月の悪魔仕事帰りの夜道で「はい、おねーさん止まってー」って後ろから腰に手を回して首筋に冷たい何かが突きつけられる。何も分からず手を上げて抵抗はしないと意思表示をする。「物分りがいいね。さらに帰してあげられなくなっちゃった」ずっと楽しそうな口調で話すが、私は彼を知らない。
「ど、どちら様ですか…?」震える声で聞いてみる。すると肩を持たれてくるりと回される。少し身長が高めの金髪の瞳が大きく好青年といえるような男がいた。「忘れちゃった?まあ、無理もないか」あちゃーと言わんばかりの反応を取られる。忘れてる。私は何か忘れている。誰か忘れている。
「同じ故郷だったんだけど…うーん。あっ!こうすればわかるかな?」そう言って丸く整った髪をぐしゃぐしゃにする。そしてニカッと歯を見せて笑う。この顔は見たことがある。「もしかしてボサボサ頭の📱くん…?」やっとわかった。軽い口調。金髪。大きい瞳。好青年。笑顔が明るい。📱くんだ。
「どうして私なの?」そこがやっぱりわからない。襲われることはしてないはずなんだ。「えっ、そんなの決まってるじゃん。キミがオレに大人になるまで待っててって言ったから、迎えに来た」あーこの子だ。この男だ。あの時と一緒だ。待っててって言ったのに来ちゃうんだ。
📱は小さくて喧嘩も弱いから待っててと私が街に出て買い物をしていた時に勝手に来て「迎えに来た」と私の目線の下でボサボサの頭と抜けた歯を見せてニッと笑う姿が重なった。すぐに髪をなおす。「思い出した?」「え、えぇ…思い出した…」そう答えると片手を取られる。何かを手の中に握られる。
「こんなに月が綺麗なんだよ。オレと一緒に踊らない?」目の前に跪く。目線の下。整った金髪。大きい瞳。生え揃った歯。かえった気分だ。「死んでもいいわ。また会えてよかった。」手に握られた悪魔のピンに口付けをする。また今日からアナタの虜。月下で踊る悪魔二人。