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    mctk2kamo10

    @mctk2kamo10

    道タケと牙崎漣
    ぴくしぶからの一時移行先として利用

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    mctk2kamo10

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    今日話題に出したので

    #腐向け
    Rot
    #エムマス【腐】
    #道タケ
    #セブクロ
    sevenSisters

    命の終わりに愛が残れば 廃墟にまで標的たちを追い込んだと言うべきか、彼らが上手く逃れてきたと言うべきか。もう知ったことではないが、クローの構えたピストルを前に標的の最後の一人は怯えたように笑った。
     口から飛び出る、醜くも美しい、定型文じみた懇願の声。どいつもこいつもおんなじことばっかりでつまんねえ、と口を尖らせたのはファングで、セブンは何も言わない。クローは「懇願する相手を間違えてるぜ」と眉をひそめた。そのままトリガーを引く。標的の体内に入り込んだそれは紅い花を咲かして命を奪うがクローは目を歪ませた。
    「君の死神は僕じゃない。僕は死神の爪でしかないんだ」
     ぼそりと呟いて、ぱっと振り返る。そのときにはもう微笑を湛えており、一部始終を見ていたファングもまた、さきほどのクローと同じように目を歪ませる。もちろんそれだけで終わるはずもなく舌打ちも。そして目を逸らした。
     歯牙にもかけず、クローは笑っている。
    「セブン。僕は上手にできただろうか」
     微笑みは崩さない。足元にじわりと血だまりが伸びて、ファングがまだまだ暴れたりないとでも言うように血しぶきをわざと上げながら踊っている。セブンの脱いだジャケットがクローの肩にかかって、血しぶきからクローを守った。
     セブンはじっとクローを見つめてため息をつく。その様すら美しいのだから、クローとファングの神さまは優しい。
    「上手くできたかよりも、よく耐えたこと、それを褒めよう」
     指先が頬を撫でる。決死の覚悟で作った微笑が崩れる。セブンはそんなクローを喜ぶところがあったから、クローはいつも確かめてしまう。
    「本当に君は神さまみたいだ」
    「俺だって人間だよ。だからこそ、人形のようにはならないお前たちに縋っている」
    「そうか? 僕はいつも僕たちばかりセブンに縋っているような気がして」
    「お互い様ということか」
     セブンの指先に頬を預けて、そのままにして。ファングは高笑いを上げながらまだ踊っている。興奮冷めやらぬうちはよくこうしているから、彼はよっぽど「狩り」を楽しんでいるのだろう。
     人を殺すことを楽しんでしまうファングも、人を殺すことに未だ罪を覚える自分も、セブンに許されているのだからセブンは神さまだと思うのに、彼自身は「俺も人間だ」などと言う。彼がでは彼は人を殺すことに何を覚えているのだろう。同じものであればいいと望むのは、クローがセブンの言う通り人形ではなくて、人で、その呪いに縛られているからか。
     人はどうして心を持って生まれてきたのか。どうして。どうせ死んでしまうのなら、心などない方がよくて。それなら心を持って生まれた自分たちは、地獄にいる。
     ばしゃ、とファングが血を跳ね上げる。鉄のにおいが鼻を刺した。血がだんだんと黒くなり始めていて、廃墟の窓の赤い空を塗りつぶす。手を伸ばすと光が指に透ける。セブンが覗き込んできて、クローは目を歪めることなく、細める。
    「セブン」
    「……キスをしても?」
    「いいよ」
     返事をするよりも早かったかもしれない。唇が重なって、クローの伸ばした指はセブンの背に縋りつく。唾液を残してキスを終えたら「僕らも踊ろうか」と笑った。
     頷いたセブンと共に踊り続ける。空の赤みが増していく。それでも重ねた手を離さず、ワルツなのかロンドなのか、そんなこともわからないままただ心の赴くまま。
     ファングは途中で飽きて、セブンのジャケットから携帯食料を盗み出して(ファングは持ち歩いたら持ち歩いただけ食べてしまうから彼の分はいつもセブンが管理している)、廃墟の隅で貪りつくし、食べ終わったらすぐに眠ってしまった。
     その様をセブンは軽快に笑って歓迎したから、せめてクローも許すくらいはしてやるべきかと思い直してはいるが。
    「あれで気配には僕とセブンよりも敏感なのがよくわからねえ」
     むすっとした顔のまま呟くとセブンは「そうだな」と笑うように頷いた。やはりセブンはファングのことを肯定しているようだった。
     それなら倣ってクローもファングを肯定してやるべきかと以前尋ねたら「そうやって反発してしまうのも心だ」と教わった。だからせめて許すくらいは、と思い直す程度に留めている。
    「でもそう言うクローだって気配察知は上手い」
    「もちろん、簡単に死ぬわけにはいかねえから。僕を殺すのはセブンだ」
    「そうだな。そしてお前を殺した後、俺を殺すのはファング」
     命の終わりを約束し合って、重ねた手に力を込める。目を合わせて、セブンの心を見つめる。代わりに自分の心を曝け出して。
     命とは心だ。そしてここは心を持つ者には地獄だった。けれどそうじゃない。それだけじゃない。
    「なあ、セブン。僕に……僕らに心があって良かった?」
     セブンは当たり前のように「ああ」と頷いてくれる。
    「お前にとっても、俺に心があって良かったか」
     喉の奥で言葉が詰まるような感覚がした。ああ、もちろん、当然だ、セブンに心がなければ、僕らは。そんな言葉のすべてを込めてぐっと頷く。
     このまま離れずにいさせてほしい。時計の針を止めて、このまま。けれどそんなこと無理だってわかっているからただ祈るのだ。セブンから受け取った心で、変わらず君のそばでと。


    --- * ---


     ああ、と彼は呻いた。それを彼は笑った。彼らはそうやって生きてきた。
    「感情なんか捨てろって言われてんだろ、A-31」
    「A-30こそいちいち興奮するなよ」
    「あ? カンケーねえだろ。うじうじ悩んでるテメェよりかマシだ」
     蹲ったA-31の手には標的の調査票が握られていて、基礎データのさらに下側、備考欄には「目撃の可能性あり」と書かれている。目的語はないが彼らにはそれで通じる。どうせこの後処分されると噂のAシリーズの「処分される理由」に関わるものだろう。何かを失敗して、一般人に目撃されて、その後始末がまわってきたに過ぎない。
     A-31はもう一度調査票に目を通した。ごくごく普通の、なんの問題もない一般人で、だから当然、人並の正義感を持っていて。誰に相談した様子はないし、焦った様子もない。けれど可能性は捨てきれない。そういった者すら組織は処分対象と見ているようだ。
     道徳にもとる、なんて指摘は食傷もいいところ。そういう組織で、そういう界隈だ。
     けれど任務に対して懐疑的になって嗚咽するのも、任務そのものに喜びを感じてしまうのも、組織では教わっていないことで、この界隈では歓迎されない。
     調査票にもう一度目を通す。一般人。素行調査曰く、もともとパートナーと上手くいっていないようだった。ならば自殺に追い込むのが自然か。そうであれば家に押し入り、遺書を書かせて、首を吊るように仕向けて――A-31はもう一度、ああ、と呻いた。隣にいる彼の相棒、A-30という連番のコードネームをもらった彼は派手な殺人は得意だが事故死や自殺にカモフラージュさせるのは苦手だ。つまり、そういった仕事はすべてA-31の得意分野とするしかなかった。
    「なあ、A-30」
     A-31が見上げる先で、A-30は調査票を一瞥して、すぐに顔をしかめた。「つまんねェ」とだけ呟いてA-30は地を蹴る。自分の出番ではないと悟って拗ねたか。A-31は大げさなまでにため息を吐いて、A-30の背を追った。
     助かった、と思ってしまうのが、癪で、愛しい。
    「ぼ、くが」
     震えた呼吸をどうにか飲み込む。
    「僕が失敗したら、君が暴れるといい」
    「ハッ」
     彼の鼻で笑う音はわざとらしいほどに大きく、A-31の心は簡単に浮上する。
    「テメェが無様に失敗したらオレがどうにかしてやるよ」
    「ああ、それでいい。実際に君がすることは、僕の失敗を祈ることだけだろうけど」
    「どういう意味だそれ」
    「そのままだ」
    「標的と一緒に殺す」
     軽いやりとりで足取りが落ち着く。少し呼吸がしやすくなって、脳がクリアで、A-31は調査票を握りつぶした。いつも通りに、つまりA-31の主導で、自殺に追い込む。そこに感情は必要ない。必要ないのだ。
     A-31は思う。ならば、どうして、心を持って生まれてきたのだろう。
     さきほど聞きそびれたことを聞くべく、A-31はもう一度口を開く。
    「なあ、A-30。君は人を殺すことをなんだと思う」
     ファングはなんのてらいもなく答える。そういうところはうらやましくて、だから心は邪魔だった。
    「狩りと同じだ。オマエもどうせ心を捨てきれねえなら楽しめばいい」


    --- * ---


     彼らは疲弊していた。それ以外の言葉では言い表せなかった。
     感情を捨てるように言われ、本当に殺すべきは人ではなく自分の心だと思い始めた頃に再会したのだろう、とA-7は思う。その気持ちはよくわかった。A-7自身もそうだったから。
     最初の出会いは教育係として。暗殺者としての技術を教え込んだときに手を離したが、その後成績が芳しくないと聞いて再教育を申し出た。どうやら殺しの仕事はきっちり行うが、精神的なリバウンドがひどく、任務の度に精度を落とすと。
     再会した二人はあまりにも疲弊していた。A-31は見てすぐわかるほどのやつれようで、鬱状態だとすぐにわかった。逆にA-30は躁状態が続くのか目がらんらんと輝きながらもくまの深さが不健康で、必要以上に他者に対して攻撃的。精神的な疲労に無自覚なままストレスを貯めこんでいるのは明白だった。
     悩みながらも新しい任務はこの三人で行うと調査票を見せると、A-31はうろたえ、A-30はけたたましいほどに笑った。
     指摘はしなかったが、彼らは言い訳をするように目を逸らす。
    「こんなふうに迷うことを咎めるなら、僕を処分すればいい」
    「なんだその目。気に食わねえな」
     A-31の本当の兄弟はもうこの世にいない。A-30には絶望に落ちていくA-31を止められなかっただろう。
     目を閉じる。救いたかった。
    「いいよ。ふたりとも。心を持て」
     ぐっと抱き寄せてみると、A-30は最初こそ暴れていたが次第に落ち着いて「クソ」と呟くだけになり、A-31はためらいがちにも、手を背中に伸ばしてくれた。
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