんな時間ない」とだけ言った。
    深津さんの声が戻った原因は、分からないらしい。
    深津さんの主治医が言うには、なにか原因となっていたストレスから離れたことで戻ったと推測できるらしいが、声が戻るのは突然なことが多く、詳しいことはわからないらしい。
    深津さんも、はっきりとはわからないと言っていた。
    でも、少し心当たりがあるとも話していた。
    まだ、声が出るようになってそんなに経っていないので、あまり長く喋ると喉が疲れるらしく、話すのは数語程度だが、日に日に長く話せるようになってきている。
    これからもっと良くなるでしょう、とお医者さんは言っていた。
     その言葉を信じて、名残惜しいがオレは予定通りアメリカに戻ることにした。
    「向こう着いたら電話するから」
    「うん」
    「話すのしんどかったら、チャットでもいいから」
    「うん」
    本当はアメリカに戻りたくない。
    声が戻り、体調も回復しつつある深津さんを1人残していくのが気がかりでしょうがない。
    それでも深津さんは、あの夜と同じように、黙ってオレについて来てくれるとは思えない。
    そしてオレも、まだアメリカでバスケをしたい。
    「それから、頼みがあるんだけど」
    名残惜しい気持ちを断ち切るために、言おうと決めたことを頭の中で反芻し、声に出す。
    「オレ、アメリカで頑張るから。深津さんに見ていてほしい」
    「?うん」
    「分かってないでしょ。オレの大事な人になってほしいって言ってるんだよ。」
    厚い二重瞼の目が見開かれて、そのまま固まってしまった。構わずに抱きしめて、想いを伝える。
    「オレの大事な人だから、深津さんも大事にしてね。自分のこと」
     ちょっとしてから、背中に遠慮がちに回る腕が愛しかった。深津さんはなにも言わないけれど、今はそれでいいと思った。
    「返事はいつでもいいから。待ってるから。」
    吐息のように囁いて、オレは体を離した。深津さんの目が潤んでいる。
    「行ってくるよ」
    「…行ってらっしゃい」
    深津さんの声でそれが聞けただけで、今のオレには十分だった。
    大好きな人。離れても元気で。


    拝啓 沢北栄治様
     この度は、お世話になりました。あなたが私の部屋にいるのは、心が休まらないかと思いましたが、思いの外楽しかったです。
     貴方がくれたシューズ、大切にします。
     私の声が戻った原因は、はっきりとは分かりませんが、自分でこれじゃないかと思うことがあります。
     2年前に、膝の靭帯を切って、一時バスケが出来なくなりました。
     リハビリして治せばまた選手に戻れると分かっていてもそうしなかったのは、自分がバスケから見放されるのが嫌だったからです。
    出来ない自分に嫌気がさして、バスケが遠ざかっていくよりも、自分から手放そうと思ったからです。
     選手を辞めて、初めたコーチ業は楽しかったですが、バスケをしている選手たちが羨ましくて、自分もやりたい気持ちが湧いてきて、だけど踏ん切りがつかなくて、気付けば体を壊して声が出なくなっていました。
     我ながら情けないです。
     もうこのまま1人きりで、全てを無くしてしまってもいいとさえ思っていましたが、そんな時に貴方が現れて、私はとても驚きました。
    私のバスケへの未練と愛を体現したような貴方が、諦めないで欲しいと言ってくれたのは、声が戻った1番の原因だと思います。
    もう一度、やってみようと思います。
    時間がかかるかもしれませんが、もう一度選手になれるように頑張ってみようと思わせてくれたのは、他でもない貴方でした。
    見ていてほしいです。
    本当にありがとう。感謝しています。
    直接言葉で伝えるのが苦手な私を許してください。

    もう一つ、伝え忘れたことがあります。
    私が好きなあのワルツの曲名は、「愛しみのワルツ」ですが、正しい読み方は「かなしみ」です。
    あの曲を聴いていた頃は、哀しみだけが心に広がっていた気がしていました。
    けれど今は、「いとしみ」だとハッキリと思います。

    貴方を思い出します。


    深津一成

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    Orr_Ebi

    DOODLE3/1のうちにあげておきたかった沢深。
    沢への感情を自覚する深の話。※沢はほぼ出てきません
    ・深津の誕生日
    ・深津の名前の由来
    ・寮母、深津の母など
    以上全て捏造です!
    私の幻覚について来れる方のみ読ましょう。振り落とされるなよ。

    ※沢深ワンドロライのお題と被っていますがそれとは別で個人的に書いたお話です
    シオンの花束 同じ朝は二度と来ない。
     頭では分かっていても、慣れた体はいつもの時間に目覚め、慣れ親しんだ寮の部屋でいつも通りに動き出す。
     深津は体を起こして、いつものように大きく伸びをすると、カーテンを開け窓の外を見た。まだ少し寒い朝の光が、深津の目に沁みた。雪の残る風景は、昨日の朝見た時とほぼ同じ。
     同じ朝だ。けれど、確実に今日だけは違うのだと深津は分かっている。少し開けた窓から、鋭い冷たさの中にほんの少し春の甘さが混ざった風を吸い込む。
     3月1日。今日、深津は山王工業高校を卒業する。そして、奇しくもこの日は、深津の18歳の誕生日であった。

     一成、という名前は、長い人生の中で何か一つを成せるよう、という両親からの願いが込められている。深津自身、この名前を気に入っていた。苗字が珍しいので、どうしても下の名前で呼ばれる事は少なかったが、親しい友人の中には下の名前で呼び合う者も多く、その度に嬉しいようなむず痒いような気持ちになっていたのは、深津自身しか知らないことだ。
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    Orr_Ebi

    TRAINING沢深ワンライお題「横顔」で書いたんですが、また両片思いさせてるしまた深は叶わない恋だと思っている。そして沢がバカっぽい。
    全然シリアスな話にならなくて、技量が足りないと思いました。いつもこんなんでごめんなさい。
    横顔横顔

     沢北栄治の顔は整っている。普段、真正面からじっくりと見ることがなくても、遠目からでもその端正な顔立ちは一目瞭然だった。綺麗なのは顔のパーツだけではなくて、骨格も。男らしく張った顎と、控えめだが綺麗なエラからスッと伸びる輪郭が美しい。
     彫刻みたいだ、と深津は、美術の授業を受けながら沢北の輪郭を思い出した。沢北の顔は、全て綺麗なラインで形作られている。まつ毛も瞼も美しく、まっすぐな鼻筋が作り出す陰影まで、沢北を彩って形作っている。
     もともと綺麗な顔立ちの人が好きだった。簡単に言えば面食いだ。それは、自分が自分の顔をあまり好きじゃないからだと思う。平行に伸びた眉、重たい二重瞼、眠そうな目と荒れた肌に、カサカサの主張の激しすぎる唇。両親に文句があるわけではないが、鏡を見るたびに変な顔だなと思うし、だからこそ自分とは真逆の、細い眉と切長の目、薄い唇の顔が好きだと思った。それは女性でも男性でも同じで、一度目を奪われるとじっと見つめてしまうのが悪い癖。だからなるべく、深津は本人に知られないように、そっと斜め後ろからその横顔を眺めるのが好きだった。松本の横顔も、河田男らしい顔も悪くないが、1番はやっぱり沢北の顔だった。
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    Orr_Ebi

    TRAINING喧嘩する沢深。でも仲良し。
    なんだかんだ沢が深に惚れ直す話。
    とあるラブソングを元に書きました!

    大学生深津22歳、留学中沢北21歳くらいをイメージしてます。2月のお話。
    期間限定チョコ味 足先が冷たくなっていく。廊下のフローリングを見つめて、何度目か分からないため息をついた。
    「ちょっと頭冷やしてきます」
     深津さんにそう告げて部屋を出てから、15分は経っている。もうとっくに頭は冷えていた。爪先も指先も冷たくなっていて、暖かい部屋の中に入りたいと思うのに、凍りついたようにその場から動けなかった。
     なんて事ない一言がオレたちに火をつけて、すぐに終わる話だと思ったのに、想定よりずっと長くなって、結局喧嘩になった。オレが投げかけた小さな火種は、やがて深津さんの「俺のこと信用してないのか?」によって燃え広がり、結局最初の話からは全然違う言い合いへと発展し、止まらなくなった。
     いつにも増して深津さんが投げやりだったのは、連日の厳しい練習にオレの帰国が重なって疲れているから。そんな時に、トレーニング方法について何も知らないくせに、オレが一丁前に口出ししたから。それは分かってるけど、でも、オレがやりすぎなトレーニングは体を壊すって知ってるから、心配して言ったのに。
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